33 湖で見た悪意の影
シャドーフとの戦いで成長した平太は狩場を本格的にガイナー湖に移す。
強くなったのは平太だけではなく、グラースもシャドーフとの戦いを経て成長していた。そのおかげでラフホースといった大物相手にも苦戦はなくなった。
いざとなればグラースの冷凍砲を再現できるのだから、ガイナー湖程度ならば苦戦しなくて当然だろう。冷凍砲はパラフェルト山の魔物にすら通用するのだ、ここらでは過剰ともいえる攻撃だった。もっとも平太では素早い相手に当てるのは困難なので、調子にのってパラフェルト山に行けば大怪我ではすまないだろう。
雪は完全に解けて、野山は緑に染まる。空気は暖かなものとなり、過ごしやすい春になった。
そんなうららかな空の下、断末魔を上げてラフホースが倒れ、グラースは噛みついていた首から口を放した。
平太はお疲れと言いながらグラースに近づき頭を撫でる。
撫で終わるとナイフでラフホースを切り、血抜きを行う。
「軽量符再現っと」
品質の高い軽量符を再現し、ラフホースに貼る。これで五分の一まで軽くなり、百キロ弱の重さになる。
さらに手持ちの縮小符を張り、大型犬ほどの大きさに縮めるとそれを担ぐ。軽々とというふうにはいかないが、それでも余裕はある。
ぼたぼたと血を流すラフホースを持ったまま平太は歩き出し、グラースはその隣を歩く。
しばらく歩くと平太の視線の先に、柵に囲まれテントがいくつも並ぶ場所が見えた。
「こんちゃーっす。また持ってきた」
平太は煙草を吸っていた五十才ほどの男に声をかける。
「おーっ今日五匹目か相変わらずのペースだな」
「解体よろしく」
担いでいたラフホースを男の目の前に置く。男は煙草を灰皿に置いて、商売道具の皮剥ぎ用の刃物を持つ。
「まかせておけ。また出るのか?」
聞かれた平太は太陽の位置を確認して首を横に振った。
「今日はもうこれで止めとくよ。一日の稼ぎとしては十分だし」
「そうか。じゃあ五匹分の金だ」
携帯できる金庫からラフホース五匹分のお金を出すと、平太に渡す。
「どもー」
「明日帰るんだっけか?」
「そうそう。ある程度稼いだからね」
言いながら受け取ったお金を財布に入れ、少し男に返す。
「いつものお願い」
「おうよ。すぐ終わるからまってろ」
男は手早く皮を剥いでいく。男は皮剥ぎという能力持ちで、ほかの者よりも丁寧に素早く仕事ができる。もとはこの男もハンターだったが、衰えを感じ能力を生かした職についたのだった。
皮を剥いだ男は、肉を切り分け、その一部をグラースの前に置く。
感謝するように小さく吠えてからグラースは肉にかぶりつく。
「とれたての魚は美味しいって聞くけど、肉はどうなんだろう」
「肉は熟成させた方が美味いらしいぞ」
そういったことを話していると四人のハンターが近づいてくる。四人全員が女だ。
「少しいいかしら?」
リーダー格らしい二十才かそこらの金髪の女が二人に話しかけてくる。
平太と男は顔を見合わせて、どちらに話しかけたのだろうと聞き返した。
「特にどちらにというわけではないのだけど。私たち初めてガイナー湖に来たの。それで滞在する際の注意とか聞ければと思って」
「ああ、そういうことか。どうりで見覚えがないと」
平太にお前さんが説明するかと男が聞く。平太は詳しくないからと首を横に振った。
「作業しながらでもいいか?」
「ええ、構わないわ」
男は肉を切る手を止めず、女と話し始める。
平太はその二人の会話を聞きつつ、グラースが肉を食べ終わるのを待つ。そんな平太に十六才ほどの少女が話しかけてくる。
「こんにちは。その狼はあなたの仲間?」
平太は声の主に顔を向ける。どことなく二十才の女と似た顔立ちの少女が、興味の光を目に宿してグラースを見ていた。こちらはショートカットで、あちらは腰までの長髪だ。
「そうだよ。頼りになる仲間だ」
「そうなんだ。ちょっと触っても平気かな?」
動物が好きなのか、すぐにでも触れたいと手が忙しなく動いている。
「食事中だから、邪魔しない程度に背を軽く撫でるくらいなら」
「やったー!」
少女は早速しゃがんでグラースの背をそっと撫でる。グラースは一瞬動きを止めたが、敵意は感じないためそのまま肉を食べる。
ふへへーと可愛いというよりはだらしない表情で少女はグラースを撫で続ける。
やがて肉を食べ終えたグラースは少女から離れていく。それを残念にしながらも満足したように笑みを浮かべて少女は立つ。
「ありがとう」
「どういたしまして。君はあの人の妹?」
「そうだよ。私はカラン・クレメセル。お姉ちゃんはラーラ・クレメセル」
「俺は秋山平太。クレメセルってどこかで聞いた気がする」
「クレメセル隊っていう集団があるんだよ。私たちはそこに所属してるの」
思い出したと平太は手を叩く。どこで聞いたかは忘れたが、たしかにそういった集団があることは聞いたことがあった。
「名前にクレメセルってついてるけど、創始者の血筋?」
「違う違う。クレメセル隊には家名を捨てて入隊してくる人がいて、その人やその人の子供は家名がクレメセルになるんだ。お母さんも家名を捨てた一人」
「ほー」
「アキヤマー、こっちの嬢ちゃんが頼みがあるってよ」
皮剥ぎの男に呼ばれて平太はカランと一緒にラーラの隣に移動する。
「頼みって?」
「狩場の案内を頼めるか」
「俺明日帰るって言ったよね。それに案内ならほかの人もいいと思うけど」
「できればってことで絶対案内してほしいわけじゃないそうだ」
だろう? と男はラーラに尋ねる。
「ええ、よければ案内してほしい。急ぎの用事があるなら引き留めることはしないわ」
「急ぎの用事はないけど……まあいいや。狩場を連れまわすだけでいいんだよね? どこに魔物が集まりやすいって情報は俺もよく知らない」
「腕のいいハンターだって彼が言ってたから、そこら辺の情報あるんじゃないの?」
「俺は仲間の狼が魔物を探してくれるから、楽ができてるんだ」
ラーラはちらりとグラースを見て、納得したように頷いた。
「なるほど。いい狩場の情報がないのは残念だけど、頼りになるハンターと一緒なら心強いわ。私はラーラ・クレメセル」
よろしくと言って手を出してくる。平太も名乗り、手を握り返す。
「あなたのような若いハンターが一緒なら私にとっても妹たちにとってもいい刺激になる」
言葉に篭る期待感が高いような気がして平太は困惑する。
それを見てラーラは小さく笑う。
「あなた期待のルーキーとして情報誌に載っていたでしょう? それも案内を頼んだ理由の一つよ」
「お前さん、有名だったのか? その腕前ならたしかに納得できるが」
男が驚いたように見てくる。それに平太は片手をパタパタと振って否定した。
「情報誌に載ったっていっても有名なところじゃないし、インタビューを受けたのも一度だけ。有名だーって威張れるほどでもないですよ」
「一度でもインタビューを受けたことのないハンターがほとんどなんだぞ。俺は現役時代一回もインタビューを受けたことないしな」
十分に威張れることだと男は言い、ラーラたちも同意だと頷く。
「そんなものなんだ」
あっさりと流す平太をラーラたちは不思議そうに見る。
ハンターの多くは知名度が上がることを喜ぶ。わりのいい依頼が舞い込んでくるし、有名なハンター集団からスカウトもあるのだ。
そう考えてラーラは勧誘は断るといったインタビューの内容を思い出した。それならスカウトは特に嬉しくはないし、お金も独り占めでわりのいい依頼がなくても問題ない。
一人納得したように頷くラーラを妹は首を傾げて見ている。
「明日は朝にここで待ち合わせでいいかしら?」
ラーラの提案に平太は頷く。
「では私たちは行くわ」
歩き出したラーラに仲間たちがついていく。カランも平太たちに小さく手を振って姉を追う。
平太もここでの用事は終えたので、キャンプ地に入る。
お金を預かってくれる金庫屋に今日の稼ぎを渡し、少し早いが夕食を食べようと露店に向かう。
平太と同じように早めの夕食を食べている者や酒を飲んでいる者もいる。
「おー、アキヤマ。今日の狩りは終わったのか?」
なにを食べようか考えていると顔見知りに声をかけられる。今日はオフなのだろ、武具の類は身に着けておらず酒を片手に楽しそうな表情だ。
「終わったよ。今日もいい稼ぎだった」
「そりゃよかった。一人と一匹で大丈夫だと思ったが、十分にやれてるな」
「一匹だけでいる魔物を選んで狩ってるからねー。群れに突っ込むとか馬鹿なことはしてないよ」
「そうだな、無茶はしないのが正解だ」
「ところで今日おすすめのメニューってなにかあった?」
「モースバードの焼き鳥かねぇ。塩、タレ、香草の三種類が楽しめる。パンに千切りキャベツと一緒に挟んでいいし、酒にもよく合う」
「酒に合うってのが嬉しそうだね」
「おうよっ」
持っていたコップを掲げた。
「俺はパンにはさんでもらって、あとはスープでもたのもうかな」
ほかに冷やした木苺があったので、それも頼み。テーブルに置いて、周囲の話し声を聞きながら食べる。
食べ終えて物足りなく感じた平太は、手軽に食べられるジャガイモとラフホースの串カツを買う。グラースにも一本ラフホースの串カツを買って与える。
串カツを食べていると、ラーラたちも夕食にするのか姿を見せた。新顔にハンターたちの注目が集まる。それをスルーして平太に近づいてくる。
「どうも、一緒していいかしら?」
「そうぞー、もうほとんど食べ終わってますけどね」
ラーラは仲間に料理を頼み、平太の正面に座る。カランも残っており、しゃがんでグラースを見ている。
「なにか用事で?」
「いえ、明日一日とはいえ一緒に行動するから親睦を深めようかと。どんな戦い方をするのか知っておいた方がいいとも思ってね」
あとは将来有望そうなので、困ったときに力を借りられるよう親交を得ていた方がいいという下心もあった。
「使う武器は剣と長い棒。グラースと連携して倒してる。そんな感じ。そちらは?」
「私と妹が遠距離攻撃。剣とメイスを使う二人が前衛。前衛とは今回初めて組んだから連携は取れないわ」
「初めて?」
「前衛二人がここで戦うのにちょうどいい力量になったから引率として一緒にきたの。妹はここにくるのはまだ早いけど、いい経験になるだろうってね。妹は弓を使って、私は能力を使っての遠距離攻撃よ」
「ラーラさんはいつもはどこで狩りを?」
「私はあまり狩りはしないのよ。実力的にガイナー湖くらいがちょうどいいと思う。いつもは本拠地で新人の教導をしたり、子供たちの世話をしたりね」
「おまたせしました」
話しているうちに買ってきた料理がテーブルに並ぶ。ラーラの前にはお酒も置かれた。カランもグラースを見ることを止めて、椅子に座る。
早速肉を口に運んだカランが美味しいと声を上げる。
「肉はここらの魔物のものが使われてるからね。町で喰うより美味いよ。ここでの暮らしは快適とはいえないけど、そういったところはいいとこだと思う」
カランは口に肉を入れたままコクコクと頷く。味わうように咀嚼して、急いでもう一口と肉を食べる。
美味しそうに食べるカランに平太は、肉の加工店について教える。
「狩った肉は保存がきくように加工してくれる人がいるから、お土産に一頭分くらい加工してもらうのもいいかもね」
カランは肉を飲み込んで、そうすると言い、今度はスープを飲む。
ラーラは酒の入ったコップを置いて平太に話しかける。
「今日の狩りは終わったんでしょう? お酒飲まないの? 明日世話になるからお酌くらいやるわよ」
「俺は酒飲まないんだ」
日本の法律に従っていることもあるが、いくつかの酒を一口だけ飲んで美味しいと思えなかったからでもある。いつかは美味しいと思える酒を飲んでみたいと思っていて、今後も一口だけ飲むのはやっていくつもりだ。
「いつかは自分に合う美味い酒を飲んでみたいけどねぇ」
「とりあえず高いお酒を試飲してみることかしらね。嗜好に合わないものはあっても不味いものはないだろうし」
「高いやつは、それこそどんびきするほど高いよね?」
「さすがに一瓶百万ジェラするようなお酒を飲めとか言わないわよ。一瓶千ジェラのお酒でも私ら庶民にとっては贅沢品だしね」
やっぱり超高額な酒はこちらにもあるんだなと平太はどんびきする。日本にいたときも一本一千万円するような酒があると聞き、そんな酒を飲む人の気持ちがわからなかった。
「超高額な酒飲む機会があれば飲みたい?」
「そうね……どうかしら。私はある程度酔えればいいって感じだし。高いお金払ってまで酔いたいとは思わないわ」
「味は二の次なんですね」
まあねとラーラは酒を一口飲んで肩をすくめた。
ラーラたちの食事が終わるまで会話を続け、彼女たちの食事が終わると平太は食器を露店に返しテントに戻る。
翌朝、平太は待ち合わせている場所に行き、ラーラたちを待つ。五分も待たずにラーラたちはやってきた。
おはようと挨拶をかわし、五人と一頭でガイナー湖周辺を歩き出す。
「まずは湖から少し離れた水場を目指すよ。赤ワニがいないから、魔物や動物が水をよく飲みに集まるんだ」
「動物ですか!」
触れるかなと楽しみにするカランに、平太は残念だけどと言う。
「ハンターたちがそこによく行くから、そこに集まる動物や魔物は警戒心が高い。遠くからじゃないと姿を見ることができないし、触ることは無理」
「そんなー」
「そんなに動物が好きなら犬か猫でも飼えばいいのに」
「しっかりと稼げるようになったら飼うつもりです。今はまだ余裕がない」
「なるほど。ああ、見えてきた」
平太の指差す方向に、直径三メートルほどの小さな池がある。今はモースバードが五匹ほど首をつっこんで水を飲んでいる。
「あんな感じで魔物がいることがある」
「あそこにいる魔物に攻撃しかけてもいいのかしら? 水場を荒らしちゃ駄目だって決まりとかあったりする?」
ラーラの質問に平太は首を横に振る。
「決まりがあるとかそういった話は聞いたことがない。ただあの水場をなくすような派手なことはしちゃいけないんじゃいかな? ほかのハンターも集まる場所だから」
「あの池一つなくすような攻撃はできないから大丈夫ね」
「しかけます?」
そう聞く平太にラーラは少しだけ考えて首を振った。
「やってみたくはあるけど、とりあえず今回はどれだけ近づいたら気づかれるか知りたいんで、試しに一撃ってだけかな。というわけで三人とも警戒しつつ池に向かう」
「俺はどうします? ここで待機してた方がいいですかね」
「そうね、待機でお願い」
まずは自分たちでどれだけやれるのか知るため平太には待機を頼む。
ラーラとカランがそれぞれ攻撃準備を整えて、風上に立たないよう注意して少しずつ池に近づく。
あと二十メートルというところで、モースバードは顔を上げて四人に気づいた様子を見せる。
「撃て」
ラーラはそう言い小さな火の玉を四つ飛ばし、カランは矢を放つ。
その攻撃で倒れたモースバードはおらず、すぐに逃げ出していった。
ラーラは逃げられたことに悔しがる様子を見せず、こういった結果になるのだなと納得した様子を見せる。
「逃げられると追いかけるのは無理ね。逃げる方向を誘導して、その先に人を置くとしましょう。ヘイタ君、ちなみにあれとラフホースってどちらが速いの?」
「速いのは馬。でも機動性は鳥。急に逃げる方向を変えることがあるよ。馬も馬で突進の威力が高いんだけどね」
「なるほど。そういうわけらしいから、前衛二人は馬の突進に注意してね」
ラーラの言葉に前衛担当二人は頷きを返す。
「ヘイタさんはどんなふうに狩るの?」
カランが聞く。
「グラースが追い込んでくれるから、待ち伏せしてるよ」
ほかには威力の高い遠距離攻撃の能力を再現して、気づいていないところを奇襲することもある。
「グラースだけで動かすのは危なくない?」
「グラースはここらの魔物より強いから、グラースだけでも狩ることもできる。自由に散歩させても怪我一つなく帰ってくるよ」
「頼りになるんだ。すごいねーグラース」
カランが褒めながらグラースの背を撫でる。
「それだけ頼りになる仲間がいるなら、仲間募集しないのは当然か」
そう言うラーラに、頷きつつそれだけじゃないけどねと付け加えた。
「じゃあ次はラフホースが集まる場所と岸辺のどちらに行く? 岸辺だと赤ワニが出てるから一度どれくらい強いのか試してみるって感じになる」
「赤ワニはここらで一番強い魔物なんだっけ? ここらの人たちはどういった戦い方で狩ってるのかしら」
「岸辺から離して、裏返して柔らかい腹を攻撃。言うだけなら簡単でしょう?」
「実際やってみると大変?」
ラーラの返答に頷きを返す。
「俺は赤ワニは積極的に狩ってないんで、狩りたいならほかのハンターの聞いてみたらいいと思う。赤ワニ専門で狩ってる人もいますから」
「そうしてみましょう。それで次はどこに行くかだけど、ラフホースの方でお願い。赤ワニは話を聞いた後にどうするか決める」
「じゃあ、こっちに。のんびり二十分歩いたところに、ラフホースが好む草が生えている場所がある」
そういったラフホースが集まる場所はほかにもあり、平太は指差して方角と移動時間を話していく。
積極的に襲いかかってくる魔物がいないため、のどかともいえる案内になる。
移動中、ときおりグラースがなにかを気にするそぶりを見せる。平太は視線の先を見てなにもいないことに首を傾げる。グラースがこういった素振りを見せるときは、魔物なり人なりがいるのだ。
(能力を使って隠れてる?)
狩りのため隠密系統の能力で隠れているのだろうと判断し、気にしないことにする。
ラフホースの餌場に到着し、平太たちは今も三頭のラフホースがいることを確認する。
「また四人でいってみる? それともグラースに追い立ててもらって狩ってみる?」
「グラースに頼んでもいいかしら」
「了解」
平太は周囲を見渡し、あそこら辺で待機してくれと指差す。
頷いたラーラたちはラフホースに気づかれないように注意して移動していく。十分ほどで指定場所についたのを見て平太はグラースに誘導を頼む。
グラースは走り出し、ラフホースに向かって吠える。ばらばらに逃げ出したラフホースのうち、指定場所に向かって逃げ出した一頭を追って吠えながら誘導していく。
平太は歩いて、ラーラたちがいる場所に向かう。
ラフホースはラーラたちとぶつかる前にグラースに足を噛まれて速度を落とす。そこにラーラとカランの火の玉と矢が飛び、さらにダメージを与え動きを鈍らせた。
あとは前衛二人が近づき、攻撃を加えて狩りは成功する。
「思ったより楽だった」
「そうね」
「次の狩りもこの調子でいきたいわ」
カランたちは口々にこの成果を喜ぶ。対してラーラはあまり喜んでいない。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「んー、明日からは大変だなと思ってね」
「どうして? 今さっきと同じようにやればいいと思うけど」
ね? とカランは仲間二人に同意を求め、彼女たちは頷く。
「スムーズに狩れたのはグラースの誘導が上手かったからよ。足を噛んで動きを鈍らせてもくれたしね」
「グラースの代わりってそんなに難しいのかな」
簡単そうにグラースがやっていたので、そこまで難しいとは思わなかった。
「好き勝手逃げる相手を思ったとおりに動かすのって簡単じゃないわよ。小さい頃おいかけっこして遊んだことあるでしょ? そのとき自由に逃げる相手を自分の動かしたい方向に動かせたことある?」
例を挙げて説明されると難しさに納得できた。
思い通りに動かすといった細かいことを考えて遊んだ記憶はないが、自由に逃げる相手を追いかけるのに苦労した記憶はあるのだ。
「グラースを借りたりはできないよね」
「できたらどれだけ助かるか」
二人は期待せずに平太を見て、無言でかつ笑顔で断られた。
自分たちも仲間を貸せを言われたら同じような反応をするだろう、なので謝っておく。
「さて狩ったこれを持って一度キャンプ地に帰ろう」
ラーラは縮小符を取り出して使い、三人に指示して血抜きのためラフホースを持ち上げる。
「俺も狩ってくるよ。昨日初めて会った皮剥ぎのおっちゃんのとこで待ち合わせでいい?」
「ええ」
ラーラたちとわかれ、平太はグラースに頼んでラフホースを探してもらう。
二十分ほどで狩りを終えて、キャンプ地に戻る途中で「返しなさいっ」というラーラの叫び声が聞こえてきた。
切羽詰まっているらしいと判断し、平太はそちらへ走る。
そこには地面に倒れたラーラと前衛の一人がいて、ラーラが睨む先にはカランを担いだ男と前衛のもう一人が走り去るところだった。
「グラース! 追ってっ」
「ガウッ」
即座に指示に反応し、風のごとき速さで駆けるグラース。
「ヘイタ君!?」
「俺も行ってきますっ」
驚いたように名前を呼んだラーラにそう言って平太も駆ける。
視線の先では二人に追いついたグラースが男の足に噛みついていた。
転んでカランを地面に放り出す男の足に噛みついたまま、グラースは引きずりまわす。
カーレスの技術を再現した平太は、地面に横たわって動かないカランを確保しようとする女に向かって棒を投げつける。
真っ直ぐに飛んだ棒は、女の肩を強かに打った。
「邪魔が入るなんてついてないっ」
女は剣を抜いて、走ってくる平太に向けて振り上げる。剣には紫電がまとわりついている。スタンガンのように使ってカランを気絶させたのだ。
袈裟斬りに振られた剣を避けて、懐に入り腹を殴る。革鎧の上からではたいしたダメージにはならない。目的はダメージを与えることではなく、拳に意識を向けること。そのまま拳を押して、女が足を踏ん張ったところで、平太は相手の足を払う。
バランスを崩された女は背中から倒れる。
平太はその女の手を蹴って、剣を手放させる。
(さてどうすっぺ)
ここからどう拘束するか悩む。押さえ込むにしても電気の能力を使われれば痺れるか思わず手を放し逃げられそうなのだ。
「あ、そうか」
女の能力の対処について考えて、同じようにやればいいと思いついた平太は、女の腕をとって電撃を再現した。
「っ!?」
女は短く悲鳴を上げ気絶する。
「これでよし。あとはロープでがんじがらめにしてっと。ラーラさんたちロープ持ってるかな」
ラーラの方を見ると、倒れた仲間の介抱を行っていた。
声をかけるとこっちに近づいてくる。
「この人縛りたいんだけどロープ持ってます?」
「持ってないわ」
「担いで持っていくしかないっすね。とりあえず武具ははいどきましょうか」
気絶している女とグラースによってぼろぼろになった男の武装を解いていく。
平太が男を担いで、ラーラがカランを背負い、メイスを持っていた女が剣を持っていた女を背負って、グラースは軽くなっている二頭のラフホースを引きずり、キャンプ地へと歩き出す。
「どうしてこんなことになってるんです?」
「カランの能力が狙われたみたい。カランの能力はね、病喰いって言うのよ。その名のとおり病気を食べてしまう能力で、二つの効果がある。病気を食べられた相手は治る。もう一つ、食べた病気に対する薬にカランの血を混ぜると効果の高い薬になる」
「便利な能力ですね」
難病を患っている人にはありがたい能力だし、薬を売って金儲けもできる。
「そうね、だから能力のことを知った人がカランを手に入れようとしたんでしょうね」
今後もカランが狙われるかもしれないと思い、大きく溜息を吐く。
剣を扱う女がクレメセル隊に入ったのは三年前。最初からカラン狙いで入ってきたとしたら、剣の女が失敗した場合に備えてほかに人さらいが入り込んでいるかもしれない。そういった計画性を持った相手ならば、それなりの組織の可能性もある。
情報を吐かせる必要を感じ、組織相手と確定したらどうにかして対策をとる必要が感じられた。
「といってもどんな手を講じればいいのか」
思わず口に出して愚痴る。クレメセル隊に迷惑をかける可能性もあり、脱退も選択の一つとして考える。
「どしたんです?」
「いえ、なんでもないの」
人さらいから得られる情報によっては考えすぎという可能性もあるのだ。下手なことは言わないでおこうと誤魔化す。
平太は追及することなく少し不思議そうに首を傾げた。
五分もせずにキャンプ地に到着し、皮剥ぎの男に簡単に事情を話してロープを借りる。猿ぐつわもかませる。
「こいつらの扱いどうするんだ?」
男は作業をしながらラーラに聞く。
「情報を聞きだしたい。仲間がいるのか、その仲間も妹のことを狙っているのか。そういったことを聞きたい」
「情報を聞きだしたあとは?」
「兵士に突き出せたらと思ってるんだけど、ここに牢屋とかある?」
男は首を横に振る。
「ハンターが集まってるだけの場所だからな。村ですらないここにそういった施設はない」
「ここで犯罪起こした人の扱いはどういったものになるのさ」
平太の疑問に男は、近くの村に連れて行くと答える。
今の二人のようにロープで縛って、武具を取り上げ、近くの村の牢屋に放り込み、大きな町に連絡をとって、やってきた兵に引き渡すのだ。
「村に運ぶまでの間や村で牢屋に入っている間に、仲間が助けにくることがあるから注意が必要だな」
「よくあること?」
「頻発はしないな。たまにだな。こいつらが重要人物じゃなけりゃ何事もなく引き渡せるだろう。あとはキャンプ地の中に仲間が潜んでたら助けるために動く場合もあるな」
「今キャンプ地に怪しい人いる? なんて聞いてもわからないか」
「ああ、わからん」
「だよね。俺もわからないし。ラーラさん、この二人を確保し続けるの大変そうだけど」
殺してしまえば後腐れはなくなるだろうが、平太にはそれは無理だ。ちらりとその考えが脳裏を掠めたがが、提案することはない。
「ええ、大変そうよね。でもカランを突け狙うような輩を逃がす気はない。逃げるときにカランがまたさらわれる可能性もあるだろうしね」
「カラン一人の身の安全を保証ならできるかもしれない」
思いついたことを口に出す平太。それにラーラは先を促すように視線を向ける。
「明日帰るんだけどさ。その帰る方法が長距離転移なんだよ。それにカランを同行させる」
「転移の能力使いだったの? いや雑誌には土使いだって書いてたはず」
どういうことだろうかと疑問を抱く。
話を聞いていた男も疑問顔だ。こちらは能力が違うことに疑問を抱いているのではなく、狩りを行っていることに疑問を抱いたのだ。転移の能力持ちならばもっと別に安全に稼げる方法がある。わざわざ狩りをしなくてもいいと考えている。
それら二人の疑問の視線を受けて、平太は秘密と人差し指を口にあてる。
「奥の手に相当するのでねたばらしはしませんよ」
言いながら人さらいについての情報を知る方法を思いつく。捕まえた男の記憶を再現すればいいのだ。ロナたちの経験を再現したとき付随するように記憶も再現できている。だから記憶の再現は可能だ。
キャンプ地に人さらいの仲間がいるのか気になるので、こっそりと再現しておこうと決めた。
「まあ、当然だな」
男はそう言いながら、転移の魔術具あたりを所有しているのだろと推測する。
ラーラは迷う様子を見せている。平太が人さらいの仲間の可能性を疑っているのだ。
それを察した男がないだろと口に出す。
「転移が使えるんだ。グラースを使ってお前らを蹴散らし、ここに戻ってくる前にさらってる」
「あれ? 俺疑われてた?」
男の言葉でラーラの考えを察し、平太は驚いた表情を見せる。
「だったらさっきの乗り気じゃない反応は当たり前だなぁ。絶対連れて行く必要があるわけじゃないし、なかったことにしよう」
「いやお願いしたい。疑ったことは謝るわ、ごめん。この人の言うようにさらうならもっと早くさらえたものね。転移先はどこになるの?」
「エラメルト。神殿かもしくは知り合いの商店で迎えが来るまで過ごしてもらおうかなと思ってる」
「神殿で保護してくれるかしら?」
「さらわれそうになったって言えば大丈夫だと思う。神殿が無理でも貸しのある商店に頼めるし」
「どうしてそこまでしてくれるの? 昨日会ったばかりなのに」
疑うことは止めたが、純粋にそこは疑問に思い尋ねる。
「もしかして嬢ちゃんたちの誰かに一目惚れでもしたか?」
男の言葉を平太は笑って否定する。
「いんや、してないしてない。美人さんとは思うけどね。一番しっくりくる理由は同情かな。やっかいな能力持ちなせいで動きづらいって点がどうにもね」
カランほどに苦労はしていない平太だが、ばれたら大騒ぎになると説明されていて、明日は我が身とばかりに思うところがあるのだ。
「同情か、お前さんも貴重な能力持ってるんだな」
「まあね。俺は帰る準備するから、ラーラさんはカランを起こして事情を説明しておいて」
「わかった」
平太は捕まえた男を縛っているロープが外れないか確認するふりをして、男に触れ記憶を再現する。
どっと流れ込んできた記憶に頭痛を感じ、顔を顰める。
気絶している男は三十足らずといったところだ。生まれてからついさきほどまで約三十年という情報量の多さに脳が悲鳴を上げた。
「顔色悪いけど、疲れがでたのか?」
「そんなとこ。問題なく狩りが終わると思ったら、人さらいの現場に出くわしてびっくりして疲れが噴出したとかそんな感じ」
誤魔化せればいいと自分でもよくわからない言い訳をして、その場から離れる。
歩きながらパークズという名前の男の記憶を探る。テントに戻ってグラースを撫でながら二時間ほどそのままで過ごす。
子供の頃の記憶、成長してからの記憶、それらを早送りするように流し、人さらいに関しての記憶を見つけた。
見つけた記憶によるとキャンプ地には人さらいの仲間はいない。キャンプ地から半日歩いたところに、二人待機している者たちがいて、合流に時間がかかると失敗し捕まったとみなし、様子を探りに来ることになっていた。
その二人が来るまであと二日だ。
剣を扱っていた女に関しての情報もあった。クレメセル隊に入る前から男の仲間だった。だが最初からカラン目当てではなく、クレメセル隊の貴重な能力持ちを探すために潜入していた。
今回は女がターゲットであるカランの近くにいて、パークズは能力を使って潜んでさらう機会を待っていた。ラーラたちを案内しているときにグラースが反応したのは、姿の見えないパークズだったのだ。
「仲間二人が探りに来た頃には、ラーラさんたちは人さらいを連れて近くの村に行っているだろうし、急ぐように忠告はしないでいいか」
再現の効果が切れて、覚えておきたいこと以外はきれいさっぱり記憶が消えていく。それに合わせて頭痛もひいていった。
荷物を手早くまとめ、皮剥ぎの男のところへ行くとラーラたちはテントに戻ったということだった。
ラーラたちのテントはすぐに見つかった、縛られている二人が目立っていたのだ。
外から自身の名前を告げると、ラーラたちが出てくる。カランは姉と離れることで不安そうな表情だ。一緒に転移してほしいと言ったのだが、そうなるともう一人のメンバーにかかる負担が大きくなる。ラーラは監督役としてここにいるのだから、かけだしになにもかも押し付けるということはできなかった。
「こっちの準備はできましたよ。そっちはどうです?」
「説明を終えたし、荷物もまとめたわ。妹をよろしくお願いします」
深々と頭を下げる。
「お預かりいたします。どれくらいでエラメルトに来れそうですか」
「十日くらいかしら。村での引き渡しにどれくらい時間がかかるかわからないけど、三日もあれば引き渡し作業は終わるでしょ」
「十日後の昼に神殿前で待ち合わせということで」
「わかったわ」
ラーラたちに見送られ、平太たちはキャンプ地を出る。誰にも見られないところで転移するためしばらく歩く。
「転移ができるって聞いたんだけど、どんな魔術具か見せてもらっていい?」
「ちょっと待って」
平太は荷物を漁って、なんのしかけもないハンカチを取り出し渡す。渡されたハンカチを見て、カランは疑問顔だ。
「これが? ただのハンカチに見えるんだけど」
「使っている材料と織るときに工夫がされているらしいよ」
カランはしげしげとハンカチを眺めて再び首を傾げた。
そろそろいいだろうと考えてハンカチを返してもらって、カランとグラースに近寄ってもらう。
「今から使う。移動先はエラメーラ様の部屋だから、動き回らないように」
「え? ちょっと!?」
「じゃあ行くよ」
制止をスルーして平太は転移を行う。
一瞬で風景が変わり、エラメーラの部屋に移動する。
部屋には明かりがついていて、エラメーラが椅子に座っていた。一緒にいる使用人も慣れたもので、急に現れたことに驚いた様子はない。
窓から見える庭では、雨が降っている。
「あら、おかえりなさい」
「ただいまかえりました」
平太が頭を下げ、カランも慌てて頭を下げた。雰囲気で目の前の少女が小神だと理解したのだ。
「隣の子は誰かしら?」
小首を傾げて問うエラメーラ。
自分に視線が向いたことでカランはビクリと体を震わせる。
「名前はカラン。貴重な能力を持っていてガイナー湖で誘拐されそうになったんだ。十日ほどここで保護してもらいたいんですけど、大丈夫でしょうか」
「それは大変な目にあったわね。ゆっくりとしていくといいわ」
平太が頼み、エラメーラがあっさり承諾する。それがごく普通に見えて、カランは二人の関係がよくわからない。
遠慮がちに「あのう」と口を開く。まずは匿ってもらえることに礼を言い、その後に疑問に思ったことを尋ねる。
「ヘイタさんはエラメーラ様の愛し子なのでしょうか?」
「以前も別の人に同じことを聞かれたわね。ヘイタは愛し子じゃないわ。気にかけている子ではあるけどね。カランを客室に案内してくれる?」
使用人にカランのことを頼む。
使用人は頷いて、カランを連れて部屋から出て行った。
「さて、なにか話したいことがあるんでしょう?」
「よくわかりましたね」
たしかにカランをさらおうとした者たちの組織について、カランがいなくなってから報告しようと思っていたのだ。
「なにか言いたそうにしていたからね」
そこら辺の機微は長生きしているからだろう。
「カランの誘拐についてですが、単独犯じゃなくて組織だったものでした。能力持ちを誘拐して薬や能力で洗脳して、いいように使うという奴らです。捕まえた男の記憶を再現して確かめました」
少し怒ったように報告する。
誘拐された者は、意思を押し込められ無理やり働かされる。まさに奴隷と呼ぶにふさわしく、そのような存在が身近にいない平太にはそのような扱いは不快だった。
「組織名とか本拠地がどこにあるとかわかる?」
「下っ端なようで本拠地は知らなかったようです。名前は赤車輪」
「影ふみ車輪の流れをくむ組織みたいね。あそこは組織名に車輪って入れたがるから。わかるだけの情報を紙に書いてちょうだい。それを国に渡すわ」
「どこかで情報を握りつぶされませんかね?」
平太の心配を首を振って否定する。
「影ふみ車輪の全盛期なら、国の中枢にも影響を持っていてそういったことが可能だったかもしれない。でも今活動している組織にそこまで無茶できる力はないわ。どこかの国の上層部に繋がりはあるかもしれないけど、国に対して優位に立てる力はないでしょうね」
「今は力を溜めている時期って感じでしょうか」
「そんなところかしら。そのまま溜めた力を発揮できずにズルズルと落ちていきそうな気もするけど」
一つの組織が突出しようとすると、ほかの組織が叩く。今はそんな状況なのだ。
抜き出た組織が出てくるには、部下に高い忠誠心を抱かせるカリスマの溢れたトップが必要になる。
部下の中から裏切りのでるような現状では、影ふみ車輪のような巨大な組織は当分出てこないだろう。
「そのような組織にあなたのことが知られたら狙われることになる。気をつけて」
「はい、誘拐なんてされたくないんで十分に気をつけます」
人さらい以外の話をした後、平太はラフホースの肉の一部をお土産に置いて部屋から出る。
そのまま神殿を出て、パーシェといった知り合いに肉を配り、家に帰る。
十日後の昼、約束通り神殿前で平太とカランはラーラを待つ。
二十分ほどで通りの向こうから歩いてくるラーラの姿が見えた。
「姉さーん、こっちこっち」
姉との再会が嬉しく、ピョンピョンと飛び跳ねて手を振るカラン。
「もう子供じゃないんだから、そんなはしゃがないの、まったく」
言葉ではたしなめているが、ラーラも嬉しそうに笑みを浮かべている。
「神殿の人たちに迷惑かけてない?」
「かけてないから大丈夫。いい人ばかりで親切にしてもらった。姉さんの方こそ大丈夫だった? あの人たちの仲間が襲いかかってきたりしなかった?」
平太としても気になる話題で、聞き逃さないように耳を傾ける。
「村への移動中とか村に到着して牢に入れるまでに怪しい人影はなかったわ。私たちが村を出た後のことはわからないけどね」
「無事でよかった。ルネアラは先に帰ったの?」
ルネアラはメイスを使っていた女のことで、ラーラとは村でわかれた。先にクレメセル隊に帰り、ラーラたちに起きたことを報告している。
「そうだよ。帰りが遅れることを報告してもらうためにね」
妹との再会に一段落つけて、ラーラは平太を見て、深々と頭を下げる。
「妹を預かってくれてありがとう。元気に過ごせたようで安心したよ」
「ほとんど神殿の人たち任せだったから礼はそっちに」
「もちろんそちらにも礼は言うけど、安全な場所に預けられたのはあなたのおかげだからね。困ったことがあれば今度は私が力になるわ」
「私もね」
「なにかあればお願いするよ」
地球に帰る平太はその機会はおそらくないだろうと思いつつ、そう返す。
二人と神殿前でわかれ、平太は去っていく。
ラーラたちは世話になった神殿の人間に礼を言ってから、クレメセル隊へと帰っていった。
その帰り道で、カランが最初にエラメーラの部屋に連れていかれたことを聞き、ラーラは驚かされることになった。




