表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

8 魔女と過ごす夜(3)

今週も二話投稿します。

 リリアナにいきなり照れられて、ファリエルはぎょっとした。

 すぐに理由に気づいて、自分の発言が恥ずかしくなる。


「いや変な意味じゃない! 君をひとりにするのは忍びないという意味であって……! すまない、誤解を招く表現だったな」

「こちらこそ、おかしな反応しちゃってすみません……! 前に読んだ恋愛小説にそういうセリフがあった気がして! すみません、親切で言ってくれてるのに……」


 お互い挙動不審になりながら黙り込む。

 静まり返れば、速くなった鼓動が耳の中に響く。



 深呼吸して、心臓を落ち着かせる。

 リリアナにトラブルが起きている今、恥ずかしがっている場合ではない。

 また誤解されるかも知れないなと思いながら問いかける。


「リリアナ。ずっとそこに座っているのでは疲れてしまうだろう。もしよければ……ベッドに移動しないか」

「あ、そうですね。そうさせてもらいますね」


 ファリエルがリリアナの手を取ろうとした矢先、素早く立ち上がったリリアナが迷いない足取りでベッドに向かい、ぽすっと腰を下ろした。

 さすがずっとここに住んでいるだけあって、家具の位置関係が身に沁みついているのかも知れない。

 ファリエルは、行き場をなくした手を下ろして苦笑すると、椅子から立ち上がった。




「こういうの、懐かしいな……」


 ファリエルがリリアナの隣に座った途端、リリアナがぽつりと言った。


「私の先輩も、こうして一晩中そばにいてくれたことがあったんですよ。あのときは確か……手がしびれて動かなくなったんでした」

「それは災難だったな。薬作りはそんなにも難しいものなのだな」

「作業自体は難しくはないんです。でも私みたいに未熟だと、動揺したりだとか落ち込んでたりとか、逆に喜びすぎてるときとか。心の状態が反映されちゃうんですよね」

「なるほどな。それでさっき、暴発してしまったのだな」

「はい……。お騒がせしちゃってすみません」

「気にするな。それにしても、魔女同士で交流があるものなのだな」

「あ、はい。子供の頃は特に、どの先輩たちも気にしてくれてましたね」


 アクアブルーの瞳を覗き込む。見えていないせいか、まっすぐに見つめ返してもらえない。リリアナの目に自分が映らないことを、少し寂しく感じた。

 ――こういう気持ちを、久しぶりに感じた気がする。王城にいたときは、心を強く保っていなければ、すぐに悪意に飲まれていただろう。


 ファリエルが密かに沈んだ気持ちになった横で、リリアナの思い出話が続く。


「先輩たちって、勘がいいというか……。私が失敗して困ってるときに、ふらっと遊びに来てくれたりするんですよね。まるで見てたみたいに」

「それはすごいな。魔女の勘というものがあるのか?」

「そうなんですかね。私にはそういうのはないかも知れませんけど、先輩たちにはあるのかも。一番よく会いに来てくれた先輩はコーデリアさんっていうんですけど、とってもすごい方なんですよ。作るのが難しい薬をさらっと作れるのはもちろん、魔法を使って魔物と戦ったりもできるし、ほうきに乗って空を飛べたりもして」



 今まで聞いたことのない、魔女の能力に驚かされる。

 本当に、魔女という存在は、普通の人間とは違うものなんだ――。



 自分が出会った魔女について思い出すのが怖くても、リリアナに対してはますます興味が湧いてくる。


「君は、今言ったようなことはできないのか?」

「えーと、まったくできないってわけじゃないんですけど。そういうのって、薬を作るよりもものすごくたくさん魔力を使うので、本当にちょこっとだけしかできなくて。なので、実用的ではないんですよね」

「なるほど……」


 魔女についての話を聞くうちに、前に考えないようにした疑問が再び頭に浮かんでくる。

 今なら、魔女に出会い(・・・)というものがあるかどうか、聞けるだろうか。


(いや、こんなことを尋ねて、もしも『それくらいある』なんて答えられたら……)



 そのとき自分はどう感じるだろう――。



 聞くべきではないと自分の心を抑え込みたいのに、いつまでもそのことを考えてしまう。

 口にするかどうか思い悩むうちに、視界の端で影が揺れだす。

 隣に振り向くと、リリアナが目を閉じ、ゆらゆらと前後に揺れていた。いつの間にか眠ってしまったらしい。


 すうすうと、小さな寝息が聞こえてくる。

 きっと思いも寄らないトラブルで疲れてしまったのだろう。


 失礼なことを口にしなくてよかったとしみじみ思いながら、小声で呼びかける。


「……おやすみ、リリアナ」


 眠るリリアナが、少し微笑んだ気がした。

 無防備な寝顔のかわいらしさに、つい頬がゆるんでしまう。


 少しでも眠りやすいようにと、リリアナの肩に手を回し、慎重に引き寄せてみる。

 肩に寄りかからせた瞬間、ふわりとハーブの良い香りがしてきた。



 心臓が、どくんと跳ねる。



 ――なぜ僕は、こんなに緊張してるんだ?



 意識しないようにすればするほど緊張してしまう。

 肩に感じる重みと体温に、さらに脈が速くなる。


(寄りかからせたのは失敗だったか? いや、リリアナを安眠させるためだ、間違ってはいない……はず)


 深呼吸してみても、激しくなった鼓動はなかなか収まらない。

 ファリエルは、リリアナがすやすやと眠る横で、緊張したまま一夜を過ごした。

次は19時台に更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ