賭け
ジョスはただの平凡な若者だった。毎日同じ日常に閉じ込められていた。
しかし、ある超自然的な出来事が彼の世界を揺るがし、彼はすべてを一から始めることを余儀なくされる。
理由も分からず、頼る者もおらず、望んでもいない運命を背負わされた彼は、未知に満ちた新たな現実に立ち向かわなければならない。
選ばれたのか? それとも間違いだったのか? あるいは、ただの終わりの始まりにすぎないのか?
もはや見慣れた世界ではない場所で、ジョスは気づくだろう——すべての再出発が平和をもたらすわけではない。
中には、本当の戦争への序章となるものもあるのだと。
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第9章:賭け
朝が来て、皆が出発の準備をしていた。
「ビリー、シン、ヒマリ、準備はいい? もうすぐ出るよ」とジョス。
「いま気を練習してたんだ」とビリー。
ジョスは子供たちの訓練を微笑みながら見つめた。
「どこで覚えたんだ?」とジョスが好奇心を見せた。
「あなたたちが訓練してるのを見たから」とヒマリが答えた。
「誰よりも強くなりたい」とシンは決意して付け加えた。
その時、リクが家に入り、笑顔で彼らをジッと見た。
「あなたも見習ったら? 君より動きが軽いわよ」とリクがジョスにからかって言った。
「みんな、準備できたか!? 行くぞ!」とマリアが家の外から叫んだ。
「もう行くよ!」とジョスが答えた。
荷物をまとめ、リク、ジョス、ビリー、シン、ヒマリは家を出た。
「さて、次はどこに向かうんだ?」とインが尋ねた。
リクは旅の途中で手に入れた地図を取り出した。それはポケットに折りたたまれていた。リクは地図を広げ、地面に置いた。
「ここにいる。普通ならこの辺に村があるはず。もし悪魔やオーガが完全に壊していないなら、人はいるはずよ」とリクが地図を指差しながら説明した。
「その村まではどのくらい?」とマリアが尋ねた。
「今いる場所からだと、約2時間歩く感じだね」とリクが答えた。
「はぁっ…車があればなぁ」とインは疲れ顔でつぶやいた。
「若者たちよ、まだ歩かなきゃならん。行くぞ!」とジョスが言った。
「マリア、俺を背負ってくれ?」とベルが聞いた。
マリアは驚いた顔で見た。
「なぜ? 息切れしたの?」
「そうだ…歩き疲れてさ。あの魔女のせいで皮膚が炭みたいだ」とベルはリクを指差して言った。
「誰が魔女だって? 猫の真似事か、この黒いやつが!最初からお前は黒かっただろ!」とリクは怒って言った。
「魔女って呼ぶほうが悪い、差別主義者か!」とベルは軽蔑の目で言った。
「猫の真似事か、ぶっ殺すぞ!」とリクがベルに飛びかかった。
リクがベルに飛びかかったが、インとジョスが止めた。その間、子供たちは笑った。
「お前ら、何に笑ってる?」とリクが唸った。
「さぁさぁ…出発しよう」とインが言った。
全員が落ち着き、リクが示した方向へ歩き始めた。
出発前、インが家から約6メートル離れた場所で、掌サイズの赤く燃えた羽根を見つけた。灰が舞っていた。誰にも気づかれないように、インはスカーフで羽を包みポケットに入れた。
しばらく歩くと、ジョスとインは話し、リクは子供たちと話し、ベルはマリアの頭の上で眠っていた。
その時、ベルが目を開け、マリアが本を読んでいるのを見る。
「マリア、その本は何を読んでるんだ?」とベルが尋ねた。
「恋愛マンガだよ」と彼女は笑顔で答えた。
ベルは本をよく見た。半裸の男性二人がキスをしている絵だった。
(なんだこれ…この変態女、何読んでるんだ!? 聞かないほうが良さそうだ…)とベルは嫌悪の表情で思った。
「内容を教える?」とマリアが話しかけた。
「いいや…そういう創作物、あまり興味ないんだ」とベルは視線をそらして答えた。
「質問がある、ベル」とインが真剣な顔で言った。
「何だ?」とベル。
「ジョスが悪魔を倒したら、体が黒い煙を出して消えた。あれはどうして?」と聞いた。
全員がベルの答えに耳を傾けた。
「悪魔を殺すと、その体は分解して元の世界に戻る」とベルは説明した。
「じゃあ死なないの?」とジョスが尋ねた。
「完全には死ぬ。でも魂は新しい体とともに戻ってくる。ただし前の記憶はない。いわば転生だ」
全員が驚いた表情を見せた。
「つまりお前を殺しても、新しい体で再生するのか?」とインが聞いた。
「そうだが、前世の記憶はない」とベル。
1時間半後、リクが言っていた村が遠くに見えた。
「見えるぞ、あそこだ!」とインが指差した。
「完全には壊されてないみたいだ」とジョスがコメントした。
「人だろ…あれ?」とマリアが村をじっと見ながら聞いた。
「そうだ、人だ!」とビリーが興奮して言った。
皆、気合を入れて村へ向かって走った。到着すると、非常に痩せた人々、歩くのも辛そうな者、床に横たわる者と衰弱した状態だった。
「何が起きたんだ…?」とマリアは恐怖混じりに囁いた。
「早く食べ物を!」とリクが命じた。
全員が持っていた食料を取り出し、苦しむ住民たちに配った。
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シンは老人にパンを差し出し、リクは母親の赤ちゃんに与えるのを助けた。ジョスとインは残りの食料を広げ、皆で共有した。女性の一人が涙を浮かべながら、リクの手を握った。
「ありがとう…ありがとう…死ぬと思ってた」と震え声で言った。
子供たちは静かに見守り、戦争の残酷さを初めて理解したようだった。
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そんな中、見知らぬ男が家の屋根の上に現れ、彼らを冷たい声で見下ろした。
「何してる? その食料、数時間後には死ぬ人間に与えて無駄だ」と彼は言った。
全員が男を見た。
「お前は誰だ?」とインが挑戦的に問うた。
「名前はどうでもいい。あいつらを死なせろ」と謎の男は答えた。
「なぜそんなことを言う?」とマリアが怒った。
「お前らアホか? 食料を無駄にしてやがる」
「ふざけんな、この馬鹿野郎!」とインが叫んだ。
瞬きする間に、男はインの前に現れて強烈な蹴りで壁に打ち付けた。
皆は驚いた。マリアが蹴りを放つが、男は片手で受け止めた。
「吹雪の像(Fuyu no zō)」と彼は呟いた。
その瞬間、マリアは完全に氷像と化し、動かなくなった。
「ひぃぃ!」とシンとヒマリは叫ぶ。
「マリア!?」とビリーが泣いた。
「何…どうしたの?」とリクが叫んだ。
「凍らせただけだ」と男が答えた。
「なら…お前も“聖なる道具”の使い手か?」とジョスが尋ねた。
「聖なる道具? そんなもの知らん。果実を食べたらこの力がついたんだ」
「この野郎…!」とインが腹を押さえてうめいた。
「お前は何が欲しい?」とジョス。
「食料はない。だからお前らのをいただく」と男。
ジョスは彼の腕を見て、包帯と腕に交差する縄を見た。
「武術家だな?」とジョス。
「気づかれたか?」と少し興味を持った男。
「包帯と腕の縄で気づいた」とジョス。
「観察力あるな」と男は微笑んだ。
「勝負してみるか?」とジョスが提案した。
「なぜ受ける?」と男は戸惑いながら言った。
「お前の格闘家としてのプライドだ。断れば俺が勝ったことになる」とジョスは真顔で返した。
男はじっとジョスを見た。
「はぁっ…もし俺が勝ったら、何もらえる?」と男。
「食料と…お前が言った『聖なる道具』の情報すべてをよこせ」とジョスが答えた。
「いいだろう」と男は決意して言った。
「俺が負けたら?」と男。
「お前は俺の最初の司令官になる」とジョスは宣言した。
「リク、どうだ? マリアを解凍するよう頼め」とシンが叫びかけた。
「受ける!」と男は危険な笑みを浮かべながら叫んだ。
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