第13話 友好の証
俺はリュクシス公国の首都ヴェルマーレンに向かうべく、早朝から準備を整えていた。
ノルデンが正式な国家となり、そして初めて他国との国交を樹立する瞬間が目前に迫っている。
12歳の身でありながら、重い責任を感じながらも、俺は自らの使命を果たすべく気を引き締めた。
朝の薄明かりが街を照らす中、リリアンが俺の身だしなみを整えるために動いている。
彼女は普段は脳筋系だが、こうした場面でもしっかりとサポートしてくれる。
(すぐぶん殴るところ以外は完璧なのにな……笑)
「エルターナ様、今日の服装はこちらが最適かと」
彼女が差し出したのは、品のある青い礼服だった。
シンプルでありながら、しっかりとした縫製が施されており、国の代表として恥ずかしくない装いだ。
俺はその服に袖を通し、少し緊張した面持ちで鏡の前に立った。
「似合ってるかな?」
「もちろんです。エルターナ様、堂々としていれば誰にも負けません」
リリアンの言葉に少し安堵し、俺は深呼吸を一つした。
そして、共にリュクシス公国へ向かう使節団とともに出発の準備を整える。
セレスティアをはじめ、外交に長けた者たちが俺を支えてくれるだろう。
ヴェルマーレンに到着した俺たちを迎えたのは、荘厳な宮殿と大勢の民衆だった。
(ノルデンなんかよりも、よっぽど栄えているな……。)
彼らは遠くから見守るように集まり、俺たちノルデンの使節団に興味津々の様子だ。
リュクシス公国の国家元首、ファドゥーツ公爵が宮殿の正門で俺たちを出迎える。
彼は堂々とした体格で、しかしその顔には温かい笑みが浮かんでいた。
(小綺麗な老紳士なこと…。)
「エルターナ殿、ようこそリュクシスへ。お会いできるのを楽しみにしていました」
「こちらこそ、ファドゥーツ公。お招きいただき感謝します」
俺は彼の手をしっかりと握りしめた。
12歳の俺と、かなり年上の公爵。
しかし、その握手には年齢の差を感じさせない強い意志がこもっていた。
宮殿の内部は豪華絢爛で、壁には精巧な彫刻や絵画が飾られている。
大広間に通された俺たちは、そこで国交樹立のための書類を前にしていた。
ファドゥーツ公と横並びに座り、書類にサインを交わす瞬間がやってくる。
大勢の民衆が見守る中、俺たちは正式に国交を樹立することを宣言し、握手を交わした。
その瞬間、大広間の外にいる民衆からは歓声が上がる。
俺たちの握手は、ただの儀式ではなく、友好の証だ。
そして、俺は民衆に向かって歩み出て、彼らに向けて演説を行う。
「皆さん、今日ここにノルデンとリュクシスの友好が結ばれました。我々は互いに助け合い、共に栄えていくことを誓います」
民衆はその言葉に熱狂し、さらに大きな歓声が上がった。
(ふぅっ…、我ながら上手かったんじゃないか!?)
俺は少し緊張していたが、この瞬間、俺が新たな時代を築く一歩を踏み出したことを確信した。
その後、ファドゥーツ公爵と俺は宮殿の庭でリラックスした時間を過ごした。
公務から少し解放され、彼とは友達のように打ち解けた会話をする。
「エルターナ殿、君はまだ12歳だというのに、本当に立派な君主だ。驚かされたよ」
「ありがとう、ファドゥーツ公。君こそ、民衆に慕われていて素晴らしい国を築いているじゃないですか」
「ハハハ、そう言ってもらえると嬉しいよ。ところで、ノルデンにはどんな特産品があるんですかな?」
「実は、『和菓子』というお菓子があって、これがとても美味しいんですよ。他の国には存在しないノルデンだけの特産品なんです」
(まあ、俺が食べたかったから作っただけなんだけどな。)
ファドゥーツ公は興味深そうに頷く。
「和菓子か…、それはぜひ食べてみたいな。もしよければ、リュクシスでも輸入してみたいですわ」
「もちろんです。きっとリュクシスの民衆も気に入ってくれるはずですよ」
二人の会話は、和やかな雰囲気で続き、互いに笑い合った。
リュクシス公国との関係がこれほどまでに円滑に進むとは、俺も少し驚いていた。
その日の夜、俺たちはリュクシスの宮殿での晩餐会に招かれた。
豪華な料理が並び、音楽が流れる中、俺は使節団と共にリュクシスの要人たちと交流を深めた。
(うひょー…こんなご馳走、前世でも食ったことなかったぞ!)
「リュクシスとノルデンがこうして友好を結べたこと、本当に感謝している」俺はセレスティアに向かって言った。
「エルターナ様、これからも他国との友好を築くために尽力します。ただ、全ての国がリュクシスのように友好的ではないかもしれません。それでも、私たちは平和を維持するために努力を惜しみません」
彼女の言葉に頷きながら、俺は未来への希望を感じた。
この新たに築かれた友好関係が、ノルデンにとって大きな力となるだろう。
リュクシス公国との晩餐会が終わった後、ファドゥーツ公爵が俺を別室に招いた。
そこには公国の重要な地図や書類が広げられていた。彼は深刻な表情で口を開いた。
「エルターナ殿、ここだけの話だが、実はリュクシス公国には解決しなければならない問題がある」
(なんだ?なんだ? かしこまって…。)
「問題…、ですか?」
「南方のアーデン王国との関係が、少し緊張しているんだ。特に、国境付近での小競り合いが増えている。我々は戦争を避けたいと考えているが、何が起こるか予測できない」
俺はファドゥーツ公爵の言葉に耳を傾けながら、自分たちが直面している現実を改めて実感した。
国際関係は単純なものではなく、友好国同士であっても時に困難な選択を迫られることがある。
「ファドゥーツ公、もしもリュクシスが困難に直面した時、ノルデンができることがあれば協力を惜しみません」
(初めて出来た友好国だ。何でもしよう…)
彼は少し驚いた表情を見せた後、感謝の意を込めた微笑みを浮かべた。
「エルターナ殿、その言葉に感謝する。だが、君の若い国に重荷を背負わせるつもりはない。私たちは、まず自分たちで解決策を見つける努力を続けるよ。ただ、君のその気持ちは忘れない」
自分の部屋に戻った俺は、リュクシスとの友好は大きな一歩だが、これが全ての国との円滑な関係を保証するわけではない…、常に慎重であるべきだと自戒した。
翌日、リュクシス公国を後にする前に、俺はリュクシスの街を見学することにした。
街は活気に満ちており、商人たちが行き交う様子が印象的だった。
「ここも貿易で栄えているな…ノルデンもこうなれる日が来るのだろうか」
俺はグラントに指示を出すことを決めた。
リュクシスとの街道を整備し、貿易がスムーズになるようにすることが次の課題だ。
街道が整えば、物資や文化が行き来し、ノルデンの街もさらに発展するに違いない。
「さあ、帰国したらすぐに取り掛かろう」
俺はそう心に誓い、リュクシスの宮殿を後にした。
ノルデンに戻った俺は、すぐにグラントに街道整備の計画を伝えた。
彼はその指示を受け、早速作業に取り掛かる準備を始める。
「エルターナ様、街道の整備は時間がかかるかもしれませんが、しっかりとした基盤を築きます」
「頼んだぞ、グラント。これで貿易が活発になれば、ノルデンもさらに発展する」
「エルターナ様、街道が完成すれば、貿易だけでなく、文化交流も活発になるでしょう。ノルデンの未来は明るいです」グラントが自信満々に語る。
「そうだな、グラント。君たちの力に期待している」
グラントを中心とした建設チームは、リュクシス公国との連携を強化するための大規模な工事に取り掛かった。
俺は街の広場に立ち、工事が進む様子を見守った。
ノルデンがより豊かで強力な国になるためには、この一歩一歩が重要なのだと強く感じた。
これからノルデンは、新たな友好国とともに進化していく。
俺たちの努力は、必ず未来に繋がるだろう。
(やっと国っぽくなってきたぁ!!)




