第2話 亡国の皇太子の大きな夢
北の地へと逃れる途中、俺は無限に広がる荒野を見渡しながら、大きな夢を抱き始めていた。
かつては皇太子として、レコンキーム帝国の繁栄だけを考えていたが、今は違う。
自分が生まれ育った世界とは全く異なるこの異世界で、俺は新たな未来を描こうとしていた。
(どうせ、コッチに転生してきたんだ。平和に暮らしたいものだな。)
俺が望むのは、人間だけではなく、魔人や魔物も共に暮らすことができる国。
すべての種族が協力し、楽しく生きることができる場所だ。
新しい形の共生を目指したいと考えている。
「人間だけの国ではなく、全ての種族が平等に暮らせる国を作ろう。そうすれば、無用な戦争も避けられるはずだ」と呟いたその時、隣のエリザが不安そうに顔を覗き込んできた。
「エルターナ様、本当にそんな国が作れるのでしょうか?」
俺は笑顔で答える。
「もちろんさ! だって、俺は転生者だぞ? 不可能を可能にするのが異世界転生モノのお約束だろう?」
エリザは困惑した表情を浮かべる。
「転生者……ですか? すみません、よく分かりませんが……」
苦笑いしながら「気にしなくていい、ただの冗談さ」と返す。
しかし、俺の言葉にはどこか本気が込められていた。
俺には、この異世界でしかできないことがあるという確信があった。
(もう…、どうにでもなれ!!)
北の地に到着すると、荒れ果てた村を見つけた。
その村はかつて栄えていたが、魔物による襲撃や極寒の気候によって放棄されていた。
村に足を踏み入れると、凍てつく風が頬を撫で、荒れた地面に散らばった廃材が俺たちの歩みを阻む。
ここにはかつての活気は全く感じられない。
しかし、その廃墟の中に、一人の老魔法使いが住んでいた。
(…現代で表すと…、ハ〇ーポッターの校長とか、そんな感じの見た目だな。)
「おい、若いの! この村に何の用ですかな?」
老人は、白髪と長いひげをたくわえた魔法使いで、その名をゼドと言うらしい。
彼は俺たちに向かって、杖を振りかざして警戒している。
彼の眼光には長年の経験と知識が感じられる。
「俺たちは、この地で新たな国を築こうとしているんだ」
俺は真剣な表情で答える。
「人と魔人、魔物が共に暮らせる国を作りたい。それには、あなたのような賢者の力が必要だ」
ゼドは驚きとともに笑い声を上げた。
「ふん! 若いの、夢みたいなことを言いおりますな。しかし、面白いことを考えるやつもいるもんですな。いいだろう、老いぼれだが、ちょっとだけ力を貸してやりましょう。ほーほっほ」
(陽気な爺さんだな…。まあ特に困ることはないか…。)
こうして、俺はゼドを仲間に迎えることができた。
彼の知識と魔法の力は、新たな国を築くための大きな助けとなるだろう。
ゼドは俺を見つめながら、「それにしても、若いの、どこでその服を手に入れたんじゃ?随分と豪華な鎧ですな」と尋ねる。
俺は一瞬、何のことか分からず、ゼドの指差す方を見ると、慌てて言葉を飲み込んだ。
「あ、これか? まあ、いろいろあってな」とだけ答えるに留めた。
まだ出会ったばかりだ。
俺がレコンキーム帝国の皇太子だということは、まだ言わない方が良いだろう。
ゼドは大声で笑いながら、「ふむ、お前さんが普通の若造だってことが分かりましたよ。まぁ、そのおかげで私も安心して協力できるってもんよ!」と、わけの分からないを言いながら、俺の背中を軽く叩いた。
(何を言ってんだコイツは?)
「ところで、エルターナ様」
エリザが話しかけてくる。
「この荒れ果てた地で国を築くには、まずは住む場所を整え、村の復興を進める必要があります。どうやってこの地を活気づけますか?」
俺は少し考えた後に答える。
「まずは、寒さに強い植物や家畜を取り入れ、この地に適応した食料の生産を目指そう。次に、村を防衛するための壁や施設を作る。住民が安心して暮らせる環境を整えることが先決だ」
ゼドは興味深げに頷く。
「なるほどな、若いの。お前さん、ただの夢想家ではないようですな。実際に手を動かしてみせるつもりか」
俺は自信を持って答える。
「もちろんだ。俺たちは、ただの夢で終わらせるつもりはない。現実にしてみせるよ」
その言葉にエリザも頷き、ゼドも笑みを浮かべた。
「よし、それならば、私の力でこの村に魔法の障壁を張ってやりましょう。少なくとも、外からの襲撃を防ぐことはできますぞ」
ゼドが杖を振ると、村全体に淡い光が広がり、しっかりとした結界が張られた。
「これで魔物どもも簡単には近づけないだろう。効果は1日ですからな」
エリザはその光景を見て感嘆の声を上げる。
「素晴らしい…! ゼドさん、ありがとうございます」
「ふん、礼はいらんですぞ。若いの、お前さんの夢に賭けてみただけさ」
俺はゼドに感謝の意を示し、これからの道を共に進むことを誓った。
北の地という過酷な環境だが、仲間たちと共に努力し続けることで、俺の夢は現実のものとなるだろう。
「まずは、この村を復興させるところから始めよう。俺たちの国は、ここからだ!」
俺の熱意は、エリザやゼドにも伝わり、彼らは共に新たな国を築くための一歩を踏み出した。
村の復興作業は厳しいものであったが、ゼドの魔法と俺たちの努力によって少しずつ進展し始めた。
以前の繁栄を取り戻すための準備が整ってきた。
周囲の荒野にも少しずつ緑が戻り、温かい陽光が差し込む日々が続く。
(…まあ、なるようになるでしょ!!)