魔族の狭間
ラフテリアには魔族の狭間で攻防を繰り返す騎士団と、迷宮の謎を探る冒険者達に加えて、もう一つのハコニワである魔王の領地を偵察する部隊を持っていた。その部隊はリンデコールのような原種の獣人を中心とした元冒険者達であった。
ラフテリアの議事堂にある官邸にアオイとメベドが招かれていた。
「アオイくん、この間はありがとう。」
「いえいえ。レオターリさんが来てくれたので、僕も色々と知ることが出来ました。ありがとうございました。」
「では、早速偵察部隊の紹介を。」
「はい。お願いします。」
多少のぎこちなさはあるものの、二人はより良い関係を築けそうであった。
レオターリが紹介した偵察部隊は3人であった。
隊長 オリジン ティタノボアのムンパ
隊員 オリジン サルコスクスのロンド
隊員 オリジン スミロドンのバクミス
それぞれ獣人の原種であり、他の冒険者の追随を許さない程の実力を保持していた。
「初めまして、アオイです。」
「隊長のムンパです。気性の荒い奴らばかりで失礼があるかも知れませんが、よろしくお願いします。」
「いえいえ、無理を言ってついて行くのは僕達ですから。ムンパ隊長の指示に従いますので。」
アオイは隊長と隊員という響きに不謹慎ながらワクワクしていた。
「アオイさん、出発は明朝となります。夜が明けた直ぐは魔族も鎮静化し潜りやすいので。」
「はい!隊長。」
「え、あ。では明朝にここで、、」
メベドはリンデコールとのやり取りを思い出し、また始まったと呆れていた。
「隊長!よろしいでしょうか!」
「な、何ですか?」
「明日から同行させて貰う人員にもう一人加えたいのですが!ダメでしょうか!」
「もう一人?しかし、あまりに大人数では見つかるリスクも上がりますからな。」
「そうだよ。隊長、そもそも部外者を連れて行くのですら俺は賛成してねえんだ。」
レイスクロコダイルの原種であるサルコスクスのロンドがアオイの提案に難色を示した。
「ロンド隊員!」
「なんだよ!文句あんのか!?」
「文句ではありません!もう一人は、影と呼ばれていた者で、隠れるのは得意です!」
「あぁ!?影だと!舐めてんじゃねえぞ。そんな大口叩く野郎なんざ、俺でも直ぐに見つけらるわ!」
「ロンド隊員!」
「何だよ!」
「見つけられておりません!」
「何!?何言ってんだこの野郎!」
トントンとロンドの肩を叩く者がいる。
「誰だコラァ!」
ロンドが振り返ると、そこにはマヴロスドラコンのノアールが眉間に皺を寄せ苛立ちながら立っていた。
「貴様、アオイ様にこの野郎と言ったのか?このワニ風情が、マヴロスドラコンの私を大口野郎と言っているのか?」
努めて冷静に、静かな怒りをロンドに向けていた。
「な!?あんた、、、マヴロス、、、マヴロスドラコン、、、そんな実在しているなんて。」
ノアールは、隠していた妖気を醸し出していく。
「!?」
「どうかな?我らの種族の力を試すか?ワニよ。」
隊長のムンパが二人の間に割って入る。
「お連れの方、私の部下が失礼致しました。マヴロスドラコンであれば、我々も心強い。改めてご同行をお願い致します。」
「ノアール!隊長に返事して!」
「はっ!同行します!」
「よしっ!」
ノアールはロンドの肩に手を置き「よろしくな」と声をかけた。ロンドは肩を窄ませて頷いていた。
「なぁ、あんたパグロームベアだろ?」
レイスタイガーの原種であるスミロドンのバクミスがメベドに問いかけた。
「お嬢さん、分かるのか?」
「へへ。あたしの鼻を舐めて貰っちゃ困るね。」
「それで、だとすればどうする?」
「いいや、どうもしねぇよ。面白い奴だなと思っただけさ。」
「そうかい。仲良く頼むぜ。」
レオターリは、メベドがパグロームベアと指摘したバクミスにも驚いたが、それをあっさり認めたメベドにも驚いていた。
「メベド、そうなのか?」
「王様には言ってなかったな。これは人化してる姿なんだ。似合ってんだろ?ガハハハ。」
「ま、まぁ、、それぐらいでないと潜れないか。」
アオイが新たなハコニワに行く。従者のメベドに加えて隠密が得意なノアールと偵察部隊のオリジン達と共に行く。
そのハコニワには、ラフテリアの偵察拠点がいくつかあり、定期的に連絡を取り合い対策を講じていた。
偵察部隊の仕事はその名の通りハコニワの現状確認と魔王や魔族の動向を探る事であるが、もう一つ重要な役目を担っていた。いつか来る反転攻勢の時の為に密かにハコニワ内でその勢力を作る事である。
拠点を中心に、魔族と戦う為の武具や食料などを運び込み現地で奮闘している幾つかの種族を助けていた。
今回も定期運搬の時期であり、拠点のいくつかを回る。一番危険且つ重要な仕事である為、隊長が動いていた。
魔族の狭間と言われる大きな亀裂。ここはハコニワの表裏を繋ぐ唯一の場所である。
大昔からここから魔族が這い出ては、侵食してきた過去がある。しかし、組織だったものではなく魔族からすれば興味本位な部分もあったであろう。大昔にこちら側に来た魔族達全てが他種族の脅威になったワケではない。ゴブリン達のように、根付いた事で迫害された者もいた。他種族からすると、動機はどうあれ魔族の侵入は放置できる事ではなく争いは絶えなかった。その後迷宮が突然現れて様相が変わる。狭間以外にも魔族が発生したのだ。ラフテリアは、突然の脅威にもギルドと冒険者という役割を設けて対策を講じてきた。当初はここも狭間のような空間ではと考えられていたが、現在でも10階層以上潜れずにいる為、真実はまだ分かっていなかった。
魔族達がいるハコニワと、アオイ達のハコニワは時間の流れが何故か同じだという。表裏と言いながら、向こう側が朝であれば、こちらも朝というように、裏表というが鏡の中と外のような状況であった。
夜も開けきらぬ早朝、議事堂の前に偵察部隊とアオイ達が集結した。彼等は騎士団が戦線を敷く魔族の狭間へと向かっていった。
「アオイ、その兜みたいなのは何だよ?」
「ん?親方に作って貰ったの。ヘルメットっていうだよ。」
「お、おう。何か意味あんのか?」
「あのねメベド、大切なの。」
アオイはスチャっとヘルメットを目深に被り敬礼した。
「、、、おう。」




