指令
それは、昼休みが終わる5分前だった。
教室の誰かのスマホが震えた。続けて、次々に――
「……なに、これ」
クラスの誰かが小さく呟いた。
私のスマホにも、知らない番号からメッセージが届いていた。
【オーダー01】
あなたはこの命令に従わなければ、死にます。
▷「佐伯涼を平手打ちしろ」
※制限時間:15分
※命令は1人ずつ送信されます。
冗談かと思った。
だが、すぐに状況が変わった。
「うわっ、涼、大丈夫か!?」
悲鳴とともに、佐伯涼が机に突っ伏した。
背中から血が――
「は……?」
彼のスマホが鳴っていた。画面に浮かぶのは、同じ差出人。
【オーダー失敗】
“佐伯涼”は指令不履行により処理されました。
「処理……って何……?」
誰かが吐き、誰かが叫び、誰かは凍りついたままだった。
***
担任の先生を呼ぼうとしたが、職員室には誰もいなかった。
校舎の外も異様に静かで、全員のスマホは通話不能。
Wi-Fiも切られていた。
教室のドアが自動的に施錠されたことに、誰かが気づいたのはそれから間もなくのことだった。
【オーダー02】
「宮下明里に“ブス”と言え」
※制限時間:10分
「誰か……お願い、やって……っ」
泣きながら懇願する宮下明里。
だが、誰も動かなかった。
「私……死にたくない……!」
彼女は、震える声で自分に言った。
「ブス……私は……ブス」
するとすぐ、画面に【オーダー成功】の文字が表示された。
「な、自己申告でもいいの……?」
誰かがそう呟いたが、それは安堵ではなかった。
すでに、教室には見えない“支配者”が存在していた。
***
それから3時間。
命令は続いた。
それぞれが、それぞれに指令を受けた。
「誰にも言うな」
「真実を話せ」
「泣け」
「笑え」
「唾を飲め」
「キスしろ」
「暴力を振るえ」
最初は軽いものだった命令が、次第に過激さを増していく。
そして、クラスの空気も徐々に崩れていく。
指令を恐れて他人に擦りつける者。
従うことに快感を覚え始める者。
従わされることに怒りを抱き始める者。
誰かが囁いた。
「これ、誰かが見てるよな……」
「クラスの誰かが、操作してるってこと?」
***
「ごめん……ごめんなさい……っ!」
藤堂が泣き叫ぶ。
【オーダー17】
「親友の秘密を暴露しろ」
彼女が選んだのは、かつての親友・優香。
そして、彼女の過去をクラスの前で叫んだ瞬間。
【オーダー失敗】
“藤堂美咲”は処理されました。
「え……?」
優香が震える声で呟いた。
「私じゃなかったんだ……」
***
日が沈み、クラスに残されたのは10人。
【オーダー20】
「この中の“主犯”を見つけて殺せ」
※タイムリミット:30分
成功しなければ、全員死亡
教室が静まり返った。
誰もが、お互いを見た。
「……誰?」
「まさか……本当にいるの?」
沈黙が走る中、ひとりの少女が立ち上がった。
彼女の手には、小さなナイフ。
「ずっと、分かってた。……お前だよね?」
その刹那、教室に警報が鳴り響いた。
【オーダー成功】
主犯は“水沢優”
ゲームクリアまで、残り:1人
教室のドアが開いた。
外には誰もいない。
カメラの赤いランプが、一斉に消えた。
最後に残ったのは、“彼女”だった。
口元には、静かな笑み。
「……さあ、次はどのクラスで“ゲーム”を始めようかしら」