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第7話:帝国の至宝と、錆びたペンの契約。――その輝き、今この瞬間から「わたくしの私物」ですわ。

「……小娘が、ほざきおるわッ!」


 ゲルハルト大公の怒声が、静まり返った夜会の広間に爆発した。

 床に散らばったワインの飛沫が、彼の激昂を象徴するように赤く光っている。


「監査院だと? そんな子供騙しが、この帝国で通用すると思うたか! 我が大公家は建国以来、この帝国の魔導インフラを支えてきた柱。たかが亡命者の分際で、その功績を汚せるなどと思うな!」


 大公が指を鳴らすと、広間を照らす豪奢な魔導灯がいっそう強く輝いた。

 それは帝国の技術の粋を集めた「至宝」。この宮殿の魔力供給源そのものでもある。


「見よ! この光こそが大公家の誇り! 貴様のような、国を売って逃げてきた女には、一生かかっても理解できぬ価値ちからよ!」


 周囲の帝国貴族たちが、大公の威圧感に押されるように頷き始める。

 いかに言葉で圧倒しようと、物理的な「利権」を握っているのは大公家だ――そう言わんばかりの優越感が、再び彼らの顔に戻ってきた。


 わたくしは、扇をゆっくりと閉じ、その「至宝」を眺めた。


「誇り、ですか。……あら、陛下。帝国では『盗品』のことを『誇り』と呼ぶ習慣がございますの?」


 隣に立つカエルス陛下が、愉悦に満ちた笑みを漏らした。

「……さあな。少なくとも私の辞書にはない言葉だ」


「貴様……! 盗品とは何のことだ!」


「あら、閣下。お忘れでしたかしら? その魔導灯の基幹部品――『重力変換コア』。……それは三年前、我がアストレア商会が開発し、王国から帝国へ『試験運用のための期間限定リース』に出していたものですわ」


 わたくしは懐から『錆びた鉄のペン』を取り出した。

 その粗末なペン先を、高く掲げられた魔導灯へと向ける。


「リースの期限は昨年末。ですが、大公家からは返却の連絡も、延長の契約料も届いておりません。……つまり現在、この広間を照らしている光は、閣下による『不当な占拠』と『魔導知財の横領』によって成立していますのよ」


「な……!? そんな契約、聞いたことも――」


「わたくしが、管理しておりましたもの。……王国での婚約破棄に際し、わたくしは全ての対外資産の『即時回収権』を行使いたしました」


 わたくしはペンの尾部を、指先で小さく弾いた。

 カチ、と静かな音が響く。


「精算のお時間ですわ。……契約解除キャンセル。所有権の強制帰還を命じます」


 その瞬間、広間を照らしていた眩いばかりの光が、唐突に掻き消えた。

 完全な暗転。

 貴族たちの悲鳴が響き、闇の中でゲルハルト大公の狼狽える気配が伝わってくる。


「な、なんだ!? なぜ消える! 予備の魔力はどうした!」


「無駄ですわよ。……その『コア』が、わたくしのペンの呼びかけに応えて、機能を停止シャットダウンしましたから。――今、この宮殿を照らす権利を持っているのは、大公家でも、国でもなく、わたくし個人・・ですわ」


 闇の中で、わたくしの手元の『錆びたペン』だけが、微かに青白い光を放っている。

 それは、数字という名の「理」が、物理的な権力を上回った証。


「お、おい……大公家が管理しているはずの魔導灯が、あの女の一言で……」

「まさか、帝都の灯りもすべて、彼女の『私物』なのか……?」


 貴族たちの囁きが、今度は恐怖へと変わっていく。

 カエルス陛下が、静かに歩み出た。


「ゲルハルト。……貴様は先ほど、帝国に慈善の予算はないと言ったな。……ならば、この女から『光を買い戻す予算』は、貴様の家財をすべて売り払って捻出してもらおうか。今、この瞬間から、この宮殿の光熱費はすべてヴィクトリア・フォン・アストレアへの支払いとなる」


「ひっ……へ、陛下……!」


 大公が膝から崩れ落ちる音が聞こえた。

 暗闇の中、わたくしは陛下の手を取り、囁いた。


「陛下。……この程度の『掃除』で満足してはいけませんわよ? わたくしの帳簿によれば、帝国の魔力供給そのものに、もっと巨大な『不正融資』の痕跡がございますもの」


 カエルス陛下は、わたくしの腰を強く引き寄せ、耳元で低く笑った。


「……やはり貴公は、私が待ち望んだ『死神の鎌』だ。……いいだろう。この国の根腐れを、すべてそのペンで抉り出してくれ」


 再び、パッと明かりが灯る。

 だが、その光はもはや大公家の誇りではない。

 わたくしという「執行官」が支配する、冷徹な真実の光。


 床に這いつくばる大公を一瞥もせず、わたくしたちは夜会の中心へと進む。

 帝国の夜は、まだ始まったばかり。

 わたくしの帳簿が埋まる頃、この国に立っていられる貴族が何人残っているかしら?


 ……ふふ。精算の楽しみは、これからですわ。

「この光は、わたくし個人・・のものですわ」


国家のインフラすら、ヴィクトリア様の手にかかれば「未返却のリース品」。

大公家の誇りを物理的に消し飛ばすカタルシス、いかがでしたでしょうか。


次話、ついにカエルス皇帝とヴィクトリア様が、帝国の「心臓部」である魔導貯蔵庫を監査!

そこで見つかったのは、人間には到底支払えない「神々への負債」だった……!?


「大公の没落っぷりが最高!」

「ヴィクトリア様のペン、万能すぎる!」

と少しでも感じていただけたら、ぜひ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークをお願いいたしますわ。


あなたの応援が、ヴィクトリア様の「精算ザマァ」の精度をさらに研ぎ澄ませます。

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