第26話 再びヴェルマーレンへ
ノルデン自由連邦国の首都コペンホルムに新たな朝が訪れた。
俺は行政府の執務室に立ち、鏡に映る自分の姿を見つめていた。
青色の礼服は、深海の色を思わせるような美しい光沢を放っている。これからの重要な会談に相応しい、威厳と品位を備えた服装だ。
リリアンが用意してくれたこの服を纏い、俺は深呼吸を一つすると、決意を新たにした。
「行ってくるよ、リリアン」
「はい、エルターナ様。どうかお気をつけて」
リリアンは一歩前に出て、優雅に一礼した。
彼女の表情は穏やかだが、その目には明らかな緊張の色が見て取れる。
ノルデンとリュクシス公国との軍事同盟の締結は、今後の国の命運を左右する重要な瞬間だ。
俺も、その重責を感じながら行政府を後にした。
外に出ると、朝の光が柔らかく街を照らしている。
コペンホルムの街は日々発展し、着実にその姿を変えていた。
グラントが指揮する街の拡張計画は順調に進んでおり、首都は日ごとにその規模を拡大している。
だが、今日はその発展を一時的に後にし、外交と安全保障という更なる大義に取り組む日だ。
俺は用意された馬車に乗り込んだ。
共に旅路につくのは外交担当のセレスティア、そして防衛担当のレオとラルフだ。
セレスティアが俺の隣に座る。
「エルターナ様、リュクシス「エルターナ様、リュクシス公国との軍事同盟の締結は、私たちの未来を大きく左右することになるでしょう。準備は万全ですが、何が起こるか分かりません。慎重に行動しましょう」
俺はセレスティアの言葉に頷く。
彼女の慎重さは、彼らの外交において欠かせないものであり、俺自身もその冷静な判断を信頼している。
「もちろんだ。リュクシス公国とは良好な関係を築いてきたが、今回の軍事同盟はそれ以上に深い結びつきをもたらす。彼らもまた、この同盟に大きな期待を抱いているだろう」
馬車はゆっくりとコペンホルムの街を抜け、次第に緑豊かな郊外へと差し掛かった。
旅の道中、俺たちは、彼らの目的地であるリュクシス公国の首都ヴェルマーレンへと向かっていた。
数日間の旅路となるが、その間にリュクシス公国とのこれまでの関係や、これから進めるべき戦略を再確認していた。
「改めて、リュクシス公国は南方の友好国です。彼らとの同盟は、アーデン王国などとの均衡を保つ上で非常に重要です」と、レオが静かに語り出す。
彼の声には、長年の経験に基づく確信が滲んでいる。
「同盟が成立すれば、ノルデンの防衛力は飛躍的に強化されます」
「同感だな、レオ」と、ラルフが続ける。
「我々の国とリュクシス公国が力を合わせれば、どの国も軽々しく手を出せない。ですが、逆に言えば、同盟の締結が他国を刺激する可能性もある」
俺は彼らの意見を心に留め、馬車の窓から外の景色を見つめた。
道沿いには広がる麦畑や牧場があり、穏やかな風景が広がっている。
だが、その静けさの裏に潜む緊張感を、俺は肌で感じ取っていた。
数日後、ついにリュクシス公国の首都ヴェルマーレンへと到着した。
ヴェルマーレンの街並みは美しく、ノルデンとは異なる独特の文化が感じられる。
街の中心にそびえる壮大な宮殿は、リュクシス公国の栄華を物語っている。
俺たちが宮殿の門をくぐると、リュクシス公国のファドゥーツ公爵と、その側近たちが迎えに出ていた。
ファドゥーツ公は、威厳ある風格と共に、温和な笑みを浮かべていた。
「ようこそ、エルターナ殿。お待ちしておりましたよ」
彼の言葉に、俺は礼儀正しく一礼し、返事をする。
「ご招待いただき、光栄です。リュクシス公国との更なる協力を楽しみにしております」
宮殿内に案内されると、豪華な会議室が用意されていた。
俺とセレスティアは、リュクシス公国の外交団と共に席に着いた。
軍事同盟の締結に向けた交渉が始まると、双方の代表者たちは慎重かつ真剣に議論を重ねた。
「我々リュクシス公国としては、ノルデンとの同盟は大いに歓迎するものです」と、ファドゥーツ公が話し始める。
「我々の国力を結集し、互いに支え合うことで、我々の領域全体の安定と繁栄を確保できると信じています」
俺はその言葉に耳を傾け、同じく慎重に自らの意見を述べた。
「俺たちも、リュクシス公国との同盟を通じて、共に平和と繁栄を築きたいと考えています。特に、アーデン王国との関係が緊張する中、この同盟は私たちにとって不可欠なものでしょう」
議論は白熱しながらも、相互の理解と信頼を深めるものだった。
そして、数時間に及ぶ交渉の末、ついに両国の代表者たちは同盟条約に署名した。
これにより、ノルデン自由連邦国とリュクシス公国は正式に軍事同盟を締結することとなった。
俺は青色の礼服の裾を整えながら、署名を終えた書類を見つめた。
これでノルデンは、より強力な支えを得ることができた。
しかし同時に、これが新たな挑戦の始まりであることも理解している。
「エルターナ様」と、セレスティアが近づいてくる。
「これで我々は、より強固な基盤の上に立つことができます。ですが、この同盟がもたらす責任もまた大きいです」
「そうだな、セレスティア」と俺は静かに答える。
「これからの道のりは決して平坦ではないが、共に乗り越えていこう」
俺は、リュクシス公国の壮大な宮殿の中で、未来への希望と決意を胸に抱きながら、これから始まる新たな時代の到来を感じていた。
ノルデンとリュクシスが手を取り合い、共に歩むことで、俺たちの理想とする平和な世界への第一歩を踏み出したのだ。




