第16話 迫りくる脅威
コペンホルムの朝は、まるで何事もないかのように穏やかである。
市場では商人たちが賑やかに商品を売り込み、通りには子供たちの笑い声がこだましている。
街の隅々まで活気に溢れ、ノルデンの平和な日常が繰り広げられている。
しかし、俺の心はこの平和な光景とは裏腹に、不安と緊張で満ちていた。
ゼドが昨日口にした、自分の膨大な魔力のことがどうしても頭から離れない。
「俺って一体何者なんだ…?」
独り言のように呟いた言葉が、静かな執務室の中で響く。
俺はその問いの答えを求めて、長い間考え込んでいた。
自分の力の正体、そしてこの力が今後ノルデンにどう影響を及ぼすのか、何も分からないまま時間だけが過ぎていく。
外の平穏とは裏腹に、心の中では常に波立つ不安が渦巻いていた。
そんな時、ドアが乱暴に開かれ、リリアンが息を切らして飛び込んでくる。
(だれだよ笑、もう少し優しく開けよ。)
彼女の姿からは、想像できないほどの焦りが見える。
「エルターナ様!重要な報告があります!」
彼女の緊張した表情を見て、ただならぬ事態だとすぐに察した。
俺は机から身を乗り出し、彼女の言葉に耳を傾ける。
「どうしたんだ?」
俺の問いに、リリアンは息を整える間もなく続ける。
「アルテウス王国の軍が、国境付近で動きを見せています。偵察部隊が増強され、何か大きな動きがあるかもしれません」
その報告に、心の中でずっと警鐘が鳴っていたことが現実になったことを感じた。
(やはり来たか…。)
予感が的中したことに、ある種の諦めを感じつつも、すぐに幹部たちを招集することを決断した。
時間がない。
俺たちは早急に対応策を練らなければならない。
この瞬間、平和な日常が壊れる音が聞こえたような気がした。
行政府の会議室には、幹部たちが緊張した面持ちで集まっていた。
ゼド、リリアン、エリザ、セレスティア、トリスタン、グラント、シルヴァ、そして防衛担当のレオとラルフ。
彼らの目が一斉に俺に向けられる。
(そんなジロジロ見るなよ…。)
俺は深呼吸をし、冷静に状況を伝えることを心がけた。
「うっうん。皆、聞いてくれ。アルテウス王国の軍が動き出したようだ。我々はこの脅威にどう対応すべきか、今ここで決めなければならない」
会議室に緊張が走る。
レオが最初に発言した。
「防衛体制を強化し、いつでも戦闘に備えるべきです。相手が攻撃してくる前に、こちらも準備を整えておく必要があります」
彼の言葉はもっともだ。
俺たちにはノルデンを守る責務がある。しかし、その一方で、俺は戦争が避けられない状況にはしたくないという思いもある。
ノルデンの未来のためには、平和的な解決策を模索すべきだと考えていた。
「そうだな。ただ、こちらから先に攻撃を仕掛けるのは避けたい。今はまだ、戦争を避ける道を探るべきだ」
俺は慎重に言葉を選びながら答える。
無駄な血を流すことは、この国のためにはならない。
俺たちが目指しているのは、戦いを避けることであり、可能な限り平和を維持することである。
「外交的な解決を模索するのも一つの手です」
セレスティアが冷静に提案する。
彼女の意見は理にかなっている。彼女は外交のエキスパートであり、俺たちが持つ限られた選択肢の中で最も現実的な解決策を見つけ出してくれるだろう。
「アルテウス王国との対話の機会を探り、和平交渉の余地があるかどうか確かめたいと思います」
彼女の言葉に、何人かの幹部が頷く。
しかし、ラルフは眉をひそめ、懸念を示した。
「しかし、相手がそれに応じるかどうか…」
そのとおりである。
アルテウス王国は簡単に交渉に応じる相手ではない。
しかし、それでも俺はあらゆる可能性を試すべきだと考えていた。
戦争に至る前に、すべての選択肢を検討する必要がある。
「確かに難しいかもしれない。それでも、まずは対話の道を試してみよう。戦争になれば、多くの命が失われる。それを避けるためにも、あらゆる手段を尽くすべきだ」
(平和ボケしてる場合じゃないっていうのは、分かってんだけどさ……。)
その後、俺はノルデンに新たに加わった魔物たちの代表者と会談を行った。
彼らはノルデンと共に生きることを選び、我々と協力する意志を示してくれた。
彼らの中には、優れた戦士や賢者が含まれており、今回の事態に対しても協力を申し出てくれていた。
「我々もアルテウス王国の脅威について知っています。エルターナ様、我々は戦力としても役立つことができるでしょう」
代表者の一人が力強く語る。
その目には、覚悟と信頼が宿っていた。
「ありがたい。君たちの力があれば、我々も心強い限りだ」
俺は感謝の意を示しつつ、具体的な防衛計画について協議を進めた。
魔物たちは各自の能力を活かし、戦場での役割分担を行うこととなった。
彼らの存在が、この難局を乗り切るための大きな助けとなることは間違いないだろう。
特に、彼らの特殊な能力をどのように活かすかについて、幹部たちとの詳細な戦略会議が行われた。
例えば、飛行能力を持つ魔物は偵察や空中戦で重要な役割を果たし、強力な魔法を使える者たちは防衛線の要として配置されることとなった。
夕方、俺は城壁に立ち、遠くの地平線を見つめていた。
(キレイだな……。)
コペンホルムの街が夕焼けに染まり、静かな時間が流れている。
(戦争は避けたいが、もしもの時には…。)
胸の中で葛藤が渦巻く。
俺はノルデンを守るために何をすべきか、自問し続けていた。
そんな時、静かに背後からゼドが近づいてくる。
「エルターナ様、もし本当に戦いが避けられない場合、あなたの力が鍵になるかもしれません」
(びっくりした!急に話しかけてくんな!)
…ゼドの言葉に、俺は自分の手を見つめる。
魔力が溢れるというこの手が、果たしてどのような運命を導くのだろうか。
「俺の力か…」
呟くように言った俺の言葉に、ゼドは少し考えた後、静かに答える。
「どんな決断をされるにせよ、私たちはあなたを信じています。そして、その力がノルデンのために使われることを願っています」
「ゼド、お前の言う通りだ。俺の力がノルデンを守るために使われるなら、それを躊躇うことはない。俺はこの国を、そして仲間たちを守るために全力を尽くす」と、俺は答える。
その言葉にゼドは満足げに頷き、静かに立ち去っていった。
気がつくともう夜になっていた。
夜空には星が輝いていたが、その美しさの裏に潜む脅威を感じずにはいられなかった。
明日、そしてその先に何が待ち受けているのか、誰も予測できない。
それでも、俺は前を向いて進むしかない。
どんな困難が訪れようとも、俺はこの国を守る。それが俺の運命なんだろう。
俺は再び心の中で決意を固め、今後の行動に向けた準備を進めることにした。
(アルテウス王国さん!勘弁してください!)




