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12 角族現る

 翌日の朝、平太が起きるとミレアが台所にいた。いつもと変わらぬ様子で朝食の準備をしていた。その姿を見て平太はほっと安堵の溜息を吐く。


「おはよう。無事に帰ってきてたんだね。東の方で魔物が暴れて心配してたんだ」

「ご心配おかけしました。帰る方法がなくて遅れましたが、巻き込まれるようなことはなかったですよ」

「おはよう」


 ロナもやってきて声をかける。ロナは昨晩遅くミレアが帰ってきたことに気配で気づいていた。


「今日はなにか予定あるのですか?」


 準備の手を止めてミレアが聞く。


「ないよ。なにかミレアさんから頼みでもある?」

「いえ、昨日帰ってきたばかりで戦いに行ったはずなので疲れているのではと思い、休憩を勧めようと思いまして」

「もとから休憩の予定だよ」

「そうでしたか、言わなくてよかったですね」

「あ、そうだ。昼はパエットさんの食堂に行かない? ロナがウェイトレスできるか聞きたいんだよ」

「かまいませんが、ウェイトレスですか?」


 昨日の戦いで狩りができないほどの怪我でも負ったのかとロナを見る。ミレアの目から見て、特にどこかおかしなところはない。


「戦い以外の仕事をしたいってさ。それでウェイトレスとか薬師の手伝いはどうかってことを話した」


 なるほどと頷いて、並べ終えた朝食を勧める。

 ミレアに起こされたバイルドも一緒の朝食を終えて、ミレアは家事を、バイルドは研究をといつもと変わらぬ作業を始める。平太は素振りをして、アドバイスにロナが近くにいる。


「この町で一番強い人って誰だろう? 氷冷戦団が一番稼いでるって話は聞いたけど」


 休憩時に雑談がてら平太は聞く。


「この町のハンターや兵を全員知ってるわけじゃないから、誰が一番とかはいえない」

「じゃあ、ロナよりも強い人はいる?」


 自分よりも遥かに強いロナがどれくらいの強さなのか疑問を抱いたのだ。


「カテラとその上司リンガイは真正面から戦った場合、私よりも強い」


 ロナの基本戦術は能力を使用しての奇襲だ。普通の戦闘もできなくはないが、その二人には勝てそうにない。

 条件を変えて、人ごみの中で襲ったり、暗闇の中での戦闘ならば勝機は十分にある。

 これらからロナの強さはこの町では上位に位置すると言ってもいいだろう。一対一で、という条件がつくが。


「へー、あの二人が。リンガイさんは隊長ってことだから納得できるけど、カテラさんもそこまでの腕あったんだ」

「気質が向いてるし、小さい頃から鍛練しているようだから」


 戦闘狂で周囲のことを忘れやすいのが欠点だが、そこはオーソンがフォローしている。オーソンがいない場合はリンガイが抑えるか好きにやらせる。

 カテラがエラメルトに来てそんなに時間はたっていないが、戦闘狂の気があるのは見抜かれているのだ。連携は難しいだろうと、あえて押さえず好きにやらせる方法をとった。といっても、いつまでもそのままで行く気はリンガイにはなく、少しずつ連携に組み込むように指導していくつもりだ。一人で戦うよりは仲間と共に戦う方がいいのだから。


「行きましょうか」


 家事を終えたミレアが庭でのんびりとしていた二人を誘う。一緒に行かないバイルドにはパンを買ってくると言ってあった。

 昼には少し早いため食堂に人は少なく、席には空きがある。

 いらっしゃいませと言い、近寄ってきたパエッタに案内され椅子に座る。


「注文の前にいいですか」

「はいな」


 平太の言葉にパエッタは頷いた。


「ここってウェイトレスを募集してませんか? こっちのロナという子が働き口を探してまして」


 ぺこりと頭を下げるロナを見て、少し考え込んだパエッタはすぐに口を開く。


「昼時とか忙しい時間は人手がほしいと思うことはあるのよ」

「採用ですか?」


 聞いた平太に首を横に振る。


「気が早いわ。向き不向きがあるから、それを試してみましょう。とりあえず一緒に注文を取ってみましょうか」


 立ってとロナを誘い、平太とミレアの注文を取る。


「まずは笑顔でいらっしゃいませ。さあ後に続いて」

「いらっしゃいませ」


 明るい笑みを浮かべたパエッタと比べてロナの表情は硬い。もともと表情が豊かではないのだ、いきなり笑顔となれと言われても難しかった。


「ふむ。次は注文を取りましょう。毎日違ったメニューになるからそれを伝えるのね。ちなみに今日はレッドバッファロー討伐のおかげで牛づくし。バーベキューに牛丼にカルビ丼にローストビーフのサンドイッチ。夕方にきていればビーフシチューもあったね」

「どれにしますか?」


 平太はカルビ丼、ミレアはサンドイッチ、ロナはバーベキュー定食を頼む。


「注文を聞いたら厨房にそれを伝える。厨房の入口に黒板があるから、口頭のほかにそこにも書いておくの。一緒に注文のあったテーブル番号も書いておくのよ。出来上がったら消す」


 やってみましょうとロナと一緒に厨房に行く。客と一緒にきたパエッタに料理人は首を傾げる。簡単な研修中だと説明し、作業をこなしていく。

 料理を運んだり、皿を下げたりといった体を使う作業はさすがにミスなど起こすことなく完璧にこなす。

 平太たちの料理が完成し、それを運んで簡易研修のほとんどを終える。


「さて最後に聞くことがあるわ」


 ロナはこくりと頷きを返す。


「客商売だからいろいろな客がくるの。その中に性質の悪い客もいてね、難癖つけてきたりセクハラしてきたり正直ムカついて仕方ない客ね。そんな客に対してどんな対応を取るか? それを聞きたい」

「難癖をつけてきた場合は料理人やほかの店員を呼ぶ」

「ふむふむ。セクハラに対しては?」

「取り押さえる」

「なるほどー」


 そう言うとパエットは研修結果とその返答を踏まえて店長に推薦するか決めた。


「残念ながらうちでは雇えないわね。ごめんなさい」

「そう」


 ロナは言葉少なにしゅんっと落ち込んだ様子を見せる。犬耳や尻尾がペタンと垂れた幻影が見えた気がして、思わずパエッタは頭をなでようと腕を少しだけ動かし止めた。


「理由は教えてもらえるの?」


 今後に生かせないかとミレアからフォローが入る。


「まず笑顔が減点だったわ。愛想のない人がいるのは知ってるし否定する気はないけど、こういった商売上作り笑いでも笑顔になれないとね。次に料理を運んだりはなにも問題はない。こぼれやすそうなスープ系でもスムーズに運べそうだった」


 そのバランス感覚は羨ましいくらいだった。


「注文の暗記も問題なさそうだったわ。最後に性質の悪い客への対応だけど、助けを呼ぶのは問題ない。でも取り押さえるのはちょっとね。暴力を振るう店っていう印象がつくのはまずいから。少し触られても無反応を貫くか、避けるっていうのが模範解答かな。ああいった客は反応を楽しんでいる節があるからね」

「ありがとう」


 きちんとした理由にロナは納得し礼を言う。


「料理人の方だったら問題なさそうだけど、料理はできる?」

「料理は得意ではないから」

「あら、そうなの。希望にそえなくてごめなさいね」


 パエットが謝ることではないため、ロナは首を横に振った。


「ちなみにドレンさんたち薬師の方はどうだか知ってます?」


 平太の問いかけにそれならとしっかりとした笑みとなる。


「そっちは常時募集しているらしいわ。ドレンがたまに人手がほしいってぼやいているもの。あとでくるだろうし話を聞けるんじゃない?」

「よかったね、ロナ。確定じゃないけど、期待していいんじゃないか」


 ロナは嬉しそうに頷く。

 話を終えて冷めないうちに料理を食べ始める。昨日の宴会は簡単に焼き肉で、あれはあれで美味かったが、今日の手の込んだ料理は焼肉を上回るほどに美味しかった。

 頼んだ料理に満足した昼食が終わった頃に、ドレンがやってくる。


「俺に用事があるんだって?」


 パエッタに隣の席へと案内されたドレンが三人に聞いてくる。頷いたロナが働きたいことを伝える。


「来るってのは助かる。だけどその前にどんなことができるのか聞きたい。あとただ働きたいだけなのか、今後薬師として成長したいのかもだ」

「とりあえず今は働けたらいい」

「そうか。じゃあその方向で話すとしよう」


 ロナは解毒剤と毒薬が作れることを話す。毒といっても主に狩りに使えるような麻痺毒などを話し、強力でばれにくい人殺しの毒のことは黙っておいた。


「病気関連の薬は作れないのか。少し偏ってはいるが、未経験者じゃないのはありがたいな。能力で匂いを消せるのも助かる。うちの者には話を通しておこう」


 ドレンは一人で店を構えているのではなく、数人の仲間と組んで一軒の店を開いている。ほかの仲間も薬師というわけではなく、ほかの生産技術を持っており、それぞれが仕事を受けたり、ときに互いの技術を掛け合わせて利益をだしていた。

 調味料も主に作っているのはドレンだが、考えがつまればアドバイスを仲間に求めているし、逆に仲間からアドバイスを求められることもある。


「明日からでも大丈夫か?」

「うん」


 職が決まって表情を少し嬉しそうに変化させてロナは頷く。明日の朝にこの店の前で待ち合わせることにして、ドレンは頼んでおいた料理を食べ始めた。

 翌日、ロナはドレンに会いに行き、平太は狩りを再開しようと町の外に出る。


「ラフドッグとの複数戦だったっけ。頑張るかな」


 昨日も成長でき、装備も少しグレードアップしている。以前は苦戦したがなんとかなるだろうとエラメルト北部に向かう。

 目を凝らして探し大きな群れには近づかず、できるだけ二匹から三匹でいるラフドッグを探す。

 三匹でいたラフドッグを見つけ近づこうとしたとき、急になにかに気づいた様子を見せたラフドッグが慌てて西へと走り去った。


「なんでだ? 風上に立たないようにしたし」


 首を傾げる平太は東になにか違和感を感じる。形容しがたいおかしな気配というのだろうか、気配など感じ取れないはずの平太にもわかるなにかに、なんだろうかと顔を向ける。

 百メートル離れたところに人間のようなものがいて、こちらへと走って近づいていた。


「な、なんだあれ?」


 人の形をしているが平太はあれが人間だとは思えなかった。嫌でも目がひきつけられ、それが近づくのを待つことになる。


「一人で町から出るのを待っていたぞ!」


 間近にまで迫ったそれは、とてつもないプレッシャーを叩き付け、平太を指差す。

 震え座り込みそうなるのを耐えて、待っていたということに疑問を抱きつつ、目の前の存在を観察する。

 ある一部分を除けば人間の男と変わりない。鋼色をした髪に鍛えられた体躯。着ているものはマントに丈夫そうだが古い衣服。そして一番目立つのは額に生えた十センチの黒い角。


「……角族」


 平太が絞り出した言葉に、角族の男はニヤリと笑む。


「見ればわかるだろう? それにしてもエラメーラの力を削ごうとしたら、とんでもないものが出てきたものだな。再現使いなど伝説上の存在だろうに」

「どういうこと?」


 必要な言葉を削ぎ落した平太の疑問に、角族は顔を顰めた。


「エラメーラと再現使い前後どちらに対しての疑問だ? それとも両方なのか」

「聞けるなら両方とも」


 警戒しつつ聞いてみる。対面してわかったが、実力が違いすぎる。今自分にできることは時間稼ぎのみだとわかっていた。おそらくこちらを力の欠片を通して見ているだろうエラメーラが助けを寄越すだろうと考えての時間稼ぎだ。

 それを見抜いてなお余裕を持っているのか、平太などすぐに殺せると考えているであろう角族は答える。


「難しいことじゃないな。エラメーラの力を削ごうとして、レッドバッファローに興奮剤をばらまき追い立てたとき、お前が壁を再現するところを見た。それだけだ」

「土の能力使いとは思わなかったのか?」

「はっ! 人間は騙せても角族は騙せないぜ。力の流れが違う」


 土使いはその名の通り土を操る。魔導核を通して変化させた力を土に流し、盛り上がるように下から上へと力が動く。平太の再現は力を土に流さず、そこら一帯に力が散布されたのだ。感覚の優れたものならばその違いを感じ取れる。なので角族だから騙せないというのはある意味間違っていた。


「伝説通りならある意味神よりも厄介だからな。さっさとくたばってもらう」


 殺すという意思を叩きつけられ、平太は喉の奥で小さく悲鳴を漏らし腰砕けになりかけながら急いで対策を練る。

 その弱気な様子にたいしたことないなと再確認した男は余裕の表情を浮かべた。

 平太の脳内で素早く考えが巡らされ、生き延びるために再現を使う。再現したのはここらで有数の実力者というリンガイの動きだ。カテラも強いと聞いたが、使う武器が違うので再現対象には選ばなかった。リンガイの動きは、神殿で戦い方を習ったときにたまに見かけていたので問題なく再現できる。

 その感覚に従って動き、ギリギリのところで迫る拳を避けた。通り過ぎた拳が起こした風が顔を撫で、肝を冷やす。


「ほうっなんらかの再現を行ったと思ったが、身体強化系の再現か?」

「さて、どうかな!」


 虚勢をはって言い返す。こうやって強がらないとすぐにくじけそうなのだ。ここで心折れてしまうと助けが来るまでに死んでしまうと本能でわかっていた。町が近く、助けが来ると信じていないと虚勢もはれなかっただろう。

 次々と放たれる拳や蹴りをなんとか避けていく。


「避けてばかりでどうする気だ? 助けなんてこないぞっ」


 平太の心に希望が湧く。エラメーラが平太を見ていることに気づいていないとわかったのだ。自分の選択は間違っていないと時間稼ぎに徹することにした。

 一分が過ぎ、五分が過ぎ、十分が経過する。体感時間では一時間にも思えた。


「無駄に頑張るな! だが動きにきれがなくなってきてるぞ?」

「はっ言ってろ! 今だに一発も当てられないなんて角族もたいしたことないな!」


 息は絶え絶えになりつつも返す。それに角族は目に真剣な色を浮かべた。


「甘くみられるのはむかつくな? じゃあ遊びは終わりだ、本気で行くぞ?」


 遊んでいたというのは本当なのだろう。先ほどまではわかった体の端々の動きが捉えられず、再現したリンガイの感覚が発した警告に従い下がった途端、胸を強打され吹っ飛ばされた。

 威力を幾分か殺してもなお骨を軋ませるダメージに、平太の心は折れそうになる。断続的に続く痛みが諦めろと訴えているようで、その誘惑に身を任せたかった。だが死が身近に感じられて怖くなり、死にたくないと必死になる。


「本気でも避けかけるか」


 感心したような声に気づかず平太は立ち上がろうと地に着く手に力を込める。

 あがく様子を見て、これ以上は立ち上がれそうにないと判断した角族はとどめをさすために近づく。

 足音が近づくことで死も近づいていると思え、平太はさらに体に力を入れる。

 漫画やアニメでは諦めない心が奇跡を呼び悪役を撃退することがあるが、平太に奇跡は起きなかった。しかし奇跡のかわりに待ちわびていたことが起こる。

 平太のそばに立った角族にハルバードが勢いよく飛んでくる。それを下がって避けた角族はハルバードが飛んできた方向を見る。三人の男女がこちらへと走ってきていた。リンガイとオーソンとカテラだ。

 走り寄る勢いのままリンガイは剣を突き出す。ここまで全速力で走ってきているが、とっておきの疲労回復用魔術具を使ったため疲労した様子は見せないで戦い始める。カテラも落ちているハルバードを拾うと攻撃に参加する。

 その様子を見た平太は助かったと気を抜き、気絶した。

 オーソンが治療している間にも戦いは続き、リンガイが角族を引きつけ、能力で武器の重さを増すことができ攻撃力のあるカテラが一撃を狙うという連携で有利に戦いを運んでいる。もちろん角族も平太相手に遊んでいたような余裕はなく本気なので、二人ともダメージは負っているが、強さが違うため一発で沈むようなことはなかった。

 やがてカテラが角族の腕を斬り飛ばしたことで戦況は完全に傾き、リンガイたちの勝ちとなる。


「ちぃっ再現使いを殺せずにひくことになるとはなっ」


 そう言うと角族は斬り落とされた腕を拾い、駆けて去っていく。とても追えるような速度ではなく、戦っていた二人は見送ることしかできなかった。

 しとめられなかったことに悔しそうな表情を浮かべた二人は、周囲にほかの角族が隠れていないか確認し、オーソンに声をかける。


「あいたた、オーソン治療お願い。さすがに強かったですわ」


 カテラは殴られた場所をさすりながらも、思いっきり戦えて満足といった表情だ。

 オーソンは平太の様子見を一時止めて、戦った二人に近づく。


「わかったよ。それにしても中位角族に二人で挑むとか無茶したね」


 角族のランクは角の大きさや数で決まる。今戦った角族は中の下といったところだろう。


「エラメーラ様のお話ではかろうじて中位という話だったからな、いけると思ったのだ。下位ならともかく中位と戦える者が俺とカテラ以外にいないということもあったが。実際戦ってみてわかったが、今町にいる兵でまともに戦える奴はいないぞ」

「それに粘ることができたヘイタ君はすごいね」


 ハンターになったばかりで駆け出しだと話に聞いており、戦いの才があるのだろうかとオーソンは感心の視線を向ける。

 カテラから言わせてもらえば、体の動かし方や歩き方など熟達者のものではない。粘れたことは不思議でしかないが、それ以上に角族の言葉が気になる。


「あれが気になることを言ってましたが」

「今は忘れろ。エラメーラ様が教えてくださる」

「……わかりましたわ。オーソン、アキヤマの容体は?」

「胸骨にひび、あと筋肉痛なのかなあれは。どちらも治した。ただなんというか僕たちが助けにくるまでの時間で、ここまで体がひどくなることはないと思うんだけど。リンガイさんはなんでかわかります?」

「いや、それは俺もわからない。だが治ったのだろう?」

「はい。治療を受け付けないような症状ではありませんでしたから」


 無事ということに頷き町へと帰る。平太はオーソンが背負って運んだ。バイルドの家について扉をノックする。


「はーい、どちらさまでってヘイタさんどうしたのですか!?」


 背負われている平太にすぐにミレアは気づき、悲鳴じみた声を上げた。


「角族と一人で戦っていたのだよ。なんとか助けることができた」

「どうしてそんなことに?」


 ミレアも平太の実力では下位の角族にも敵わないと理解しており、よく生きていたとその場に座り込みそうになる。


「理由はわからない。アキヤマに聞くしかないだろう」


 ヘイタを部屋まで運ぶとあとはミレアに任せて、三人は去っていく。神殿で報告とともに平太が再現使いだと教えられ、口止めもされる。驚いたオーソンたちだが、人に迷惑をかけるのが好きなわけでもないため口止めに素直に頷いた。

 それから数時間の時間が流れて平太が目を覚ます。体を起こして周りを見る。


「ここは?」

「あ、起きたのですね? どこか痛い場所はありますか?」


 椅子に座って平太の様子を見ていたミレアは、起きたことがわかるとすぐに近寄る。その表情は緊張で強張っている。


「痛いところ……ないね。俺はなんで寝てるんだろう」


 異常なしという返事に心底安心したようでミレアは力が抜けたように床に座り込む。


「覚えていませんか? 角族と戦ったということですが。その話を聞いたときは心臓が止まるかと」

「あ」


 気絶する前のことがいっきに思い出され、恐怖から顔が青ざめた。


「顔色が優れませんよ? やはりどこか悪くしたんじゃ」

「い、いや、死にかけたことを思い出した」


 小さく体を震わせて答える。ここにいるということで生き残ったと理解できているが、刻まれた恐怖は簡単には忘れることはできない。


「もう大丈夫です。町の中にいれば角族に襲われるような心配はありません。もう少し休んだらどうでしょう? 一眠りすれば落ち着くと思います」


 平太の背中をさすって、少しでも落ち着くようにと優しい声で言う。


「そうする」

「はい、おやすみなさい」


 眠りを邪魔しないためにミレアは部屋を静かに出て行く。一人残された平太も目を閉じて、恐怖から逃避するように眠りについた。

 一時間ほどしてロナが帰ってくる。夕食になっても現れない平太を呼びにいこうとして止められ、角族との戦闘について聞く。怪我はしなかったかなどと顔を青ざめながら心配し、能力を使って静かに見るからと様子見の許可を取る。暗い部屋の中、静かに眠る平太を見てほっとしたロナは、もう少し平太が強くなるまで狩りについていこうかと思いながら部屋を出て行った。

 結局平太は翌朝まで眠り続けた。怪我を癒したとはいっても、体力気力までは癒されていないのだ、長い休息を必要としていた。

誤字指摘ありがとうございます

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