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ノクターン(仮題)  作者: Shaaaaa
アリーナ
3/3

1-2-2.モーターサイクル

開いていただきありがとうございます。

 ファイブが部屋を出て行ったあと、ドッと疲れが押し寄せてきて、陽月の寝ているベッドにうつ伏せになる。

「はあ……」

 一息ついて、この訳のわからない状況に落胆する。

 僕はまだ、生きている。土手っ腹に風穴を開けられたにも関わらず。

 そしてそれは、陽月も同様。

「エス……エモ……能力者……」

 譫言(うわごと)のように呟いて、ベッドの上で寝息を立てている陽月を見る。

 体もグチャグチャ、服もビリビリに破れていたのに、まるで何事もなかったかのように――。

 「あ」

 水色。

 …………。

 僕という健全真面目男子高校生は、女子高生のパンツ(パンティー?知らない)なんかに然程の興味もないので、スカートをゆっくりと引っ張って、見えないように蓋をする。

 ……いや、健全なら女子高生のパンツには目がないか。

 「……ぐあっ」

 おっさんみたいないびきと共に陽月が寝返りを打つ。そうして、お尻の方がまた丸見えになる。僕は再びスカートに手をかけて、丸出しのままの尻を隠す。

 が、また寝返りをうつ。

「寝相悪過ぎだろ……」

 クソッ……面倒臭くなってきやがった。こっちは割と気が抜けないようなシリアスな目に遭っていたというのに。

「…………」

 よし、決めた!簀巻きにしてやろう。

 それなら下着をおっ広げることもないし、僕のこのモヤモヤした気持ちも憂さ晴らしできる。

 寝ている陽月を端に寄せ、陽月の足元で綺麗に畳まれている掛け布団を勢いよく広げる。ベッドに被せたあと陽月を転がしていけば……よし。

 あとは干瓢代わりのガムテでグルグル巻きにしてや――。

「がぐぅっ!」

「デッ!!」

 …………。

 思い切り裏拳を食らった。いつの間にか簀巻き状態も解けてしまっている。

 くだらないことに時間を使っただけだった。勢いで行動するもんじゃない。

「…………」

 本当、呑気に寝ているなあ。明日には途方もなく恐ろしい現実が待っているのに。

 ……そういえば、こうして陽月のことをじっくり見るのは久しぶりかもしれなかった。

 いつの間にか僕と変わらないほどになった背丈。長く細い腕と足。男性のように広い手。大きな胸。御劔陽月という、子供の面影だけ残った顔。一方で、あまり変わらない肉付きの悪さ。

 こうして見ていると、なんだか作り物のように感じる。フィギュアのよう――。

 ノック音。

「……はい、どうぞ」

 ドアノブが30度くらい傾いた後、「ごめんね」と寝間着に着替えたファイブが、ドアを半開きにしてこちらを覗いた。

「何かあったか?」

「大事なことだ。……秋くん、晩ご飯何も食べてないでしょ」

 そう言われると確かにそうだった。

 ……意識した途端、急にお腹が空いてきた。

「昨晩俺が作ったカレーがあるんだけど、食べるかい?」

「えっ……いや、いいよ……」

 いかん、反射的に抵抗してしまった。何も学んでないな……。

「2日目のカレーだよ?本当にいいのかい?」

「…………」

 ……正直、食べたい。けど、本当に大丈夫なんだろうか。

 この怪しいおっさんが作ったこともそうだし、例え薬や毒物なんて入っていなくともおいしい保証もない。

 ――いや、分かっている。理由をつけて意地でもイエスを言いたくなくなってきただけだ。僕が思春期で反抗期だからだろうか……。

「薬や毒物なんて入ってないよ。カンピロバクターの心配は口にしてからでいいだろう」

「……い――」

 いや、と言いかけた時、地響きのような音が部屋にこだました。

「……お腹、減ってるよね」

 ファイブがニヤつく。

「僕じゃない!」

 これは本当。

「陽月ちゃんかな?――リビングで食べよっか。俺も腹減ったし、陽月ちゃんにも悪いしね」

「…………」

 ……恨むぞ、陽月。

 とはいえ、僕の世界一無駄な駄々を終わらせてくれたことには感謝しておこう。


****************************************


「――ってことで、明日はスナップえんどうを湯がして、シンプルに一味マヨネーズで食べるので一品考えてるんだ」

「へえ……」

「野菜のおばちゃんは大体毎週日曜に来るんだよ。多分、来週もスナップえんどうとアスパラガスは持ってきてくれると思うから、ベーコンと一緒に炒めようかなあ……」

 というわけで、リビングのテーブルでカレーを食べながら、ファイブが話す、《野菜のおばちゃん》の話を延々と聞き続けている。近所に住んでいる方らしく、毎週日曜日に自分で育てた野菜を持参し、安値で売ってくれるらしい。特におばちゃんの作るスナップえんどうはサイズも大きく、かと言って硬くもなく、甘みの強いファイブの好みのものらしい。

 ……まあ、いいか。色々ツッコミたいところだが、気が滅入る話よりは幾分かマシだ。

「俺も昔は家庭菜園で野菜を育ててみたことがあったけど、これがなかなか上手くいかない。パセリは簡単と聞いたから育ててみたんだけど、ナメクジに全部食べられて茎だけになってしまったよ。あれは悲しかったなあ……」

「え、ナメクジってパセリも食うのか?昔、イチゴは食べられたことあったけど」

「ナメクジはなんでも食べるよ、多分。植えたてのほかの苗にもたくさん群がってた」

「おえ……食事中に想像しちゃった」

 ミミズは大丈夫だけど、ナメクジとカタツムリはどうもダメなんだよな……なんでだったか忘れてしまったけど。

「話変わるけど、秋くん」

「何?」

「君の高校って市内じゃ結構偏差値高いって聞いたけど、やっぱり真面目な子ばかりなのかい?」

「いや、別にかな。確かに進学校だけど、校風的にスポーツに力入れてるからなのか、そうでもないよ」

 他の進学校の現場は分からないが、一般的に見たら変わっているかもしれない。ある程度勉強ができる人間が多いものの、受験のために生徒の自由な時間を削っている感じでもない。まあ、それにかまけてサボったりしたら自分が痛い目を見るだけなので、各自自習はしているが。

 九重さんのようなトップ層は、また違うだろうけど。

「秋くん、やっと素直に受け答えしてくれたね」

「はいはい……」

「まあ、全部信用してくれなんて言わないさ。君の信用を勝ち取るためにこんな世間話をしている可能性だってあるんだから」

「……もう、そういうのはいいよ。どんな事情があって、どんな状況があったとしても……まあ、僕達の命の保障をしてくれるなら、それで」

「そうかい」

 ファイブは空になった平皿にスプーンを置き、目線を僕の左下辺りに落とす。

「……君はまたなんというか、随分場慣れしている。高校生ってのは、あんな目に遭っておいて感情や思考を冷静に保てるものなのかな」

「……どこが。本当に冷静なら、あんなことしないよ」

「程度の話さ。俺が君くらいの年の時はもっと考えなしで、勢いに身を任せていたものだ。――俺が君と同じ状況に立たされたら、きっと茫然自失で、敵味方の区別をつけようなんて思考も生まれなかったと思うよ。あまつさえ、自分の座っている椅子を武器にしようなんてね」

「…………」

「別に詮索するつもりもないさ。ただ、俺の中の普通はそうじゃなかったってこと。――カレーはどうだった?」

 気づいたら、僕の皿のカレーも無くなっていた。

 すべきことは一つ。皿を左手で持ち上げ、ファイブの目の前に突き出す。

「おかわり」

「…………。よし、ご飯炊くぞ~!」

「そこまでしなくていい!」

 ルーはあんのかよ。……じゃなくて。

「美味しかった。……ごちそうさまです」

「そういえば、いただきますをまだ聞いてなかったな……」

「食べ始める前に言え!トラップだ」

「殺し屋だから、ついつい寝首を掻いちゃうんだ。テヘペロ」

「大の大人がテヘペロすんな」

 全然可愛くねえ。ドナルド思い出しちゃったし。

 と。

 リビングのドアが音を立て、勢いよく開く。

「煩いぞファイブ!バラエティ見る度にこれならテレビを壊して――なんだこのガキは」

 リビングに入ってきたのは、女性。

 で……デカい。

 背は、180はあるだろうか。長いポニーテールにキレ長の目、そして少しはだけた黒いスーツ。そして右手には、やけに似合う蓋の開いた缶ビール。

 女性はドアに肘をついてもたれ掛かる。

「おお、お疲れ様リシル。仕事の方はどうだった?」

「話を逸らすな。……部外者を何故入れた?」

「ん?そりゃ連絡を入れたじゃないか。……ヘーレティカーを見つけたってね」

 リシル、と呼ばれた女性は、僕を睨みつける。まるで、害虫でも見つけたかのように。

 部屋の中の空気が、凍り付く。

「ヘーレティカーを発見したという報告は、イコールで始末しに行くということだ。……飼いならせるとでも?」

「考えが飛躍しすぎさ。それに、この子はヘーレティカーじゃない。ヘーレティカーの子は、奥の客室で寝ているよ」

「……ハン」

 リシルさんは溜息をついて、ビールをガバっと喉に押し込み、すかさずスーツの内ポケットからタバコを取り出して火をつける。紫煙を吐き出し、僕の目の前に立つ。

「ファイブ、このクソガキはどこのどいつだ?」

「ヘーレティカーの子は、大方の予想通り能力者に襲われていてね。その子はその現場に通りがかった同じ高校の生徒さんだ」

「同じ高校?学生か。…………」

 リシルさんの強い視線から目を逸らし、落とす。

「……ファイブ、噓をつくな。このガキ、能力者だ」

「うん。堅気の人間でも、窮地に追い込まれたらエスに目覚めることだってあり得る。窮鼠猫を噛む、とはこの国の諺でね」

「…………」

 リシルさんは一歩一歩と距離を詰めてくる。

 ……これ以上近づかれるとまずい。

 おっぱいがデカすぎて、当たる!

 当たれっ!

「おいガキ。こんな状況で何を考えている」

「えっ……?」

「お前、私の体に何を感じた。何を望んだ」

「…………」

 言ったら本当に殺されかねないので絶対に言わないが……問題はそうじゃない。

 思考を読まれた?

 そういうエスか?

「ハン、やっとハッキリと聞こえたぞ。……お前、堅気なら何故エスを知っている?」

 ファイブに教えてもらったからです。さっき聞いたばかりですが。

 ……なんて。これで通じるかな。

「口で言え」

 リシルさんはバツが悪そうに腰に手を当てる。

「……ファイブ、お前もだ」

「ハハッ、悪いね。口に出していないことが俺と秋くんで一致すれば信じてもらえると思って」

「……口裏を合わせていた可能性もあるが?」

「へ?」

 ファイブが少し思案したような顔をし、その表情はすぐに動揺に変わった。

「し、してないよそんなこと!第一、君を敵に回すつもりなんてこれっぽっちも――」

「はあ……もういい」

 ……ファイブ、テンパると分かりやすすぎるぞ。

「ま、2人とも座りなよ。話したいこともあったし」

 リシルさんはファイブの横の椅子に腰掛ける。僕はそれを見て反対側の、ファイブの目の前の椅子に座った。

「ハン、仕事の話か?……悪いが少々手間取った。中々に動き辛いな日本は。平和で夜は静か、多少の物音にも気を配らなければならん」

「仕事の話じゃないよ。……君は人の思考を読めるから、色々と話が早いのは助かる。けれど、出来れば感受をオフにせずにテーブルについてほしかったな。今から話したいのはこの子と――客室で寝ている子の話さ」

「……ハン」

 リシルさんは僕を一瞥し、頬杖をつく。

「手短にしろ。早くシャワーを浴びて寝たいんだ」

「はいはい。まずはこの子達がどんな目に遭ったのか説明するね」

 ファイブが僕達の体験したことについて、その後どうしてこのアジトにやってきたのか、僕と陽月の現在について、リシルさんに軽く説明した。若干僕の聞いたことのない固有名詞が飛び交っていた気がするが、それは割愛。

 説明が終わったところで、リシルさんは左手で頭を抱えた。

「理解した。だが、聞けば聞くほど、動機については疑問が残るな」

「そう言わないでよ。この組織の目的を、君も分かっているはずだ」

「……まあ、いい。今回だけは特別だ。ただ、こうも《普通(ノーマル)》の連中に関わっているといつか足元を掬われる。――それを忘れるな」

 そんな捨て台詞を吐いて、リシルさんは立ち上がり何処かへ行こうとする。

「ちょっと待ってリシル!話はまだ終わってない」

「ビールだ」

 なんだ、立ち上がった目的は冷蔵庫か。

 ――じゃなくて、ファイブが何か気になることを言っていなかったか?

 ああ、そうだ――《組織》。

 この家をアジトとファイブは呼んでいたし、話を聞いている限り数人はここにいるようだ。問題はその《組織》が何を目的とし、この町で活動しているか、だ。

「ファイブ。この組織ってのは何を目的にしてこの町にいる」

 リシルさんが缶ビールを3本ほどテーブルに置き、デン、と座る。

「あ、それ言ってなかったね。ごめんごめん……俺達の組織の名は《フェイク》。構成員は組織長の俺とリシル、そしてブレインのピース。目的は、《根底》絡みの事件の抑制。ひいては世界各国の治安維持だ」

「治安維持……」

 NPOか何かか?いや、殺し屋を擁するNPOがあってたまるか。非合法的過ぎる。

「治安維持、という言葉の意味は分かるね?――詳しく話すつもりはないが、今この町は非常に危険な状況に置かれている。ともすれば、世界大戦の起爆剤にもなりうるようなね。少人数の組織だから出来ることは限られるけど、このまま放っておくことは出来ないんだよ」

「世界大戦……」

「この町が、この国が戦場になるかもしれない。そうすれば、また多くの人が死ぬ。君の大切な人達だって例外じゃない。俺達フェイクは、それを止めるために3か月前にこの町に来た。――ああ、君達を巻き込むつもりも利用することも絶対にしないから安心して。君達が考えるべきなのは、一刻も早く自身の日常に戻ることだけだ」

 それを聞いて、やっと僕は自分の猜疑心(さいぎしん)にキリをつけることに決めた。

 利用しようというなら、いくらでも僕達を騙すことだって出来た。あの路地裏の一件でさえ、命の保障と引き換えに自分達に協力するよう仕向けることが出来たはずだ。

 恩人に仇を返した。たとえそれが、気まぐれな成り行きの末の回答であったとしても。

「で、ファイブ」と、リシルさん。缶ビールをカシュッ、と気持ちのいい音を立てて開ける。

「具体的にこのガキ共に何をしてやれる?せいぜい人間の壊し方くらいしか知らない私達が」

「教えるのは人間の壊し方じゃなく、《根底》での泳ぎ方さ。適切な程度の力を持ってもらった上で放流する。それ以上の干渉はしないし、君もそれなら納得してくれるだろ?この子達の将来に責任を持つことなんて出来っこないけど、かといってそのままシャバに出て能力者に殺されたんじゃ、寝覚めも悪い。これはその折衷案さ」

 リシルさんは苦虫を潰したような顔をし、缶ビールを喉にグイっと押し込んで、目線を右に逸らす。

「ハン……見透かしたようなことを。……分かった。その条件なら飲もう」

「ありがとう。――じゃあ、早速だけど明日から頼むよ。君の生徒は秋くんだ」

「あ、明日っ!?明日は予定があると言っただろうが!」

 ……まあいいか、母さんには連絡しておけば。

 明日から一体何が始まるのか、会話の内ではよく分からなかったが、きっと手にしてしまった力の使い方を教えてくれるといったところだろう。

 陽月も、同様に。

「君の予定って、隣町の駅前にある和菓子屋のことだろ?えっと名前なんだったかな……」

「それ、もしかしてタカモトか?」

「あ、そうそう!リシルはそこの生どら焼きが大好物なんだ。毎週土曜日に2つ買ってきてすぐ食べちゃうんだよ」

 リシルさん甘い物好きなのか……意外。

 因みにタカモトは僕の住んでいる地域では結構有名な店で、母さんもよくそこで炭酸まんじゅうなどを買ってきたりする。生どら焼きは食べたことないが、理由は朝に並ばないと買えないからである。

「意外だと?」

「……なんでもありません」

 リシルさんに今日一番の鋭い視線を向けられた。怖い。

 それにしたって、自分の感情や思考を見透かされるのは少し抵抗があるな……。短い付き合いになるとは思うけど、慣れないと。

「甘いね、リシル」

「誰が甘い物好きだ!」

「言ってないよ!……タカモトの生どら焼き、1人2個までしか買えないって言ってたろ?」

「人気商品だからな」

「秋くん連れて行けば4個買えるよ。訓練に付き合うんだから、ここにいる間は並ぶのに付き合ってもらえばいいさ」

「お前……たまには冴えてるな」

「褒めても何にも出ないぞ~」

 なんなんだこの夫婦漫才は。

 つか、タカモト行くのか。明日何時に起きればいいんだろう……。

「8時には出るぞ。運転は私がしてやる。……訓練のこともあるし、今日はさっさと寝るんだな」

「車で行くんですか?」

「近くに町役場があるからな。そこの駐車場に止めて歩く。……絶対に寝坊はするな。したら殴る」

「は、はあ……」

 なんか飛鳥先生を思い出すなこの人。超級の美人で背も高くて胸もでかくて暴力的。

 正直、タイプ。

 やっぱ女性は年上に限るな。高校生のガキとは、醸し出す色気が違う。

「ということで今日は解散としよう。俺、先にシャワー浴びるから出たら秋くんも入りなよ。寝間着くらいなら部屋にあるから使っちゃって」

「あー、了解」

 そう言い残し、ファイブはさっさと部屋を出ていく。

 自動的にリシルさんと2人になってしまった。

「あいつ、私の分の飯忘れてるな……」

「昨日の残りのカレーがあるっぽいですよ」

「……足りん」

 そっかあ……足りないかあ……。

「肉体労働だからな。いざという時に腹が減って力が出なかったらそのまま……」

 リシルさんは右手で首切りのサインをする。そしてそのまま立ち上がり、冷蔵庫を物色しだす。

「そういえばお前の名前、なんて言うんだ?年は?」

「名前は瑠璃川秋。歳は数えで17、高校2年生です」

「そうか。家族は?」

「母親だけです。母方の両親は健在のようですが、会ったことはありませんね」

 僕がそう言い終わる頃、リシルさんが何か見つけたようで、大皿に載せられた残りのカレーと、何か冷凍食品らしきものをテーブルに置いた。

「餃子があった」

「味の素の冷凍餃子ですね」

「そうだ。私がこの国に来てから一番驚いたものだ。……まさか冷凍食品でこんなに美味い物が作れるなんてな。日本という国の技術の真髄を見た」

「そりゃあよかったです」

 何を言い出すのかと思ったら、冷凍餃子の感想でした。

 味の素さん、ありがとう。いつも美味しくいただいてます。

「瑠璃川、これを焼け。円に並べてキレイにな」

 僕が焼くのかよ。世界一簡単な焼き餃子なのに。

「……レンチン出来る別のものないんですか?」

「ほかにも色々あったが、これがいい」

「…………」

 顎で使われているが、どうしてか気分は悪くない。やっぱり僕はマゾなのかもしれなかった。

 キッチンに行き、置いてあったフライパンに丁寧に並べ、火をつける。すると、缶ビールを片手にぶら下げたリシルさんが僕の下にやってくる。

「手慣れているな。料理するのか」

「片親ですから、これくらいはしますよ」

 はたしてこれは、料理と言えるのか疑問が残るが。

「なるほどな」

 リシルさんは空になった缶をシンクに雑にほかる。さっきから何本飲んでんだこの人。

 そうこうしている内に、餃子の油がぐつぐつと音を立て始める。

「お前、油引いてないな。これじゃ焦げるぞ」

「え、知らないんですか?」

「何をだ」

「味の素の冷凍餃子は底に油がくっついてるから、油引かなくていいんですよ」

「ん?」

 リシルさんは慌てて冷凍餃子の包装を手に取る。

「すごいな。全然知らなかった……」

 日本の技術の真髄、全然知らなったのか……。

「今まで油を引いてしまっていた。脂質過剰だな」

「そういう問題ですかね……あ、そろそろです」

 背後にある食器棚から、大き目の皿を取り出し、餃子を焼いているフライパンに蓋をするように置き、皿を左手で抑えたままフライパンをくるっと引っ繰り返す。すると、餃子が綺麗な円を描いて皿に並んだ。

「どうぞ」

「驚くほど手際がいいな」

「母親が忙しい時は、週1で食べてましたから」

 リシルさんは両手で皿を丁寧に持ち、テーブルの方へ移動する。僕はシンクにフライパンを入れ、水につけた後、またテーブルへ戻る。

「いただくぞ」

「どうぞ」

 リシルさんは円形に並んだ餃子に、豪快にラー油をかけ、羽根をばらしながら食べる。

「美味い。やっぱりこれだな」

「そりゃよかったです」

 ビール、カレー、餃子と三角食べするリシルさんをよそに、僕はあることを思い出す。

「リシルさん、明日って車で行くんですよね」

「そうだ。駅前だがそう遠くはないし、車の方が便利だ」

「1つお願いがあるんですけどいいですか?」

「……なんだ」

「寄りたいとこあるんですけど。タカモト行くなら多分道中です」

「まあいいが、生どら焼きに支障が出るのなら話は別だ。……何処だ?」

 僕はリシルさんの瞳を真っすぐ捉えて、言う。

「陽月が襲われ、僕が能力者を殺した事件現場――路地裏です」


ここまで読んでいただきありがとうございます。


更新遅くなってしまい申し訳ございません。次回も近日中に更新予定ですが、仕事の関係上25日まで忙しいので、それ以降に一気に更新するつもりです。

目標、年末までに1-2.モーターサイクルが終わるよう進めてまいります。

よろしくお願いします。

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