第34話 あせった
パーティを合併させて数日。草薙たちは訓練のために演習場を使用していた。
この日、草薙はミゲルと手合わせをしていた。草薙の接近戦に、ミゲルは剣身の側面を使っていなしていく。
(そうやって攻撃を防いでくるなら、へし折るまで……!)
草薙は身体強化を意識して、ミゲルの剣をぶん殴る。しかし剣の扱いには長けているミゲルは、拳の突入角度を調整して上手く受け流していく。
「……そこまで!」
ジークの合図があり、二人は演習を終了する。
「ふー……」
草薙は演習場の待機場所に戻り、革の水筒に入った水を飲む。体力を使った後の水分補給は大事だ。
一緒に戻ってきたミゲルは、剣の手入れをしつつ、何か深刻そうな顔をしていた。それを横目で見る草薙。
(こういう時って、声をかけたほうがいいんだろうか……)
タオルで汗を拭きながら、草薙は難しい顔をする。そんな時、ミゲルが愚痴をこぼす。
「やはり、新しいスキルを習得するべきだろうか……」
「えっ?」
その言葉に、草薙は思わず反応してしまう。
「どうしたんだい? 変な声を出して……」
「あ、いや……。そういえばスキルってどう習得するんですか……?」
ある違和感が草薙の脳裏をよぎったため、ミゲルに確認を取る。
「どうって……。大まかに分けて二種類しかないだろう。王都の神殿で生まれ持ったスキルを目覚めさせる『覚醒』か、後からスキルを付与してもらう『授与』の二つだ。特に授与して貰ったスキルは後天的特異技能と呼ばれているのは有名な話だろう?」
「へ、へぇー……」
草薙は急に冷や汗が出てくる。違和感が確信へと変わった。
草薙は戦いの中で成長したり新しい技を使用すると、スキルが勝手に付与される状態になっている。つまり、ミゲルが上げた覚醒とも授与とも違う形態を取っていることになるだろう。
草薙はこのことを黙っていようと考えた。もしこの情報が反王家派にまで流れてしまったら、それこそ大量の暗殺者を差し向けられておしまいだろう。
(だけど……。一緒のパーティになったんだ。一緒になって解決策も考えてくれるって言ってた。なら……)
草薙は決心し、ミゲルに声をかける。
「あの、ミゲルさん」
「ん? どうした?」
「一つ相談というか、確認したいことがありまして……」
「確認?」
草薙はコクリと頷き、口を開く。
「その、さっきスキルの習得方法って二種類あるって言ってましたよね?」
「そうだね」
「自分、スキルを授与されてないのに増えてるって時あるんですよ……」
「……え?」
当然、パーティメンバーとナターシャ、ギルド長に話が伝わる。
「スキルが勝手に増えてる?」
「はい。最初は身体強化のスキルしか無かったんですが、戦っていくうちに三つもスキルが追加されていたんです」
「戦いの中で進化しているというのか……」
「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないですよギルド長。コイツは場合によっては北方教会に消される可能性がある。それだけ危険な存在だ」
ジークが指摘する。教会に消されるということは、おそらく許されざる力なのだろう。
「後天的特異技能が増えるって、もしかしたらタケルの出自と関係しているのかも……」
そんなことをナターシャがポロッとこぼす。
「タケルの出自って特殊なのか?」
「ま、まぁそうですね……」
草薙はしどろもどろになる。しかし、これ以上隠し事をしていても意味はないだろう。
そう判断した草薙は、自分が異世界から来た人間であることを話す。
「タケルがこの世界の人間ではない……!?」
「なるほど。妙に世間のマナーやルールを知らなかったり、冒険者カードの作成時に身分証を提示出来なかったのはこれが理由だったのか」
各々が理解し、納得する。
「理解できたら、この話はおしまいでいいですかね……? 自分の出自やスキルの話はそこまで重要じゃないはずです」
「元はといえば、僕が新しいスキルを習得しようと考えてた話だからね」
そういってミゲルは会話の軌道を修正する。
「ほう。ミゲルは新しいスキルを習得しようとしていたのか。それはどうしてだ?」
「僕のスキルは、通称『巨人の光の剣』です。これは巨大であったり、攻撃力の高い相手には有効なスキルです。しかし詠唱が長く、取り回しに難があるのが欠点とも言えます。今までは自身の剣の技量でなんとかしてきましたが、このままではいつの日かやられる日が来てしまう。だから新しいスキルが必要だと判断しました」
ミゲルの切実な思いである。
「確かに、ミゲルのスキルは使い勝手が悪いとも言える。だから新しいスキルを授与してもらって、それを戦闘に役立てるのは理にかなっているだろう」
ギルド長が総評する。
「スキルを習得するには王都に出向く必要があるな。ちょうどいい。王都にはギルド本部がある。他国からの情報はもらったが、国内の情報に関してはまだ武力省とギルド本部で情報収集している段階だ。今から王都に出発すれば、精査された情報を手に入れることが出来るはずだ。その片手間で、スキルを授与してくるのはどうだろう?」
ギルド長が草薙たちに提案する。
「確かに、いい考えですね。そのようにしましょう」
「でしたら、またマシューとアニスを護衛兼御者として連れて行きますわ」
「うむ。すぐにでも出発できるように、各自準備を整えてくれ」
「「はい!」」
こうして草薙たちは、王都へ向かうことになった。