冒険は学ぶ旅
漁業が盛んで人間と半魚人のイミゴーナが共生する国シーサイド。ここは東の村へと向かう途中の国である。
シーサイドの宿屋にあるレストランでは、肩を落としたアオイが静かに夕食を食べていた。
リンデコールはメベドに何かあったのかと聞くと、昼間のスラム街での出来事を教えられた。
「盗賊街に行ったのかい。そうか。」
「ああ、それから元気がなくてな。」
「アオイ、あんたが肉をやったのは可哀想だったからか?」
「、、、そうかも。」
「本当か?痩せたあいつらが大丈夫かなって心配したんじゃないのか?」
「、、、そうかも。」
「アオイ、私はやった事を後悔してウジウジする奴は嫌いだっ」
「、、、」
「でもやらなかった奴はもっと嫌いだっ」
「、、、」
「あんたがどんな気持ちでやったかが大切なんだ。行動する事には勇気がいるんだ。良いのか悪いのか、損か得か、そうやって考えてばかりで動けない奴なんて大勢いるんだぞ。アオイは、想いがあって行動したんだ。それは下を向く事じゃないよ、色んな考えの奴がいるって知って学んで次はどうすれば伝わるか考えんだよ。」
「、、、先輩、、、ありがとう。僕、考えるよ。」
「よし。今は討伐に集中だ。切り替えよう。」
3人は夕食を終え、翌朝の出発に備えて早目に床についた。
まだ夜明け前の盗賊街。アオイは、昨日痩せたイミゴーナが座っていた所に手紙を添えて荷物を置いた。タッタッタッとアオイの足音だけが盗賊街に響いていた。
朝食を済ませた3人は、シーサイドを出発し東側へと入っていく。
「こっちは、街道沿いでも魔物が出るからね、気を付けな。」
「そうなんですねえ。どんな魔物なんですか?」
「ディリスネークっていう毒を持つヘビだよ。」
「へえ、毒かぁ。噛まれたらヤバいです?」
「直ぐに毒を抜けば死ぬことは無いが、痺れたり腫れたりするしな、気を付けないと。そういう茂みに隠れてんだ。」
「へえ。大きいんですか?」
「細くてチョロチョロしてんだよ。1メートルも無いかな。」
「こんな感じですか?」
アオイは、紐のような物を持つとリンデコールに見せた。
「あぁ、そうそう。そんな感じでな、細いんだよ。」
「わかりました。気を付けます!」
「わかったなら良し!」
アオイは紐を離す。アオイの手から離れた紐は、ダランと隣りで垂れ下がっている。
「アオイ、その紐なんなんだ?」
「え?何かここにありまして、、、ほら。」
紐を手繰っていくと、ピンっと張った。
「あれ?」
ピンと張る先っぽにアオイとリンデコールは視線を合わす。
メベドのお腹には、ディリスネークスが離れまいと歯をめり込ませていた。
「噛まれてんじゃねえか!!」
「ん?なんだ?」
「いや、あんためちゃくちゃ噛まれてるぞっ!」
メベドは腹に食い込んだディリスネークブチッと引き抜いた。
「ガハハハ。俺に噛みつくなんざ、勇気があるじゃないか。ガハハハ。」
「いやいや、ダメだから。死ぬから!」
リンデコールは、鞄からポイズンリムーバーという毒を吸い出す器具を患部に当ててディリスネークの毒をメベドから吸い出した。
「ん?そんな事をしなくても大丈夫だぞ。」
「はぁ!?ダメだろ!毒だぞ。バカなのか!?」
パグロームベアは、そこらの魔物の毒でどうにかなる身体では無かった。多少腫れたりはするが、蚊に刺されたのと大差ない。
勿論リンデコールは知らない。
兎に角毒を抜いて、木陰に移動すると、メベドを座らせた。痺れが来たら安静に寝かせる為であった。当然パグロームベアのメベドに痺れがくる事は無いのだが、正体を明かす訳にもいかず従っていた。
「大巨人がどんだけ強くても、毒は毒なんだからな。ここで休むぞ、身体に異変があったら直ぐに言え。」
「お、おう。そうだな。」
小一時間木陰で様子を見る。
「深く刺さって見えたが、浅かったのか?」
パグロームベアはこの程度の毒では痺れない。
「何ともないか?」
「お、おう。お蔭様でな。」
「なら、行くか。アオイも気を付けろよ。」
「は、はい!先輩!」
3人は東へと歩いていく。
テクトナスが住む火村では、3ヶ月もの間ずっと緊張状態が続いている。火村へと出入り出来る所には、人影がありテクトナスの住民が出ないように見張っていた。
「村長、ドラクル王からの使いも来てないんでしょうか?」
「、、、そうじゃな。ああして囲まれては、動けんのかも知れん。」
「それならば、打って出ましょう。何とか突破して、ドラクル城まで行けば竜騎兵が何とかしてくれるんざゃないですか!?」
「落ち着け。もしそうなら今頃どうにか出来ておる筈じゃ。何か、、、何かあったんじゃ。」
「、、、くそっ!くそっ!」
火村の村長の家には数人のテクトナス達が身を寄せていた。貯蔵していた水や食料もどんどん減っていき、総勢50名程の村人は不安な日々を過ごしていた。
ドラクル城の玉座の間では、苦悩する王と側近が頭を抱えていた。
「、、、耐えられぬ。我が領土の大切な者達が苦しんでおるというのに。」
「なりません。王が動けば、奴らも動きます。」
「ならば、奴らの要求をのめと言うのか!」
「、、、」
「くそ!外道めが。」
「今は待ちましょう。ラフテリアのギルドから救援が来るかも知れません。」
「、、、テクトナス達よ。堪えてくれ。」
ドラクル王は強く握り絞めた拳を玉座に打ちつける。玉座は砕け、王の拳から血が滲んでいた。
東へ向かう街道は、ディリスネーク以外にも毒を持つ魔物が多く生息していた。それはまるで圧倒的な武力を持つフィリドラコンに対抗しようと進化したかのようであった。
尾を伸ばしその先に毒針を持つディリラビット、全身から毒液を吹き出すディリフロッグ、毒液を吐き出すディリリザードなど本当に多くの魔物が毒を持っていた。特にディリリザードは人と同じような体躯を持ち、知能も高く数頭の群れを作り襲ってきた。
素早く動き、群れの誰かは必ず冒険者の背後に回り死角から毒液を玉のように吐き出してくる。
目で姿を追いながら背後にも気を配る。一切の油断を許さない狡猾な魔物であった。
これらの魔物は日々フィリドラコンという最強と謳われる種族と対峙しているからなのか、パグロームベアの気配を感じても臆する事なく襲いかかっていた。




