1 一秒先は異世界
「へ?」
突然の風景の変化に平太はその一文字を漏らすので精一杯だった。
数秒前まで平太は家にいた。季節は夏で、夏休みの宿題を終わらせて、喉の渇きを癒すためにリビングでよく冷えた麦茶を飲んだのだ。そしてコップの中の麦茶を全て飲み終わってコップを下げると、リビングから窓のない部屋へと風景が変わっていた。
なぜ? なに? どうして? どこ? と混乱し固まる平太の目の前には狂喜ともいえるほどに騒ぐ背の低い老人がいる。体のどこかが悪いのか、不自然なほどに肌は青い。騒ぎすぎなのか彼の声は上手く聞き取れず、現状理解にはなにも役立たなかった。むしろ耳障りだった。はしゃいでないで説明しろと思ってしまったのは無理もないのだろう。
そんな思いが通じたか、または睨む形になっていた視線に気づいたか、老人は少し落ち着いた様子で平太に近づく。
そして口を開いたのだが、
「rdvvik:po?」
「は?」
「lkbl:hnljgv;o?」
聞き間違いかと尋ね返したが、聞き間違いなどではなかった。老人がなにを言っているのかさっぱりだった。中学高校と習った英語ではないのは理解できた。なんとなく中国韓国辺りの言語でもなさそうだともわかった。
向こうが日本語を理解していることを期待して平太も話しかける。
「ここはどこ? なんで俺はこんなところに?」
「:d;oialkgl!? ermhaja;le……」
老人は驚いた表情を見せてなにか考え込む様子を見せる。それを見て彼も自分の言語がわからないのだろうと、平太は大きく溜息を吐く。
少しでもヒントにならないかと部屋の中を見る。左右の壁に電灯らしきものがある。蛍光灯ではなくランプだが、火ではないらしく蛍光灯と同じ明かりが発せられている。家人の趣味かなと思いつつ、ランプから視線をずらす。壁には壁紙ははられておらず、石が組まれている。その壁に朱の絵具で紋様が描かれていた。床も同じく石製で、平太が立っている場所には魔法陣と思えるものが描かれている。
(魔法陣? まさか……んな馬鹿な)
頭の中に浮かんだ単語を首を振って否定する。漫画などで異世界へと召喚される展開があるが、あれは本の中での出来事で現実にあるとは思えなかった。
(言葉がわからないのだってどこか知らない国だからだろう。ここにいるのは薬でも使われて気を失ったからだ)
頭の中でそれはないだろうと否定する自分がいた。だがそれを受け入れてしまうことはできなかった。
なにか日本やアメリカといった自分の知っている国に繋がる物がないかと、部屋を執拗に見渡していく。平太の表情は不安一色で、その感情がここは異世界だと信じているようにも見えた。
無言で手がかりを探す平太となにかを考える老人、双方ともに静かなため無音の時間が続く。そうして十五分ほどたつと頭上から物音が聞こえてきた。一定のリズムで聞こえてくる音は足音なのではと平太は思う。
それに老人も気づき、思考を一度止めて扉へと目を向けた。
平太もそちらを見て、すぐに扉が開く。
入ってきたのは二人。一人はフード付き白ローブを着こんだ小柄な人物。全身を覆い隠しているため、性別もわからない。見えるのは口元くらいだ。身長は百五十に届いていないため子供ではないかと平太は思う。されどこの場にいる者の誰よりも存在感がある。自然と目がいき、視線が離せないなにかがあった。
もう一人は姿を隠していない。三十過ぎに見えるボウズ頭の男だ。白のマントに青の金属鎧を着こんでおり、籠手や脛当ても金属製で重量感を感じさせる。腰には剣を下げていた。
男の表情は平太たちを警戒するように鋭く厳しいものとなっている。手は剣に置かれていて、いつでも抜けるようにしていた。
(鎧もだけど剣!? 銃刀法違反で捕まるぞ!? いや外国なら大丈夫なのかって、それでも警察に止められるだろっ)
日本ではありえない姿の男に、平太の混乱に拍車がかけられる。コスプレかとも思ったが、鎧の質感が偽物とはまるで違う。細かな傷や汚れも見え、日常的に使っているのだと嫌でも理解させられる。
男に注目していると、声が聞こえた。男の口が動いていないことから、発生源はローブの人物からとなる。声音は年若い女のもので、ローブの中身が女だとわかる。
「vyulm::hgjh。bunk;l?」
再度少女の声が聞こえ、そのすぐ後に平太に視線を向けつつ男もなにか言ってくる。
自分に話しかけているのだろうとはわかるが、内容がわからないので答えようがなく黙ったままなのだが、それが気にくわないのか男の表情が険しくなる。
そんな二人に老人がなにかを話すと、男は思案気な表情へとかわる。
『これなら聞こえる?』
「!?」
突然脳内に聞こえてきた声に平太の表情は驚きに染まる。超能力とよべるものなのだろう。平太の十八年の人生で、そんなものに触れたことはなく存在していたことにも驚いた。誰の声なのかはすぐにわかった。先ほどの理解できない少女の声だった。
『その様子なら聞こえてるようね。なにか喋ってみて』
「えっと、ここはどこ?」
聞いたことのない言葉だと鎧の男も首を傾げた。
『……バイルドが言ってたように、知らない言語ね。申し訳ないけど、一方的に声をかけるだけになるわ。明日になればどうにかできるはずだから今日一日は我慢してほしい』
平太の質問には答えずに少女は一方的に話していく。
『詳しいことは話せるようになってからにしましょ。今は簡単に現状を話すことにする。ここはあなたのいた世界ではない』
その言葉を突き付けられ平太は否定していた召喚という答えを認めた。一瞬の移動に、知らない言語に、見なれない衣装、超能力これだけ証拠がそろってしまっては否定することは難しかった。
ショックを受けた表情の平太に、少女は小さく溜息を吐いて話を続ける。
『ここはオードレイ大陸のエラメルトという町。あなたは召喚されたの。そこにいるバイルドという色人の老人にね。言葉がわからないのは正規の召喚手順を踏んでないせいね。以前召喚された人たちは言葉の問題はなかったから』
正規の手順ではないという部分に平太は嫌な予感がする。不完全な召喚だとしたら帰ることができないのではと思えた。
『なにを不安に思っているか、いくつか予想を立てられる。そのいくつかはこちらでどうにかなるし、私たちはあなたの敵ではない。頼ってくれていい。このことが不安を晴らす手助けになるなら幸いよ』
子供をあやすような柔らかい口調に、声音からは想像できない年月の重みが感じられる。
ただの子供ではないのかと思いながら、平太は少し不安が薄れる。しかし知人のいない知らない土地ということで不安が解消されることはない。
少女はその様子を察して無理もないと呟く。無理矢理知らない世界に呼び出されたのだ、これからのことを考えれば誰だって不安になるだろう。
『今日は私の住処にきなさい。言葉の通じないところにいるとさらに不安になるでしょうから』
そう言うと少女は男に平太を連れていくことを話す。
男は見知らぬ人物を連れていくのは承認できないと答えたが、少女のもう決めたことという返答に渋々とながら従う。少女は他にバイルドを連れていきどうして召喚をやろうとしたのか、その手順についてなど聞くように命じる。それについては男はすぐに頷き、部屋外にいた男たちにバイルドの捕縛を命じる。
犯罪人を捕えるような言動にバイルドは抗議の声を上げたが、少女の誘拐犯に対するものとして当然という言葉に反論を封じられる。
召喚とはそれをするだけの理由があって行われるもので、今の世に召喚を行う理由がないのだ。なのでバイルドの行為は誘拐といって間違いないものだった。
『さあ、行きましょう』
バイルドから目を離し、平太へと少女は手を差し出す。その白く小さな手を平太は戸惑いながら握る。
手から伝わる温かさは、不安で縮こまっていた平太の心を解す。その温かさをさらに欲した平太は無意識のうちに握る手に力を籠め、それに応えるように少女も握り返した。
ここは地下室だったようで、一階に上がると鎧姿の男女に混ざって平太よりも二才ほど上、二十くらいに見える私服の女がいた。
突然やってきた男たちに驚いている様子だったが、少女と一緒にでてきた平太を見ると口に手をやりさらに驚いた様子を見せる。驚きを見せる表情の中に感動といった色を見つけた少女は、女も召喚実験のことを知っていて成功したことに感動しているのだなと考えた。女はバイルドに声をかけて何事か聞いている。それを横目に平太は家を出る。
外に出ると夕暮れで、町は赤く染められていた。仕事帰りの者たちの話し声があちこちから聞こえ、活気を感じさせる。
地面はアスファルトではないが凹凸のすくない石畳で、道には街灯らしきものが何本も立っている。道の真ん中を自転車がゆっくりと進み、端を歩行者が進む。そういった歩行者の中には武具を身に着けた者も当然のようにいる。ここが異世界と示すように髪の色が青かったり真っ赤な者もいる。
そういった光景を見ながら、平太は手を引かれて歩く。見たところ文明的には現代日本よりも遅れているといった感じだ。
「異世界に自転車があるとは思わなかったな。便利なものはどこでも作られるものなのかな」
この呟きに少女は反応し、一度顔を平太に向ける。表情を確認し、怖がっているわけではないとわかると視線を元に戻す。
子供に手を引かれる見慣れない服装の青年はそれなりに目立ち、道行く人の注目を集める。好奇の視線に平太はどう反応すればいいか迷いつつ歩いていると、少女から声をかけられる。
『あそこが私の住処』
少女の視線の先にはタージマハルに似た丸い屋根の建物があった。ここらの建物の中で一番大きく、町の重要施設とわかる。
役所かなにかかなと思いつつ平太は手を引かれるままに建物に入る。建物の中にいる者たちは同じ白のコートを着ていて、制服代わりなんだろうなと思えた。
そのまま一行は歩いて奥まった場所にある部屋に入る。部屋に中にはメイドがいて、少女に深々と頭を下げた。
そこまでいくと少女は平太から手を放して、ローブを脱いだ。
現れたのは肩を越す薄い金髪に朱の目を持つ十才ほどの美少女だ。美を求め作られた人形に生気を与えたら、こういった容姿になるのではと思えるほどに整った顔立ちだった。加えて神秘的な雰囲気もあり、見た目とは違った年齢以上の深みも感じた。
ようやく脱げたと小さく溜息を吐き、ローブをテーブルの上に置く。
少女と視線があった平太は顔を赤らめる。ここまでの美少女は初めて見る。そんな存在に見られていると思うと気恥ずかしさがある。そんな平太を微笑ましそうに見て、少女はクスリと笑う。その笑みがまた魅力的だった。
『お茶を準備してもらうから、椅子に座って』
そう言うとメイドに声をかける。頷いたメイドが部屋を出て行き、平太は勧められるままに椅子に座る。その隣に少女が座り、ここまでついてきた鎧を着た男になにごとか話しかけた。男は頷くと、やはり一緒にきていたバイルドに話しかける。
暇な平太は部屋の様相を見ようと視線を巡らせる。一見落ち着いた雰囲気の部屋だが家具などの質は高く、一般人が使うような部屋ではない。
『部屋が珍しい? 一応ここは私の部屋となっているの。私としては部屋など必要ないのだけどね。陽の下で過ごし、素足で土の感触を楽しみ、肌で風を感じ、草原に寝転び香りに包まれて眠る。それだけで十分なの』
言葉には見栄や強がりなどは感じさせず、本心からそう言っていると思えた。付き人がいたり部屋の様子からはお偉いさんかと思えたが、言ってることが野生味を感じさせるもので、平太はいまいち少女の正体が掴みづらかった。
お茶を運んできたメイドからカップを受け取り飲む。お茶の色は緑だが、味は柑橘系のものがうっすらと口の中に広がる。
そんな風に過ごしている間にも男たちとバイルドの話は進み、男たちは頭痛を感じるかのように額に手を当てている。話を聞き終えると、ボウズ頭の男は男たちに命じてバイルドを外に出す。
同情的な目で平太を見ると男は少女と話して、部屋を出て行く。部屋の中には平太と少女とメイドと警備の四人がいる。警備は扉の近くに緊張した様子で立ち、メイドは静かな様子で少女の横に立っている。
少女が平太に視線を向ける。
『今あなたの部屋を準備してもらっているから、今日はそこで寝てね。食事はここで取ることになっているわ。それまで暇でしょうからこの世界のことでも話そうと思うの。それでいいなら頷いてくれる?』
異論などなく平太は頷く。まったくこの世界のことを知らない状態だ。情報を与えてくれるというのは嬉しい。
それを確認して少女はメイドに話しかける。頷いたメイドは部屋の本棚からなにかをとってくるとテーブルに広げた。それは大陸図だ。大雑把に言うなら右部分がやや短くなったへの字に近い。
『ここに来る前に言ったわね? これがオードレイ大陸。大陸は北東にもう一つあって、アルティセリアという名前よ。オードレイには九つの国がある。東部に五つ、西部に四つ』
言いながら少女は地図に指を置く。示したのは大陸中心からすぐ右下。
『ここが私たちのいる国ウェナ。大陸縦断山脈に接する国よ。エラメルトは国の南部にあるの。特徴は採掘と林業かしら。西部に比べると採掘量は少ないんだけどね。ここまではいい?』
目を見ての確認に平太は頷きを返す。
『次は……なにがいいかな、歴史は後回しでもいいし、住んでる人でいこうか。この大陸の主な住人は無色人。獣人や色人もいるけど、その数は少ない。百年以上前にあった無色人同士の大きな争いに呆れて、この大陸から出て行ったの。無色人というのはあなたのように黒い髪を持っている人のことを指すわ。ほかに茶髪に白髪もいるわね。混血が進んだ今では先祖帰りでそのほかの髪を持つ無色人も珍しくなくなっているわ。色人は黒とか以外の色の髪と髪と同色の皮膚を持ってる。獣人は獣の耳と尾を持っているの。ここに来るまでに見かけたでしょ? ちなみにバイルドも色人よ』
言われてバイルドの姿を思い出すと、たしかに青みがかった白髪に、薄い青の皮膚を持っていた。
思い出しうんうんと頷く平太に笑みを向け、少女は続きを話す。
『彼らの違いは髪の色だけじゃなくできることにも表れているわ。色人は自身の色にあった能力が使え、獣人は獣の能力が使え、無色人は色々な能力を得る。本当にいろいろすぎて説明は難しいの。隣に立つメイドは熱操作の能力を持っていて、そこの警備兵は体力の貯蓄ができる』
少女がメイドに声をかけると、メイドは少女の持っていたカップに触れる。入れてからそう長くは時間はたっていないのだが、湯気が出ない程度には冷えていたカップから再び湯気が上がり始める。言っていることが嘘ではないと示すため、実演してみせたのだろう。
それを平太は驚いた目で見て、カップを貸してもらう。受け取ったカップはたしかに温かく、お茶を飲んでたしかめてみようとして止まる。
意識していなかったのだが、少女が口をつけた場所に口をつけようとしていたのだ。
(あっぶなー。口つけてたら変態って呼ばれても仕方ないところだったっ!)
動きを止めた平太を少女たちは不思議そうな目で見ている。止まることができてよかったと安堵の溜息を吐きつつ、カップを返す。
『なにを安堵しているのかわからないけど続けるよ? 能力が使えるってところまで話したっけ。じゃあ次は三種族以外の存在について。といっても神族と角族の二つなのだけど。神族は私のように滞在する土地を守る小神。それから』
「神様!?」
続けようとした少女の言葉を遮って、平太は大声を上げた。何事かとメイドと警備が平太を見て、その二人に少女がなんでもないと告げる。
『その驚きようではそちらの世界では神はいないか、遠く離れた場所にいるのでしょうね。神といってもたいしたことはしてないから緊張はしないでいいわ』
腰を浮かせて離れようとしていた平太に、気にしないようにと声をかける。けれど思った以上の地位にいた少女相手に緊張せずにはいられず、平太の表情は硬いままだ。
地球では神の存在は不明だ。そんな世界出身の平太が、神だという言葉を馬鹿にせずにすぐ信じたのは現状に戸惑って疑う余裕がないということもあるが、少女がそれにふさわしい雰囲気を持っていたからでもある。
そして緊張と同時に期待も生まれる。神ならばすぐにでも自分を地球に戻すことはできるのではないかと。会話が可能になったら絶対聞こうと心に刻む。
『続けるよ? 私のような小神。次に始源の神のそばにいる大神。最後に全生物の親ともいえる始源の神。といっても初代様は亡くなっていて、二代目様が世界を見守ってらっしゃるわ』
(神様って死ぬの?)
平太のイメージでは神は不滅といったものだ。その話を聞いて、先ほど生まれた期待が薄れるような気がするが気のせいだと否定する。せっかく見つけた希望なのだ、手放したくはなかった。
『角族はあらゆる生物の敵といって間違いない。黒角族と白角族がいて、黒角族が戦力を欲したとき力を分け与えて誕生するのが白角族。黒角族は力の塊が生物にとりついて生まれる。基本的にすぐ変化するんだけど例外もいて、とりついて数十年ほど眠りにつくことがある。その黒角は王と呼ばれるの。人々はそれを魔王とも呼ぶわね』
魔王が実在すると聞き物騒だと思った平太の心情を察したのか、少女は今はいないと続ける。
『魔王が現れたら魔物が活性化する。勇者も召喚されるから出現を知ることができるのよ。今召喚と言ったけど、あなたがさらわれてきたものと似て非なるものだから。勇者は招きの神殿というところに現れるの。そこで何日間かこの世界ことを学び、その間に勇者来訪の知らせが各国にとばされる。それに勇者たちは始めからこちらの言語を理解してる。あなたとはいろいろ事情が違うから、あなたが勇者じゃないとわかる。だから魔王と戦えなんて言わないから安心して』
ほっとした平太に、少女は笑みを浮かべた。以前見たことある勇者たちと比べて確実に弱い平太に無茶をさせる気などなかった。勇者には魔王退治を任せても大丈夫だという雰囲気があった。性格的には争いに向かない者もいたが、魔物と戦っても負けないだろうという予想ができたのだ。
勇者と平太の違いを考え込みそうになり、思考を止めて説明を再開する。
『種族については話したから、あとはお金とかちょっとした知識について話していこう』
そういった話によって今は初夏ということがわかったり、町の周りに畑があり、さらに草原が囲んでいるということがわかったり、自転車の他に車やプロペラ飛行機があることもわかった。
車や飛行機があるということに思った以上の文明だと平太は驚いた。なんとなくファンタジー的なものを感じていて、RPG的な中世ヨーロッパ世界を想像していたのだ。
ただし話を聞いていると飛行機は数百年以上前からあり、ジェットエンジンへと進歩していないことから技術進歩の速度は地球と同じではないのだなと感じた。
それはエネルギーや技術者に問題があるのだが、この世界のことを知らない平太が進歩速度の違いに思いいたらなくとも無理はないのだろう。
話し始めてそれなりに時間が流れ、窓から見える外の景色は徐々に暗くなっている。食事も届いていて、コーンスープにサンドイッチにサラダといった、メニューだった。味に変わったところはなく美味しいと思えるものだった。
食事を終えると、部屋の準備ができたということでその部屋への案内ついでに風呂やトイレといった知っておいた方がいい場所の案内もされる。言葉が通じるのが少女以外にいないということで仕方ないのだが、神様に案内させることを苦々しく思う者はいた。案内している少女は特にどうとも思っていなかったのだが。
『ここがあなたの部屋。することがなくて暇だと思うけど、明日の朝まで大人しくしてて』
平太は頷く。言葉の通じないところでふらふらと歩き回る気はない。なにかトラブルに巻き込まれても対処のしようがないのだ。トイレに行ったあとはすぐに寝てしまおうと思っている。
異論のなさそうな平太を見て少女は部屋から離れていく。部屋の前には警備が一人いる。身を守るためというわけではなく、一緒に行動し部屋に戻るための案内役といったものだ。
少女から紙をいくつかもらっており、それに風呂やトイレといった単語が書かれている。部屋をでるときにはそれを警備に見せれば用事が伝わる。
早速トイレと書かれているはずの紙を取ると、警備に見せて一緒にトイレに行く。
トイレは水洗便座式で、ここでも技術を感じさせる。ただし流すときはレバーではなく魔力を使うため平太には流せず、一緒にきた警備が流す。
部屋に戻り扉をパタンと閉じて、平太は大きく溜息を吐く。
「半日もたってないのに色々とあったなぁ」
さっさと帰りたいと呟きながらベッドにもぐりこむ。
帰還が確実に保証されれば、現状も楽しむことができそうなのだ。正直、超能力っぽいものや獣人といったものを見て心躍るものもある。魔物がいて、角族という危険な存在もいるため危険ともわかっているが、少しくらいは楽しめないとわりにあわない。
「起きたら夢だったとかならいいのに」
そんなことを言いつつ平太は目を閉じ、現実から逃げるように意識を睡魔にゆだねる。
新連載始めてみました
のんびりやっていきたいです