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一度見た魔法とスキルを【鑑定】したら、すべて習得できました  作者: 阿鼻恭介
第5章

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第5章 第170話 受け継がれる形

 王城を出たあと、町の景色が昨日までとは少し違って見えた。


 黒い屋根も、木造の家並みも、腰に刀を差した竜人族の姿も、もう単なる「日本に似たもの」ではない。


 始まりには、俺と同じ世界から来た誰かの記憶があった。


 けれど、目の前にあるものは八百年以上をこの土地で過ごしてきた、ドラグニアの文化だ。


「ユウトお兄ちゃん、あれ!」


 フィーナの声に顔を上げる。


 通りの端に、子どもたちが集まっていた。


 石畳の上で、何個ものコマが回っている。


「こっちにも広まってたんだ」


「えへへ! 見てみようよ!」


 近づいてみると、王国内で売られていたものとは見た目がかなり違った。


 基本の形は同じだ。


 軸があり、指でひねって回す。


 ただ、胴には細かな竜の模様が彫られ、縁には山や雲を思わせる意匠が入っている。


「こっちの赤い竜が一番格好いい!」


「俺は青だ!」


 子どもたちは性能より先に、気に入った模様を選んでいる。


 それを見て、アイリスが少し懐かしそうに目を細めた。


「この竜紋は、王都周辺で古くから使われてきた意匠でござる」


「昔からコマにも?」


「いえ。武具や祭礼道具に使われることが多かったでござるな。遊具へ取り入れられたのは最近なのでござろう」


 近くの木工店から、竜人族の職人が出てきた。


「元になった見本は商人から買ったんだ。形はよくできてたから、そこはいじってねえ」


 職人は笑いながら棚のコマを指す。


「ただ、売るならこの町の子どもが欲しがる見た目にした方がいいだろ?」


「なるほど」


「こっちは祭り用。こっちは普段遊ぶ安い方だ」


 飾りの違いはあっても、遊び方そのものは変わっていない。


 俺は回っているコマを眺めた。


「やっぱり、できないのは工夫じゃないんだ」


 エリシアがこちらを見る。


「建国王の記録と同じですね」


「ああ」


 刀も、建物も、道具も変わる。


 受け取ったものを使いやすくしたり、土地の好みに合わせたりすることは普通にできる。


 娯楽でもそれは同じだ。


 コマの模様も変えられる。


 素材も変えられる。


 大会の飾り付けや見せ方も変えられる。


 なのに、これまで調べた範囲では、遊びの仕組みそのものを新しく生み出すところだけが不自然なほど止まっている。


「変な境目ですね」


 セレスが言った。


「うん。でも、まだ理由までは決めつけられない」


 俺には人の発想そのものを【鑑定】することはできない。


 未来に何を思いつくかも分からない。


 あるのは積み重なった記録と、実際に見てきた結果だけだ。


「だから、もっと確かめないと」


「少し調べてみましょう」


 エリシアの返事に、俺は頷いた。


 ただし、建国王でさえ答えまでは見つけられなかった。


 そこだけは忘れない方がいい。


 昼過ぎ、俺たちは王都の商業関係者から招かれた。


 娯楽商品のドラグニア向け展開について話を聞いてほしいらしい。


 案内された部屋には、すでに何種類もの試作品が並んでいた。


 カルタ。


 コマ。


 木片芝居。


 どれも基本となる仕組みは、俺たちが王国で作ったものと同じだ。


 けれど見た目は全く違う。


「おお」


 レティシアが木片芝居の板を持ち上げる。


 表に描かれていたのは、山城を背に刀を構える竜人族の武人だった。


 別の板には、茶を運ぶ人物。


 さらに別の板には、竜人族の子どもが師から礼を教わる場面が描かれている。


「絵の迫力がすごい!」


 フィーナが目を輝かせる。


 担当者が頷いた。


「ドラグニアでは、英雄譚や古い戦の話が好まれます。そこで、木片芝居の見せ方はそのままに、題材や絵の構図をこちらの好みに合わせました」


「見せ方も少し違うように見えるでござる」


 アイリスが板の並びを確認する。


「はい。話の途中で板を置く間や、語り手の立ち位置をこちらの芝居に近づけています」


 エリシアが数枚を順番に見る。


「形式そのものは同じですね。絵を見せ、裏の台詞を読み、順番に進める」


「そこは変えておりません」


 担当者は続けた。


「私どもとしても、借りた形を別物にする必要はないと考えました。ただ、題材まで他国のものを使い続ける必要もないと思いまして」


 俺は思わず笑った。


「それでいいと思います」


「許可を頂けますか?」


「題材や絵柄は、俺が決めることじゃないです」


 俺は並んだ板を見る。


「ドラグニアの人が見て楽しいものを選んでください。俺たちが見るのは、基本の遊び方が崩れてないかとか、安全面くらいで十分です」


「承知しました」


 そのあと、アイリスがカルタを手に取った。


 取り札には、刀や茶器だけでなく、王都の門、山道、祭礼衣装などが描かれている。


「この絵柄なら、子どもも国の物を覚えやすいでござるな」


「特に人気なのは城と刀です」


「やはり」


 アイリスが少し誇らしげに笑う。


「ですが、これなど良いでござる」


 彼女が持ち上げた札には、刀ではなく、茶を淹れる人物が描かれていた。


「武だけがドラグニアではありませぬゆえ」


 担当者が頷き、すぐ記録を取る。


 俺はその横顔を見た。


 この国へ帰ってきたばかりの時より、アイリスの声が自然だ。


 外から故郷を見ることで、彼女自身も何を残したいのか考え始めているのかもしれない。


 会合が終わる頃、担当者が最後に言った。


「私どもとしては、今後もこの形を使わせて頂きたいと思っております」


「もちろんです」


「ただ、いずれ私たちだけで、これとは全く違う遊びも――」


 そこで言葉が止まった。


「……いえ」


 担当者は首を傾げる。


「何か?」


「なぜか今、続きが出てこなくて」


 俺とエリシアは顔を見合わせた。


 偶然かもしれない。


 ただ、建国王の記録を読んだ直後では、引っ掛からずにはいられなかった。


 エリシアは何も断定せず、静かに言う。


「記録しておきます」


 日が暮れてから宿へ戻ると、王城の使者が待っていた。


「《アカシックレコード》の皆様へお伝えします」


 その表情は昼間の商業関係者とは違い、硬かった。


「神殿との協議が終わり、封印戦争に関する写本の閲覧が許可されました」


 俺たちは自然と姿勢を正す。


「原本ではないのでござるな?」


 アイリスが尋ねる。


「はい。原本は現在も神殿の封印庫にあります。しかし、王家が保管する写本には、神話時代の封印施設についての記録が残っています」


 エリシアが一歩身を乗り出した。


「封印施設?」


「地上最深部へ至るものと考えられている記述があります」


 部屋の空気が変わった。


 建国王が追えなかった先。


 失われた喜びの座。


 神話時代の封印戦争。


 そして、地上最深部。


 使者はさらに一枚の書状を差し出した。


「ただし、写本の一部は古代神殿文字で記されており、現在も解読されていません」


 俺はその書状を受け取った。


 今まで集めてきた手掛かりが、ようやく一つの場所を指し始めていた。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけると励みになります。


そして本日はここまで明日も5話投稿します。

よろしくお願いいたします。

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