オエドのギルド
オエドの大通りに面した一画に【ギルド】が建っていた。
大きい建物ではあるが、見た目は所謂古民家のようで看板には見慣れぬ文字が書いてある。言葉は理解できても、文字までは分からない。恐らく、ギルド的な事が書いてあるのだろう。
扉を開けると、土間の先に受付のようなカウンターがある。壁には掲示板の役割があるのか、読めない言葉で埋められていた。サキチ達を先頭に、カウンターまで進む。
大通りと同じように、ギルド内にいる人々は興味津々で俺を見ていた。それは、カウンターの中に座る獣人も同じであった。
「ちょっと!サキチ!その人、、、もしかして、、、」
カウンターに到着する前に、座る女性の獣人は声を掛けた。
「えへへ。そうだよ。メガミノオトシモノだよ。」
サキチは、その獣人に自慢気に伝えた。
「キャー!!やっぱり!え!何年ぶりなのかしら!」
中の獣人は、興奮を抑えられないのか、背後の尾が大きく左右に揺れていた。
「と、登録に来たのよね!?そうよねー。とりあえず、あっちの階段から上にあがって!」
中の獣人は、そう言うとカウンター裏の扉を開けてドタバタと走っていった。
「ヨウヘイさん、そういう事らしいし行こうか。」
「お、おう。そうやな、、、。」
俺達は、ギルド内の人々の好奇の目に晒されながら階段を上り2階へと向かう。
2階では、既に先程の中の獣人が扉を開けて待っていた。
「さあ、どうぞ!どうぞ!」
尻尾がブンブンと音を立てて揺れている。
扉を入ると、そこに居たのは俺と同じ見た目の人だった。
無精髭なのか顎髭をたくわえた顔は、無骨な雰囲気を醸し出していた。
「ようこそ。メガミノオトシモノさん。こちらへお掛けください。」
俺達は言われるがままに、ソファーに腰掛ける。こっちに来て初めて丁度良いサイズであるが、サキチ達にとっては、大きなものであったが、ひょいっと跳ねて座った。
先程の獣人が飲み物を出してくれる。この香りは珈琲だ。
「珈琲もあるんですね。ありがとうございます。」
俺がそう言うと、顎髭の男は答えた。
「ええ、オエドにはそちらの世界の物も多いと思いますよ。」
「私は、ギルドマスターをしているソウジロウと申します。メガミノオトシモノさんのお名前を聞いても?」
「はじめまして、ヨウヘイといいます。よろしくお願いします。」
「ヨウヘイさん。ようこそ。我がギルドへ。歓迎いたします。」
ギルドマスターのソウジロウとの挨拶が終わると、獣人も挨拶をする。彼女は、レイスウルフのティアという。
「ソウジロウさん、貴方はサマーイの子孫なのですか?」
「よくご存知で。そうです。ヨウヘイさんとも繋がりがある種族ですね。」
ソウジロウは、そう言うとサマーイについて話しをしてくれた。
オエドの創始者は、創始者以前に来ていた何人かのメガミノオトシモノと多種族の優秀な人材を集めてその者達を【サムライ】と名付けた。そうこのサムライが、訛ったのか伝言ゲームの間違いか、今はサマーイと呼ばれている。
そして、サマーイは人の名前では無かった。これは、サキチ達が間違って覚えていたのだろう。
創始者の名前はヒデヤスという方だという。
俺の不勉強なのかも知れないが、イエヤスやノブナガとかヨシノブとかを期待していたので知らない名前に少々がっかりした事は許してほしい。
ソウジロウは、ヒデヤスと共にオエドを造ったサムライの子孫だそうで、ヒデヤスの子孫では無いという。そして、ヒデヤスの子孫は代々オエドの領主を務めているという。今は、10代目のイエモチという方が領主らしい。ソウジロウ曰く、メガミノオトシモノであればいずれ会う機会もあるという。それは役得なのかも知れない。
そんな話しを聞いているうちに、登録手続きを終えたティアが戻ってきた。
「ヨウヘイさん、こちらをどうぞ。」
ティアから渡されたのは、鉄のプレートだった。
そこには、読めないが俺の名前とオエドギルドと刻まれているらしい。身分証になるようだ。メガミノオトシモノだからと特別な物ではなく、各地のギルドでそれぞれに発行されるらしい。ギルドによっては、形にこだわったものがあったりプレートではなく指輪にしている所もあるという。何にせよ、これで俺もハコニワの住人になった。
サキチ達もそれを見ると、それぞれのプレートを見せてくれた。二人のようにプレートをネックレスにするのが多いらしく、後程二人とプレートに付ける紐を買いにいくことにした。紐にも何やら流行のようなものがあるという。
「では、ヨウヘイさん。これで貴方も正式にハコニワの住人です。昨日来たばかりで、分からない事も多いとは思いますが、いつでも我々を頼ってくださいね。」
ソウジロウは、優しい言葉と共に布袋を手渡した。
「はい。あ、ありがとうございます。ソウジロウさん、これは?」
「それは、支度金です。メガミノオトシモノが来た時の為に、用意しているものです。ここで生きていく為に必要なものを揃えて貰うお金ですので、有効活用してください。」
「お金ですか、、、。良いんですか?貰っても。」
「勿論です。私も実際に渡すのは初めてなのですが、それは初代のヒデヤス様がお考えになった事ですので。」
150年前の初代が考えたものが、やっと日の目を見たのだろう。俺は有り難く頂戴した。何せ、無一文なのだから。しかし、お金が必要という事は、ここでも俺は働き続ける人生なのかと、、、まあ生きる事は働く事と同意なのだから仕方ない。
住人の証であるプレートと支度金を貰い、ギルドを後にした。
「さ、ヨウヘイさん。とりあえず、ジュエルショップで買いましょ。」
サヨは、楽しそうにしている。どこの世界でもジュエルというのはときめくものなのだろう。
ジュエルショップでも、レイスウルフの店主が迎い入れてくれた。サヨが選んだチェーンを購入した。店主は、光栄な事だとお金を受け取ろうとしなかったが、流石に貰ったお金だし使わないのも失礼かと、無理やり置いて出た。
貰った支度金をサキチに数えて貰うと、30万エン分の金と銀の貨幣が入っていた。他に銅の貨幣があるようだがそれは入っていなかった。金貨が2枚に、10枚ずつ分けられた銀貨の小袋が10袋100枚分が入っていた。金貨が1枚10万エン。銀貨が1枚千エンという事だ。
【エン】という単位で本当に良かった。理解しやすい。
ちなみに、先程のチェーンは5千エン。銀貨5枚だ。何となく、ほんまに何となくやけど、、、高ない?アクセサリーに無縁の人生だったからかも知れないが、そんなにすんねやと率直に思ってしまう。
「サキチさん、サヨさん。俺、働きたいんやけど。どうすれば良いかな?」
「へ?」
「なに?働く?」
二人はキョトンとして俺を見ている。
「いやいや、ほら住むとことか、生活あるし働かないと。」
「うんうん。住むとことか、生活は分かるけどお、、、ヨウヘイさんは私達みたいに働くのとは違うわよ。」
今度は俺がキョトンとサヨを見ていた。
「サヨ、とりあえず連れて行こ。そっちの方が説明するより早いし。」
「それもそうね。さ、荷台に乗って。」
二人に言われるがまま荷台の定位置に座ると大通りを進んでいった。働くけど、仕事が違う、、、異世界。まさか。遂に、、、最も異世界らしい仕事が待っているのか。期待していなかった訳ではない。働き詰めの45歳とはいえ、俺もスマホでマンガを読んでいたし、それこそ不朽の名作RPGぐらいはやった事がある。ソウジロウの必要な物を買い揃えるという言葉も頷ける。こんな、ラフな格好で思い描く冒険には出られない。これは、ワクワクしてきた。
いいね、ブックマーク、評価
宜しくお願いします!!