表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傷ついた王子は森の魔女に癒される  作者: 阿佐夜つ希


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/31

5 魔女の野菜の育て方(後編)

 ファリエルは、無意識のうちにリリアナをじっと見つめてしまっていた。

 ふと振り向いたリリアナと視線がぶつかる。途端にアクアブルーの目が見開かれた。


「あっあの、ファリエルさん。本当に大丈夫ですから。気に病まないでくださいね」


 と早口で言って、ぱっと顔を逸らす。見る間に頬が赤らんでいく。

 その反応でファリエルは、自分がリリアナの顔に見入っていたことに気がついた。

 いつの間にか無礼なことをしていた自分に戸惑いながら、話を目の前のキャベツに戻す。


「それにしても、これを収穫するとなると骨が折れそうだな」

「そうなんですよね。なので、外側から一枚ずつ食べていこうかと」

「なるほど、それなら丸ごと収穫しなくて済むのか。でも味はどうなんだ? 変わってしまうのか?」

「多少は大味になっちゃいますけどね。でもまずくて食べられないってほどじゃないんで大丈夫ですよ! ただ……」

「……ただ?」


 ふと視線を落としたリリアナの表情を見て、緊張感が走る。

 黙って次の言葉を待つ。すると、リリアナが両手をぎゅっと握って気合いを入れるポーズをした。


「一枚でも大きいので、今日はキャベツ料理をたくさん作らなくちゃですね! いっぱい食べてくださいね!」

「ああ! もちろんだ。楽しみにしている」


 深刻な事態にならなくてよかった――。内心ほっとしながら、リリアナと力を合わせて巨大キャベツの葉を慎重に剥ぎ取っていく。

 一枚だけでも傘のような大きさのそれを、ふたりがかりで室内に運び込んだ。



 なまっている身体は、それだけで疲れを感じてしまう。

 でも自分のせいで余分に調理させることを思えば、任せきりにするわけにはいかない。

 料理の経験は数えるほどしかない。野営訓練で学んだことは、役立つだろうか――手伝いを申し出ようとした矢先。


 リリアナの方から先に話しかけてきた。


「ファリエルさん、お手伝いありがとうございました! お夕飯、ちゃちゃっと作りますんでゆっくり休んでてくださいね!」

「……すまない、お言葉に甘えさせてもらう」


 リリアナが大きな葉を切り始めたのを横目に見ながら台所をあとにする。

 すっかり自分用と化しているベッドに腰を下ろした途端、眠気が込み上げてきた。


 食欲がないとか言っている場合じゃないな。リリアナの手料理をいただいて体力を取り戻さなくては。一刻も早く、彼女の役に立てるように――。


 そう思ったのを最後に、記憶が途切れた。




「……さん、ファリエルさん。お夕飯、できましたよ」


 優しい呼びかけに意識が浮上する。その途端、美味しそうな香りが漂ってきた。

 ファリエルは、座った姿勢で眠ってしまっていた。

 重いまぶたを開く。膝に手を突いたリリアナが顔を覗き込んできていた。

 アクアブルーの目は、少し申し訳なさそうな表情を浮かべていた。


「起こしちゃってごめんなさい。あったかいうちに食べてもらいたくて」

「いや。起こしてもらえて助かった。ありがたくいただこう」



 リリアナの手製の料理を食べ始める。キャベツはどれもよく煮込まれていて柔らかい。

 久しぶりの食事であっても食べやすかった。そこまで気を遣ってくれたのかもしれない。

 多少は大味になるとリリアナは言っていたが、キャベツの甘みはしっかり感じられた。干し肉の旨味が様々なハーブで引き立てられている。


 夢中で食べていると、おそるおそる尋ねてくる声が聞こえてきた。


「どうですか……? お口に合いますか?」


 口の中のものを急いで飲み込んでから、何度もうなずいてみせる。


「ああ! もちろんだ。料理が上手なんだな君は。こんなにおいしいキャベツ料理は食べたことがない」

「わわ……ありがとうございます」


 ファリエルがちらっとテーブルの向こうを見ると、リリアナの顔がほんのり色づいていた。口元を微笑ませている。

 うれしいのはこちらの方なのに――。そう思いながら、ファリエルはリリアナの手料理を食べ進めて行った。




 リリアナは、自分の料理が喜んでもらえたことにほっとしていた。

 目だけを上げて、様子をうかがう。ファリエルは、一度会話して以降はずっと、無言で食べて続けている。

 料理を口に入れた瞬間の、目を細めた顔。思いも寄らないその表情に、感動が込み上げてくる。


(自分の料理を誰かに食べてもらえて喜んでもらえるのって、こんなにうれしいものなんだ)


 ふと、先輩魔女の顔が思い浮かぶ。

『私の焼いたクッキー、おいしそうに食べてくれたの。嫌がるかと思ったのに』――。

 人間の恋人ができたあの人の、はにかんだ笑顔。

 理由は教えてもらっていないけど、長続きしなかったとは聞いている。


 自分に魔法を掛けてまで、心を閉ざして。

 そこまでしないと耐えられないくらいのことだったんだって、当時は驚いたけど。



 今でもずっと、その人を忘れられない気持ち、今ならわかる気がする――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ