3 下準備
平太が起きたのは昼をだいぶ過ぎた頃だ。
体を起こして、胸からはしるかすかな痛みに顔をしかめた。
「あれ? なんで部屋に戻ってるんだろう。なんだか胸に痛みがはしるし?」
二度寝したっけと首を傾げて、朝のことを思い出す。そして能力を使ったことで激痛が起こり気絶したと思いだした。
痛みを思い出し顔を青くしていると、平太が起きたことに気づいた警備が声をかけてくる。扉を開けっ放しにしていたためすぐに気づけたのだ。
「起きたか。歩けそうか?」
聞かれてベッドから立ち上がり、体を捻ったり屈伸したりと軽く動かす。大きく息を吸ったり大きく体を動かすと痛みがはしるが歩くくらいならば問題はなさそうだった。
「大丈夫です」
「うん、だったらついてきてくれないか」
「わかりました」
警備に先導されて廊下を歩く。向かう先は医務室だと説明される。問診で念のために再確認しておこうとセラネスタがエラメーラに言ったのだった。
到着し警備は一声かけて部屋に入る。
「先生、連れてきたぞ」
「ありがとう。アキヤマ君だったな? こっちにきてくれんかの」
手招きに応じてセラネスタの前にある椅子に座る。警備には外で待つように指示を出し、部屋の中には二人しかいなくなる。
「儂はここの医者の一人でセラネスタと言うんだ。君の診察をする。よろしく」
「お世話になります。俺は秋山平太と言います」
「うん。では早速だが、体の調子を聞いていこうか。どこか痛いところはあるだろうか?」
ここが痛くなることがあると指で示す。どんなときにどんなふうに痛くなるのか聞かれて、答える。
「やはり魔導核が原因だったのだな」
「魔導核ってのがあるとはエラメーラ様からも聞きましたね。詳細を教えてもらえると助かります」
「能力を使うのに必要な器官じゃよ。生まれ落ちた瞬間に体のどこかに発生する。材質的にはどのような鉱石とも違い、体から取り出すと粉々に砕けて塵も残さず消える。世界に満ちる力を魔導核に集め、自分に合うように調整し、その調整された力でもって能力を行使できる」
「……なんとなくわかりました。では俺が気絶したのは? なにか魔導核に原因が?」
「単なる酷使じゃよ。酷使といっても一回使って酷使状態になるというのはありえないのじゃがな。能力を使えるようになる頃には魔導核は数度の使用に耐えられる程度には成長しておるからの」
「能力を使えるようになる頃にはって、使うまでになにか制限あるんです?」
「うむ。ある程度の知能がないと使えないのだよ。人間は生まれて一年以内に神からの祝福を受けて能力を得るが、すぐに使うような幼児はおらん。早くて五才遅くとも十才には使えるようになる。ちなみに祝福は意識して範囲を狭めなければ、町一つを越えて行われると聞いた。このとき獣や魔物も祝福を受けるのじゃが、全ての魔物たちが能力を使えるわけではなくリーダーになれるような才覚の持ち主が使ってくる。このことから能力の行使にはある程度の知能が必要とわかっておるのじゃ」
人間の間に広まっている考えは、始源の神が制限をかけたのではというものだ。生物の本能が枷をはめているという考えはいまだない。
小神に聞いても答えはなかった。秘密にしているのではなく、人や獣と過ごすような神はそこらの知識を知る機会がほとんどないので答えようがなかったのだ。
「なるほど、あともう一つ。魔導核を成長させるにはどうすれば? 時間によって大きくなっていくのか何度も使っていれば大きくなるのかのどちらか?」
「どちらでもないぞ。これは魔導核だけにかぎらないのじゃが。能力、筋力や頑丈さ反射神経といったものは珍しい経験をしたり、事件を解決したりすると成長する」
「例えば魔物を倒していれば筋力とかが上がっていくということはない?」
「ない。とは言い切れんの。初めて魔物を倒したときは必ず成長する。そして自分よりもはるかに強い魔物と直接対峙して倒したり生き残ったりしたときも成長する」
ゲームのように魔物を倒して経験値を溜めてレベルを上げて強くなるのではないのだなと、平太は感心するように頷く。
「あ、でも勇者はこの世界の人間ではないのでしょう? こっちの成長の仕方が適用されたのですか?」
セラネスタが自分の事情をどこまで知っているのかわからないので、勇者を例にして聞く。
「適用されたようだ。しっかりと記録に残っておる。お前さんも大丈夫だろう」
平太の考えを見抜いて肯定する。
「そうですか。だったら一度魔物を倒せば魔導核が成長して一度くらいは能力を使えるようになりますかね?」
「そうじゃのう……可能性は高いとだけ答えようか。二回も成長すれば大丈夫と答えられるが。使う場合は儂かエラメーラ様のそばで使うようにの。万が一があれば対処できるのは儂らくらいじゃ」
「わかりました。ほかは……気絶しましたけど今日安静にしておいた方いいのですかね?」
「能力を使わなければ走り回っても大丈夫じゃよ。身体的には異常はない」
「じゃあ、どうしようかな」
「とりあえずエラメーラ様のところに行くといいんじゃないのかね。話の途中だったのだろう?」
「そうしますか。では診察ありがとうございました」
「これが仕事だから気にするでない」
頭を下げた平太は警備と一緒にエラメーラの部屋に行く。
入ってきた平太を見ると安心したように笑みを浮かべる。
「無事でよかった」
「心配おかけしました。話の途中だったので戻ってきました」
「あんなことになるとは思っていなかったので驚いたわ。能力は成長するまで使ってはだめよ?」
「はい」
あんな激痛を自分から感じようとは思わないので素直に頷いた。好奇心的には少し残念ではあるが。
「話の途中で気絶したのでその続きをと思ってきたんですが」
「ああ、そうだったわね。どこまで話したんだっけ……能力によってやれる仕事が違ってくるから、どんな能力か確かめようってところだったかしら」
「たしかそんな感じだったかと」
平太も記憶を探り頷く。
「それででたのが再現ね。そうなるとやはりハンターじゃないかな」
「そうなるんですか。具体的にはどのようなことをするんでしょう?」
「駆け出しのできることでいいわよね。できる仕事はいくつかの薬草や虫の採取、シューラビやハンターバードの狩りってところ」
シューラビは薄い黄ウサギの魔物で雑食型だ。人間も襲うがそれほど強くはなく、成人ならば一対一でまず負けることはない。ハンターバードはシューラビよりは強いが魔物としては下位に位置する。上空からの奇襲に対処できて、攻撃を当てることができれば一撃で倒すことができる。どちらも町を囲む草原に出る魔物で、ここらの駆け出しが最初に戦う魔物だ。
ここらでは虫の採取は時期外れとなってる。春が少し過ぎた頃に薬となる虫が多く活動し、それを駆け出しや子供が採るのだ。あとは秋に入ったばかりの頃に別の虫採取がある。
「薬草の種類とか知らないんですけど」
「肉買い所に行けば教えてくれるはずよ」
肉買い所? と首を傾げる平太に説明していく。
その名の通り肉を買い取る場所のことだ。コンビニほどの建物と小さな市場がくっついたようなところで、ハンターは獲物を狩るとそこに持っていく。薬草や虫は建物の方に持っていく必要がある。それと建物には依頼がはってある壁があり、狩り以外の仕事もできる。主に町から町へ移動するバスの護衛や畑にやってくる魔物を追い払うといったものだ。
「魔物の肉って食べれるんですか? なんとなく不味そうなイメージが」
「美味しいわよ? そちらの世界だとどうか知らないけど、こちらだと基本的に強ければ強いほど美味しいの」
魔物としては下の下のシューラビも問題なく食べられる味で、一般家庭の肉の多くはこれか人が育てた家畜の肉だ。たまの贅沢にシューラビのワンランク上の肉がでる。
「アンデッド系の魔物とはさすがに強くても食べられないですよね?」
ないよなと思いつつ尋ねる。だがエラメーラは首を横に振った。
「食べられるんだな、これが。そのままはさすがに無理だけどね。食べ物は腐りかけが美味しいって昔から言われてるじゃない? 実際にどうかと工夫した人がいるの」
「腐りかけっていうか、腐ってますよ!? でも納豆も似たようなものなのか?」
そう思いつつも異世界侮りがたしといった思いはある。
「そんな感じね、ナットウを嫌いという人がいるように、アンデッドの肉も好き嫌いがある」
アンデッドの肉はミンチ肉として使われる。一度完全に凍らせて解凍してミキサーにかけるのだ。その後刻んだ薬草を混ぜ一晩置くと食べられるようになる。ユッケのように生で食べるとひどい腹痛になるので、必ず火を通さないといけない。食べる所のないスケルトンは出汁を取られてから捨てられる。ソンビやスケルトンは下の中くらいの強さなので一般家庭にもでることのある食材だ。
「逆に人の手でとことん丁寧に飼育された動物の肉はまず食卓に上がらないわ。私は食べたことないけど、お腹を空かせた狼もそういった動物は襲わないって言われるくらい」
家畜もだが、農産物も人の手が入るほど味は落ちていく。
平太が食べて美味いと言った米も、最初に作られたときは丁寧に作られたもので不味い出来だったのだ。
そこからどのように品質を上げたかというと、人の手が入りにくい領域で、米が育ちやすい場所を探し、そこに種もみをまいて放置したのだ。そして数年して自生したそれを持ち帰った。
そのような方法なので、高級米の収穫量は多くないし、値段も上がる。
牛乳なども野生牛から取れる方が美味しいのだが、町や村に行き渡らせるには量が足りないので酪農で補われている。
「よほど不味いんですね」
飢餓状態の獣にさえ避けられる味とはどういったものなのか、一度くらいは怖いものみたさで食べてみたくもあった。
「定期的に強い魔物の肉を売れてハンターとしては成功したといえるのかなぁ」
平太としては帰るまでの生活費などをなんとかするためにハンターをやるのであって、栄達などはどうでもよいのだが。
「一例としてはね。あとは貴族などを助けて名前が知られるということもある」
「有名になることを目指すわけじゃないけど、ハンターをやってみようと思います」
「わかったわ。指導役をつけるって話だったし、今日中に話を通しておくわね。練習は明日からになるわ」
「ありがとうございます」
頭を下げると同時に腹から音がなる。昼を抜いた形なので仕方ないだろう。クスリと笑ったエラメーラはメイドに果物を持ってくるように指示を出す。
夕食まで雑談をして薬草の種類や魔物の分布なども聞いていく。
草原にはラフドッグという魔物もいて、それは複数で移動していることが多いので平太にはまだ早いということだった。北を縄張りにしているので南にいけば出会うこともないだろうというアドバイスをもらう。
あとは狩りにも制限があるとわかる。駆け出しはシューラビやハンターバードを一人一匹、薬草三種を一人十束ずつまで持って帰ることが上限だ。これで手に入る金額は宿暮らしで一日といったところだ。
少しだけお金が余るので、一ヶ月ほどお金を貯めて新しい武器を買う。そうすることで駆け出しからは卒業とみなされる。この狩りは簡単な方なので、一ヶ月続けてやっても疲労はたいして溜まらない。草原を卒業すると毎日出るなんで無茶はできなくなる。
制限は過去の実例から決められたことだ。昔は制限などなく狩っていた。当たり前のことだが町の周りから獲物や薬草がなくなっていった。あるときちょっとした流行病が広まり、必要な薬草が集まらずに甚大な被害がでた。これを反省として取りすぎないように制限が生まれたのだ。
夕食が終わり、平太は部屋に戻る。武器の扱いや避け方といったものの基本を修めるまでは神殿暮らしが続くことに決まった。
翌朝、朝食を食べると指導役の警備兵に連れられて庭の隅に案内される。これから世話になるということで自己紹介し、名前はペールとわかっている。
「ちょっとここで待っててくれ」
そう言うとペールは離れた場所にある倉庫へと向かう。すぐに戻ってきたペールは手押し車を持っていた。中には古めな鎧などがある。
「武具も支給されることになっている。中古で悪いが、そこは我慢してくれ。十分に装備を準備できない駆け出しもいるから、中古でもあるだけましなんだが」
「ありがとうございます」
「うん、きちんと礼をいえるのは美徳だな。もってきたのは二つでどちらも革製だ。一つは柔らかいが動きやすく、もう一つは硬いが動きにくくなる。サイズはだいたいの目安で持ってきた。とりあえず着てみようか」
まずは柔らかい方を着てみることになる。こちらは鎧というよりも丈夫なコートといったところだ。股下辺りまでの長さがある。革のアームガードと脛当てをつけて完成となる。靴は今のところこれまではいていたもののままだ。
「どう?」
「特に動きにくいといったことはないです。これって魔物にどれくらいの効果があるんですか?」
「そこまで高い効果はないね。突撃といった攻撃は防げないし。噛みつきとかだと圧迫はあるけど、歯はとおらない。草原の魔物ならこれで十分。遠出すると途端に不足するかな」
なるほどと頷き、コートを脱ぐ。次は革の鎧だ。こちらは肩当のない上半身だけを守るもので、ある程度の硬さがある。アームガードと脛当てはそのままで、腰回りを守る防具もつけて完成だ。
「少し重さがあるんですね」
「成長すれば気にならなくなる重さだよ。こちらなら腹に突進されてもある程度は防ぐことができる。草原を抜けた次の稼ぎ場所ローガ川辺りでも十分使える。どっちにする? おすすめは今着ている方だけど」
「じゃあ、こっちをもらいます」
「わかった。次は武器だけど、木剣と長い棒と木のハンマーの三種類を持ってきた。木剣はメイスの扱いも覚えられる。棒は棒術と槍。ハンマーは斧の技術一歩手前といった感じのものを覚えられる。おすすめは木剣だ。剣の才がなくてもメイスに移行できるからな。メイスはただ振り回すだけでも十分なダメージを与える比較的扱いの容易な武器だよ」
「剣でお願いします。弓は候補に挙がらなかったんですね」
「狩ることになる魔物が小さいからな。当てるのに苦労するだろうから準備しなかった。ここらに大人しく大きめの獣がいれば教えてもよかったが」
ベールは木剣を取り出しながら答える。シューラビはウサギよりも大きいとはいえ中型犬よりは小さい。初心者が当てるのは難しいだろう。せめて半年ほどは鍛練期間がほしいところだ。
「早速、握り方から始めようか。すっぽ抜けないようにしっかりと、だけど力を込めすぎないように」
片手剣の扱いから始めて、軽く振って握り加減を確かめる。
「剣の基本は斬り払い突き。斬りにも真上からの斬り、真横への斬り、斜め斬りといろいろある。まずは型を一通りやっていこう」
「ういっす」
ベールが見本を見せて、平太が真似ていく。剣道をやっていれば多少は型ができていたのかもしれないが、やっていなかったのでまったくなっていないものだった。ベールの目から見て、剣に特別の才があるわけではないようで、このまま剣を扱い続けても二流がいいところだろう。平和といえる今の世に一流の腕はなくてもやっていけるので、特別問題とすることでもなかった。三流の腕でも草原の魔物を相手するには十分なのだ。
ある程度基本を教えるとあとは繰り返しなので、ベールは仕事に戻る。平太は休憩しながら夕暮れまで一人で剣を振り続けた。これを止めてもやることがないので、暇つぶしも兼ねていた。今はただ漫然と振るだけで、これが戦いの技術という意識はなかった。
平和な国から来た人間に、急にそこらの意識を持てといっても無理な話だ。
翌日の午前も似たようなもので、剣を振りベールにおかしいところを指摘してもらう。午後からは何度か模擬戦を行う。体の動かし方は実際に動いて学べということだった。当たり前だが勝つことなどできずに休憩となる。
「はい、水」
「ありがとうございます」
水差しを受け取り、口をつけないように水を飲む。
「はぁーっ。昨日剣を振りながら思ったんですけど、あの訓練にどんな意味があるんですか?」
「意味?」
「ええと、俺の世界だと素振りは型を体になじませて振りやすくしたり、筋力をつけたりという目的で行うんですよ。でもこっちは筋力とかはそういったトレーニングで鍛えられないんですよね?」
「そうことか。筋力とかは上がらないね。君が言ったように体になじませることを目的としている。それ以外は武具の重さに慣れるためにもかな。ある程度の重さがある状態でどの程度動けるのか、防具が体の動きを阻害することを前提に動きを確認する。そういった目的があるね」
「なるほど」
後半部分は思いつかず、平太は感心したように頷く。
「ところで武器はどうする? このまま片手剣で行くか両手持ちでいくか。片手持ちなら盾を使えるけど」
「盾を使いこなせれば怪我は小さくてすみそうですよね」
「一概にそうともいえないけどな。盾持ちが魔物の注意を集めて攻撃を防ぐなんてのは基本的な戦い方だ。まあ、あって困るものでもない」
「俺って片手と両手のどっちに向いてると思います?」
「どっちも等しく才はなし? 無能ってわけではなく、特別高いわけじゃないってことだ。このまま片手剣でいいと思うぞ」
だったらと片手のままでいくことにし、盾ももらうことになる。木製のラウンドシールドで、これも中古品だがどこか壊れかけているということもなかった。
休憩を終えて、盾の扱いも教わっていく。受け止めだけではなく、受け流し、払い、盾での殴りつけと覚えることは多い。
そうしてさらに二日の修練を経て、基本講座を終える。
「ド素人からは脱したって感じかな。今後も修練は必要だから」
練度としてはまだまだだが、シューラビと戦うなら十分でもある。いつまでもつきっきりで教えるわけにもいかないので、ここで一応の終わりとした。
「はい。ありがとうございました」
頭を下げる。顔を上げるとベールは「たまになら教えるから」と言って去っていった。
エラメーラに呼ばれているので、部屋に行こうと思っていると平太は体が膨らむような感覚を感じる。
「なんだろ?」
膨らむ感覚は長続きせず、すぐに収まる。
「体が少し軽い? もしかしてこれが成長ってことなのかな。エラメーラ様に聞いてみよう」
そうしようと頷いてエラメーラ専用の中庭へと向かう。
そこの木陰の下でエラメーラはビーチチェアに横たわり目を閉じていた。木漏れ日が時折注がれ、気持ちよさそうに寝ている姿は一枚の名画のようにも思えた。
近づくとすぐに目が開かれ、体を起こす。
「いらっしゃい。成長したようね」
「あ、やっぱりしてたんですか」
「ええ、昨日までのあなたと少しだけ力強さが違うからね」
成長したといっても劇的に変化したわけではない。エラメーラの言うように少しだけだ。ようやくこちらの一般人平均に追いついたといったところだ。ハンターとしては下の下もいいところなので調子に乗ると痛い目を見る。
平太が一般人よりも弱かったのは、召喚の影響ではない。もともと日本人とこちらの人間を比べると日本人の方が弱いのだ。それは暮らしぶりに関係している。色々と機械化されていて便利になった生活を送っている日本と比べて力仕事が多いため、必然的に力を必要とし成長した際の力の上がり幅が大きくなっているのだ。
椅子を勧められ、平太は座る。エラメーラは空のカップにお茶を注ぎ、平太の前に置く。お礼を言い一口飲んでから口を開く。
「魔導核も大きくなったんですよね? 一回くらいは能力使えるようになったんでしょうか?」
「どうかしら。調べてみましょう。魔導核の位置は胸だったわね」
エラメーラの細く白い指がトンと胸に当てられて、ドキドキとしながら結果を待つ。十秒もせずに指は離された。
「もう一回成長を待った方がいいわね。次は確実に使えるようになる」
「わかりました」
素直に頷いた平太に笑みを向けて話を始める。
「ここに呼んだのは出発の挨拶もあったのだけど、きちんと話さなければいけないことがあったの」
「覚えておいた方がいいことですか?」
こくりとエラメーラは頷く。
「話すのは再現という能力について。今の状態でも便利だけど、進化させるととても便利になるの。初代再現使いもそれを使って、色々と功績をたてた。今のフォルウント家があるのも彼のおかげ」
「歴史のある町でしたっけ。進化させるとどんなふうになるんですか?」
「時間制限が取り払われる。今は一定時間で消えるでしょう? だから例えば宝石を出しても売り払うことなんてできない。でも進化するといくらでも宝石を出せて売ることができる。この部分だけを見ても悪人に狙われる能力なのよ」
「心底納得できます」
楽して儲けるということが可能なのだ、欲深い者にとって魅力的な能力だろう。
「だから言いふらさないようにした方がいいわ。そういった人をはねのける力があるなら知られても大丈夫だろうけど、今のヘイタにそんな実力も権力もないからね」
「絶対言いません」
「信頼できる人なら言っても大丈夫でしょうけどね」
「先代はそういった人たちに狙われなかったんですか?」
「彼は魔王を倒したメンバーの一人だから手を出すと痛い目をみたと思うわ」
魔王出現による魔物活性化で被害を受けた村の復興に手を貸してもらいたいと考え、善意から接触した人もいる。だが無限に食材や資材をだせるわけでもなく、村一つ分ならともかく国一つなど無理で、怪我人への治療薬を提出という消極的な助力ですませたと記録が残っている。
復興助力への消極的な態度に文句を言う者はいたが、魔王を倒しているという時点で世界への貢献は大きく、あとはのんびりと暮らすと言っても責めることなどできなかったのだ。
先代再現使いに絡む者が多くでなかったのは、三段目まで進化した能力の噂のせいでもあったのだが。
「実力のない今は真似の能力と言っておいた方が無難ね」
「それの詳細はどんなものなんですか?」
「他人の能力を一つ真似て使うことができる。ほかに気に入ったものがあれば、そちらに変えることができるけど、それまで使っていた能力は使えない。そんな感じ。これなら一人でいくつもの能力を使っていても、違う能力を真似たと言えば問題ない」
五分や十分でころころとかえていけばばれるかもしれないが、現時点の魔導核では複数回の使用もできないのでいらない心配だろう。
真似もレア能力だが、再現ほどレアではないためばらしても問題ない。
エラメーラの言う通りにすると言い、待ち人のいる神殿入口へと向かうため立ち上がる。
「ではこれまでお世話になりました」
「当然のことをしたまでだから。願わくば楽しい生活を。あといつでも訪ねて来ていいわ。そのように話を通しておくから」
「ありがとうございます」
頼れる場所や人がいることは嬉しく、それが美少女ならばなおさらで自然と笑みが浮かぶ。
「ではまた」
「ええ、来訪を楽しみにしているわ」
エラメーラに見送られて平太は去っていく。エラメーラは再び椅子に横たわり目を閉じる。眠るのではなく、町の内外に飛ばしている自身の力の欠片を通して周辺の様子を見ているのだ。その一つを平太に向けて、これからの生活を見守ろうと考えていた。
平太の知識からいえばストーカーじゃないかと思える行為だが、エラメーラには下心などなく、平太も気づいていないので犯罪といえるのかは疑問だろう。それになにもかも知ろうという気もない。プライベートにまで踏み込む気はないのだ。過保護と言われてしまえば反論はできないのだが。
誤字指摘ありがとうございます