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13 説明と成長と角族

今日は短めです

 目を覚ました平太はミレアとロナにやや過保護気味に心配されつつ、朝食を終えて神殿へと出かける準備を整える。


「本当についていかなくていい?」

「何度も言ったけど大丈夫。体のどこもおかしくはないし、町中は安全らしいよ」


 心配そうなロナに平太は笑って答える。強がりなどではなく、本当に大丈夫なのだ。町の外はまた角族がいたらと怖がる気持ちがあるが、エラメーラやロナといった頼りになる存在がいる町中ならば平気だった。


「俺にかまってると仕事に遅刻するよ。働き始めて二日目で遅刻ってのはいい印象を与えないでしょ、途中まで一緒に行こう」

「わかった」


 自室から出て先にリビングに行くと同じく心配そうなミレアがいた。


「そんな顔しなくても大丈夫だって」

「ええ、ヘイタさんを信じてはいますけど。昨日のような突発的なことが起こると思うとやはり落ち着かなくて」


 突発的なことでなければどうにかなるという信頼のある言い方だが、平太はそれに気づかず、もう一度大丈夫だと言う。

 家を出た平太は心配そうなロナとわかれて神殿に入る。


「おはようございます」


 言いながら部屋に入った平太に、エラメーラとリンガイも挨拶を返す。


「様子を見てたから知ってるけど元気そうでなにより」


 労りの感情が伝わる柔らかな笑みを向けたエラメーラ。


「オーソンさんに治してもらったようで、体のどこも異常ありません」

「それはよかった、のだけどちょっと体のことで聞きたいことが。オーソンが言っていたわ、ひどい筋肉痛だったと。短時間ではそこまでの筋肉痛にはならないはず。原因はなんらかの再現を使ったからだと私は見てるの。あのときどんな再現を行ったのか聞かせてくれる?」

「知ってる人で一番強いリンガイさんの技術を再現しました」

「俺の?」

「許可なく再現しては駄目でした?」


 平太の問いかけに複雑な表情で首を横に振る。


「駄目ってことはない。再現していないと死んでいたかもしれないのだろう? ただなんというか複雑な思いが、な。時間をかけて築き上げてきたものをそうあっさりと使われるのはなんだかな」

「そういう能力なのだからとやかくいえないわね。能力を使うなとは言えないし」

「わかっています」


 怒っているわけではないのだ。少々もやっとしたものが心に湧いただけだ。


「悪用しないようにな」


 自身の力が役立つのならば我慢もできるが、悪用されるのは避けたい。悪用するために鍛えたわけではないのだ。

 リンガイの念押しに平太は頷いた。


「予測だけど、どうして筋肉痛とかが起きたか話しましょう。ヘイタは技術を再現したと言ったわ。なにかするには技術だけでは駄目。当たり前だけど肉体も必要。でも角族と戦ったとき、肉体はヘイタのままだった。この技術と肉体との差で酷使された状態になったのでしょう」


 技術はリンガイの動きを行おうとした。でもヘイタの肉体では技術を再現するには成長と鍛練不足だったのだ。筋肉量と最適に技術を行使するための筋肉の付き方と柔軟性が不足してたと言い換えてもいい。そんな状態でリンガイの戦いを再現しようとすれば、無理を通すことになるのは当たり前で、その結果オーソンが異常だと判断することになった。


「誰かの動きを完璧に再現したいなら、技術や経験だけではなく体の方も再現する必要があるのじゃないかしらね」


 料理やものづくりといったものならば、まだ問題はないだろう。戦いといった体を動かすときの再現には注意が必要だ。

 エラメーラは推測と言ったが納得のいく話で、平太とリンガイはそれで合っているのだろうと確信する。実際それで合っていた。長く生きて育んだ経験と知識はさすがといえるだろう。


「次からはそうやるようにします。戦って生き残ったことで成長しましたから二回使えるようになりました」


 こちらに来て一番危険な戦いを生き残ったのだから成長の一つもしないのは嘘だろう。今回の成長で、能力値だけで見れば一人でもローガ川で戦えるようになった。だが複数との戦いはまだまだなので苦戦確定だ。


「だから重ねて使って……」


 言いかけて止まった平太に皆が不思議そうな顔を向けた。


「重ねて使えないようです」


 能力を得たとき一緒に得た再現の知識がそうなっていた。


「重ねて使えないということは、いまさっき言ったように肉体の再現と技術の再現の同時使用が不可能とみていいの?」

「どうやらそうみたいです」

「……ああ、そうか。能力が進化していたということね」


 一人納得したようなエラメーラに、答えを求める視線が向けられた。


「昔いた再現使いは、同時使用ができていたの。だからヘイタも使えるものだと思ったのだけど、できないということは進化していないからなのねって考えたわけ」

「進化っていつするんですか? もちろん今の俺には到底無理だとはわかってます」

「人それぞれだから明確になにをすればという話ではないよ」


 エラメーラの言葉にリンガイは頷く。リンガイもオーソンもカテラも能力を進化させているが、特定のなにかをやって進化したのではなく、ある日突然進化したのだ。アドバイスといえば、何度も能力を使うこと。そんな当たり前のことしかいえない。

 しかしそれ以外の答えをエラメーラは持っている。


「修行場に行けば進化できる」


 この話はリンガイたちも聞いたことはなかったようで、驚きの表情を浮かべている。


「そういった場所があったのですか。私も行けるのでしょうか?」


 リンガイの期待の言葉を、エラメーラは首を横に振って否定した。

 この否定は修行場がどこにあるか知らないというものではない。許可を出す気がないのだ。


「その修行場で出される試練は、生か死かなんていう厳しいものと聞いているわ。そのような場所に送り出す気はない。ほかの神も同じ考えのようよ。勇者召喚をする前は魔王に対抗するため使われていたそうだけど、今はほとんど使われていないと聞いている」

「ほとんど、ですか?」

「熱意に押されて使用を許可する神がいるの。その熱意は大抵角族への復讐心よ。復讐にかられた者は神であろうと止められるものではない」


 ついでに進化させた能力を角族のみに使い、悪用しないと確信できるため許可を出すのだ。


「話を次に進めましょう。角族がどうして現れたか知っていたら教えてほしい。なにか話してたでしょ?」

「ええと、この前のレッドバッファローの騒動も関連してきます。エラメーラ様の力を削るためにレッドバッファローに興奮する薬を与えて、追い立てたとか。そのとき俺が使った能力を再現と見抜いて殺しにきたんだとか」

「なるほどね。そう繋がるのか」


 納得したとエラメーラは数度頷く。


「エラメーラ様の力を削る理由ってなにかあるんです? ただ単に目障りだったからでしょうか?」

「私は魔王を封じているの。勇者が倒しきれなかった魔王でね。弱らせたところをえいっと力の半分を使い封印したのよ。だから本来大人の姿なのに、少女の姿になってるのよ」

「そうだったのですか!」


 再び驚いたように言うのはリンガイだ。魔王を封印しているのは知っていたが、力の半分も使っていることまでは知らなかったのだ。今日は驚くことばかりだ。


「どういった魔王なんですか?」

「人間が魔王化したの。能力は死人語りだったんだけど、魔王になったせいで変化して死体を動かすものになっていたわ。勇者が旅している間に関わり死んだ人も操っていてね、そのせいで勇者は魔王を倒せなかった」


 魔王が死ぬとその人物も動かなくなる。仮初の命とはいえ、せっかく生き返ったように見えるその人を勇者は殺すようなことはできなかったのだ。魔王との戦いは有利に進めてとどめというところで、そこを魔王から指摘され最後の一振りができなかった。このままでは魔王に逃げられるかもと考えた昔のエラメーラは、悪いとは思いつつも魔王を封じた。結果、動いていた死体は再び動かなくなった。


「死者が動くことはおかしいと勇者も心のどこかで認めていたようでね、封印したことを責めることはなかったわ」

「その魔王ってエラメーラ様が死ぬか封印する力がなくれば復活するんですか?」

「そうよ。弱体化はしているでしょうけどね。だから角族はこの町へ魔物を向けたのでしょう。私が力を使って守ると考えたから。最近は角族に狙われることがなかったから油断していたわ」


 封印したばかりの頃は魔王復活を目論む角族が頻繁に現れていた。だがそれを予想していた大神が撃退していたのだ。何度か攻めては撃退されるということが繰り返され、やがて角族は復活を諦めた。これは七十年前の話になる。


「そういったことだから、私の事情に巻き込んで角族と戦うことになったということね、ごめんなさい」


 頭を下げたエラメーラに平太は顔を上げるように言う。


「わざと襲わせたわけではないでしょう? 謝る必要はないと思います。たしかに怖かったですけど、助けを寄越してくれたのもエラメーラ様ですし」

「見殺しになんてできないからね。偶然見ててよかったわ。数日はあなたの様子を見ないで、レッドバッファローの異変調査に意識を向けようとも思ってた」


 そうならなくて本当によかったと平太は安堵する。下手すると援軍のあてが外れて死んでいたのだ。気づかない間に賭けにでていたとわかり、今更ながら肝を冷やす。


「見ていてくれてありとうございます! あれですよ! アイラブユーウォーアイニーイッヒリーベディッヒですよ!」


 感謝のあまり知っているかぎりの言語で告白している。地球の言葉などわからないため、エラメーラは首を傾げているが。

 思わず口走っただけで、本気にとられても平太としても困っていた。


「よくわからないけど、感謝を伝えているのよね?」

「それはもうっ。できるならハグして頬にキスを何度もして感謝を態度で示したいですよ! やったらリンガイさんに殴られそうなのでやりませんけど」


 リンガイも殴るまではしないが、強引に止めていただろう。


「感謝はしなくていいのだけど、このままだと繰り返しになりそうだし受け取っておくわね。話はかわって、今後についてなのだけど。ヘイタはしばらく町から出ない方がいいわ」

「どうしてでしょうか? いやまあ外に出る勇気はないけど」

「逃げた角族はしばらく怪我治療に専念すると思うけど、情報を仲間に知らせたら、ヘイタを襲うためにまた角族がくるかもしれない。安全のために町で過ごしてほしい。帰るまでずっと町なかで暮らせとはいわないわ。一ヶ月から二ヶ月もすれば襲うことは諦めて、ほかにやることを行うはず」


 角族の目的は生物殺害に世界の破壊だ。いつまでも進展しないことにこだわり、破壊活動をほったらかしにはしない。しばらく時間をおいて様子を見るといった知恵はある。


「それくらいなら問題ないです。むしろ好都合」


 町の外に出るのが怖いのだ。一ヶ月もすれば怖さも落ち着くはずと思い、エラメーラの提案は渡り船だった。

 ほっとした表情を見て、エラメーラはほんの少し表情を悲しげなものに変えた。平太の内心を推測できたのだ。見た目平気そうなので今は様子見することにして、今後問題があるようならば解決に尽力しようと決める。

 心の中で頷いたエラメーラは表情をすぐに微笑みに変えた。


「これで話は終わりよ。情報ありがとう」

「これくらいたいしたことはないです」

「一ヶ月ほどどう過ごすつもり?」

「鍛練と町中でできる仕事をやって過ごすと思います」

「一つ頼んでいいか?」


 リンガイが平太に話しかける。なんでしょうと聞き、先を促す。


「たまにでいいから鍛練相手になってくれ。再現できるということは実力の近い相手がいるということだ。中々鍛練相手が見つからなくてな。報酬は払う」

「いいですよ。俺にとっても見とり稽古状態でいい鍛練になりそうですし。お金ももらえるなら願ってもないことです。この後予定決まってないので早速やりますか?」


 少し考えて、急ぎの用事がないことを確認したリンガイは頷く。


「だったら練兵場じゃなくて、そこの庭を使いなさい。ほかの兵に実力を勘違いされるとなにか荒事があって巻き込まれたとき、その勘違いされた実力をもとにした働きを要求されることになりかねないわ」

「ありがとうございます」


 木剣をとってくるとリンガイは部屋を出て行き、平太は体を解していく。

 その平太を見て、力をつけることはいいことだとエラメーラは思う。角族に目をつけられなければ、力など必要はなかった。だが自身の頼みが原因で見つかってしまった。無事に地球へと帰りたいなら、力はあって無駄ではないのだ。

 エラメーラは祈る。できることなら何事もなく平太が故郷に帰られることを。

 その願いはある意味叶い、ある意味外れることになる。しばらくは平穏で過ごせるため、そのような未来は誰も予測していなかった。


 ◆


 逃げた角族はエラメルトから西に二時間ほど走り続けて、森に入り岩に腰かける。

 斬られた腕を切断面にくっつけて一分間そのままにする。手を放すと、斬られた腕は地面に落ちずだらりと垂れさがる。


「動くまでここらで休むか」


 忌々しそうに腕や体の傷を見て、体力回復に努める。

 角族から放たれる不機嫌な気配に、獣や魔物は近づくことを恐れ、辺りは静かだった。

 そこに木の葉を踏む、一人分の足音が聞こえてきた。

 角族は閉じていた目を開けて、そちらを見る。

 近づいてくるのは、自身と同じ角族だった。額に二本の角を持ち、角の長さは六センチほど。ややおとなしめの赤と黒の甘ロリドレスを着た、十二才ほどに見える少女だ。力の強さでいえば、あちらの方が少し上というところだろう。万全でない今は確実に男の方が下だ。


「なんのようだ」


 見覚えのない同族に用件を問う。


「人間にいいようにやられたあんたを笑いに来たのさー」

「あん?」


 睨みつけた男を見て、少女は持っていた金属製の扇で口元を隠しプフフーと笑い声を出す。


「怒ってる怒ってるー。まあ、ほんとはそんなことしに来たんじゃないのさ。あの町に手出しするのは控えてもらうよ」

「なんでだ。同族だからといって邪魔されるいわれはないぜ!」

「あの町は私の主が目をつけているのさ。私はあの町の監視。あの方が動くのに不都合が起きるのは面倒。だから手は出すな」


 男は鼻で笑う。


「誰が狙っていようが関係ねえなっ。俺は俺のやりたいように動く」

「どうしてもこっちの言うことが聞けないと?」

「聞けねえな」


 だったら仕方ないと少女は扇を閉じて、一足で男に近づく。反応が遅れた男はしまったと顔を歪めた。


「ある程度痛めつけて、動けないようにすればいいだけのこと」


 そう言い、振られた扇に横っ面を叩かれ、男は地面に転がる。

 急ぎ起き上ったときには少女が再度扇を振るっていた。

 男は再び地面に叩き付けられ、少女は蹴りを何度もたたき込む。少女の表情には男を馬鹿にする笑みが浮かんでいる。


「よっわーい! あははははっこの程度の力で自分のやりたいようにやるなんて言ったの?」

「くそがっ」


 倒れながら男は無事な方の腕を振る。それを少女は蹴りで弾いて、さらに蹴り続ける。


「これくらい痛めつければ十分かしら。じゃあ最後の一撃っと」


 思いっきり足を振り上げて、男の腹を蹴る。翻ったスカートを手で押さえる。

 そこらの人間ならば胴体が真っ二つにちぎれそうな一撃を受けて男は十メートルほど吹っ飛び地面を転がった。

 動かない男を見て少女は満足そうな笑みを浮かべる。


「じゃあねー、今後は私たちの邪魔しないでね?」


 にっこりと笑みを浮かべ、そう言うと少女は歩いて去っていく。


「ちくしょうっ」


 木々の向こうに見える空を見ながら男は狂おしいほどに悔しい思いを抱く。


「かならずこの借りは返すっ。必ずだ!」


 男の頭の中からは再現使いや魔王のことは消え去り、少女やその主に拳を叩き付けることだけで占められていた。

 やり返すためには、今のままではどうにもならない。力が欲しかった。何者にも負けない力が。

 角族の能力は生まれたときに決まる。人間のように成長していかないのだ。

 どうすれば力を得ることができるのか、男は失った力を回復させながら考えていく。

 目を閉じ、じっと動かず考える様は深い眠りについているようにも見えた。

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