モテない王子
恋に落とすことが――生き残る道なんだ。
自分の命をつなぎとめるため、僕は君に『真実の愛』を見つけてもらう。
そう誓ったんだ。
◇ ◇ ◇
僕は、この国の王子イシュト・サンダラーダ。
恋に恋する王子様である。
「ヒナーリ先輩、侯爵令嬢なんだし、王子である俺と結婚しちゃう?」
国唯一の学園『ロライト学園』の生徒会室で、僕は先輩令嬢に声をかけた。
砂漠の国だというのに、真新しい雪のような白く美しい髪に、象牙のような白い肌、瞳は深い碧に輝いてる。
美と高潔の侯爵令嬢ヒナーリ・レリラージ。
「なにふざけたこと言ってるの。チャラくてたらしの馬鹿王子と結婚なんて」
気温とは違い、冷たい視線と言葉。
身分は僕の方が高いというのに。
僕の本気の求婚はお気に召さなかったらしい。
「いやだなぁ。先輩これでも結構頭いいんだよねぇ」
身分だけでなくて、学力もトップだ。
剣術も好成績だし、魔法もボチボチ使える。
なにより王子。
好物件には違いない。
「なら、なんでこんな書類も終わっていないのよ」
先輩は、名簿作りの書類を僕に押し付けてくる。
生徒の名前を覚えておけば、書くだけの簡単な資料。
そういえば、昨日の昼休みに頼まれていたような。
「いやー昨日は男爵令嬢と愛の語らい? してて」
昨日は昨日で、成り上がりのスタイル抜群の男爵令嬢を口説きにいっていた。
結局、失敗に終わったので、今日は先輩を口説いている。
先輩が僕を見る視線が、さらに冷えて、絶対零度になっていた。
「本当、クズ王子ね」
身分は僕の方が高いのに悪口言いたい放題の先輩。
先輩は伯爵家、僕はまだ子供だし、国の政治の実権はほとんど伯爵家が握っているといっても過言ではない。
強気に出れるのもわかる。
それでも僕にだってプライドはある。
「まあね。俺は王子だし? 多少性格悪くても味が出るでしょう」
王子は、間違いないし、クズの自覚もある。
正確の悪さは、見た目の良さと、身分の高さでカバー。
艶やかな青髪をかき上げてみせる。
「最低ね。そんなことだと、先代王のように処刑されても知らないわよ」
トラウマをえぐられて、言葉に詰まった。
それでも、無理やりしゃべる。
「酷いなぁ。俺、そのことで、ものすごく傷心なんすよ。先輩が癒やしてくれないかなぁ」
それも、気力で覆い隠して、おどけてみせた。
「何を馬鹿なことばかり言ってるのよ。処刑されたくないなら、いい王様になればいいのよ」
いい王様ねぇ?
父は少なくとも、僕にとっては、優しかった。
国民にとっては、悪政を敷いていたということなのだろう。
僕には、未だに政治の資料は回ってこないので、よく分からない。
「はいはい」
僕は、おざなりに返事をした。
「返事は、一回」
先輩は、年上の生徒会長らしく、厳しく言う。
「はーい。って、先輩、俺が王子だってわかってます? そんな口調で大丈夫ですかね?」
「学校の中で、身分のことをいうのは規則違反よ。生徒会長は私。学園の中では私が一番なんだから」
高飛車に言う。
論理も無茶苦茶だ。
「いやーそんな感じなの先輩だけですよ」
それでも、学園で話しかけてくるのは先輩ぐらいだ。
下級の貴族は、僕に話しかけてくることはない。
巻き添え食って、自分たちも処刑されてくはないから。
「いいから、仕事しなさいよ」
「わかりましたよ」
先輩は、僕に仕事を押し付けると、自分の勉強を始めた。
僕はさらさら仕事をこなしながら、先輩の綺麗な横顔を眺める。
どうにか好きになってくれないだろうか。
心の底から、愛がほしい。
僕は、本気で思ってる。
僕が生き残るために。