第19話 神々の審判 《他者視点あり》
「神よ、我らを救い給え」
その言葉が俺の口から静かに漏れた瞬間、戦場全体がまばゆい光に包まれる。
(うっ、まぶしっ…。)
光はまるで大地を浄化するかのように広がり、辺り一面を照らし出す。
その輝きは太陽のように強烈で、直視することさえできない。
アルテウスの兵士たちが目を閉じ、光に抗おうとしたが無駄だった。
光が彼らに触れた瞬間、彼らは呆然と立ち尽くし、やがて無言のまま崩れ落ちる。
目の前で繰り広げられる光景は、まるで神話の一場面のようであった。
アルテウス王国の精鋭兵たちは、光によってまるで魂を抜かれたかのように力を失い、その場に崩れ落ちていく。
かつては勇猛果敢に戦い抜いていた彼らが、今ではただの抜け殻となり、戦場に横たわるのみだ。
(やはり、この力は恐ろしいな…。)
俺の心には、恐怖と責任の重さが同時に押し寄せてくる。
この『神々の審判』という古代の魔法は、選ばれた者だけが扱えるものであり、その力は神そのものといえるほど絶大だ。
しかし、その代償もまた大きい。
俺は、この力を使うたびに、激しい疲労に襲われる。
(はぁはぁ、なかなかしんどいな…。)
……戦場にはもはや、敵の生き残りはほとんどいなかった。
光が消えた後には、ただ静寂だけが残っている。
そんな静けさの中、ノルデン連邦軍とリュクシス公国軍の兵士たちは、しばらくその場に立ち尽くしていた。
彼らの目には、驚きと畏怖、そして敬意が混じっている。
そしてやがて、誰かが小さく声を上げ、それが次第に大きな歓声へと変わっていった。
「これが、我らが君主エルターナ様の力だ!」
「戦いは終わった!我々が勝った!」
兵士たちは武器を掲げ、歓声を上げながら前進を始める。
彼らの士気は天にも昇る勢いで、戦意は最高に高まっていた。
(うん、これで勝ったも同然だろう…。)
俺は、戦場の中心でその光景を見つめていた。
無数の死体と、残骸が散らばる荒野。
その中で、勝利の歓声が響き渡る。
しかし、その歓声の中に、どこか寂しさと虚しさを感じずにはいられなかった。力によって勝利を得たことの重さが、心に深く刻まれている。
「……俺たちが、勝ったんだよな」
俺は小さくつぶやき、次の指示を出すべく行動を開始する。
ノルデン連邦軍とリュクシス公国軍は、戦場を掃討しつつ、次の目標であるアルテウス王国の王都ダリンへの進軍を開始した。
街へと向かう道は、もはや抵抗する者はほとんどおらず、我々連邦軍はほぼ無傷で王都にたどり着くことができた。
俺たちは、その様子をコペンホルムの行政府内にある会議室で静かに見守っていた。
前線からの報告が次々と入るたびに、幹部たちの顔には安堵の色が浮かんでいたが、同時に緊張も感じられる。
(まったく…、一時はどうなることかと思ったけど…。)
「これで、アルテウス王国も終わりだな」
俺が静かに口を開くと、皆が黙って頷く。
確かに戦いは終わったが、これからが本当の意味での勝負であることを全員が理解していた。
アルテウス王国を制圧することはできたが、その後の統治や関係の構築が我々の次なる課題だ。
セレスティアが、冷静な声で口を開く。
「ですが、これからが重要です。彼らにどのような選択肢を与えるか、慎重に考えなければなりません」
彼女の言葉には、冷静さと慎重さが込められていた。
彼女がこの瞬間にどれだけの重責を感じているかが、ひしひしと伝わってくる。
「もちろんだ」
俺は彼女に同意しながら、アルテウス王国に対して提示する選択肢を頭の中で整理していた。
今やアルテウス王国は敗北寸前。
この機会に彼らを屈服させ、ノルデンの未来をより安定させるための戦略を練らなければならない。
幹部たちは、会議室でそれぞれが自分の意見を述べつつも、最終的には俺の判断を仰いでいた。
彼らの期待と不安が入り混じった視線を受けながら、俺は次の一手を考える。
そして、アルテウス王国に対して次の三つの選択肢を提示することに決めた。
(俺は、あいつらを許すようなことはしない…。)
1. ノルデンに完全に降伏し、傀儡国家となること。
これにより、彼らは独立を失い、ノルデンの意向に従わざるを得なくなる。
2. ノルデンに降伏し、莫大な賠償金を支払うこと。
経済的に追い詰めることで、彼らの軍事力を削ぎ、再び立ち上がれないようにする。
3. 戦争の継続。
これは事実上の絶望的な選択肢だが、彼らに最後の抵抗の機会を与えることになる。
どの選択肢も、アルテウス王国にとっては厳しい決断だろう。
しかし、これ以上の寛容は示さない。今後の安定と平和を確保するためには、厳格な対応が必要だ。
一方、アルテウス王国の王宮内では、ノルデンからの提案に驚愕した政府高官たちが、急遽、降伏するか否かを決定するための会議を開いていた。
王宮の会議室は、いつもとは違う緊迫した空気に包まれている。
ノルデンからの提案は、王国の存続を左右するものであり、いかなる決定を下しても、王国の未来が大きく揺らぐことは明白だった。
「いいやいやいや、ここここれ以上、戦争を続けるのは無理ですぞ…。我々の軍は壊滅状態にあり、抵抗する力は残っていない!」
軍事担当大臣が深刻な表情で言う。
「てててていうか、なんで前線の兵士が一瞬にして死んでいったんだよっ、!、!」
その声には絶望がにじんでいる。
「だがしかしっ、降伏すれば我々の尊厳は失われるっ…。傀儡国家として生きることなど、王国の誇りを捨てるに等しいだろう!!」
外交担当大臣が声を荒げる。
顔は憤りで赤く染まり、拳を強く握りしめていた。
彼にとって、国としての独立性を失うことは許しがたい屈辱だった。
しかし、その言葉に対して、王は重々しくうなずいた。
「…尊厳と誇りだけで国民を守れるわけではない。今は生き延びることが最優先だ」
王の声は疲れ切っていたが、彼の瞳にはまだ強い意志が宿っていた。
彼はすでにこの戦争の無益さを理解していた。
これ以上の戦いは、国土と民をさらに苦しめるだけであり、勝ち目のない戦争を続けることは無意味だと悟っていた。
重々しい沈黙が王宮の会議室を包み込む。
誰もが自分たちの未来を見つめ直し、何が最善かを考えようとしていたが、その答えは容易には見つからない。
「……賠償金を支払う選択肢も、現実的に厳しい。王国の財政は破綻寸前ですぞ…」
財務大臣がため息混じりに言う。
国の財政状況は壊滅的であり、要求された賠償金を支払うことはほぼ不可能だ。
すると、静かに席を立った一人の若い貴族が口を開いた。
「では、どうすればよいのか? 我々に残された道は、戦い続けて滅びるか、屈辱を飲んで生き延びるかの二つだけか?」
彼の言葉に、全員が顔を見合わせる。
どちらの選択肢も未来を約束するものではなく、それぞれが犠牲を伴うものであった。
しかし、その時、王は静かに口を開く。
「……できることなら、第三の道を探るべきだ」
その言葉に、全員が注目する。
王は思案にふけるように、静かに続ける。
「交渉の余地がある限り、我々はそれを追求しなければならない。どうにかすれば、彼らとの間に何らかの合意を見つけ出すことが可能かもしれない」
王の言葉は希望を含んでいた。
しかし、それは確実なものではなかった。
ノルデンは圧倒的な力を持ち、その気になればアルテウスを跡形もなく消し去ることができる。
王の意見に賛同する者も、反対する者もいたが、最終的に彼らは一つの結論に達した。
「まずはノルデンに対して、交渉の席を設けるよう提案しよう。それが我々にとって最善の道であるならば、可能な限りの妥協をしてでも、生き延びるための策を練るべきだ」
会議はその結論に達し、ノルデンへと使者が派遣されることが決定した。
その夜、コペンホルムの行政府では、アルテウス王国からの使者を迎える準備が進められていた。
俺は会議室の窓から、遠くに見える星空を見上げる。
静かな夜風が、戦いの疲れを少しだけ和らげてくれる。
「交渉か……」
俺は小さくつぶやく。
戦いの終結を迎えた今、これからが本当の意味での試練だ。
戦争で勝利を収めることはできたが、平和を築くためにはさらに多くの知恵と忍耐が必要だ。
背後で扉が開き、セレスティアが入ってきた。
彼女は静かに俺の隣に立ち、一緒に星空を見上げる。
「エルターナ様、明日の交渉が始まります。ご準備はよろしいでしょうか?」
彼女の声には冷静さと信頼が感じられる。
俺は彼女の問いに頷き、再び視線を星空へと向けた。
「ああ、準備はできている。だが、これはただの交渉ではない。これからの未来を決める、大切な一歩だ」
「それに、死んでいった仲間のためにもな」
セレスティアは微笑んで、俺に向き直った。
「その通りです、エルターナ様。私たちは、これから新しい時代を切り開いていくのです。共に歩んでいきましょう」
彼女の言葉に力強さを感じ、俺は深く息を吸い込む。
「そうだな、セレスティア。共に、新しい未来を築こう」
その言葉を胸に、俺は明日から始まる交渉に向けて、心を固めた。
翌日、コペンホルムにアルテウス王国からの使節団が到着した。
俺たちは、アルテウス王とその側近たちを迎え入れ、これからの未来を話し合う場を設けた。
「アルテウス王、あなた方は戦争に負けたのです。今後は我々ノルデンの意向に従ってもらいます」
俺は穏やかに言いながらも、厳しい条件を提示する。
彼らを許す気などはさらさらない。
アルテウス王は何をしても無駄だと思ったのか、黙ってうなずき、覚悟を決めたように署名を行った。
俺は傀儡国家となったアルテウス王国の統治を魔人のグスタフに任せることにし、講和会議は終了した。
……こうして、アルテウス王国はノルデン自由連邦国の傀儡国家となり、我々の勢力圏は拡大した。
…戦争は終結した。




