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傷ついた王子は森の魔女に癒される  作者: 阿佐夜つ希


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18 王子と魔女を繋ぐもの

ユリの花が(・・・・・)あしらわれた(・・・・・・)お守り(・・・)を……ファリエルさんは、もらったことがあるのですか!?」


 リリアナが上擦った声で尋ねてくる。

 そこまで驚くことなのだろうか。


 手首に巻かれたお守りを顔の前にかざして、改めてまじまじと見る。


「ああ。見れば見るほどよく似ているな。以前もらったお守りも、確かにこの模様だった」

「本当に……本当に、ユリの花、でしたか……?」

「ああ、間違いない」



 力強くうなずいてみせる。

 忘れるはずがない。

 あのお守りは、薄暗い牢の中でも、僕の支えとなってくれたから――。



 リリアナの顔は、完全に血の気が引いていた。

 肩で息をしている。



 どうしたんだと尋ねようとした矢先。

 リリアナが、今にも泣きそうな声で説明を始めた。


「……魔女のお守りって、それぞれの魔女が独自のデザインで作ります。別の魔女が同じお守りを作ることは、絶対にできない(・・・・・・・)んです」

「絶対に……同じものを作れない?」

「はい。お守りにユリの花の模様をあしらった魔女は、私以外にいません。魔女がお守りを作るときに、同じ花をモチーフにすることはできない。そういう仕来たりなんです」


 握り合わせた手の震えが、ますます激しくなっていく。


「……もし知らずに作ってしまったとしても、魔力を付与できないから必ず気づくんです。『この花はもう、他の魔女が使っているモチーフなんだ』って」



 つまり。

 僕がもらったお守りは。



 リリアナから贈られたものでなければ、辻褄が合わない――。



 アクアブルーの瞳が絶望に染まる。


「ファリエルさん……。あなたはまさか、私が子供のとき(・・・・・)に、うちに来た王子様なのですか!?」

「君が……、先日(・・)の少女だったのか……?」



 僕は心のどこかで、秘薬を求めて訪ねた魔女がリリアナだったことに気付いていたのかもしれない。

 だから、いつしかリリアナの子供の頃を想像したときに心臓が騒いだのか――。



 顔が真っ白になったリリアナが、足をよろめかせる。

 大きな音を立ててドアに背をぶつける。


「どうして、あなた、まだ生きて……。もうとっくにお亡くなりになったかと思ったのに……」

「だが君も……ついこの間(・・・・・)会ったとき、君は少女ではなかったか? 魔女はほんの数週間で、そこまで育つのか?」

「――!」


 リリアナが、びくっと肩を跳ねさせた。

 両手を腹の前でぎゅっと握り合わせて、そっとうなだれる。


「どうして……? でも、そういうこと(・・・・・・)、なんですね……」


 小声でつぶやいたリリアナが、ドアから静かに身体を起こした。

 アクアブルーの目を細めて、力なくファリエルを見つめる。


「あなたがここに来たのは、125年前です。あれから百年以上、経ってるんです」

「百年以上!? そんなまさか……!」



 125年――。

 あり得ない。信じられない。まったく記憶にない。



 もし本当にそんなにも長い時間が経っているとして。

 僕は一体、どこでどう過ごしていたんだろう。

 それに、百年経った祖国は今、一体どうなってしまったのだろう――。


 疑問が頭の中で積み上がっていく。

 それはリリアナも同じようだった。


「でもどうして、私はあなたを過去から召喚してしまったのでしょうか……。ファリエルさん、私が召喚する直前の記憶ってありますか?」

「それは……!」


 記憶がないはずがない。

 拘束されて、処刑台に連れ出されて。

 民の怒号の中、剣が振りかざされて――。


「っ……!」


 死を覚悟した瞬間が脳裏によみがえる。

 一瞬にして目の前が暗くなった。



 速くなった鼓動が視界を揺さぶり続けている。

 ファリエルが黙り込んでいると、リリアナが切なげに眉根を寄せた。


「もしかして……、話したくない(・・・・・・)ようなこと(・・・・・)があったのですか?」

「……」


 処刑に至るきっかけは、魔女の秘薬とお守り。

 ただ、それらはあくまできっかけ(・・・・)に過ぎない――そう断言できる。

 それでも、経緯を正直に伝えたらリリアナは確実に傷つくだろう。


 互いに様子をうかがったり、目をそらしたり。沈黙の時間が続く。

 森の木々が、強風にざわめき出す。




 ファリエルが無言でうつむいていると、リリアナの方から話しかけてきた。


「あなたが私を訪ねてきたとき、こう言ってましたよね。『僕はボナマハト王国の第二王子だ』って」

「――!」

「お名前だって、もちろん憶えてましたよ。『ファリエル・ボナマハト』……。召喚直後にファリエルさんからお名前を聞いて、あのときの(・・・・・)王子様(・・・)と同じ名前だなってずっと思ってましたけど……。苗字は言ってなかったし、きっと別人だろうなって、そう思い込んでました」


 確かにリリアナに名乗ったときは、彼女を自分の事情に巻き込みたくなくて、苗字を伏せていた。

 結局、巻き込んでしまった――。

 自分の不甲斐なさにうなだれる。



 また、互いに黙り込む。

 何を言えばいいのか。何を思えばいいのかわからない。



 強風に肌が冷えきった頃。

 リリアナが、ぽつりと問いかけてきた。


「ファリエルさん。確かめに……行ってみますか? 貴方の故郷を」

「……!」


 百年以上経過した祖国。

 きっと、何もかもが変わってしまっているだろうけれど。


「……。ああ、君も一緒に来てもらえるなら心強い」


 アクアブルーの瞳をまっすぐに見て、静かにうなずいてみせた。



 本当は、見にいくのが怖い。

 あれから125年も経過した今。

 祖国はどんな道筋を辿ったのだろうか。


 当時、僕は確実に処刑されたのだろうか。

 処刑されたなら、なぜ僕は今、生きているのか。




 じっとファリエルを見つめていたリリアナが、ふと視線を逸らした。

 家の中に駆け込み、鞄を持って出てくる。街とは逆方向に歩きだす。


 黒いローブとミルクティー色の髪が風に揺られている。

 ファリエルは、緊張感に息を呑むと、無言でリリアナのあとを追った。

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