冒険者は冒険をする
アオイ達は東の村に向かって歩いていた。
メガミノ村を通り過ぎ、「この先キケン」の立て札を超えて深い森へと入ろうとする。
「な!なにしてんだよ!」
リンデコールは慌てて止める。二人は「?」と顔を傾ける。
「そっちは魔物の森だぞ。討伐依頼の前にここで、やられちまうぞ!?」
「え?でも先輩、東側に行くのならここを通りますよね。」
「何言ってんだよ。この森の東側はパグロームベアの巣もあるし、途中の魔物だって一筋縄ではいかない奴らばかりなんだぞ。」
アオイはメベドを見る。メベドは鼻を高くしている。
「じゃ、じゃあ、どうしますか?」
「当然迂回するんだよ。ほら、あっちにあぜ道があるだろ。」
リンデコールの指差す方には、確かにあぜ道があった。それは森を大きく迂回し、南へと進むルートであった。
「北側を行くのはこの軽装じゃ厳しいが、南側なら海沿いを行けるんだ。途中にラフテリアの友好国もあるから東に行くならこっち一択なんだよ。」
「せ、先輩。少し相談させてください。」
「はあ?相談?まぁ良いけど。」
二人は少し離れてコソコソと話しをする。
「メベドどうしよう。何か森に入りづらいよ。」
「うーーん、、、アオイは早さを求めるのか?」
「早さ?うーん。」
「アオイは、冒険を楽しむんじゃないのか?因みに俺は南も行った事がねえから、楽しめるんじゃねえかって気がしてるぞ」
「、、、メベド、めちゃくちゃ良い事言うじゃん!」
「先輩!!」
「お、おう。」
「南、一択です!!」
アオイは元気よく答えた。
「そう言ってんだよ、バカっ!」
アオイ達の目的は、早さや効率ではない。冒険なのだ。見た事の無い景色、初めて会う種族、何があるか分からない未知との出会い。そう、それが冒険。それこそが二人が求めている刺激なのだ。
アオイ達は森から離れたあぜ道を行く。すれ違う人も少しずつ減っていく。偶に通る荷馬車を避けながら歩いて進んでいった。
海に出る前に日が沈み始めた。
「そろそろ野営の準備をするか、、、あそこの木の根元にしよう。」
リンデコールが示した場所へと移動する。リンデコールは、そこに薄いマットを引き寝袋を置いた。その前に焚き火をする為の浅い穴を掘る。
「ほら、あんたらも準備しな。」
「先輩!よろしいでしょうか!」
「なんだ?言ってみろ。」
「テント用意してます!」
「ん?テント?昨日買ったやつか?知ってるよ、早く準備しな。」
「はい!」
アオイはカトリコと唱えてリストを探す。
「えーと、、、あった。」
テント(組立済) 3個
指で触るとボワっと目の前に組立てが終わっている二人用の少し大きなテントが3つ出てきた。
「うわっ。何だ!?」
アオイは前夜眠れずに買っておいたテントを一つずつ組立てては収納し、組立てては収納していた。
「先輩!勝手ながら先輩の分もご用意しましたので、是非使って下さい!」
一人一つのテントは、野営するには快適な環境であった。風雨や病を運ぶ虫などを防ぎ、睡眠という大切な回復行動を安心して取る事ができる。
「お、おう、、ありがとうなアオイ。」
「喜んで貰えて光栄です!」
アオイは先輩に喜んで貰えて、心底嬉しかった。
焚き火をつけ、料理をする。これもアオイが用意したデカ目の肉や以前マリーナから貰った薬膳スープなど野営とは思えぬ量と味だった。
3人は腹を満たして、星空の下でのんびりとした夜を過ごす。
「ごちそうさん。美味かったよ。」
「えへへへ。薬膳スープはマリーナさんっていって友達のお母さんが作ったんですよ。」
「へえ、こんな美味いもの作れるなんて凄えなー」
「えへへへ。」
「さぁ、そろそろ交代で寝ようか。」
「交代ですか?」
「ああ。森から離れてるとはいえ、魔物が来ないとは限らないからな。」
「そ、そうですかぁ。」
「二人とも、俺が見てるから先に寝ろ。」
「ん?良いのか?」
「ああ、あれだったら朝まで寝てていいぞ。」
「ん?どうしてだ?」
「俺がいるから、魔物は来ねえからだ。」
「ん?なんでだ?」
アオイはメベドに耳打ちする。
「メベド、パグロームベアは秘密だからね。」
「あっ、、、えーと、、、あれだ。そう!斧の力だ。これをここに置くだろ、それで大丈夫なんだ。様子を見て俺も寝るから気にするな。」
「そうなのか?斧の力、、、神器というのは不思議だが便利なものだな。分かった、では遠慮なくそうさせて貰うが何かあれば、起こしてくれて構わんからな。」
「斧の力。えへへへ。」
「仕方ないだろ。」
「だね。また大巨人の噂が増えるね。」
「うるせえ!早く寝ろ。」
アオイとリンデコールは満腹になった事もあり直ぐに熟睡する。メベドも二人の寝息を確認すると、人化を解いてパグロームベアとして外で寝た。
深い森の虐殺王パグロームベアを襲う者など誰もいないのだ。
早朝、リンデコールが起きる前にアオイは目を覚ます。テントの外にあるふかふかのメベドを起こす。
「メベド、そろそろ戻らないと。」
「ん?あぁ、、、そうか、、、アラギ。」
メベドはそう唱えると白い煙に包まれて人化する。
「ふぁ、、よく寝た。腹が減ったな。」
アオイは燻製の肉を渡し、朝ご飯が出来るまでそれで我慢してと用意を進めていく。
リンデコールが起きる頃には、トーストに目玉焼き、コーヒーという贅沢な朝食が準備されていた。
「こりゃ、宿屋だな、、、。」
「あ!先輩おはようございます!!ご飯どうぞ!」
「アオイおはよう。メベドもありがとうな。」
心地よい朝の空気の中で優雅に朝食を摂る。その後片付けという名の収納をして、再び歩き始めた。
「先輩、冒険って楽しいですよね。」
「楽しいというか快適というか、こんな冒険は初めてだな。アオイのお蔭だな。」
「おい、俺が夜の番をしたんだぞ。」
「そうだな、お蔭様でぐっすり眠れたよ。」
「ガハハハ。パグロームベアは凄いだろ?」
「ん?パグロームベア?なんだ?」
「メベド!」
「あ、いや、ほらパグロームベアが出ると凄いなと。」
「はっはっはっ。もし出たなら、私達は起きていないよ。はっはっはっ。」
「もう!メベド気を付けなきゃ!」
「す、すまん。」
南にある友好国まで、あと少しであった。




