魔王に対抗するエルフ達①
エトナ火山では魔族ファイティオ達が天然の要塞をより強固にすべく木柵を作っていく。魔王が進軍してくる事を想定し、足止めに加えて遠隔から得意の火炎を浴びせる算段であった。その作業は昼夜問わず行われていた。
エトナ火山の麓、精霊の森。
エルフとアフテアとギルドマスターのソウジロウが木柵で囲まれていくエトナ火山を眺めていた。
「ソウジロウさん、動きが変わりましたね。」
「ええ、やはり魔王と鬼神族のニュースでしょうね。」
「ファイティオ達も傘下になるのでしょうか?」
「どうでしょうか。ペラードという魔族長はプライドが高いと聞きます。あの木柵は、魔王とやり合うつもりでは無いでしょうか。」
「ここにも魔王が来るということですかね、、、」
「、、、避けられないのかも知れません。」
ソウジロウはオエドの惨状を思い出していた。
「アフテアさん、我々も対抗できる策を考えなければなりませんね。」
「対抗できる策、、、やはり、、、それならばエトナ火山を手に入れる事しか、、、。」
エルフ族にとって絶対的な攻撃力を得るならば、エトナ火山は必要不可欠であった。
「天然の要塞に木柵、突っ込めばファイティオ達からの火攻めに合うでしょう、、、外からは攻めようが無いか、、、内側から攻め入る事ができるならそれも可能かも知れませんが。」
「そうですよね、、、ソウジロウさん、一度族長に相談してみましょう。何か方法があるかも知れません。」
エルフ族は遠距離攻撃と防御に特化した種族である。数千年もの間、精霊と共に生きてきた彼らは精霊の加護を受けて森と大地から類稀な身体能力を得ていた。遠くまで見通せる目、僅かな気配も察知できる感覚と集中力は森に近付く者の悪意だけでもその存在を感じ取れる。しかし、近距離戦となると彼らには決定打が無かった。
それを補って余り得るもの、それがエトナ火山の力であった。
エルフ族一の弓の名手アフテアはソウジロウを伴いエルフ族族長のもとを尋ねる。エルフの族長であるレイシアは永きに渡り精霊の側に仕えた数少ないエルフである。
精霊と共に生きるエルフといえど、精霊そのものと謁見し傍に仕える者は数少ない選ばれた者だけであった。
「族長、ご相談があります。」
「アフテアか、どうぞ入りなさい。」
アフテアとソウジロウはレイシアに、魔王やキナヴァリ、エトナ火山の状況を話した。
「、、、、キナヴァリが魔王の下で昔のように暴れたくなったのでしょう。キナヴァリが敗れたというよりは、退屈していた生活に飽きたのかと思いますね。」
「族長じゃあるまいし、そんな事がありえるんですか?」
「アフテア、私が退屈していると?」
「だって放浪癖があるじゃないですか?」
「失礼ですねぇ〜あれは放浪癖などというワケではありませんよ。それに退屈なワケでもありません見聞を広める旅に出ているだけなのですから。」
「そうですかねぇ〜?」
「そんな事よりも、エトナ火山の中に入る方法の話しをしましょうか。」
「レイシア様、そのような方法があるのですか?」
「ええ、ございますよ。」
「族長、それならばエトナ火山を手に入れる為に教えて下さい!ソウジロウさんと冒険者の皆さんと行ってきますので。」
「アフテア、落ち着きなさい。まずは精霊の下へ行きますよ。」
「えっ!?せ、精霊のところ??」
「ええ、精霊の力を借りなければ叶いませんからね。」
「そ、そ、そんな所に行っても良いんですか??」
アフテアはエルフでも選ばれた者しか会うことが許されない。畏れ多いと恐縮していた。
「んーーーん、、、良いんじゃないかしらね。」
レイシアは、アフテアの様子を気にする素振りも見せずにあっけらかんとしていた。
「軽いっ!族長、私がそんな軽く簡単に会って良いんですか??」
「軽いかどうかは分かりませんが、精霊は常にみんなの側にいる存在ですよ。普段から簡単に出会えているのです。今回は感じるだけではなく、お話しをしなければならないですから精霊が暮らす場所へ行くのですよ。」
エルフ達は精霊に直接会わずとも森での永い暮らしの中で加護を受けていた。最初は特別なものだと考えられていたが、時が経ち世代が移り変わる間に加護という言葉だけが残ったものの自然の力を得るというのは彼らにとって普通の事柄となっていた。
「レイシア様、私も同行しても宜しいのですか?」
「ええソウジロウ様も来て頂かなければ。アフテアと共に、いえ我々と共にに戦って頂く大切な仲間なのですから。さあ二人共ついて来て下さい。」
レイシアは二人を連れ立ってエルフの里を抜けて森の奥深くへと入っていく。進んでいくと、赤く染められた石で作られた橋が見えてくる。ここは聖域との境界とエルフ達は呼んでおり、族長など選ばれた者しか渡る事がない神聖な橋であった。
川が流れているワケでもなく、高所にあるワケでもない赤い橋を渡っていると時折冷たい風が吹き抜けた。
アフテアとソウジロウはその風の冷たさに驚いたものの怖さではなく荘厳なものを感じていた。
橋を渡り切ると、左右に天然石で作られた彫像のようなモノが幾つも続いていく。これは精霊を模して過去のエルフ達が作った置物だとレイシアが教えてくれた。レイシアは不格好でしょと笑いながら通り過ぎていく。
聖域に入ってからというもの不思議な感覚に捕らわれていた。方角や進んだ距離、どれ程の時間が経過したのか分からなくなっていたのだ。これは精霊によるものか、聖域がそうさせるのか、簡単には入れないような仕組みがなされているのであろう。レイシアの後をぴったりと離れないように二人は歩いていった。
「ここよ」
レイシアが立ち止まり振り返る。
二人はその場を見回す。変わらない森の景色があるだけで何処がここなのか分からなかった。
「族長、、、ここ、、、ここなんですか?」
「そうよ。」
「我々には先程までの森と変わらないように思えますね。レイシア様には精霊が見えておられるのですか?」
「ふふふ。まだ来てないみたいです。でも直ぐ来るので少し待ちましょう。」
レイシアはそう言い太く大きな木の根に腰掛ける。二人もそれにならい座って辺りをキョロキョロ見回していた。
アフテアは、ババっという僅かだが羽音がしたような気がした。
「ん?」
「来ましたわ。おはようございます。ミントさん。」
レイシアはすっと立ち上がり羽音の方へ挨拶をする。
「お客さんを連れてくるなんて珍しいわね。レイシア。」
アフテアとソウジロウは、羽音と声がする方をじっくりと見た。少しずつ少しずつ靄が晴れるようにその実態が見えてきていた。
「いた!!」
アフテアは視界に捉えた精霊に驚いて声を出す。
「ほ、本当だ。私にも見えました。」
「あらお二人さん、初めまして。」
二人に挨拶をした精霊は、小指程に小さな身体に美しい羽が伸びていた。




