第12話 行政府の陰で
ノルデン自由連邦国としての基盤が固まりつつある中、俺たちは一層忙しさを増していた。
新たな建設プロジェクトが進行中であり、行政府の中では毎日様々な議題が飛び交っている。
リリアンもその一翼を担っていたが、彼女の思わぬ行動が周囲をざわつかせていた。
俺が執務室に入ると、リリアンが部屋の隅で何やら捕虜に向かって説教をしていた。
いや、説教というよりも、捕虜が恐怖で震えている。
「リリアン、何をしているんだ?」
俺が問いかけると、リリアンはふっと振り向いて笑顔を見せた。
だが、その笑顔はどう見ても何かをしでかした後の顔だ。
(……さてはコイツ、なにかやりやがったな。)
「あ、エルターナ様!この捕虜、また悪さしようとしてたんで、ちょっとお仕置きしてやりました!」
リリアンの背後にいる捕虜はボコボコにされ、顔には青あざができていた。
(原型とどめてないじゃん……。)
俺は思わず頭を抱える。
「リリアン…、あまりやりすぎるなと言っただろう?」
「いや、これでも手加減してるんですよ!本気だったらこんなもんじゃ済まないですよ、エルターナ様!」
そう言って拳を握りしめるリリアン。
その力強さは圧倒的で、誰もが一歩引いてしまうほどだ。
だが、彼女は確かに忠誠心に溢れているし、俺に対して敬意を持って接してくれる。
(忠誠心があるのは、構わないんだけど……。)
問題は、その力加減が過激すぎることだ。
「まあ…、捕虜が反抗的なら仕方ないが、無理に叩くことは避けてくれ。捕虜だって国の未来には重要な情報源だ」
「了解しました!でも、もしまた何か企んでたら、すぐにボコボコにしてやりますね!」
(以外と凶暴なんだな、コイツ…。)
「うん…、ほどほどにな…」
そのやりとりを見ていたセレスティアが、微笑を浮かべて俺に近づいてきた。
「エルターナ様、リュクシス公国との交渉が進んでいます。彼らは我が国との貿易に前向きです」
「そうか。それは良い知らせだ。リュクシス公国との貿易が成功すれば、我が国もさらに豊かになるだろう」
セレスティアは頷きながら、資料を差し出した。
リュクシス公国との交渉内容が詳細に記されている。
「彼らは、特にノルデンの木材と鉱石に興味を示しているようです。我々も彼らの織物や精密機械を得ることができるでしょう」
「なるほど。こちらとしても良い条件だ。早急に取引を成立させよう」
セレスティアは満足そうに微笑みながら、その場を離れた。
一方、リリアンはまだ捕虜に対して睨みを利かせている。
俺は苦笑しつつも、彼女の過激な一面を制御する必要があると再認識した。
その日の午後、俺たちは新たな建設プロジェクトについて話し合うため、行政府の会議室に集まった。
グラントが建設担当として、最新の進捗状況を報告してくれる。
「エルターナ様、現在、街の拡張工事が順調に進んでおります。特に市場と港湾施設の拡張が今後の貿易を見据えて重要な役割を果たすでしょう」
グラントの報告はいつも的確で、彼の経験と技術力に俺は常に信頼を置いている。
「よし、それでいい。市場が活性化すれば、我々の経済もさらに発展する。人口も増加してきたし、今後の発展に期待がかかる」
「ありがとうございます、エルターナ様。この調子で工事を進めてまいります」
会議は順調に進行し、新たな街の姿が少しずつ形になっていくのを感じた。
だが、俺たちの発展に反対する勢力がいないわけではなかった。
会議の後、セレスティアが緊張した表情で俺に近づいてきた。
「エルターナ様、アルテウス王国からの報告です。彼らは我が国に対して、さらなる調査と監視を強化しているようです」
「…なるほど。やはり、彼らは我々を脅威と見なしているのか」
アルテウス王国との関係は微妙なものであった。
我々の急速な発展が、彼らにとっては警戒すべき対象となっているのだろう。
「今はまだ戦争は避けたい。だが、警戒を怠るわけにもいかない。防衛担当のレオとラルフに、辺境の警備を強化するように指示してくれ」
「承知しました、エルターナ様。慎重に進めます」
セレスティアは深々と頭を下げ、すぐに行動を開始した。
俺はしばし考え込んだが、今は冷静な判断が求められる時だ。焦りは禁物だ。
その日の夕方、執務を終えた俺は、リリアンと一緒に街の様子を見に行った。
彼女は捕虜をボコボコにする脳筋一面も持っているが、こうして俺と街を巡る時には、まるで普通の女の子のような明るさを見せる。
(………、いつもその状態でいいんだよ…。)
「エルターナ様、最近、街も賑やかになってきましたね!」
「ああ、その通りだ。ノルデン自由連邦国として、俺たちは着実に前進している」
「でも、もっともっと大きくなりたいですね!たくさんの人が来て、たくさんの商売ができるようになれば、俺たちももっと豊かになりますし!」
リリアンの笑顔に、俺は少し安心した。彼女の力強さとその純粋な願いが、俺たちの国を支えているのだろう。
「そうだな。お前の言う通りだ。俺たちの国はまだ始まったばかりだ。これからも全力で進んでいこう」
「はい!エルターナ様、いつでもお供しますよ!」
その晩、俺は再び執務室に戻り、地図を広げた。
俺たちの国が今後どのように進むべきか、頭の中でシミュレーションを繰り返す。
リュクシス公国との貿易が成功すれば、我々の国は確実に一歩前進する。
だが、その一方で、アルテウス王国やアーデン王国との関係は慎重に見極める必要がある。
そして、いつかはマレフィクス王国に対して復讐を果たす日が来るだろう。
それまでに、俺たちは力を蓄え続けるしかない。
「まだまだ、これからだな…」
俺は地図を見つめながら、未来への決意を新たにした。
(リリアン…、黙ってれば可愛い女の子なのにな…。)




