魔王のニュース
鬼神族キナヴァリは、魔王と名乗るメガミノオトシモノが現れたと直ぐに他の魔族へと情報を流した。
情報を得たそれぞれの魔族は驚き戸惑う事であろう。その混乱に乗じて圧倒的な軍勢を持つ自身が【偽魔王討伐】の旗印となろうと画策していた。そして、達成された暁には「我こそが魔王である」と宣言するつもりであった。
情報を得た魔族はキナヴァリの思惑通り驚き戸惑ったものの偽魔王討伐については、それぞれが旗印になりその首を手に魔王と宣言するつもりであった。
エトナ火山に住む魔族ファイティオもこの機に乗じて魔族を総べる者になろうと決意していた。
ファイティオの魔族長ペラードは溶岩を飲みながら側近のパノエンチャントであるテクテクと共にこの情報に接していた。
「ぐはははは。我らが魔族の頂点に立つ日が近付いたのう!」
「へえ、ペラード様。このエトナ火山のように魔族達を見下ろしてやりましょうぞ。へっへっへっ。」
エトナ火山の麓にある森には精霊が宿っている。
「何と言うニュースでしょう。」
「そうですね。波乱の予感しかしませんね。」
「精霊様もきっと心穏やかにはいられないでしょう、、、心配です。」
精霊を守るエルフ達も魔王が現れた事に同様していた。
精霊の森の奥深くエルフ達の暮らす集落がある。大木が立ち並ぶ集落は、木々の間に廊下を渡しエルフの民たちはツリーハウスに住んでいた。その一画で騒がしい声が聞こえる。
「アフテア、アフテアー」
「何よもう。うるさいわね。」
「あ、アフテアっ。まだ寝てたの!?」
「寝てるわよ。昨日は夜通し見張りだったんだから。」
「もう、それよりも一大ニュースなのよ!」
「何?また族長が出ていったの?」
「違うわよ。放浪癖の話しじゃないわよ。魔王よ魔王!魔王が現れたんだって!」
エルフの女戦士アフテアは「魔王」という言葉に眠気が飛んだ。
「なんですって!?ま、魔王!?そんな、、、急に」
「なんでもオエドを陥落させたらしいわ。」
「オエドが!?じゃ、じゃあイエモチさん達を保護しなきゃ。あの人がいなければ、更に魔族が荒れるわ!」
「、、、アフテア、イエモチさんも殺されたって。」
「!?」
アフテアは呆然と立ち尽くした。
魔族ではないエルフはオエドの領主イエモチと同盟を結び互いに固い絆で結ばれていた。
オエドの初代領主ヒデヤスから続く絆は、「ハコニワの安寧」という共通の目標で繋がっていた。
「アフテア!ショックを受けている場合じゃないわよ!エトナ火山の奴らも絶対勢いづくわ!」
「そ、そうねっ。とにかく守りを固めなきゃ。」
エルフのアフテアは所属する戦士団に守備の強化を進言し自身も精霊の森を守るべく警戒にあたった。
「魔王、、、許せない。イエモチさん、仇は我々エルフ族が必ず討ちます。」
魔族もそうでないものも魔王のニュースには特別な感情を抱いていた。その頃、当の魔王本人は意識を失ってから三日三晩寝込んでいた。
四日目の朝、やっと目を覚ました魔王ヨウヘイは、傍らで眠るサキチとブロンドを起こす。
「んーー、、、ん?何してんねんお前ら。こんなとこで寝てたら風邪引くで。」
突然目覚めた魔王に驚き飛び起きた二人であった。目覚めたヨウヘイに事情を説明する。
「そうかぁ、、、そう言われると何となく覚えてるなぁ。なんや、脱力感が凄くてな、、、なんやったんやろうな。」
「魔王様、それはもしかしたら魔力切れというものでは無いでしょうか?」
「ん?魔力切れ?ブロンド、何か知ってんのか?」
「はい。いえ、三日三晩も続くというのは初耳なのですが、魔力切れを起こした魔族は回復迄に時間を要すると聞いた事がありまして。」
「回復かぁ、、」
「我々ドワーフは元々魔法が使えませんので、そのような経験は無いのですが、魔王様のように龍を具現化されるような魔法であれば相当な魔力が必要ではないかと。」
魔王ヨウヘイに起きた事は、ブロンドが話した通りであった。ヨウヘイは、女神の祝福を受けた直後から纏う青龍を呼び起こし具現化してきた。カタリーの部下を殺し、オエドを陥落させた。そして3人へ与えた力も多大な魔力消費を伴うものであった。
更には回復に務める間も空けず、カタリーを凌辱し続けていたのだから魔力が切れても致し方ないのであった。
「魔力て、、そんなん今どんだけあるかも分からんのに、、、どないしよかな。」
「恐れながら、慣れるほか無いのかと。」
「せやなぁ。はぁ、鬼神族はもうちょい先やな。」
ヨウヘイはベッドから起きるとミザに飯を作らせ3日分の食事をたらふく頂いた。
「美味いなあ。染み渡るわ。やっぱり飯は実家やな。」
「まだ、お、お食べになりますか?」
ミザは恐る恐るヨウヘイに接していた。
「いや、もうええわ。カタリーは?」
ミザはまたカタリーが辱められると思い咄嗟に言い訳を見繕って話した。
「カ、カタリーは、体調が優れずにあの日からずっと寝込んでおります。今はそっとしてあげるのが良いかと。」
「ほな、お大事にって言っといて。嫁は大切にせんとな。お前らみたいに円満にやらんとアカンやろ?」
「そう、そうですね。」
ミザは食事を終えたヨウヘイに腰巻きを渡した。
「なんやこれ?毛皮か?」
「い、いえ。腰巻きでございます。魔王様になられた訳ですから多少身なりをと思ったのですが、魔王様に合う物が無く。申し訳ございません。」
ミザは露出し続けるヨウヘイの下半身に嫌悪感を覚えていた。それはカタリーに行われた事を想起させるからだった。
ヨウヘイは貰った腰巻きを巻き礼を伝える。
「ええやん。何か主人公っぽいわ。こうなると上も欲しいけど龍があるしな。まぁええか。」
魔物の毛皮で作られた腰巻きに鍛え抜かれた上半身、背中には青龍を纏う姿は魔王ヨウヘイのトレードマークとなっていく。
サヨがいなくなって4日である。
魔王も力を与えられた者達も誰も気にしていない様子であった。自己中心的と言えば簡単であるが、ここまで他者に無関心でいられるのは異常である。
鬼神族の居城では、少し傷の癒えたサヨが魔族長キナヴァリの前に縛られたまま座らされていた。