魔王と欲望
キナヴァリは食事を美味そうに食べ続けるヨウヘイを見て遠き日を思い出していた。それは何百年も前の事である。
遠き日のキナヴァリはただ純粋に強さを求め戦いに明け暮れていた。強い者がいると聞けばどのような場所であっても単身で乗り込んでは大乱闘を繰り広げる毎日。傷付き倒れても何度も何度も挑戦しては打ち勝ってきた。そんな日々を過ごしている内に気付ば幾人かのダイモナスやパノダイモナスが付いてきて、やがて集団となりあれよあれよと手下の数が膨らんでいった。
いつからだろうか純粋に強くなりたいと思わなくなったのは。
領土、金、地位、名誉、名声、いつからこんなモノたちに拘るようになったのだろうか。
どっしりと砦の奥に引きこもり手下に指示を出しては、ああでもないこうでもないと御託を並べる。
何百年も全盛期の力を有しながら、誰かを討ち取る事は叶わない。いや望んですらいなかった。
キナヴァリは欲に真っ直ぐ忠実なヨウヘイを見ていると忘れていたかつての欲望を思い出した。
「魔王、俺がどうしたいかで動くぞ。」
ヨウヘイは食事を頬張り頷く。
「お前を魔王にしてやるよ。」
キナヴァリが言った言葉にその場にいた者達が驚きどよめいた。いや、ヨウヘイ以外が驚きどよめいた。
「お前たち騒ぐな、落ち着け。」
「いや、なんでお前に魔王にしてもらわなアカンねん。もう魔王やって言うてるやろ。」
「ほう?そんなにも弱いのに?魔力の使い方も知らず?それで魔王?ダサい奴だな。」
「なんやと?ダサい?誰がダサいねん!カッコイイやないか!」
「いやダサい。今のお前はクソダサいな。」
「ちっ!勝手に言ってろ。クソオニが。」
「しかし魔王はお前だろうな。」
「ん?」
「だから魔王は俺じゃなくお前が似合う。」
「ん?おーん。そうかぁ?似合うんか?」
ヨウヘイは満更でもない様子であった。
「キナヴァリ様、何を仰っているのですか!?」
「そうじゃ!ワシらはキナヴァリ様を魔王にする為におるんです!」
ギヴンとトリアは珍しく動揺していた。
しかしジュニアだけは違った。
「親父、戻りたいんだな?」
「分かるかジュニア。」
「まあ腐っても親子だからな。」
キナヴァリは再びヨウヘイの目を見る。
「魔王、我々は四天王としてお前の下につく。」
「キナヴァリ様、、し、四天王!?」
「まさか、、、またワシらと暴れたくなったんか!?」
「そうみたいだよ。このバカ親父は。」
トリアは豪快に笑い、ギヴンは顔を手で覆っていた。
「なんでや?」
「何故?俺がそうしたいのに理由がいると言うのか魔王?」
「、、、い、いらんな。」
「しかし弱いままでは腹が立つ。明日から鍛えるからな魔王。」
「いやや。」
「嫌なら逃げ出せば良い。俺は逃さぬが。」
「、、、何やこれめちゃくちゃ面倒くさいな。」
「ギヴン、アレを連れて来い。」
「はっ。」
キナヴァリが言うアレとは魔王の娘サヨの事である。サヨはあれからずっと変わらずに殺すだの何だの喚き続けていた。
ドサっとヨウヘイの前にサヨが投げられた。
「あれサヨやん。おったんか?」
食事をする足元に転がるサヨにヨウヘイは声を掛けた。
「お、お父様!!お父様来て下さったのですね!さぁ殺しましょう!この鬼神の奴らを一匹残らず殺しましょう!!」
喚くサヨを冷めた目で見つめるヨウヘイであった。
「んー、、、もうええねん。終わった。こいつら俺の四天王になったんやて。」
「え?終わった?四天王、、、お、お父様、ですがこいつらはドワーフの敵なんです!倒さねばならない敵なんです!!」
「うんうん。知ってるって。そやけど終わったんや。」
「お、お父様、、、」
「サヨ、お前は俺の娘でこいつらは四天王。仲良くせえよ。」
サヨは呆然とヨウヘイと周りにいる鬼神族を見ている。
「、、、は、はい。」
サヨは床に転がったまま承服した。
「そう言えばブロンドがおらんなぁ。死んだ?」
ヨウヘイの問いかけにトリアが答える。
「ああ、あのドワーフなら生きてるぞ。お前の事を心配して、三日三晩何も食わずに牢に入っどる。」
「そうか。ご苦労さんって言っといて。」
「はっはっはっ。それだけか?はっはっはっ。分かった伝えとくよ。」
「あんたキナヴァリっていうか?」
「ああそうだ。あいつは、俺の息子でジュニア、お前をぶちのめしたのはトリアで、ギヴンは知ってるな。」
「そうか。ほなキナヴァリよろしくな。」
「よろしく魔王。」
今迄のキナヴァリであれば、魔王を味方につけた途端に情報を流していただろう。しかしそうはしなかった。知りたい奴は知ればいい。隠しもしない。
キナヴァリはただ純粋に欲望に生きる道を思い出していた。
とはいえ、知りたい奴らは何処にでもいる。喋りたい奴らもそこかしこにいる。
鬼神と恐れられたキナヴァリが魔王の傘下に入り、三傑達と共に魔王軍四天王と名乗ったのだ。他の魔族達はキナヴァリを従えたまだ見ぬ魔王に怯え、魔族以外の者達はキナヴァリ達を手懐けた魔王の次の一手を想像しては怯えていた。
ハコニワを震撼させる特大ニュースは人づてに伝わっていく。それは尾ひれを付けに付けて広がっていくのであった。
そんな事にはまったく関心の無い魔王と四天王達は、毎日飽きもせずに特訓だなんだと騒いで楽しんでいた。実に平和な光景だ。いや血飛沫は舞っているのだが、彼等が笑っているから平和に見えているだけかも知れない。
エトナ火山。
ファイティオの魔族長ペラードの傍らで側近のテクテクが苛立っていた。
「畜生!あの獣人共め!あと一歩という所で邪魔しよってぇ~」
ペラードは溶岩石の器に入れたマグマを呑みほしててテクテクを呼び止める。
「エルフなんぞに構ってる場合ではないぞ。」
「へ?どうしたんですかペラード様」
「なんだ聞いておらんのか?キナヴァリが魔王の傘下に入ったと先程からエンチャントが騒いでおるというのに。」
「な、なんですとぉ!?」
「キナヴァリが敗れた鬼神族が大敗したと騒いでおったわ。」
「とととととという事は、、、」
「偽者では無かったという事だな。」
「ほほほ本物の魔王が現れたとっ!?これは一大事ですぞペラード様!エルフなんぞに構っておられませんぞ!」
「だからそう言っているではないか。」
「ペラード様、如何なさるおつもりで?まさか魔王の傘下に入ると仰るおつもりですか?」
「テクテク、俺が魔王になる事を諦めると思っておるのか?」
「いえ、そ、そんな事は、、、ではどうされるおつもりで?」
ペラードは溶岩石の器でマグマを汲み取ると天に掲げる。
「ぐわははは。この地で迎え討つのよ!我らの要塞エトナ火山でキナヴァリ諸共亡き者にしてくれるわ!ぐわはははー!」
「へーへっへっへっへ!さすが我が主でございますなぁ、早速準備に取り掛かりますぞぉ〜。」
天然の要塞エトナ火山。火を操る魔族ファイティオにとっては、これこそ鬼に金棒。魔王やキナヴァリなど目じゃないぞと魔族長ペラードと側近テクテクは高笑いをしながら迎え討つ準備を進めていった。




