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一度見た魔法とスキルを【鑑定】したら、すべて習得できました  作者: 阿鼻恭介
第5章

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第5章 第153話 祭りを楽しむということ

 広場の中央では、武術大会とはまったく違う歓声が上がっていた。


「そこだ! ひっくり返せ!」


「待て、その角は取るな!」


「分かってるって!」


 何台も並べられたリバーシ盤を、大人も子どもも真剣な顔で囲んでいる。


 その隣では円形に区切られた競技場で、色とりどりのコマが勢いよく回っていた。


 木目を生かした素朴なもの。鮮やかな模様を刻んだもの。牙や爪を意匠に取り入れたもの。


 形は見慣れたコマでも、仕上がりにはガルディアらしさがあった。


「すごい……」


 ユウトは思わず足を止める。


 アルテシア王国で何気なく広めた遊びが、遠く離れた国で大きな催しになっている。


 しかも、自分たちが準備したわけではない。


「ユウトお兄ちゃん! あっち!」


 フィーナが尻尾を大きく振る。


 コマ競技では、参加者が順番にコマを回し、最後まで回り続けたものへ歓声が送られていた。


 少し離れた盤では、二つのコマを同時に回し、ぶつかり合ったあとも倒れなかった方へ拍手が起こっている。


 王国から伝わった遊び方を、ガルディアでは大勢が見守る祭りの競技へ膨らませているらしい。


「参加する者の種族をあまり選ばないのですね」


 エリシアが目を細める。


「武術大会とは違って、子どもも年配の方も同じ場所で楽しめます。興味深いですね」


「力任せに回しゃいいってもんでもないからな」


 レティシアが一つのコマを目で追った。


「軸がぶれりゃすぐ倒れる。作りも回し方も誤魔化しが利かねえ」


「拙者も挑んでみたいでござる」


 アイリスが真顔で言う。


 セレスが振り返った。


「さっきまで剣の試合に出ていましたよね?」


「勝負とあらば全力を尽くすのみ」


「コマ相手でも?」


「当然でござる」


 その迷いのなさに、ユウトたちは笑った。


 今度はリバーシ会場から大きなどよめきが起こる。


「逆転だ!」


 人垣の隙間から盤を見ると、不利だった側が角を押さえ、そこから一気に盤面を返していた。


 勝った獣人が拳を突き上げる。


「よっしゃあ!」


 向かいの男は頭を抱えたが、すぐ顔を上げた。


「終わったらもう一回だ!」


「大会なんだから今は無理だ!」


「じゃあ終わってから!」


 周囲から笑いが起きた。


 勝って叫ぶ者もいれば、盤面だけを静かに見つめる者もいる。隣の者から置き方を教わっている子どももいれば、見ているだけで満足そうな老人もいた。


 同じ遊びを前にしても、楽しみ方は誰一人同じではない。


「……いいな」


 ユウトが呟く。


「何がですか?」


 セレスが尋ねる。


「こういうの」


 それ以上説明しなくても、自分の中では十分だった。


 古くから続く祭りの中へ、新しく持ち込まれた遊びが自然に混ざっている。


 それだけで嬉しかった。


「ユウトお兄ちゃん!」


 振り返ると、フィーナはすでにリバーシ大会の受付へ走り出していた。


「フィーナ、受付してくる!」


「頑張って!」


「今度こそ勝つからね!」


 返事を聞き終える前に、白い尻尾が人混みへ消えていく。


 セレスが微笑んだ。


「もう、参加していいかとは聞きませんね」


「うん」


 ユウトも笑った。


 今のフィーナには、それが自然だった。


 夕方になっても祭りの熱気は衰えない。


 リバーシの一手ごとに声が上がり、コマが倒れるたび子どもたちが跳ねる。武術大会の会場からも歓声が届き、屋台からは香ばしい匂いが漂っていた。


 誰かが昔から伝わる祭りの歌を口ずさみ、別の場所では太鼓へ合わせて踊る者がいる。


 新しい遊びと、昔から続く祭り。


 どちらかがもう一方を押し退けることなく、一つの賑わいになっていた。


 その頃。


 遥か上空、地上からは届かない神界の一角で、長く弱々しかった光が揺れた。


 祝祭を司る神のもとへ、地上から無数の光が昇ってくる。


 赤い光。


 金色の光。


 淡い青。


 小さく震えるものもあれば、弾むように跳ねるものもある。


 同じ祭りから生まれたはずなのに、一つとして同じ輝き方をしていなかった。


『……これは』


 祝祭神が手を伸ばす。


 光は指先をすり抜けるように集まり、弱りきっていた神格へ染み込んでいく。


 長く細かった神力の流れが、久方ぶりに明確な脈動を取り戻した。


 まだ、本来の力には遠い。


 それでも確かに、以前とは違う。


 祝祭神は静かに目を閉じた。


『祭りが……また、広がっている』


 その声は地上には届かなかった。


「ユウト!」


 レティシアの声で、ユウトは顔を上げる。


「こっち来てみろ! アイリスが本気でコマの回し方を研究し始めたぞ!」


 見ると、アイリスが子どもたちに囲まれながら、紐の巻き方を真剣に教わっていた。


「もう少し下へ巻くのでござるか?」


「違う違う、そこだと斜めになる!」


「なるほど……奥が深いでござる」


 エリシアがその様子を眺める。


「興味深いですね」


「エリシアまで始めないでくださいね?」


 セレスが念を押す。


「少し調べるだけです」


「それが危ないんです」


 その横では、レティシアが売られているコマの軸を確認し、フィーナは対戦席で盤面を睨みながら尻尾だけを忙しく揺らしている。


 ユウトも笑いながらその輪へ入っていった。


 翌朝、王都の冒険者ギルドへ顔を出すと、北西部へ追加調査隊がすでに向かい、周辺街道も警戒態勢へ入ったと聞かされた。


 少なくとも、今すぐ《アカシックレコード》が追う必要はないらしい。


 必要な情報は渡した。


 あとは現地を知る者たちへ任せればいい。


 昼前には、六人は王都の門前に立っていた。


「次はエルフィナだよね!」


 フィーナが背嚢を揺らす。


「森がいっぱいなんでしょ?」


「ええ」


 エリシアが答えた。


 いつもの眠そうな声だったが、その目だけは東へ伸びる街道を見ている。


 ユウトはその横顔に気付いた。


「エリシアの故郷も、そっちなんだよね?」


「そうですね」


「久しぶり?」


「かなり」


 短い返事。


 それだけなら普段通りだった。


 けれど、エリシアは少し歩いてから、小さく付け加えた。


「……帰る、という言い方が正しいかは分かりませんけどね」


 フィーナが耳を動かす。


「どういう意味?」


 エリシアは足を止めなかった。


「それは、着いてから話します」


 そう言って、彼女は森へ続く街道へ視線を戻した。

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