ドラクル王の願い
アオイ達は、ドラクル城に滞在して3日目となっていた。その間常に複数の竜騎兵が側に付き何かしようかと動くと「私めが。」「そのような事はこちらで」「お休み下さい」と贅沢な不自由を感じていた。
ドラクル王達は、あの日から三日三晩全ての村人達への謝罪と皆の声を聞くために火村に滞在していた。
それも分かっているからのこそ、アオイ達は致し方無しと待っていた。
翌日、竜騎兵から王達が戻ったと聞かされたがいま暫くお時間をと言われ待つことに。
待つこと2時間、アオイ達の客間に王が自ら赴いた。
王はまず3人に深々と頭を下げた。
「アオイ、いやアオイ様。長くお待たせした事、お詫び申し上げる。」
「いやいや、そんな。別に良いですよ。凄い良くしてくれていましたから。」
「そして、我々をお救い頂いた事、改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。」
「と、とんでも無いです。」
「お二人にも感謝申し上げます。ありがとうございました。」
「おう。」
「恐れ多いお言葉で。」
「つきましては、お会いして頂きたい者やご相談したい事がありまして、階下の宴会場へと来て頂けますでしょうか。」
「勿論ですよ。ドラクル王さん、その畏まった話し方はやめませんか?」
「申し訳ございませんアオイ様。ご容赦ください。」
「んーーー。はい。」
宴会場には、フィリドラコンだけではなく、火村のテクトナスの人達も集まっていた。そして、末席には、あのマヴロスドラコンの7人が立っていた。
アオイが驚いていると、ドラクル王が説明をしてくれた。
「ドールにつきましては、主犯及び実行犯、そして他の者を扇動したとして現在は地下牢にて収容しております。彼等については、集落を囲むまで何も知らされていなかった事が分かりました。」
「そうなんですね。ちゃんと話しを聞いたんですね。良かった。」
奥で7人はアオイに向けて深々と頭を下げていた。
ドラクルはテクトナスの村長を紹介する。好々爺な雰囲気の彼はプロゴノスという名だそう。
「この度は、我らの姫様と王様をお救い頂きありがとうございました。また、テクトナスの者達も皆様のお蔭でこうして生きる事が出来ました。重ねて感謝申し上げます。」
ドラクル王は、火村を独立した国とする事をここで伝えた。プロゴノスは驚いていたが、ドラクル王は村人の話しを聞き終えて決断していた。自治を認め、他国との交易も認めた。それは、彼等が言っていた陽の目を見ることのない優れた技術の話しが刺さったのであった。
「プロゴノス、いや国王よ。本日より我々は同盟国として上下の無い対等の者として接していければと考えているのだが、如何か?」
「ドラクル王様、そのような、、恐れ多い、、、」
「いや、そうさせてくれないだろうか。」
プロゴノスはドラクル王の意を汲み提案を受け入れた。ドラクル王は、国名が決まれば教えて欲しいと伝えた。
「そ、それであれば良いでしょうか?」
「勿論です。プロゴノス王。」
「あの、これまた恐れ多いのですが、アオイ様のお名前を頂くというのは、、、」
「おお、それは素晴らしいですな。プロゴノス王の意見に我も賛成です。アオイ様如何でしょうか?」
「えっ!えーー?えー!!」
「良いんじゃないか。名前ぐらい。」
「アオイ、あんた凄い事よこれ。」
「、、、まんまはやめて欲しいかな。」
「言ってみるものですなぁ、ありがたやありがたや。では、我々の国名はアオイで如何でしょう。」
「いやいや、プロゴノスさん、だからそのまんまはやめて欲しいんですけど」
プロゴノス王は悲しそうな顔をする。
「そうですか、、、」
「ならモローチャで良いんじゃないか?」
「モローチャ?」
「ああ、アオイっていう花があるのさ別名モローチャ、どうだ?」
「おお!メベドさん、それは素晴らしい!そう致しましょう。国名はモローチャに決めました。」
火村は独立し火の国モローチャとして新たな時代を歩き出す。テクトナスの技術がハコニワを席巻するのも時間の問題であろう。
「モローチャかぁー、それなら良いかな。」
ドラクル王は、まだ相談があるという。
「は、はい。こうなったら出来る事はします。」
ドラクル王は奥に立つ7人のマヴロスドラコンを呼ぶ。彼等は足早にアオイ達の前に立つ。
「アオイ様、彼がドールに変わる新たなリーダーとなりましたノアールです。」
マヴロスドラコンのノアールは改めてお辞儀をすると、その場に跪く。残りの6人も跪いた。
「え?今度は何??」
「アオイ様、我らマヴロスドラコンの6人はアオイ様の影となる事を望みます。是非我らを導いて下さいませんか。」
彼等は一族から抜けてアオイと共にいたいという。それは、踊らされたとはいえ竜族を裏切ってしまった事を悔いていたからであった。
ドラクル王は赦していたが、彼等は狭い世界に留まっていた事が、判断を鈍らせ言われるがままに信じてしまったと考えていた。
アオイの側で見聞を広めたいと思っていた。
「彼等は優秀で素直な者達なのです。この願い叶えてやってくれないでしょうか?皆様の末席に加えて頂けるならば、この上ない喜びでございましょう。」
ドラクル王の強い勧めと、目の前で跪く彼等を見ると断われなかった。
「い、良いですけど、影とかじゃなくて普通にしてくれるなら」
「アオイ様、ありがとうございます!」
7人はそう言うとスッと消えていった。
「彼等は影の存在。いつでもお呼び頂ければ直ぐに馳せ参じますので。」
「いや影〜、普通が良いのに、、、」
「ところでアオイ様。アオイ様は冒険者だと伺いましたが、何処かの国王という事は無いのでしょうか?」
「え?無いですよ。僕は僕ですし。国とか全く無いですよ。」
「そうでしたか、、、それは残念です。アオイ様程のお力であればどこぞの長であってもおかしくないかと思っていたのですが」
「アオイ、お前ボスだろ?」
「なんと!?今なんと申された!?ボス!?」
「そうだ。アオイはヴィンディードッグ達のボスだぞ。」
「メベド!何言ってんの!それは成り行きでデコにお願いされたからで。」
「アオイ様、それは本当ですか?あの他種族を嫌うヴィンディードッグ達を束ねていると。」
「いやまあ、その本当に成り行きで。」
「素晴らしいですな。して国名は?」
「あっ、ありませんよ。本当に20頭ぐらいしかいないですし。国なんてとんでもないですよ。」
「20頭!?ヴィンディードッグ20頭の長!?それはあの森で一番の勢力ではありませんか!?素晴らしい!本当に素晴らしいです!我々フィリドラコンの者達は、アオイ様が納める国に仕えさせて頂きますので何卒よろしくお願い申し上げます。」
話しがととととーんっと進み、ドラクル城が配下に加わり、火の国モローチャも必然的に同じ状況となった。そしてマヴロスドラコンの7人はアオイの影となり主従関係を結んでいた。
「アオイ、あんた何なんだよ。」
リンデコールは、この集いの中で初めて喋った。