28 盗賊討伐戦
屋根に上がり警戒していた村人は、木々の向こうにいくつか揺らめく炎を見逃さなかった。
「北東から来たぞーっ」
大声で賊の接近を知らせる。戦えない者は家の中に急いで入り、入口を棚などでふさぎ、戦える者は武器を持つ。
村の総人数は五十人ほどで、戦える者は半数ほどだ。遠距離攻撃のみできるという者も含んだ数で、接近戦ができる者となると平太たちを合わせて十八人になる。
「来たかっ」
ケラーノが武器を握りしめて立ち上がる。ケラーノたちはすぐに賊たちがやってくる方向へと走る。
「手筈通り、姿が見えたら弓を撃ってくれ。能力持ちも頼む」
近くにいた村人に頼む。
村に弓は五つあり、狩りの得意な者が扱うことになっていた。遠距離を攻撃できる能力持ちは二人だ。
彼らもすぐにケラーノたちのもとに集まって、いつでも能力を使えるように構え、矢を放てる体勢になる。
「撃てっ」
賊の姿が見えてフィオラが合図を出す。
矢を放った村人はすぐに別の矢をつがえて、次々と撃っていく。持っていた矢を全て撃った村人の役割は終わり、建物に入っていく。同じく遠距離攻撃を連続して続けた二名も退いていく。
「これで少しでも数が減ってくれるといいのだけど」
ポインが暗闇に包まれた森を見ながら言う。
暗くて賊たちにどれだけ被害がでたのかよくわからない。
近づいてきた賊たちの数は十三人だ。聞いた話から減っているので、少しは効果があったのだと平太は考えているが、ケラーノは何人か別行動しているのかもしれないと考える。
「見張りは周囲の警戒を頼む!」
屋根の上の村人にそう頼み、ケラーノは武器を構えた。
「先制とはやってくれるじゃねえか! まあ、たいした被害はでなかったけどな! 野郎共っ奪い尽くせ!」
『おうっ』
リーダー格らしき男が幅広の剣を村に向けて号令を出し、周囲の賊たちは村に向かって駆けていく。
村人たちもそれぞれの武器を手に迎え撃つ。
平太はこの場面ではリンガイとロナの技術どちらが役立つか考えつつ、賊の一人と戦いを始める。
殺意むき出しで突き出される槍を避ける。もう一度突き出された槍を避けて、実力はそう高くないことがわかる。
(この場で殺さないとか言ってたら足手まといになりそうだけど、でもやっぱり抵抗があるなぁ)
迷い考えた末、どうにかして無効化するしかないなと相手の隙を探す。
「このっ当たれ!」
当たらない突きを当てようと執拗なまでに突いてくる男の挙動を観察し、平太は落ち着いて避ける。男が熱くなっているおかげで、平太には周囲を見る余裕もあった。
そして一人強い男を見つけた。フィオラが戦っている斧を使う男だ。フィオラは防戦一方で、どうにか耐えている状態だった。
誰か加勢できるかと見てみるが、味方は誰もが交戦中で余裕のある者はいない。
(加勢しよう)
そう決めると、平太はロナの技術を再現する。乱戦ではこちらの方が役立ちそうだと思えたのだ。
(まずは目の前の男の処理)
平太は突き出された槍が戻るのと同時に踏み込み、するりと男の背後に回る。
腕を男の首に回すと、スリーパーホールドを決めた。綺麗に頸動脈を締めることに成功したようで数秒で男が落ちる。
(これでよし。次は)
こそそこと動き、フィオラまで近づく。途中ケラーノの目が合い、ケラーノの視線がフィオラに向いて頷かれる。
ケラーノもフィオラのピンチには気づいていたのだが、相手を振り切れなかったのだ。
了承したと手を振って、平太はフィオラの相手の背後に回る。
背後からの不意打ちに男は反応し、平太の剣を避ける。避けられたことに平太は目を見開いて驚く。
「これを避けんのか」
「危なかったが、気配の消し方が甘いな」
使っているロナの技術が劣っているのではなく、男の察知感覚が優れているのだ。それに加えて、ロナの奇襲は能力も用いて行われるため技術だけを真似ても完全ではない。
「隙ありです!」
平太に気が向いたと見て、フィオラがレイピアを突き出す。
「見え見えだ」
男は避けて反撃に出ようとしてさらに下がる。
平太がフィオラの攻撃に合わせて攻撃をしかけたのだ。
「ちっ、やりづらいな。まずはお前からやった方がいいな」
実力を平太の方が上と見て、男は意識を平太に多く割く。
内心、平太はひやひやしながら男と対峙する。ロナの技術はまだまだ使え、時間切れにはならない。だがこの男の実力はロナ以上のようで勝てるビジョンが見えない。
(どうにかして粘るしかないな)
倒すことよりも加勢が来ることを期待して、男の挙動を見る。実力は上といってもプレッシャーはあまり感じない。角族と戦ったときの方が辛く、あれに比べればと委縮せずにすんでいる。
「おらおらおらおらっ」
男は斧を左に右にと振り回す。
フィオラと組んで二対一でも押され気味で、攻撃を行う暇がない。
男のもつ斧は完全に戦闘用で重量はそれなりのものだ。だが重さを感じさせずに振り回すところをみると、能力で重量を軽減させているのか筋肉を上げているのだろう。
「避けるのは上手いな!」
「避けないと怪我するだろう! そりゃ意地でも避けるさっ」
「あなたこそ避けと受けが上手すぎです! それだけの力があってなぜ賊なんかに!?」
フィオラが男の足を狙ってレイピアを突き出しながら問う。
それを斧で弾いて男は嘲笑う。
「この力が疎まれて、こんなことになってんだよ! 力ある奴が全員正しいことをやるなんて思うな!」
「周りの者たちは助けてくれなかったの!?」
自分が危機に陥ればポインたちが助けてくれる。その確信があり、男にもそういった仲間がいなかったのか聞く。
「いたさ。だがなそいつらの力を超える力を持った奴に蹴散らされ、一人また一人と去っていきやがったんだよ!」
当時のことを思い出したか、イラつき斧を握る手に力がこもる。
イライラをぶつけるようにフィオラに鋭い一撃が迫る。
フィオラにとってはピンチだが、自身への注意が減った平太にはチャンスだ。
男の利き腕の肩を狙って剣を突きだす。鎧の隙間をぬって刃が肉を刺す感触があった。
「ぐぅっ」
すぐに剣を抜いて平太は下がる。
「話は俺の気を引くためのものか、油断したぜ」
「いえ、そんなつもりはなく本当に疑問に思ったことを聞いただけなのですが。まあいいです。その怪我では先ほどまでの奮戦は無理でしょう、降参なさい」
「はっこの程度の怪我で降参なんかするかよ」
男は斧を左手に持ちかえて、闘志をみなぎらせる。男の放つ威圧感はいくぶんも減っておらず、怪我がハンデになっていると油断できそうにないと思わせる。
(また隙をついて攻撃できればいいけど)
同じ手は食わないだろう、そう思いながら平太は剣を構える。
そこに大声が響く。
「村人ども、人質を殺されたくなかったら武器をすてろ!」
声のした方向には、ナイフを首元に当てられ恐怖にひきつったピチがいた。
ケラーノの予想はあたり、二人の賊が別行動していたのだ。戦闘をよそに宝を探していたところ、物音のする建物をみつけ、そこに押し入りピチを人質にとったのだ。宝も回収し、思った以上に苦戦している仲間の援護に声をかけたのだった。
「そんな子供を人質にとるなど恥ずかしくはないの!」
フィオラの糾弾に、まったく堪えた様子はなく、かわりにナイフを押し当てる手に力を込める。
それを見てフィオラたちは武器を手放す。同じく平太も剣を地面に置いた。
「捨てたわよ、ピチちゃんを放しなさい!」
そう言うフィオラに、ピチを人質に取っている賊は呆れた視線を向ける。
「命令できる立場だと思ってんのか、お前は」
「おらっ一ヶ所に集まれ」
斧を持っていた賊が平太とフィオラを押して歩かせる。ケラーノたちも同じように押されて一ヶ所に集まる。
「こいつの命が惜しければ変な真似はするなよ。大人しくしてたら解放してやる」
賊たちは怪我の治療を行い、怪我がたいしたものではなかった者は平太たちが捨てた武器を拾って良いものは持っていこうとより分ける。
治療を終えて、持っていくものも選別し。賊たちはピチを連れたまま歩き出す。
「ちょっと解放するんじゃなかったの!?」
「今ここで放してお前らに暴れられたらかなわないからな、山を出るまでは連れて行く」
「夜の山に子供が一人放り出されて無事でいられるわけないでしょう!」
「それはこいつ自身の運にかけるんだな」
ピチを捕まえたままの男は振り返り答える。
その男が、少しだけ仲間と離れたとたんザザザザッと音が聞こえてきた。
なんの音だろうかと、その場にいる全員が疑問を抱いて、その答えが一瞬で賊の間を通り抜けた。
「なんだ!?」
「白いなにかが向こうに」
「あ!」
賊の一人が指さす。
その先にはピチの襟首を加えたグラースがいた。ピチはなにが起こったのかわからず、パチクリと瞬きしてポカンとしている。
「グラース! 戻ってきたのか。ということは!」
平太は思いついたことを確認するように、周囲を見回す。だがいると思った援軍の人々はいなかった。かわりに一人カーレスが走ってきていた。
槍を手に一人突っ込んでくる男を馬鹿にするように、三人の賊が迎え撃つ。
カーレスは足を止めず、三人へと槍を振るう。一人は武器を持つ手を強かに撃たれ、一人は首筋を撃たれ、最後の一人は太腿を斬られて、一方的にやられ誰も反撃できなかった。
三人が倒れるのに必要とした時間は数秒。
斧を持っていた賊は、カーレスの力量を見抜き、斧を振り上げ突っ込んでいく。
「一斉にいけ! あいつはやばい!」
それぞれが武器を手に、斧持ちを続いてカーレスに突っ込んでいく。
カーレスは斧持ちの足を払い転がして、あとに続く賊たちをものともせず倒していった。
斧持ちが起き上り、攻撃してきても軽くいなして、喉に刃先を突きつける。
あっという間に賊たちは倒され、痛みに呻く声がそこらから上がる。
「大会を見て強いとは思ってたけど、想像以上だ。って感心してる場合じゃないな。賊たちをロープで縛らないと」
平太の声に反応した村人たちが自分たちの家からロープを持ってくる。
斧持ちが縛られたのを確認し、カーレスは平太に近づいてくる。
「ご無事でしたか」
「なんとか。助かりました、ありがとう」
「いえ、当然のことをしたまでです」
平太に敬意を払っているように見えて、ケラーノたちは平太はお偉いさんの子供かなにかかと疑問を抱く。
「援軍はカーレスさんとグラースだけなんですか?」
「私たちは先行したのです。町の兵がすぐに到着するはずですよ」
「急いで来てくれたんですね。おかげで賊に逃げられずにすみました」
「そのようですね。急いでよかった」
話している二人にケラーノが近寄る。
「そのえらく強い人はヘイタの知り合いなのか?」
「この人はカーレスさん。大会に出場するため南門町に来ている人。俺も昨日会ったばかりの人。俺が世話になっている人の親戚なんだよ」
「あれだけ強ければ大会もいいところまでいけそうだな。それはおいといて、ありがとう。あんたが来てくれたおかげで子供の命が助かった」
「礼などいいさ。俺はミレアに頼まれヘイタさ……ヘイタ君を助けに来ただけだ」
なんで言い直したのか、平太とケラーノは内心首を傾げるが、特に気にすることでもないと聞くことはなかった。
「そう言っても子供が助かったのは事実だ。親は礼を言いたいだろうから、会ってやってくれ」
「それくらいなら」
ケラーノとカーレスがピチの両親のところへ向かうのと入れ替わりに、グラースが近寄り顔を平太の足にこすりつけてくる。
「グラースもありがとうな。手紙を届けてくれたこと、カーレスさんを連れて来てくれたこと、あの子を助けてくれたこと。色々と助かったよ」
礼を言いつつ、頭や背を撫でる。褒められたことで嬉しげにグラースは喉を鳴らす。
賊を一ヶ所に集め、奪われた村の宝を元の位置に戻し、武器を取り返しているうちに、兵が到着した。
既に事態が収拾していることに少し驚きつつも縛られた賊を連れて兵たちは山を下りる。
兵全員が帰ったわけではなく、村の被害調査のため残った兵もいる。そのうちの一人が平太たちに話しかけてくる。
「この度は村の防衛に協力いただきありがとうございます。この村は南門町にとって大事な場所でして、この村のおかげで冬でも交易を維持できているといって過言ではありません。もし村の宝が奪われていたら、その損害は考えたくもない額になっていたでしょう」
「重要というわりには警備が薄かったな?」
ケラーノの指摘に兵は申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「それはこちらの油断でしょうね。これまで被害がなかったから、今後も大丈夫だと。一応は山の麓を巡回はさせていますが、常にというわけではありませんから簡単に隙をつけるのです」
今後は警備スケジュールを見直すつもりだ。町長もこの報告を受ければ嫌とは言わないだろうと確信を持っている。
警備にかかる費用が増すことに難色を示すかもしれないが、警備を怠ってしまえば費用以上の損害が出る。これがわからないほど愚かではないだろう。
「町に戻ったら礼をしたいので、皆さんの宿を教えてもらえますか」
「俺たちは宿が取れなかったからテント暮らしなんだが」
ケラーノの言葉に、でしたらと兵は言い続ける。
「よければ兵の宿舎に来ますか? 宿ほどではありませんが、テントよりは過ごしやすいと思いますよ」
どうする、とケラーノはフィオラとポインに尋ね、頷きが返ってくる。
ベッドがあって隙間風を気にせずにいられる生活は、今の季節とてもありがたいのだ。宿舎暮らしがお礼でもいいくらいだ。
「それで頼む」
「わかりました。町に戻ったら案内します。そちらのお二人は宿はきちんと取れていますか?」
「俺たちは大丈夫です」
平太は頷き、宿の場所を伝える。
いい宿に泊まっていますねと少し羨ましそうな返事がしつつ、兵はメモに書き込む。
ざっと被害状況を確認した兵が、平太たちと話している兵に駆け寄ってくる。
「怪我人以外に被害はありません」
「では二人は残って警戒を続けるように。明日の朝増援をよこす」
「了解しました」
「さ、山をおりましょうか」
「警備はあの二人だけで大丈夫なのでしょうか?」
ポインは少なさに不安を抱いて尋ねる。
「大丈夫ですよ。うちの兵の中でも実力は上位ですし、能力も複数を相手するのに向いていますから」
「そうですか」
兵の数が足りていなくて二人しかいないのなら、朝まで残ることを提案しようと思っていたが、きちんと考えているのなら大丈夫だろうとその提案をひっこめる。
ケラーノたちは村長の家に置いてある荷物を取りに行き、平太たちが待っている村の入口に戻ってくる。
その間にカーレスと平太に村人たちが口々にお礼を言いに来ていた。グラースも助けたピチに抱き着かれてお礼を言われた。
「ピチを助けてくれたこと、村の危機を助けてくれたこと、感謝の言葉もありません。きちんとお礼がしたいので皆さんぜひ、またこの村にお越しください」
そう言って村長は頭を下げ、見送りに来ていた村人たちも頭を下げる。
顔を上げていつまでも手を振り続ける村人たちに見送られて平太たちは山を下りる。
「んーっいいことすると気分いいわね!」
最後まで自分の力で解決できなかったことは残念ではあるものの、解決の助けができて、人を助けることもできた。そのことにフィオラは満足そうな雰囲気を放つ。
「そうね。でも力不足も感じたわね。次似たようなことがあったときは自分たちで解決したいわ。そのためにも力をつけないと」
ポインはそう言いつつスススっとカーレスの隣に移動し、手を取り見上げる。
「よろしければご指導願えませんか?」
ポインの目には強さへの渇望以外に、カーレスへの興味が宿っている。
手を取られたカーレスは少し困った様子を見せる。
「大会があるから難しいんじゃ?」
乗り気ではなさそうだと見た平太が言う。
「つきっきりで指導してほしいわけではありません。少しだけでもいいので、どうでしょうか」
手を放さずポインは頼む。
承諾しなければいつまでも握られていそうで、カーレスは頷いた。
「いいならついでに俺も見てもらおう」
「私も」
実力不足を感じたのはケラーノとフィオラもなのだ。格上の指導を受けられるのならその機会は逃したくはなかった。
「一人も三人も一緒です。ヘイタ君もどうです?」
「俺? 俺はいいや。エラメルトに帰ったら指導してくれる人いるし」
リンガイのことだ。指導というよりは実戦形式で学ぶという感じだが。ほかにロナにも指導してもらっているので、是非指導をしてもらいたいという希望はない。
それに平太には再現がある。大会での戦いと賊との戦いを見たことでカーレスの技術を再現できるため、カーレス本人に頼まなくても大丈夫なのだ。
「そうですか」
少し残念そうなカーレスに、まだ手を握っていたポインは首を傾げた。
帰り道は魔物に襲われることなく、町に着くことができた。
平太とカーレスは町の入口で、ケラーノたちとわかれ宿に向かう。
「今日は本当にありがとうございました。大会中というのに面倒をかけてしまって」
再度礼を言う平太に、カーレスは首を横に振る。
「大会などよりもあなたの方が大事ですからね、試合中だったとしても棄権して駆けつけますよ」
「俺なんかより試合の方が大事でしょうに」
「あなたの方が大事ですよ」
「お、おう」
カーレスの熱の篭った視線に押され平太は一歩下がる。そういった趣味が? と警戒心が沸く。
平太の内心を知ってか知らずか、カーレスは微笑み視線を外す。
微妙に間を空けたまま二人と一匹は宿に到着し、良い夢をと言ってカーレスは自分の部屋に帰っていった。
「ミレアさんに聞いてみるかな……そういた趣味だったらなるべく距離をとろうか」
扉を開けて、ただいまと言いながら部屋に入る。ミレアとロナがおかえりと出迎える。
「賊が出たって聞いて心配していたんですが、怪我などはありませんか?」
「強い賊がいたけど、なんとか怪我はせずにすんだよ。再現でロナの技術を使ってたのに終始押されっぱなしだった」
「どんなふうに戦ったの?」
「最初は奇襲であとは真正面から。ロナの能力も使えたら奇襲は成功してたんだろうけどね」
それなら押されても無理はないと頷く。自分の戦い方は正道ではなく、邪道寄りという自覚があるのだ。
「まあ、悪いことばかりじゃなかったよ。カーレスさんの戦いぶりを見れたから再現できるようになったし」
「あの強さが真似できるなら今後に安心できる」
強い人の技術が再現できれば、それだけ平太の生存確率も上がる。平太の無事はロナとしても嬉しいことだ。
「ただねぇ、カーレスさんが」
「カーレスになにか問題がありますか?」
「いやに熱っぽい目で見られたんだ。衆道の気でもあるの、あの人。いやね、そういった趣味を否定はしないよ? でも俺にはその趣味はないから期待されても答えられない」
ミレアはその言葉にポカンとして、ぶんぶんと首を横に振る。
「そちらの趣味はありませんよ!? カーレスは普通に異性が好きですからね?」
子供の頃の初恋話や十代の頃に女に人気が出て嬉しがっていたことを平太に話す。
「心配は減ったけど、じゃあなんであんな感じに俺を見てたんだろう」
「あー、それは……私が異世界から来た人だって手紙に書いたからじゃないでしょうか」
「教えてよかったっけ? あれ? 秘密にした方がいいのって再現使いってことだけだっけ?」
どこまで秘密にするのかよく覚えておらず、平太は首を傾げる。
「エラメルトに帰ったら確認しましょう。駄目だったら叱責を受けます」
「カーレスさんに広めないよう言っておいた方がいいと思う」
ロナの指摘にミレアは頷き、部屋を出ていく。
「ミレアさんがああいったミスっていうのかな、失敗するのは珍しいね」
「んー……ミスなのかな」
ロナはミレアになにか違和感を感じていた。なにかを誤魔化したような、そういった感じを受けた。確信はないのだが。
「ミスじゃない? とするとわざと知らせたということかな」
「それもなにか違うような。とりあえずミスしたと言っていたように思えた。わかるのはそれくらい」
「とりあえずかー、なんでだろうね」
「誤魔化したけど、悪意とかはまったくなかったように思えた。だから追求していいのかわからない」
害意などを感じさせていたら問答無用で尋問するのだが、そういったものは感じられず、もしかすると平太のことを考えて話すべきではないからと判断したから誤魔化した可能性もある。
「大事なことならあとで話してくれるだろうし、今は気にしないってことにしよう」
「ん、わかった」
平太がそう決めたのなら、ロナに異論はない。一応気をつける程度におさえ追求は止める。
二人で話していると、グラースが平太の足を軽く叩く。
どうしたのか尋ねると空腹という仕草を見せる。村で準備をしながら食べ物を腹に入れた平太と違い、グラースは移動ばかりで夕食を食べていないのだ。
「調理場に肉が余っているといいけど」
「肉ならある。ミレアが従業員に頼んでいた」
「そりゃよかった」
テーブルの上に置かれているトレーの蓋を取ると、サンドイッチ一人分とサイコロステーキ三人分があった。薄い味付けで頼んだのでこのまま食べさせても問題はない。
「サンドイッチはヘイタ用」
「りょーかい」
平太はステーキののった皿を床に置いて、グラースに食べさせる。
サンドイッチを手に取った平太に、ロナは村で起きたことを聞いていく。
南門町に来て三日目。
今日も大会見物に向かうため出かける準備をしていた平太に宿の従業員から手紙が届く。届けた者は兵だったと伝えて、業務に戻っていく。
受け取った手紙に目を通し、内容を口に出す。
「夕方からお礼の食事会を開きたいからグラースも一緒に町長の屋敷に来てほしいってさ。正装とかする必要あるのかな?」
「必要なら手紙に書かれていると思いますよ」
平太は手紙の隅から隅まで確認する。
「書かれてないね」
「でしたら普段着で構わないと思います。もし不安なら少し上等なものをこの宿で借りれないか確かめてはどうですか」
宿を出るときに聞いてみることにして、三人は準備を整えて部屋を出る。グラースは一日寝て過ごすということで部屋で留守番だ。
受付にいた従業員に服について尋ねてみると、レンタルをやってるということなので、簡単にサイズを測って用意してもらうことになる。
宿を出た三人は昨日と同じく、大会を昼まで見て、町を散策する予定だ。
今日は近距離大会、遠距離大会、長距離競争といった大会初日に行われたものの続きで、平太たちは近距離大会を見物した。
昨日のように複数人が同時に戦うのではなく、一対一での戦いが続く。初戦を勝ち抜いてきた者同士の戦いだけあって見ごたえのある試合が多い。
今日の試合で最終日に進む四人が決まる。その四人を見る前に、平太たちはコロシアムを出る。
昼食をとったあとは、あちこちと見て回りながら、知人のためのお土産を買っていく。
ロナは南門町に行くのならと、エラメルトにはない西の国々の品をアルネシンたちに頼まれている。創作の参考にするのだと言っていた。店主たちに色々と話を聞いて、アルネシンたちの要望にあった品を選んでいった。
そうして夕方になる前に三人は宿に戻る。
「服を依頼していたアキヤマなんですが」
平太が受付に話しかける。
「アキヤマ様ですね。準備できております。こちら白シャツ、ブラウンのベスト、同じくブラウンのズボン。そしてクロスタイと革靴です」
畳まれた衣服を指差し説明し、平太に手渡す。
「ありがとうございます」
受け取った服を手に部屋に戻って、早速着替えていく。サイズに不具合はなく、髪に櫛を通して完成だ。
「おかしなところはある?」
「大丈夫ですよ」
平太の全身を確認し、ミレアが大丈夫だと保証する。
平太が着替えている間に、ロナがグラースにささっと櫛を通し整える。
「グラースも準備終わったみたいだね、じゃあちょっと行ってくるよ」
「はい、いってらっしゃいませ」
「いってらっしゃい」
部屋を出た平太はカーレスの部屋をノックしてみる。村を助けたというのはカーレスも同じなので、招待状が来ていると思ったのだ。
だが留守か既に出たのか、カーレスと合流はできなかった。
おまたせしました
待っていた人いるのかわかりませんが28話です
いろいろ用事が重なったり、気分がのらなかったりで遅れました
明日も更新予定です




