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傷ついた王子は森の魔女に癒される  作者: 阿佐夜つ希


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29 最期の挨拶

(リリアナは、僕が嫌になって追い出したわけではなかったのか?)


 泣きじゃくるリリアナの独り言に、ファリエルは息が止まるほどの衝撃を受けた。一気に鼓動が速くなる。

 壁に背を付けて、そっと様子をうかがう。

 寂しがる様子と不似合いな巨大キャベツ。きっと、ふたりの思い出が詰まったもののひとつとして、すがりつかずにはいられなかったのだろう。


 ファリエルが出ていくタイミングを失っている一方で、リリアナの独白が続く。


「私もコーデリアさんみたいに、自分に魔法を掛けてずっと眠り続ければ、いつかは忘れられるのかな……」

「――!」


 リリアナが、僕を忘れる?

 僕はこれからリリアナを忘れてしまうけれど、リリアナに忘れられるのは嫌だ――!

 強い衝動に突き動かされて、気づけばファリエルはリリアナの前に飛び出していた。


 途端にリリアナがばっと振り向く。潤んだアクアブルーの目を見開く。


「ファリエルさん!? 戻ってきてくださったんですか!?」

「……。君は……?」



 いきなり状況が把握できなくなった。



 この子は一体誰なんだ? 僕は一体なぜこんなところに――。



 目の前にいる(・・・・・・)女性(・・)の姿が心をすり抜けていく。

 ファリエルはその場に立ち尽くし、何度もまばたきした。

 なぜこの子は僕のことを(・・・・・)知っているんだ(・・・・・・・)



「あの、ファリエルさん。……どうかされましたか……?」


 黒いローブをまとった女性が畑の中で立ち上がる。

 異様な大きさのキャベツ。あれは本物なのか? 現実の光景とは思えない。


 必死に状況を把握しようとしていると、宙に浮いたガラス玉がふわふわと視界に入ってきた。


「っ……!」


 青い炎を見た瞬間、本のページを高速でめくるかのように、これまで見てきた光景が頭の中で次々と繰り広げられた。



「……ああ、僕は……」



 リリアナに会いに来たんだった――。



 ガラス玉の中で燃える炎は明らかに小さくなっていた。

 記憶が消え去る前に、早くリリアナに感謝を伝えなければ――!


「……リリアナ。……会いたかった」

「――!」


 びくりとリリアナの肩が跳ねる。目を見開いたまま凍りつく。

 でもすぐにはっとした顔になると何度も首を振った。ミルクティー色の髪が乱れる。


「ファリエルさん、追い出したりなんかして本当にごめんなさい! 私――」


 必死に訴えてくる唇の前に人差し指を立てて、言葉を遮った。

 まばたきの増えたリリアナの目を覗き込む。濡れたアクアブルーの瞳は、いつまでも見ていたいくらいにきれいだった。


「……僕は、最期(・・)の挨拶に来たんだ」

「さいご……ですか……? ファリエルさん、どこかへ行ってしまうの……?」


 眉尻を下げたリリアナが、か細い声で問いかけてくる。

 寂しげな表情が胸に刺さる。そうじゃない、と首を振ってみせる。


「僕は、君の元から去ったあとに魔獣と遭遇して大怪我をしてしまってね。コーデリア嬢に助けてもらったんだ」

「コーデリアさんが、ファリエルさんを……」

「ああ。それで、恩返しとして……僕の命を彼女に捧げることにしたんだ」

「コーデリアさんに命を捧げる!? どういうことですか!?」


 叫び声が森にこだまする。目を見開いたリリアナが一歩迫ってきた。

 驚くのも無理もない。ファリエルは一度深呼吸すると、冷静さを装いながら説明を続けた。


「彼女の作った記憶を消す薬を飲み、記憶をなくした上で殺されるんだ」

「そんな……ウソですそんなの! コーデリアさんがそんなことするはずが……」

「本当だ。実はもう、その薬は飲んでしまったんだ。『最期にリリアナに会いたい』と言ったら、『先に飲まなければ許さない』と……」


 リリアナがまるで「信じたくない」とでも言うように首を振る。

 その拍子に、ファリエルの後方から視界に入ってきたガラス玉がふたりの間をさえぎった。中の炎はすっかり小さくなっている。ファリエルは、ガラス玉の下に手を添える風にして青い炎を指し示した。


「……その代わり、リリアナに会うまでには薬の効果が出ないように発動を遅らせてくれたんだ。この炎が消えたら……僕の記憶は消える」

「炎が消えた瞬間、全部忘れてしまうの……?」


 つぶやいたリリアナの目が見る間に潤んでいく。涙が一粒、頬を伝い落ちていく。

 ファリエルはたまらずリリアナに手を差し伸べるとその両手を取り上げた。

 冷えきった手に熱を与えるように、ぎゅっと握りしめる。手首には、ユリ模様のお守りが着けられていた。


 途端に揺れだしたアクアブルーの瞳をじっと覗き込む。


「リリアナ。僕を救ってくれて、僕を癒してくれて、本当にありがとう。君と過ごした日々は、これまで生きてきた中で一番幸せな時間だった。君への恩を仇で返す選択をしてしまい、本当に申し訳ない」


 ファリエルが思いを伝える間、リリアナはファリエルを見上げて固まっていたものの――少しずつ視線を落としていった。





 リリアナは、切実なファリエルの言葉を受け止める一方で動揺していた。

 ファリエルに手を握られた瞬間、ファリエルの飲んだ薬の効果を魔力で感知したからだ。

 薬には、ファリエルの説明よりもずっと高度で複雑(・・)な効能が付与されていた。



 ファリエルさんは、記憶が消える薬って言ってたけど、違う。それだけじゃない。

 記憶消去と、もうひとつ。


 生命エネルギーの増大?

 ジャーヴィスさんが飲んだ薬みたいに、寿命を延ばす効果が付与されてるの?



 目を閉じて、さらに魔力の流れを辿る。

 薬の発動条件は、青い炎が消えることだけじゃない。



 『炎が燃え尽きる前に、自ら愛を示すべし』――。



 自ら(・・)愛を示す(・・・・)!?

 それに、私がこれを伝えたら無効化されちゃうようになってる……!


 リリアナは唇を噛み締めると、必死にファリエルを見つめた。



 お願いファリエルさん、どうか気づいて――!

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