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傷ついた王子は森の魔女に癒される  作者: 阿佐夜つ希


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17/31

17 武器の調達と、幼い魔女との思い出

 鍛冶屋の店主と目を合わせる。

 息を詰めて、相手の出方を見る。


 もしも僕が、指名手配されていたとしたら。

 彼は、自警団を呼ぶために店を飛び出すかもしれない。



 今さら別人のふりをする意味はあるだろうか。

 そう迷いながら、店主の挙動を警戒する。



 ひとまず客のふりをしてみせて、反応を見よう――。

 ファリエルが挨拶しようと息を吸い込んだ矢先。



 男性の方が先に、ぽつりと言葉を発した。


「あんた……」

「……?」


 僕が、なんだというのだろう。

 もし僕がファリエル王子(・・・・・・・)だとばれたら、リリアナの手を掴んで逃げ出そう。


「とっ……」

「と?」


 なにを話そうとしているかわからず、わずかに首をかしげてみせる。

 すると突然。


「――とんでもねえべっぴんさんだな! うちには冒険者がしょっちゅう訪ねてくるけどよ、あんたほどの美人は初めてだ!」


 大声を浴びせかけられた。平和な内容の発言にほっとする。


「……そうか。お褒めに預かり光栄だ」


 ダークブルーの長い髪を払いながら、そっと笑みを浮かべてみせる。

 だらしない顔をした店主が「ほわ……」と口を開けた。


 その反応に困って隣を見る。

 リリアナもまた、ファリエルを見上げて同じ顔をしていた。


 心の中だけでこっそり苦笑しながら、小声でたしなめる。


「(リリアナ。君は今は私の(あるじ)なのだから、そんな風に見とれた顔をしてはいけないよ)」

「(……! そ、そうでした)」


 必死な様子でうなずいたリリアナが、頬を押さえてゆるんだ表情を戻そうとする。

 その可愛らしさに、張り詰めていた緊張感がふっと軽くなった。




 店内に漂う、奇妙な雰囲気。

 小さく咳払いしてから、本来の目的を切り出す。


「では改めまして……。今日は剣を買いに来ました。昨晩、魔物に襲われてしまいまして。なにぶん急なことで、剣を投げつけなければ逃げられなくて。鞘まで折られてしまったし……。こんな情けない騎士ではありますが、新たな剣を見繕ってはもらえませんでしょうか」

「ああ、そりゃ災難だったな。魔物なんて、ここいらじゃ滅多に見かけないんだが……」


 腕組みした店主がうなりだす。

 ――しまった。作り話が不自然だったか?

 そういえば、リリアナと話したときも『魔物はすぐに魔女の森に逃げ込む』と話していた。


 今さら発言は取り消せない。

 するとリリアナが口を挟んできた。


「彼女はボクを守るために、精一杯がんばってくれたんだ」

「なるほどな。坊ちゃんは見たところ、剣なんて持ったことないって感じだもんな」

「ああ。彼女には、いつも世話になっている」

「恐れ入ります、リオルド様」


 主人(・・)に向かって頭を下げてみせる。

 顔を上げた途端、まばたきの増えたリリアナが不安そうにこちらを見ていた。

 大丈夫、ちゃんと演技できているから――安心させるように微笑んでみせる。



 笑顔のまま、店主に視線を戻す。

 すると店主はなぜか顔を赤らめて、でれっとだらしない笑みを浮かべた。


「まあ、あんたくらい美人だと魔物も放っておけなかったんだろうなあ。剣はしかたねえさ。逃げられてよかったな!」

「……ありがとう」


 鍛冶屋の主人はとても親切だった。

『あんたくらいの背丈ならこれくらいがいい』と、数本見繕ってくれた。

 その中から、軽さと丈夫さとのバランスが最も良いものを選んだら、『さすがお目が高い!』などと大げさに褒められてしまったのだった。




 無事に用事を済ませて、ほっとしながら帰路に就く。

 店主とやり取りしていたときの、リリアナのきらきらとした目。

 思い出すだけで、つい微笑んでしまう。


 ファリエルは、長い髪をなびかせながらリリアナと並んで森を歩き、来たときと同じくらいの時間をかけて魔女の家へと帰った。



    ***



 次の日の早朝。


 新品の剣を腰に携えて、リリアナに水と食料を渡されて。

 狩りの準備は整った。


 扉を開け放つ。家の外に、一歩踏み出す。

 見渡す限り広がる森。

 まずは魔物を見つけなくては――と思った瞬間。



 いきなり不安が湧いてきた。



 確かに剣技は得意だ。

 でも魔物と戦って、傷を負ったときに。

 痛みを感じたときに。



 僕は心を強く保ったまま、魔物と対峙し続けられるのだろうか?



 拷問のときの痛みが心によみがえる。視線が下がっていく。

 ふと、背後に立つリリアナの存在を思い出した。

 彼女に怯えた姿なんて見せたくない。


 意を決して顔を上げる。

 その拍子に、リリアナが前に回り込んできた。


「待ってくださいファリエルさん。これ、着けていってください」


 手を取り上げられて、手首に細い紐のようなものを巻かれた。

 きゅっと端を結んだリリアナが、ファリエルを見上げて柔らかな笑みを浮かべる。


「これ、私が作ったお守り(・・・)です。危険な目に遭いそうになっても、このお守りがあれば、怖いことなんてなにもないですからね。のんびり散策してきてください」



 腕を持ち上げて、白い紐で編まれたそれをじっと見る。



 ――幼い魔女も、こうして手首に巻いてくれたんだったな……。



 魔女に秘薬を作ってもらい、ほっとしながら帰ろうとした矢先に呼び止められた。

 そのときの、一生懸命に紐を結ぼうとする表情。

 結ぶのに何度も失敗していた。

 焦った顔が、次第に泣きそうになっていった。

 ファリエルが「大丈夫、ゆっくりでいい」となだめたら、ぽっと頬を赤らめていた。


 はにかんだ笑顔。

 今、はっきりと思い出せたからこそわかる。

 ――やはりあの少女はリリアナに似ている気がする。



 魔女からもらったお守りが決め手となって、魔女と通じていると断定され、僕は処刑された。

 でもどうしても、手放したくなかった。



 陰謀の渦巻く王城で、僕の心を守ってくれると思えたから――。




「あの……ファリエルさん?」


 小声の呼びかけに、はっと我に返る。

 するとリリアナが申し訳なさそうに眉をひそめていた。


「勝手なことしてすみません。もしかしてこういうの嫌いでしたか? 無理して着けていただかなくても……」

「……いや」


 外そうとする手を、そっとさえぎる。


「ありがたく着けさせてもらうよ。こういったものに思い入れがあるというか……。前にもこうして、魔女のお守りを着けてもらったことがあるんだ」


 腕を顔の高さまで持ち上げて、お守りを眺める。


「ああ、ユリの花があしらわれた、この編み方も一緒だ。また着けさせてもらえて嬉しいよ」

「えっ!」


 今まで聞いた中で一番の大声が、森にこだました。



ユリの花の(・・・・・)お守り(・・・)、ですか……!?」



 リリアナが大きく目を見開く。

 アクアブルーの瞳が揺れる。


 ただでさえ色白なその顔は、すっかり青ざめてしまっていた――。

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