第44話 内戦の果て
ノルデンは今、未曾有の危機に直面している。
国の西部では魔物たちによる反乱が勃発し、その勢力は急速に拡大。ノルデンの西部の多くの領土は、すでに反乱軍の手中に落ち、彼らはついに首都コペンホルムの目前にまで迫っていた。
これまで俺たちが築き上げてきた共存の理想が、今まさに崩れ去ろうとしている。
リュクシス公国や大イギリシア帝国といった同盟国も、この内戦には干渉しないことを宣言していた。
俺たちが自らの力だけでこの問題に対処しなければならない状況だ。
エリザやセレスティアも国際的な支援を得ようと尽力してくれたが、内政問題への干渉は控えるというのが大国たちの共通したスタンスだった。
「エルターナ様、我々だけで戦うしかありません」
レオが力強く告げる。彼の率いる国軍は必死に防衛線を張っていたが、魔物たちの魔法技術の高さに苦戦を強いられていた。
魔物たちの中には、人間以上に魔法の扱いに長けた者がほとんどだ。
彼らは魔力を駆使して大規模な攻撃を繰り出し、国軍の防衛網を次々に打ち破っていた。
「どうしますか、エルターナ様。 私たちはこれ以上押されると、首都の防衛も危うい状況です」
リリアンが焦燥感を隠しきれない様子で俺に問いかける。
確かに状況は深刻だ。
国軍の兵士たちも奮闘していたが、魔物たちの魔法攻撃を前にしては限界がある。俺自身も何度か前線に赴いて魔法を使い、反乱軍の攻撃を防ごうとしたが、彼らの数と戦力には手を焼いていた。
さらに、俺の心の中には大きな葛藤が渦巻いていた。
俺には「神託之使」や「神々の審判」といった強力なスキルや古代魔法がある。だが、それらの魔法を使えば、この国土を大きく傷つけることになるのは避けられない。
ノルデンの未来を守るために、俺は自らの手でその土地を壊すべきなのか?
「エルターナ様、このままでは防衛線が突破され、コペンホルムに敵が侵入します!」
レオが切迫した声で報告する。彼の目は鋭く、だがその奥には、無力感を感じているのが見て取れた。
俺は、とうとう決断を下さなければならない時が来たことを悟った。
「……分かった。俺に任せろ。これ以上、彼らにこの国を荒らさせるわけにはいかない」
俺はそう言い放ち、レオやリリアン、そして他の幹部たちの視線を受けた。
彼らも俺が強力なスキルを使うことに戸惑いを覚えているのがわかったが、もはや他に手段は残されていない。
俺は外に出て、高台に登った。
目の前に広がる戦場を見渡す。西の空には黒い煙が立ち上り、反乱軍の進軍が徐々に近づいているのが見える。
「神よ、我が祈りを聞き届け、ノルデンの地を守るために力を貸してください」
そう呟きながら、俺は「神託之使」を発動させた。
途端に、周囲の空気が変わり、俺の手からまばゆい光が放たれた。その光は天に向かって一直線に伸び、やがて光の柱が反乱軍の前線に降り注ぐ。
凄まじい爆発音と共に、大地が揺れ、反乱軍の兵士たちは一瞬で吹き飛ばされていく。
魔物たちが展開していた魔法の防御も、俺の神託によってことごとく打ち砕かれた。
だが、その瞬間、俺の胸の奥に深い痛みが走った。
彼らは、かつて俺たちと共にこの国を築いた仲間だ。それでも今、俺はその仲間たちを自らの手で滅ぼしてしまった。
「これが、俺の選んだ道なんだな」
そう呟くと同時に、戦場は静寂に包まれた。
反乱軍の前線は壊滅し、彼らの進軍は完全に止まった。俺の力によって、大きな損害を受けた反乱軍は、その後撤退を余儀なくされた。
レオがすぐに国軍を率いて追撃を開始し、残された反乱軍の兵士たちを掃討していった。
結局、反乱軍は次第に瓦解し、内戦は俺たちの勝利に終わった。
だが、その代償はあまりにも大きい。
戦後、俺たちは荒れ果てた戦場を視察した。
西部の広大な領土は、俺の神託の力によって大きく損壊していた。豊かな自然や村々は焼き尽くされ、そこに住んでいた人々も多くが命を落としたか、住処を失っていた。
「……エルターナ様、これで内戦は終結しました」
レオが無表情で報告する。
「ああ、だがこの国に平和が戻るには、まだ時間がかかりそうだな」
俺はそう答えながら、荒野と化した土地を見つめた。
そして、さらに深刻な問題が残っていた。それは、この内戦によって、人間と魔物の間に生まれた深い溝だ。
人間たちは、今回の反乱をきっかけに、魔物たちに対して一層の不信感を抱き始めていた。これまで共存を掲げていた俺たちの理想は、今回の出来事によって大きく揺らいでしまったのだ。
街では、反乱に加担していない魔物たちに対しても、冷たい視線や差別的な言動が増え始めているという報告が入っている。
「この国を一つにするという俺たちの夢は、今も揺らいでいる」
俺は胸の中に重い何かを感じながら呟く。
ノルデンは、確かに内戦を乗り越えた。だが、その代償として、俺たちの理想は傷つき、国の未来に暗い影を落としていた。
リリアンがそっと俺の側に近づき、静かに言う。
「エルターナ様、まだ終わっていません。私たちは再びこの国を立て直すことができます。人間も魔物も、再び手を取り合って生きていけるように」
俺は彼女の言葉に、少しだけ希望を感じた。
確かに、全てが終わったわけではない。俺たちは、これから新たな道を切り開いていかなければならない。
「そうだな、リリアン。俺たちの戦いは、まだ終わっていない」
俺は前を向き、これからの未来を見据えた。
荒れ果てた土地を見つめながら、俺は新たな決意を胸に抱いた。
ノルデンは、もう一度立ち上がる。それが、俺たちの使命であり、この国の未来だ。




