魔王達は食欲旺盛
鬼神族の砦では連日稽古終わりに宴が開かれていた。
そして今日もボロボロになるまで動きたおした皆が食卓を囲んでいる。
ヨウヘイ達が砦に住むようになって一ヶ月ほど経っていた。
「今日はええとこまでいったやろ?」
「んーそうだなぁ魔王まではいってないが、小魔王ぐらいにはなったんじゃないのか?はっはっはっはっ」
「いつかその顔をボコボコにしてやるわ」
ヨウヘイとキナヴァリは出会ってから数日で打ち解け周囲の者から見れば旧知の仲かと思うほどであった。
欲望に忠実な二人は、理解しあえる所が多いという事なのだろう。
「キナヴァリ様、そろそろ酒やら食料やらを足さなければなりませんね。」
「ん?もうか?」
「ええ魔王達が増えただけではありますが、何せ彼らの食欲が旺盛で。」
「なんと我らの種族よりも食ったというのか!?」
「ご覧の通り。」
ギヴンは口いっぱいに頬張り続けるヨウヘイ達を指さした。
「確かに、、、そうだったな。」
「では明日にでも調達に行きましょうか。」
「いや俺が行く。」
「キナヴァリ様が?そのような雑務は私にお任せ頂いても。」
「お前らばかりに任せてきたからな、俺も暴れたくなったんだ。」
「そうですか、、、ではお任せしましょう。」
「なんだ?どっか行くのか?」
「ん?ああお前らの食料調達だよ。」
「そうか、ならたんまりと持ってこいよ。」
「はっはっはっはっ魔王の命令なら仕方あるまい。食いきれぬほどに持ってきてやろう!」
鬼神族達の食料は、ドワーフ達などの年貢により賄われていた。この一ヶ月もドワーフが暮らすウエストバンクから緊急で徴収していた事は言うまでもない。
そこに魔王の義理の親がいようと妻がいようと無関係であった。そして魔王ヨウヘイですら過酷な徴収を了承していた。彼らが苦しもうが飢えようが無関心であった。
「おい、カタリーがしんどくなるのはアカンで。」
いや魔王の家族以外に無関心というのが正確な表現である。
「おう魔王のヨメさんだな。ならドワーフ以外から徴収するかぁ。」
「ではキナヴァリ様、北の骨からで良いのでは?」
「そうだな。あいつら食わねえ癖にたんまり持ってやがるからな。ちょっと遠いがそれが早いな。」
「ホネ?そんな貧素な名前の所にメシなんてあんの?」
「ああ骨はあだ名みたいなもんでな、骸骨の魔族でスケルトスって奴らがいるんだ。」
「骸骨、、、いやそんな奴らメシ持ってへんやろ。」
「それが奴ら持ってんだよ。食いもしねえのに」
「食べへんのに持つって変な骸骨やなぁ。」
「まあ、楽しみにまっときな。」
「おう、頼むで。」
砦から北上していくと、枯れたような森がある。
常に薄暗い雰囲気は、精霊の森とは違い神秘性はなく不気味な森であった。
その森には大昔に国があり栄えていたが今は遺跡となり魔族スケルトスが根城としている。
彼らは誕生した時から骸骨であったワケではない。多種多様な者達の成れの果ての姿が彼らの正体である。彼らは周囲の魔物を狩り毛皮など武具を作るだけではなく、肉を加工し保存していた。
それは生前の感覚が残っているからであった。食に限らず衣服を着ていることや、寒くもないのに火を焚べるのも要不要ではなく習慣化された行為を繰り返していただけである。
骸骨は喋りもせずに互いに無関心のように見えるが、スケルトス同士は念波で繋がっており、魔族長の号令が掛かれば習慣化する作業をやめ一糸乱れぬ軍勢と化す。
スケルトスには他の種族のような上位種などはなく、指揮命令を行う魔族長も選ばれたワケでもない。骸骨の中で無意識化にその能力が発現した者がなっていた。
魔族長となった者を倒したとしても、また別の者にすぐに権限は移譲され軍勢が戸惑う事はなかったので相対した者は片っ端から核を破壊するしかない。
鬼神族はスケルトスから定期的に年貢を徴収しているワケでは無かった。その地に赴いては単純な略奪を繰り返していたのだ。
軍勢を持つとはいえ、鬼神族にとっては与し易い相手であり多少の反発こそあれど些末な事であった。
そう魔王が誕生するまでは。
薄気味悪い森の中で無言の骸骨が骨を鳴らしながら何やら準備を進めている。今迄貯めてきた武具を出しては補強をし、丈夫な魔物の骨は削って剣にしたり盾にしたり、小さな骨は鏃に使う。黙々と淡々とそれこそ丁寧にコツコツと準備を進めていた。
不思議な森では誰一人手を止める事無く四六時中作業が行われていたのであった。
「それじゃあ行ってくる。」
「何故、私も同行するのだ!」
「ピーピー言うなブロンド。俺達の主の為だろ?」
「そ、それはそうだが私は魔王様のお側にいるという使命が、、」
「それはお任せ下さい。」
ギヴンが魔王の隣で微笑んでいた。
「き、貴様!まさか魔王様に何か仕掛けるつもりか!!」
「あはははは。私が魔王に?もうそのような気はありませんよ。忠実な下僕も同然。」
「信じられるか!!」
「はぁ〜、、、もう行ってこいやブロンド。お前はうるさいねん。」
「ま、魔王様、そんな、、、」
「ええから、早よ行って持って帰ってこい。」
「わ、分かりました。しかし油断だけはされぬようお願い致します。」
「あーはいはい。分かったから行ってこい。」
キナヴァリはブロンドを連れて北上していく。
ブロンドを同行させたのは何の他意もない。何となく目に入って荷物でも持たせるかと思っただけである。
砦に残る元三傑達も何にも考えておらず、彼らが出掛けた後も相変わらずに稽古に明け暮れるだけであった。
「ほらいつまで不貞腐れてんだ。」
「、、、」
キナヴァリはブロンドが辛気臭く横にいるのが気に食わない。
「おい折角魔王の役に立てるんだ、手柄を持って帰りゃあいつも褒めてくれるんじゃないか?ん?」
「、、、そう思うか?」
「おっ!そりゃそうだろ。何せお前はあいつの一番なんだろ?」
「ま、まあそうだな。私が最初に祝福を受けたのだ。いわば選ばれし戦士であるな。」
「そうそう選ばれし戦士ブロンド様よ。」
「そうだな!よしっ!スケルトスは私が片っ端から亡骸に変えてくれるわ!」
「、、、まああいつら既に亡骸だけどな。」
調子を取り戻したブロンドと共にキナヴァリは魔族スケルトスが住む森へと歩を進めていった。