開封の儀
新しいキーボード。これさえあれば、もっと速く、もっと楽しく書ける。
その期待が胸の中でぽこぽこと膨らんで、まるで遠足前の子どもみたいに、前日はほとんど眠れなかった。
まず言わせてほしい。今回のキーボードがどれほど私を狂わせたか。
・指が吸い込まれるような軽い荷重
・バターみたいにとろけるキータッチ
・高速入力が当たり前になる形状
こんなの……惚れるに決まっている。
テンション高めで語る私に、友人は「ふーん」とだけ返した。さすがに「で?」とは言わなかったあたり、優しさだと思いたい。
配送日当日。アプリには「配送は夕方ごろ」の文字。
徹夜で迎えた朝10時、私はつぶやく。「一度寝よう……。」
コンタクトを外して布団に潜る。そこで寝落ちできればよかったのに、「ピックアップできます。」と無情な通知。あまりのタイミングに「さすがにひどいよ…」と文句を言った瞬間、睡魔が勝った。
17時03分、起床。
シャワーを浴びてコンビニへ向かい、ついでの食事と、念願の“ご神体”を受け取る。
食事を終えるとまた眠気が襲い、私はあっさり二度寝した。
そして翌日0時33分。ついに“開封の儀”。
モニター前の聖域はすでに清掃済み。迎え入れ準備は万端だった。
箱はやたら大きく、ノートPCでも入っていそうなサイズ。重さまで似ている。
だけどその重さは無駄じゃない。手に持つだけで伝わる“安定と質感”。普通のキーボードが急におもちゃみたいに見える。
ふたを開けた瞬間、あの眠れなかった夜が全部報われた気がした。
だが、その幸福は長く続かなかった。
これは、“ご神体”を手にしたにもかかわらず
タイピングスピードがまさかの20%ダウンした筆者が、
過去のベスト記録をもう一度超えるまでの、
静かで熾烈な悪戦苦闘の記録である。
(ご神体での総打鍵数6,951)




