表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傷ついた王子は森の魔女に癒される  作者: 阿佐夜つ希


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/31

9 魔女と過ごす夜(4)

 外から鳥の鳴き声が聞こえてくる。窓の外が明るくなりはじめている。

 ファリエルは結局、一睡もできなかった。


「ん……」


 小さな声が聞こえた瞬間、肩に感じていた重みと体温が離れていった。


「あれ、もしかして寄りかかっちゃってましたか……? すみません……」


 姿勢を戻したリリアナは、まだ目覚めきっていないのか、ぼんやりとしていた。

 眠そうな顔に、つい頬がゆるんでしまう。


「おはよう、リリアナ。目の調子はどうだ?」

「あ、はい、すっかり見えるようになりました! ありがとうございました!」


 ぱっと目を開いたリリアナは、素早く立ち上がってくるりと振り返ると、ファリエルに向かってぺこりと頭を下げた。



 部屋を出ていったリリアナの足音が遠ざかっていく。

 その音を聞きながら、ファリエルは、ぱたりとベッドに倒れ込んだ。

 夜じゅうずっと眺めていた無防備な表情が、頭から離れない。


「寝顔、かわいかったな……。って、なにを言ってるんだ僕は……!」


 自分のつぶやきに驚いて、素早く口を抑える。

 ここまで自分の心をコントロールできていない状態は初めてな気がする。

 このままではまずい――。

 

 ファリエルは、がばっとベッドから起き上がると部屋を飛び出した。





 リリアナは、顔を洗ったあと、台所で朝食を作り始めた。

 魔法を掛けた保存容器からキャベツを取り出して、ざくざくと切っていく。


(寝ているときに、誰かがそばにいてくれたのって本当に久しぶりだな。コーデリアさんは、今は会えなくなっちゃったし……)


 魔女は長寿だから、もしも人間と暮らすことを選んだら、必ず自分が看取る(・・・)ことになる。

『別れの苦しみを受け止められないならば、孤独に生きるべし』と魔女の間では言い伝えられている。だからこそ、魔女はひとりで生きる選択をする人がほとんどだ。


 でも、誰かがそばにいてくれるのって、安心する。

 コーデリアさんが来てくれたときはいつも本当に嬉しかったし、今だって――。





 家から飛び出したファリエルは、落ちていた大ぶりの木の枝を拾った。

 ひゅっと音を立てて、力いっぱい振り始める。

 これまで剣の鍛錬は、欠かさずおこなっていた。王子らしく勤勉であろうとするだけで、異母兄に眉をひそめられていたことが頭に浮かぶ。


 思い出したくない顔を思い出してしまい、剣代わりの枝で空中を切り裂く。

 何度もそれを繰り返すうちに、無心になれたかと思ったのに――またリリアナのことを思い出してしまった。



 寄りかかって来たときに香った、ほんのり甘いハーブの匂い。

 真っ赤になった照れ顔。

 薬を調合しているときの、真剣なまなざし。



 とくんとくんと心臓が騒ぎ出す。

 王子として過ごしていたときは、ひとりの女性のことばかり考えてしまうなんて一度もなかった。



 女遊びが激しかった異母兄は、もしかしたら女性への欲求がコントロールできなかったのかもしれない。以前は心の底から呆れていたが、今なら少しだけ、わかる気がする。


 剣に見立てた枝を何度振っても、雑念は振り払えない。


「一体どうしてしまったんだ僕は……!」


 もう一度、全力で枝を振り下ろした、その瞬間。



 ぱきっ、と。



 枝を踏む音(・・・・・)が聞こえてきた。

 自分の足元からではない。遠くで鳴った音。



 今のは明らかに人間か、生き物の出す音だ。



 ――まさか、追っ手が来たのか?

 でもなぜ僕がここにいるとわかった?



 魔女の森へは、魔女からの許可がなければ入れないはずだ。

 リリアナは、誰かを招いたとか、そんなことはひとことも言っていなかった。



 僕の関係者だとしたら、絶対にリリアナを巻き込むわけには行かない。

 武器は、手に持っている枝だけ。

 素早く辺りを見回す。落ち葉や木の実、朽ちた木の皮や倒木の破片くらいしか見当たらない。

 ただ、その場にあるもので戦う技術は身に着けてある。



 誰が来ようとも、必ず撃退してみせる。リリアナは僕が守る。



 ファリエルは息を詰め、身を低くして木の枝を構えると、音が聞こえてきた方向を睨みつけた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ