第32話 エルターナ包囲網
コペンホルムの街は、颱風龍テュポーンを倒したあの壮絶な戦いから、徐々に平穏を取り戻していた。
人々の笑顔が戻り、日常の喧騒が再び街を満たしている。
しかし、俺はその裏に潜む不安を拭い去ることができなかった。
新たな敵勢力の存在を完全に無視するわけにはいかない。彼らが次に何を企んでいるのか、想像するだけで胸がざわつく。
会議室に集まった俺たちは、これまで以上に緊張感を漂わせていた。
ここにいる全員が、この国の命運を担っているのだ。リリアンが俺に続いて入室し、深々と頭を下げる。
「エルターナ様、全員集まりました。いつでもお話を始められます」
「ありがとう、リリアン」
俺は優しく頷き、会議卓に目を移す。
仲間たちの顔に浮かぶ表情は真剣そのものだ。皆、この状況の深刻さを理解している。
俺は息を整え、口を開く。
「諜報部の情報によると、最近ノルデンの周辺で奇妙な動きがあるらしい。どうやら、俺たちが警戒していた新たな敵勢力が何かを企んでいるようだな」
俺の言葉に、室内の空気が一層張り詰めるのを感じる。
セレスティアが冷静に頷き、手元の資料に視線を落とす。
「諜報部からの報告によると、いくつかの国が秘密裏に同盟を結んでいることが確認されました」
彼女の言葉には確固たる自信があり、その情報の確かさを裏付けている。
「特にマレフィクス王国とアーデン王国が何か大きな動きを見せているようです。彼らが何を狙っているのか、現時点では不明ですが、私たちの発展を阻もうとしていることは確かです」
彼女の報告を聞いて、俺の胸に不快な感覚が広がる。
(マレフィクス王国か…。俺の順風満帆な生活をブッ壊した奴らだよな。絶対ぶっ飛ばす。)
「具体的にどんな動きが見られる?」
俺はさらに尋ねる。情報はいつの時代においても生命線だ。
「兵の増強、武器の備蓄、そして何より、こちらに向けた偵察活動が活発化しています」
セレスティアが答える。
「特にアーデン王国は、以前からノルデンの成長を脅威と見なしていました。今、彼らが動き出したのは、私たちが次の段階に進もうとしているからでしょう」
グラントが眉をひそめ、腕を組んで言う。
「街の第一拡張計画はほとんど終わっていますが、もし奴らが攻撃を仕掛けてきたら、守備の準備も必要ですぜ。街の防衛強化を優先して進めるべきかと」
「防衛の強化はもちろん必要だが、まずは敵の動きを正確に掴む必要がある」
俺は皆に向けて言う。俺たちの命運は、相手の動きを知ることにかかっている。
「情報が命だ。リリアン、内部の監視を強化し、諜報部を使って敵の意図を探ってくれ」
リリアンは力強く頷いた。
「お任せください、エルターナ様。潜入者がいれば、必ず見つけ出して、適切に対処します」
(適切……。)
「他に提案はあるか?」
俺は皆の意見を求める。
ゼドが静かに口を開く。
「魔法の防衛結界を強化することも考えた方がいいでしょう。これまでの防御は十分でしたが、奴らが新しい手を使ってくる可能性もあります」
「結界をより強固なものにし、魔法攻撃に対する耐性を高めることが必要です」
「了解だ、ゼド」
俺は彼に目を向けて頷く。
「魔法防衛の強化について、すぐに準備に取り掛かってくれ」
「さらに…」
レオが口を挟む。
「防衛隊の訓練も強化した方がいい。万が一のために、いつでも対応できるよう準備を整えておく必要があります」
「その通りだな、レオ。防衛隊の強化も重要だ。今は何事も油断できない」
俺は頷き、彼の意見を取り入れることに決めた。
「全ての面で、万全の体制を整えておこう」
皆がそれぞれの役割を果たすために動き出す中、俺は一人、広場へと向かう。
夜の静けさの中、街の明かりが柔らかく俺を照らす。街の人々が平穏に暮らしている光景を目にすると、心の中に強い責任感が沸き上がる。
(まったく…、戦争が絶えないのは元の世界と同じかよ。)
「奴らが何を狙っているのか掴めないが、俺たちがこのまま何もせずに待つわけにはいかないよな…」
俺は自分にそう言い聞かせると、再び行政府へと足を向けた。
目の前の困難に立ち向かう決意を固める。
今の俺には、仲間と共にこの国を守り抜くための力と知恵が必要だ。
ノルデンの未来は、俺たち自身の手にかかっている。俺たちはこれからも戦い続ける。
どんな困難が待ち受けていようと、必ず乗り越えてみせる。
夜風が冷たく、俺の頬を撫でる。
その風に乗って、何か不吉な予感が胸に響いてくる。
この先、俺たちを待ち受けるものは何なのか…今はまだ分からないが、仲間と共に力を合わせて、この国を守り抜いていく決意を新たにした。




