第5章 第136話 六人それぞれの装備
再現合金の二本目も、一本目と大きく変わらない品質に仕上がった。
【対象:再現合金試験片】
【品質:高】
【内部均質性:高】
【耐衝撃性:安定】
【魔力伝導性:安定】
【前試作品との差異:軽微】
「これなら、偶然じゃなさそうだね」
ユウトが言うと、レティシアは試験片を持ち上げ、光へかざした。
「まだ製法完成とは言わねぇ。でも、装備用の試作へ進むには十分だ」
工房中央の大机には、《アカシックレコード》六人が普段使っている装備が並べられていた。
剣、刀、短剣、杖、軽装鎧、治療用装備、大盾。
同じ再現合金を使うとしても、全員を同じ方法で強化するつもりはないらしい。
「いいか」
レティシアが机を叩く。
「強い素材を使えば強い装備になる、なんて雑な考えは捨てろ。使う奴に合わなきゃ、ただの高い金属だ」
「では、拙者からお願いするでござる」
アイリスが刀を置いた。
レティシアは鞘から抜き、刃を確かめる。
「お前は受け止めるより、流して返す方が多い。ここを重くしすぎると切り返しが鈍る」
ユウトも刀へ【鑑定】を使った。
【刃中央部:微細損耗多数】
【鍔元:反復負荷あり】
【刀身全体:重量配分良好】
「刃の中央と鍔元に負担が集まってるみたいだ」
「やっぱりな。全部を再現合金にするんじゃねぇ。負担が掛かる部分だけ補強する」
「承知いたした。今の剣筋を変えずに済むなら、それがよいでござる」
次はフィーナだった。
「フィーナは軽いのがいい!」
「分かってる」
「音もしないやつ!」
「それも分かってる」
「あと、お肉も切れ――」
「飯用の刃物は別に持て」
「えへへ!」
短剣を見ると、刃よりも柄と留め具の消耗が目立っている。
【柄固定部:摩耗あり】
【留め金:反復負荷】
【刃部:状態良好】
「フィーナのは、柄側を重点的に直した方がよさそうだね」
「そうだな。刃を重くする必要はねぇ」
「じゃあ軽いままがいい!」
フィーナは即答した。
ユウトは、その迷いのない返事に小さく笑った。
エリシアの杖では、金属の使い方そのものが問題になった。
「再現合金は魔力をよく通しますが、増やしすぎると木部との境界で流れ方が変わります」
エリシアが試験片へ魔力を通しながら言う。
「杖頭の固定環だけに使うのがよさそうです。威力を上げるより、魔石の揺れを減らしたいですね」
「そういう使い方なら賛成だ」
レティシアが頷く。
「研究者の道具は、勝手に癖を変えない方がいい」
「どれだけ一緒に旅していると思っているのですか」
「だったら話が早ぇな」
「ええ。ですが、私の杖を勝手に改造するのは禁止です」
「分かってるよ!」
セレスの装備では、守ることより動けることが優先された。
「私は治療中に腕を上げたり、人を支えたりすることが多いです。重い防具は困ります」
レティシアは肩と脇腹を見比べる。
「胸の前だけ少し強くして、腕周りは触らねぇ方がいいな」
ユウトも確認する。
【胸部前面:小規模損耗】
【肩部:可動摩耗あり】
【脇部:繰り返し伸縮痕】
「動く部分は今のままがよさそう」
「では、それでお願いします」
「任せな」
ユウトの番になると、レティシアは腕を組んだ。
「……お前が一番面倒だ」
「なんで?」
「剣も使う。魔法も使う。前にも出るし、後ろにも回る。道具も持つ。戦い方が一つじゃねぇ」
「ごめん」
「謝るな。作りがいがあるって意味だ」
レティシアはユウトの剣を抜く。
「お前に必要なのは、何か一つを極端に強くする装備じゃねぇ。何をしても邪魔にならない装備だ」
「全部を最高性能にするのは?」
「それをやると、大抵全部が半端になる」
即答だった。
「万能ってのは全部盛りじゃねぇ。必要な時に足を引っ張らねぇことだ」
ユウトは苦笑した。
「……それ、俺にも刺さるな」
「自覚あったのか」
「最近は」
最後はレティシア自身だった。
大盾を机へ置く。
「アタシは単純だ。受ける。止める。壊れねぇ」
「でも重くしすぎたら、動きづらくなるよ」
「分かってる。だから中心じゃなく、外周と固定部を強くする」
ユウトが大盾を見る。
【外周部:打撃痕多数】
【固定金具:疲労あり】
【中央部:損耗軽微】
「たしかに端の方が傷んでる」
「だろ?」
「レティシアの読み通りだね」
「だったら完成するまで付き合え」
「もちろん」
レティシアは満足そうに鼻を鳴らした。
夕方までには六人分の試作設計がまとまった。
同じ再現合金を使っているのに、使う場所も量も違う。
その図面を見た王立工房の職人が唸った。
「ここまで変えるのか」
「使う奴が違うんだから当たり前だ」
レティシアは言う。
「材料が主役じゃねぇ。使う奴が主役だ」
ユウトは机いっぱいに広がった図面を見て、少し面白くなった。
同じ素材でも、答えは六つある。
「完成が楽しみだな」
「当たり前だろ」
レティシアが笑う。
「アタシが作るんだからな」
その時、工房の奥から大きな木箱が運び込まれてきた。
「商業ギルドから追加依頼です!」
「追加?」
蓋を開けると、中にはリバーシの盤、カルタ用の木札、回すコマ、積み木、知恵の輪が詰め込まれていた。
どれも王国内で広がった品々だ。
「安全基準や品質表示は守られているそうです」
職人が説明する。
「ただ、工房ごとに盤の厚み、駒の大きさ、木札の寸法、穴の位置まで違う。扱う数が増えたせいで、仕分けや交換部品の用意に手間が掛かっているらしくて」
「なるほど」
ユウトは箱の中を見比べた。
危険な粗悪品を防ぐための基準は、すでにある。
今度必要なのは、大量に作り、運び、修理しやすくするための基準だ。
「全部同じ見た目にする必要はないよね」
「当然だ」
レティシアが盤を一枚持ち上げる。
「寸法とか最低限の強度だけ揃えりゃいい。木の種類も装飾も仕上げも、好きにやらせりゃいいだろ」
「その方が各地の特色も残せますね」
エリシアが頷く。
「庶民向け、一般向け、高級品でも分けられそうです」
ユウトが言うと、レティシアの目が細くなった。
「値段まで一緒にする気はねぇぞ」
「うん。基準を揃えるだけ」
「なら話は早い」
レティシアは木箱から盤、木札、コマを次々と机へ並べ始める。
「武器の次は玩具か。面白ぇじゃねぇか」
六人分の装備図面の隣に、今度は何種類もの娯楽商品が積み上がった。
グランバルドで鍛えるべきものは、金属だけではなかった。
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