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25 インタビュー

 ローガ川での修練を終えた平太はエラメーラの部屋に転移し、エラメーラに挨拶して有名ブランドのアイスセットをお土産に渡して部屋から出た。

 その足で医務室に向かい、オーソンに会うついでにラディオの妹たちの様子を聞く。ラディオの妹たちは運び込まれたときから変わらない様子で眠り続けている。医者たちにとっては場所を取るだけで、手のかからない患者という認識のようだ。

 ラディオたちはまだまだ準備に時間がかかるらしく、当分の間この五人は眠り続けたままだろう。

 そういったことやローガ川であったことを話してオーソンと別れ、神殿から出る。

 依頼を受けてできたちょっとした顔見知りに、挨拶しつつ家に帰る。


「ただいまー」

「おかえり」


 ミレアではなく、ロナが出迎えてくれる。


「ロナ? 今日休みだったんだ」

「うん。川での戦いはどうだった?」

「川猿とは一対一で負けはなくなった。それよりもグラースがすごかったよ」

「グラースが?」


 首を傾げるロナに、河水蛇討伐に参加したことからリバーマンダー乱入といったことを話す。


「能力持ちのリバーマンダーだけでも珍しいのに、グラースも能力持ちだったの? 強さよりそっちに驚きよ」

「やっぱり能力持ちの魔物や獣って珍しいんだ?」

「私は生まれてから一度も遭遇したことない。ほとんどの人が同じだと思う。ハンターとか兵士とか魔物と戦う人なら遭遇する機会はありそうだけど」

「封印されるだけあって、お前はすごいなー」


 グラースの背中をかくようになでる。


「能力持ちのリバーマンダーを倒したということは、グラースは礫砂漠でも余裕かもしれないわね」

「山はやっぱり厳しいかな?」


 なでる手を止めずに聞く平太。


「山に関しては噂話だけしか聞いたことないから、なんともいえない。でも一方的にやられることはないと思う」


 これは一対一の話で、複数でこられたらさすがにグラースも負けるだろうとロナは考える。

 その推測が正しいのかは、実際に戦ってみないとわからないだろう。平太が山に行くことがあるのかわからないため、裏付けの機会が訪れるのかも不明だ。


「あなたは次どうするの? 川なら戦えるようになっているし、湖に行く? グラースがいれば万が一の事態もないでしょうし」

「いずれ行くけど、今すぐには行かないよ。ただ湖だと今使ってる武具じゃあ足りないよね」

「たしかに物足りない。以前は止めたけど、新しく買ってくるといいよ。買うとしたら剣と鎧。ブーツとそれから盾は十分」

「明日にでも行ってくるよ。お金は足りるかな」

「以前もらった八千と今回の褒賞金があるなら大丈夫」


 能力持ちリバーマンダーの褒賞金五千ジェラはグラース用に取っておくつもりだ。そして全財産全てを武具につっこむつもりもないため、予算は七千ジェラを予定している。

 そう言うと、ロナは十分だと頷く。


「鉄の剣が三千くらい、鎧も魔物の革を使ったもので四千だせば十分すぎる」


 四千ジェラだせば、質の良い銅を使った鎧に負けないくらい丈夫なものを買える。

 話は狩りのことから、雑談に移る。

 アルネシンとティオルの関係だったり、よろず作業屋で任せられる作業が少し増えたり、最近見つけた美味しい屋台といったことをロナが話し、グラースをなでながら平太は相づちをうつ。

 普通の生活を満喫しているようで、ロナの放つ雰囲気は穏やかさの中に幸福感も混ざっている。

 そうして話ているうちに買い物かごを持ったミレアが帰ってくる。


「あら、おかえりなさい。特に怪我などないようで安心です」

「ただいま。無茶しなかったからね」


 夕食の下ごしらえを行うミレアも会話に加わり、時間がゆっくりと流れていった。

 翌日、仕事に向かうロナを見送った平太は、庭でグラースを洗う。

 たらいを用意して水を溜め、再現で犬用のシャンプーを準備する。


「シャンプーが消えたら、落とした汚れはまた毛に戻るのか?」


 どうなんだろうと思いつつ、グラースに水をかけていく。

 グラースは暴れることなく大人しく洗われている。


「洗われ慣れてる? まあ、逃げないのは楽できていいんだけど」


 わしゃわしゃ泡立てて、目に入らないよう注意し、全身を洗うと水で流す。

 あらかた泡を落とすと、グラースは毛についた水を体を震わせてとばした。


「もうちょっと待ってなー。あとはタオルで拭いて自然乾燥。ドライヤーがあればいいんだけどねー」


 タオルでしっかり水分をふき、グラースから離れる。

 グラースはもう一度体を震わせると、日当たりいい壁のそばで伏せて目を閉じる。


「武具店の行ったあとに、ブラッシング用の櫛も買いに行こうかな」


 たらいに残った水を捨て、家の中に入った平太は財布を持って出てくる。

 グラースに一緒に来るか聞いたが、このまま日向ぼっこするようで動かなかった。

 家を出た平太はいつも行っている武具店に向かう。


「こんにちは」


 まっすぐカウンターに向かい、店主に話しかける。


「いらっしゃい。なにが必要かな」

「鉄の剣と魔物の革の鎧を。予算は剣に三千、鎧に四千。以前は買うの止められたけど、今回は仲間も止めなかったよ」

「そうかい。あの嬢ちゃんが認めたんなら、こっちも止めないよ。しかしそこらのハンターと比べて早いね。そこらへんの価格の武具はハンターになって半年の奴でも購入できないぞ」

「ソロでやってるから早いのか遅いのかわからないな」

「仲間を募らないのかい」

「仲間はできたよ。魔物だけどね。俺よりも強い狼型の魔物」

「主より強い魔物を連れて大丈夫なのか? 油断してたら殺されるかもしれないだろうに」

「なぜか俺に懐いているんですよ。なんでなのかさっぱりです」


 不思議なこともあるもんだと店主は言いつつ、鉄の剣に関する要望を聞く。


「これといった要望はないですよ。重すぎるのは勘弁ですけど」


 頷いた店主は壁に立てかけている剣を指差す。


「そこらにあるのが鉄の剣だ。といっても質は悪いけどな。何本か持ってちょうどいい重さのものを探してごらん」


 五本の剣を持って比べて、これだというものを店主に渡す。受け取った剣の重さを確認する。


「これくらいか、すぐに準備するから待ってな」


 そう言って二本の剣をカウンター下から取り出す。


「三千ジェラで、ちょうどいい重さの剣はこの二つ。違いは重心くらいだね。剣先に重心があるか、柄に重心があるか」


 剣先に重心がある方は遠心力で威力増加を狙ったもので、柄に重心があるものは振りやすさを考えた作りだ。といってもそこまで大きな違いはないのだ。

 その説明を受けて、平太は振りやすい方を選ぶ。


「これまで使っていたのは青銅剣だったね? あれはそこまで手入れは必要ないけど、鉄の剣から先は手入れを怠ると切れ味がすぐ落ちるよ。手入れ道具を持ってないなら買っておいた方がいい」

「手入れは鍛冶職人に丸投げしちゃだめなんです?」

「その方が剣にとってはいいんだろうけどさ。毎回職人のところまで持っていくのも手間がかかるだろう? だから少しくらいなら自分でやった方がいいのさ」


 素人ができる手入れなど、血をふいて、油を塗るくらいだと教えられる。それくらいなら確かに自分でやった方がいいだろうと平太は納得し、手入れ道具も買う。


「じゃあ次は鎧だ。予算は四千だったね。それだとスモールワームの表皮を使った鎧があったはず」


 店主が倉庫から二つの鎧を持ってくる。一つは白っぽい黄色の鎧で、肩当に魔物の体毛がついている。もう一つはなめらかな表面の赤茶の鎧だ。


「この薄い黄色は砂狼の鎧だ。んでこっちの赤茶はスモールワームの鎧だな。どちらも性能は似たようなものだから、色の好みで決めるといい」

「じゃあスモールワームで」

「まいどあり。大きさの調整をするから、これを身に着けてみてくれ」


 店主が持ってきたものは小さく、もう少しサイズの大きなものを準備してもらい調整する。

 しっかりと体に合った鎧をそのまま着たままにして、代金を払う。


「この装備だと湖までが限界ですか?」

「いや礫砂漠まで大丈夫だろう。しっかりと手入れしたらの話だけどな」


 安い買い物ではないため、助言はきちんと受け入れる。買って一ヶ月もせずに駄目になったら目も当てられない。

 ロナが手入れのコツを知っているかもしれないので、帰ったら聞くことにして武具店を出ようとして、足を止める。ふとグラースの武具について聞いてみようと思ったのだ。


「さっき言った魔物の仲間についてなんですけど、魔物の武具に関してなにか知ってます?」

「ここには置いてないが、聞いたことはある。馬の魔物に鎧を着せたりしている」


 動物の馬にもそういった武具はあるので、魔物の馬に着せるのも発想としてはありふれたものだろう。平太も歴史の教科書で見た記憶がある。

 ほかには身体強化の魔術具をつけるといったことも当たり前のように行われている。


「狼の魔物につけるような武具はなにかありますか?」

「狼なぁ……防具としては重い金属の鎧は避けるべきだろう。魔物の糸を使った服を着せるか、魔物の革で作った服でも着せるか。武器は前足に金属製の爪でもつけるくらいか? なんにせよ特注になるだろう」

「服を作るとしたら値段はどれくらいに?」

「安くて二千辺りだろう。武器だともっと高くなるかもしれない。そういったものを身に着けるのを嫌がるやつもいるから、普通の服でもいいから着せてみることをおすすめする。首輪につけるタイプの魔術具なら問題はないもしれないな。値段は安くはないが」

「帰って試してみます」


 礼を言って店から出る。

 次に向かうのはグラース用の櫛を売っている店だが、心当たりはないためファイナンダ商店に行ってみることにした。大きな店なのでもしかしたら売っているかもしれないと思い、なければ売っている場所を聞こうと考えた。

 店内にパーシェの姿が見えたので、話しかける。


「こんにちは、パーシェさん」

「アキヤマ様、こんにちは。帰っていらしたんですね」

「うん、昨日帰ってきたよ」

「無事な姿を見ることができてよかったです。向こうはどうでした?」

「あっちの魔物とも戦えるようになった。それと河水蛇討伐があったよ」

「ということは干し肉が出荷されますね。店長に知らせておきましょう。それはそうと今日は私に会いに来てくれたのですか?」


 期待を込めて尋ねるパーシェ。

 その言葉と視線に、ドキンとしながらも平太は否定の言葉を口にする。


「そうだよ、と答えたいところだけど、今日は買い物に来たんだ」

「残念です。それでなにが欲しいのですか?」

「グラース用の櫛を置いてないかなと思って」

「動物用の櫛で問題ありませんよね……すみません、置いていません」


 商品リストを思い出し、この店では置いていないことを確認し小さく頭を下げる。


「そうですか、どこか売っていそうな店はわかります?」

「んー……たしか動物用品を扱っている店があったはずです。ああ、カブラサンサ動物店という名前でしたね」


 位置を言葉と身振りで教えてもらい、揺れる胸に目がいきつつ平太はだいたいの当たりをつけることができた。


「あそこらへんか、ありがとうございます。話はかわりますけど、封印が解けて体に異変が起きたりはしました?」

「そういったことは一切ありませんね。もともと負担になっていたわけでもありませんから。グラースはなにかおかしなところありました?」

「グラースもおかしなところはありませんでしたね。ただ……」

「ただ?」


 パーシェは首を傾げる。


「封印されていたってことは弱体化していたはずなんだけど、今でもすっごく強いんですよね。リバーマンダーっていうローガ川周辺の魔物を超える強さの魔物を倒してましたし。あれで弱体化しているなら元はどれだけ強かったんだろう」

「強さを危険視されて、封印されたのでしょうか?」


 あの性格ならばむやみに被害を広げるようなことはないはず、と強さゆえに封印という説には二人とも疑問が残る。


「あまり長居するのも商売の邪魔になると思うので、もう行きますね」

「もうですか。残念です。また会いましょうね」


 パーシェに見送られて平太は店から出て、カブラサンサ動物店で櫛を買って帰る。

 寝ていたグラースが平太の帰還に気づき、顔を上げる。


「毛は乾いたかなー」


 少し触ってみて、湿っていたのでもう少し乾いてから毛を解くことを伝える。

 わかったと吠えて、その場に再び寝転んだ。そのグラースのお腹をわしゃわしゃなでてから家に入る。

 平太は荷物を置いて、盾とブーツを持って庭に出る。新しく買ったものを使って素振りなどで動作の確認をするのだ。

 最初に軽く動いてみて、次にリンガイの技術を再現して、この武具でどう動くのか参考にする。体に染み込ませるように何度も反復していき、再現の効果が切れても動作を繰り返していく。

 そうした鍛練を行っているうちに昼食の時間となり、ミレアが平太とグラースを呼ぶ。

 昼食を食べ、グラースの毛がだいたい乾いたかなと思えたので、毛を解いていく。

 丁寧に時間をかけて毛を解いている平太に近づく者がいる。グラースが気づき、顔を上げて、平太もそちらを見る。

 見覚えのない三十手前の男が立っていて、顔を向けた平太に頭を下げ近づいてくる。


「こんにちは。私は王都にあるワーボルツ情報誌のクーランと申します。アキヤマさんご本人ですか?」

「はい、そうですけど。情報誌?」

「国内であった出来事や新しい商品や有名な人を紹介する雑誌です。本日はあなたに取材を申し込みに来ました」

「わざわざ王都から来て、俺に取材なんかしてどうするんだ。もっと他に有名な人いるだろう」


 なにかの間違えだろうと考え、疑わしそうな視線を向ける。


「いえいえ、あなたも十分取材対象ですよ。今回のテーマは今後活躍が見込まれる新人ですからね!」

「活躍ねぇ。そこまで派手に動いてないような」

「ちょこちょこと情報が入ってきてますよ。魔物の大群を止める壁を作り出したとか、一般的なハンターよりも早く狩れる数を増やしたとか、肉買い取り所から指名依頼がきたとか。もっとも新しい情報だとローガ川で活躍したというのもありますね。新人としては十分すぎる活躍ですよ」


 平太と同じ時期にハンターになった者で、名前が広まった者はいないのだ。一度ならず二度三度と名前が出てくるのだから、今後の活躍に期待をもってもおかしくはない。


「ローガ川ってつい最近のことじゃん。そんな情報どこから?」


 大切な情報源を明かすわけないかと思いつつ尋ねると、クーランはあっさりと話し出す。


「知り合いに遠距離でも会話できる能力持ちがいまして、そいつが各地にある肉買い取り所の情報のやりとりを担当しているんですよ。そいつから聞きました」

「それって情報漏洩になると思うんだけど」

「そこらへんはあいつもしっかりしてます。話していい情報と駄目な情報はきっちりわけてますからね」


 クーランもちょっとした情報しか聞こうとしない。無理に貴重な情報を聞けば、付き合いがなくなるとわかっているのだ。大切な情報源なので付き合いがなくなるのは避けたいため、よくばることはしないのだ。


「アキヤマさんの名前を出しても、どんな能力を持っているのか、どこ出身なのか、いつからハンターを始めたのか、どんな依頼を受けたのか、といったことは話してませんよ」

「それだと新人ってわからなくない?」

「そいつが新人って言ったから、それを信じたんですよ。たとえ兵として数年経験をつんで、そのあとハンターとして動き始めたとしても、ハンターになって一年以内なら新人ですし」


 そういった人物は、注釈として兵だったことは書いておくつもりだが。


「ちなみにハンターになってどれくらいですか?」

「……まあ、それくらいならいいか。半年もたってないと思うよ。たしか初夏辺りになったはず」

「半年足らずで、名前が挙がるのは本当に珍しいことですよ。一度ならありえますが、二度目は新人だとそうそうないことです」

「そういってもね、壁はたまたま能力が役立った。買い取り所からの依頼も能力関連。ローガ川じゃあ活躍したのこの子だし」

「すごい強い狼が倒したんでしたっけ? 大人しく見えるのにすごいですね」


 この情報も遠距離会話能力持ちから得たものだ。ローガ川に行けば簡単に聞ける話なため、隠さなかったのだ。


「俺にはもったいないくらいの子です」

「出会いとかはどうだったんです? 小さい頃に拾って育てたとか」


 なにかドラマ的なことがあれば、記事が盛り上がる。それに期待して聞くが、返ってきたのは物足りない話だった。


「事情があって詳しいことは言えないけど、出会ったのはわりと最近」

「最近にしてはえらく懐かれてますね。もともと人懐っこいのでしょうか?」


 事情とやらは気になるが、ここで突っ込んで心証を悪くするのは下策。そこには触れず、別に気になったことを聞く。


「人懐っこいかもしれないし、頭のいい子だから危険かそうでないか見分けていそうでもある」


 あの洞窟で出会って今日までで、グラースの頭のよさは十分に理解している。

 だから懐くのは好みとかではなく、なにか理由あってのことじゃないかと平太は思う。


「お客様ですか?」


 平太が誰かと話していることに気づいたミレアが玄関を開けて、声をかけてくる。


「ワーボルツ情報誌から俺をインタビューに来たんだとか。ミレアさんはその情報誌について知ってる?」


 ミレアは少し思い出す仕草を見せて、首を横に振る。


「ウェナニュースといった有名どころならともかく、ワーボルツ情報誌というのは知りません。最近できたところでしょうか?」

「うちは創業十年ほどです。そこまで大きくはないので知らなくても無理はないと思います」

「悪い噂を聞いたこともありせんし、インタビューを受けてみるのもいいかもしれませんね。いい加減な記事を書かれたら、神殿を通して抗議すればいいですし」


 ちょっとした脅しに、クーランは苦笑を浮かべる。もとより誇張や捏造をしてきてはいないし、これからもする気はない。


「神殿を通して抗議とか怖いですね。そのようなことはしないと誓いますよ」

「だったらいいのですが。とりあえず中へどうぞ」


 ミレアとクーランが家に入り、平太はグラースにどうするか聞く。グラースはこのまま日向ぼっこを続けるようで、その場に寝転がる。

 家に入った平太はリビングに向かい、クーランの真向かいの椅子に座る。


「改めまして自己紹介を。ワーボルツ情報誌所属クーラン・マッケルと言います。本日はよろしくお願いします」


 いつのまにやらインタビューを受けることが決まったが、ミレアが釘をさしてくれたので、まあいいやと考えた平太は一礼を返す。


「では早速」


 そう言ってクーランは平太について聞いていく。年齢、出身地、所有武具、どうしてハンターになったか。こういうことを聞いて一度話をきる。


「ずいぶんと遠いところから来たんですね。実家の事情にしても、もっと実家の近くに親類がいそうなものですが」

「家を出るついでに、遠出もしてみかったんだ」


 平太はそれっぽいことを言い、クーランはなるほどと頷いている。


「ハンターになった理由が、最初はやることがないから、その次に見たことがないものを見たいというふうにかわったということですが、変わったきっかけはあるんですか?」

「この前の祭りで、さまざまな光を放つ黄光虫を見たのがきっかけ。故郷だと一色だけだったから珍しかった。ああいった見たことのない風景が世の中にはまだまだあるかもしれないと思うと興味がわいた」

「なるほど。多色の黄光虫って綺麗ですよね。私も好きですよ。では次にずっとソロでやってきたようですが、あの狼のほかに仲間は作らないんですか?」

「ソロだったのはここらの魔物なら一人でどうにかなったからだったんだ。たまに組んだりもしたけどね。今後はクラースがいるから仲間募集しないと思う。それに三年もせずに故郷に帰る予定だから、仲間とは別れることになる。だったら最初から一人の方がいい」

「ここに腰を落ち着ける気がないのなら、仲間は作りづらいですね」

「たまに他国に行く程度なら、ついてきてくれとは言えるけど、遠く離れた地を活動の拠点にするって言われてついてくる仲間はそう多くなさそうだし」

「たしかに」


 クーランは頷き、メモに書き込んでいく。


「では最後の質問。今後どのように活動していきたいですか」

「特別なにかを目指しているわけじゃないし、これまでのようにお金を稼ぎ、見たことないものを見る。こんなところじゃないかな。狩場の話だと、ガイナー湖も視野に入れてる」

「もうガイナー湖ですか」

「目標にしているだけで、すぐ行くわけじゃないけど」

「ハンターになって半年足らずの人が言えることじゃないですよ?」


 ハンターとしていい資質を持っているんだろう、そう思いつつメモに書き込む。

 資質というよりは、お金の苦労がないことと再現によるつきっきりのコーチがいる状態というのが大きいのだ。

 そのコーチも実際に体をどのように動かせばいいのか実践できて、口頭よりも伝わりやすい。ほかの者が同じ環境に置かれれば、上達速度は平太と同じか超えるだろう。


「普通は半年だとローガ川くらいですかね」


 一般的なハンターのペースを訪ねてみると、頷きが返ってくる。


「そうですね。ローガ川で経験をつみ、お金を貯めている頃でしょう。そこで精一杯で次のことは考えられないといった感じです」

「俺には頼りになるグラースがいるから、湖行きを視野に入れられた。さすがに一人だったら湖に行こうとは思わない」


 再現があるので、今の武具ならば一人でなんとかなるかもしれないが、万が一を考えると気は進まない。もし一人で行くならばもう一段階成長してからだろう。そうすれば再現が三回使えるようになる。戦闘用の技術再現、怪我をしたとき用の治癒能力再現、逃走用の転移再現、これら三つが使えて安心して戦えるようになる。

 その三つを安心三点セットと呼ぼうと考え一人頷いた平太を、クーランは不思議そうな顔で見ている。


「インタビューはこれで終わり?」

「ええ」

「思った以上にまともに終わったね」

「どんなのを想像していたんですか。なにかこれまでの質問で疑問に思ったことや聞きたいことはありますか」


 少し考えて平太は口を開く。


「俺のほかに期待の新人って誰かいる?」

「ライバルが気になりますか」

「いやただ好奇心とか興味からなんだけど。会ったこともない人をライバル視はできないし」

「ハンターで大成しようと思ってなさそうですし、そんな返答になりますよねぇ。ええとインタビュー対象者はあなたを含めて四組です。ハンターになって一年と少しでガイナー湖で活動している人たち。ウェナ国の各地方で活躍したことのある二組ですね」


 王都にインタビュー対象者がいないのは、活躍の場がないからだ。仕事自体は多いのだが、名を上げるような事件は新人が活躍する前に、兵や熟練のハンターが事件解決してしまうのだ。事件に巻き込まれて解決する新人もいるが、そういった者たちは稀だ。


「一年でガイナー湖に行ったら、期待されるのか」

「ええ、彼らも早い方なんですよ。だからあなたが湖行きを視野にいれてるのは驚きなんです。仲間募集していたら、あちこちから声がかかっていたでしょうね」

「頼られるのは嬉しいけど、めんどくさいことにもなりそうだ。仲間は募集してないってしっかり書いといてください」

「わかりました。ほかに質問は?」

「湖に行くとしたら注意すべきことってあるかな」

「私はハンターではないので、戦いに関してのアドバイスはできません。それでもいえることがあるとすれば、軽量符と縮小符と時間操作符の三つを持っていくべきということです。ローガ川までの魔物は、籠に入れることができたり引きずって持ち運べるサイズですが、湖からはサイズが大きくなります。だから札は準備しておいた方がいいです」

「たしかラフホースっていう馬の魔物もいるんだっけ。たしかに馬は持ち運べないな」


 大物だとほかにもダチョウの魔物であるモースバード、赤レンガ色のワニの魔物が出る。

 これらは札がなければ、荷馬車で運ぶしかない。


「要注意の魔物は?」

「赤ワニですかね? それと戦う場合水辺ですから、滑りやすいらしいです。転んだところを、噛みつかれて大怪我を負ったという話はよく聞きます」


 赤ワニとの戦い方は、肉の塊を用意して、それを餌に水辺から離すというのが一般的だ。

 餌用の肉は湖周辺の魔物を倒せば簡単に用意できる。


「ほうほう。無理して狙うと痛い目を見るのか」

「そうですね。防具としていい材料になるから欲張る人いますが、そういった人は痛い目を見ることがあるとか。余裕を見て戦うのがいいでしょうね」

「狙うとしたら馬かダチョウだな」


 礫砂漠産の防具を買ったので、赤ワニを狙って防具を作る必要はない。無理もする気はないので、湖に行ったら戦うのはその二種類だろう。


「俺から聞きたいことはもうないよ」

「ではこれで終わります……あ、そうそう」


 メモ帳を閉じようとしてクーランは聞こうと思っていたことを思い出した。


「冬にある戦争祭には参加するんです?」

「戦争祭? ちょっと聞いたことないんですが」


 エラメーラやミレアから聞いた話では、その名前は出てこなかった気がして首を傾げる。


「ご存じでない? わりと有名な祭りだと思うんですが」


 クーランは説明していく。

 

 戦争祭はオードレイ大陸を両断する山脈で行われる祭りだ。

 山脈の北部と南部の二ヶ所に大きな道があり、商人たちは昔からそこを通って東西を行き来している。

 そんな商人や護衛するハンター目当てに宿ができて、人が集まり、商売も展開していき、二つの町が生まれるのに時間はかからなかった。

 交易の要所となっていて、得られる利益も大きい。そこを領地にしようと山脈に隣接する国々が争っていたこともある。

 長い戦いに果て、争いに疲れた者たちが停戦協定を結び、そこで血が流れることはなくなった。

 けれども人々は利益を諦めたわけではない。血の流れる争いに嫌気がさしだだけで、金儲けはまた別問題だった。

 そこで人々は血の流れない争いを考え、戦争祭りが生まれた。

 地球でいうところのオリンピックに近い。三年に一度いくつかの競技を行い、順位に従って点数を獲得し、一番獲得点数が多い国が南北の町の一時的な領主になるのだ。

 領主になるため、各国は兵や有名なハンターを集めて競技に参加させる。

 参加自体は誰でもできるので、名を上げるため賞金のため個人として参加するハンターもいる。

 さすがに大会当日に飛び入り参加はできないため、各地にある肉買い取り所で選定試験を受け、最低限の基準を超える必要がある。


「とまあこんな感じです。競技はチームバトル大会、近距離武器大会、中距離武器大会、遠距離武器大会、長距離競争、ダンスコンテスト、乗馬大会の七種類です。これを南北それぞれの町で行います。その十四競技で得た点数が一番多い国が町の領主になります」


 クーランの説明に平太は興味深そうに頷く。


「へー、参加予定はないけど一度くらいは見てみたいね」

「ロナさんも誘って行ってみますか? バスを使って二日くらいで行けますよ」


 静かにインタビューを聞いていたミレアがそう言う。


「行けるなら行ってみたいけど、仕事は大丈夫? 俺みたいに休みたいときに休めるわけじゃないでしょ?」

「私は七日くらいの休みならどうにかなりますよ。かわりの使用人を手配すればいいだけですし。ロナさんも事前に言っておけば大丈夫じゃないでしょうか」

「じゃあその方向で考えようか。大会の間は人が多いだろうし、宿を取れるかな?」

「私が手配しますよ」


 ミレアのツテを使って今から動けば大丈夫ということなので、平太は頼む。


「一度取材で行ったことありますが、高い実力者たちが競う様は迫力があります。楽しめると思います」

 これで話を終わりとしたクーランは出来上がった雑誌は郵送しますと言って去っていく。

「どんな記事ができあがるのかな」

「楽しみですね。あなたのすごさが知れ渡るきっかけになるかもしれません」

「再現のことを秘密にしないといけないから、俺のことが知れ渡るとそれはそれで対応が面倒そうじゃない?」


 平太がそう言うとミレアは残念そうな表情になる。

 そこまで残念がらなくてもと平太は思うが、ミレアにはミレアの考えがあって残念そうにしているのだ。

 このような考えにはきちんと理由がある。けれど今の平太には説明しても意味がない。

 ロナが平太に持っている一番強い感情は恩義。パーシェが平太に持っている感情は好意。ではミレアが平太に対して持っている感情で一番強いものはというと、憧れになる。

 その『憧れ』が平太とミレアを繋ぐ線に関係していた。

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