冒険者殺し
冒険者殺しの5階層。
ここでは魔族が冒険者たちに力の差を見せつけてやろうと、余力を残す事無く全力で臨み苦しめにくる。
これが魔族だ!恐れ慄け!!と言わんばかりであった。
パノゴーレム、パノエンチャントなど4階層にいた魔族の上位種がいたり、頭部に角があるダイモナスという鬼のような魔族、鋼鉄の鎧を装備したアツァリという騎士のような魔族が今か今かと冒険者を待ち受ける。
そんな5階層に新たに挑む凸凹の冒険者が2人。
「スフィリブロンテスってどんな魔法なの?」
「どんな、、、うーん。雷を落とす、、、電撃というよりは、こう上からズドンだな。」
「そうかぁ、じゃあやってみよう!」
5階層に降りると上とは違い、すかさず魔族が襲ってきていた。これぞ冒険とアオイは、ワクワクしていた。メベドも神器の斧を振り回せると嬉々としている。
目の前には複数の魔族が、アオイ達を殺そうと殺気立っていた。
「メベド、じゃあ痺れさせるからトドメはお願いね。」
「おう!頼んだ。打ち漏らしても気にすんな。この斧でズバっとやってやる。」
「狙いを定めて、、、雷を、、落とす。1、2、3、、、よしっ12体だね〜じゃあスフィリブロンテス!」
ドドドドド、ドガガガーーン!
激しい雷鳴と稲光と粉塵が舞う。
「ア、アオイ、、、これは何かな?」
「スフィリブロンテス?かな?」
目の前には、痺れるどころか一撃で絶命した焦げた魔族が倒れていた。
「えーと、、、トドメは?」
「要らんな。」
「ごめん。」
「、、、おう。」
メベドは、斧の先っぽを使い器用に魔族の核を取っていく。横で申し訳無さそうにコーリウス、コーリウスと核を収納するアオイがいる。
この失敗?教訓?を活かし、次に現れた魔族からは、まずメベドがブンブン斧を振り回す。メベドの攻撃を躱してアオイに迫る魔族にスフィリブロンテスを一発ずつ打ち込んだ。ドガーン!ドガーン!と、メベドの背後では恐ろしい轟音が鳴っている。メベドは聞こえない、聞こえないと目の前の魔族に集中した。
ドガーン!ドガーン!ドカーン!ドカーン!
「すげー躱されてすまなかったな!」
振り返って怒りながら謝るメベドであった。
「、、、てへっ。」
5階層で無双するアオイ達。気付けば回収した核は、50を超えていた。
そこら中に、真っ二つの魔族と焦げた魔族が転がっていた。
「ふぅ、、、疲れたね。」
「あぁ、ちょっと腕が痺れてきたな。」
「雷だけに?」
「うるせえ。」
5階層では宝箱は3つだった。全て銀貨で60枚、6万エン分だ。
「ここ階段だね。降りる?」
「そうするか。どっかで休めたら良いが。」
階段を降りていくと、踊り場がありそこに焚き火をする冒険者がいた。
「もしかしてリンデコールさん?」
それは、3階層でアオイたちに話しかけてくれたオリジンのリンデコールだった。彼女はレイスウルフの原種ダイアウルフという希少な種族の獣人である。
「あんたら、もうこんなに進んだのかい?」
6階層へ続く階段には踊り場があり、昔の冒険者が敷いた結界が今も効果を継続していて冒険者たちの安全地帯として休息の場になっていた。
アオイ達もリンデコールの焚き火にあたらせて貰う事にした。
「初心者で、5階層を突破なんて最速じゃないか?」
「そうなのかな。4階層とか全然魔族がいなくて、ほとんど素通りだったんだよね。」
「なんだそれ聞いたことないねぇ。まぁ、でも5階層を突破してきたんだ、凄い事に変わりないよ。」
「リンデコールさんは、6階層へ降りる所なんですか?」
「いや、逆だよ。昨日から潜りっぱなしだからさ、3階層へ戻ろうかとな。」
「そっかぁ、残念だな。一緒に回れると思ったのに。」
「はっはっはっ。一緒にかい?迷宮の冒険者はみんなライバルなんだよ。やっぱり面白い奴だなアオイは。」
「そうなんだぁ、、、でもそっか、宝箱とかあるもんね。」
「そうだ、これ余ったんだけど食べるか?」
リンデコールが出したのは、燻製された肉だった。
潜る冒険者達は、食料を持参する者が多い。やはり長時間潜る事で多くの宝箱や素材を集められるからだ。
「何か持ってきてたか?腹減ってないなら要らないか?」
「いえ!何も持って無くて。貰って良いんですか?」
「構わないさ沢山あるからね。」
「これは売ってるんですか?」
「上の宿屋にね。でも、私は作ってるけどね。」
「作れるんですか!?」
「失礼だなぁ、こんなもん燻すだけで簡単なんだけど。」
「あ、ごめんなさい。そういう事じゃなくて、そういう手もあるなと。」
「そっちか。まぁ食費もかさむからな、今度上で会ったら教えてやるよ。」
「ありがとうございます!是非お願いします!」
リンデコールから貰った燻製肉を頬張りながら、昨日の話しをした。4階層で斧を見つけた話しをすると、「あれ、やっぱりあんた達の事か!?デカい斧が気になっていたが、あんたらかぁ。よっぽど運が良いんだなぁ」と話してくれた。どうやら、昨晩来た冒険者がそんな話しをしていたらしい。
「昨日の事なのに、知ってる人がいるんですか?」
「24時間やってるからな。特にそんなお宝情報なら回るのは一瞬だし、あんたらは注目の的になってる筈だぞ。」
リンデコールの言う通り王国の注目は二人に集まっていた。いや正確には、【神器に選ばれし戦士、巨人のメベド】とメベドの名前が先行していた。初日にレイスリノに殴られてもビクともしなかった話しも、尾ひれがつき赤子の手を捻るが如く退治したとなっていた。身長も3メートルなのだが、10メートルを超える大巨人と言っている者もいて、メベドの名は冒険者だけではなくラフテリアの王国中に知れ渡っていた。
「さて、そろそろ私は戻るよ。6階層は今までの比じゃないよ。気を付けるんだよ。」
「はいっ!危なかったら僕達もすぐ引き上げるよ。」
アオイはかつてマンガの世界に登場する憧れた優しく頼りがいのある先輩像をリンデコールに投影していた。
ダイアウルフというレイスウルフたちの原種という事もあるのか、リンデコールは確かに姉御肌の気質であった為そのように見えるのだろう。
アオイ達は、休息を終えて6階層へと降りていく。
結界から外れたからか、ヒンヤリとした空気が漂う。
「アオイ、確かに空気が違うな。」
「うん。緊張感があるね。」
アオイは頭の中で呪文を繰り返す。いざとなれば直ぐに打てるよう、慌てない為だった。
スフィリブロンテスは落雷、リピアネモーは突風、スフィリブロンテスは落雷、リピアネモーは突風、、、
慎重に歩く二人。アオイは、突然背後に気配を感じ振り返る。
そこには、影のような魔族が立っていた。全身が黒く瞳だけが光っていた。
魔族の名はスキア。気配を殺し暗闇を移動する。冒険者の影の中に潜み、冒険者が油断している隙を見て影に隠している大きな口で噛み殺す。
6階層が冒険者殺しと言われる由縁は、このスキアにある。大抵は階層に着いた途端にやられてしまうからだ。避けたとしても、大口に噛まれた傷跡は深く失血死する可能性が高い。その状態で5階層を抜けて3階層まで走り切るのはかなりの難題であった。
スキアは、大口を開けてアオイ目掛けて噛みつこうとした。
「リピアネモー!」
ビャッという音と共に風の塊がスキアを霧散させる。
スキアが居たであろう場所にコロンっと核が落ちた。
「どうした?魔族か?」
「え?多分、、ほら核があった。」
「そうか、どんな奴だ?」
「さぁ、、、なんかデカい口の黒い奴かな。」
「そうか。まぁ気を付けて進もう。」
それから幾度もスキア達は背後に回り噛みつこうとするが、少しの殺気でアオイに気付かれリピアネモーの餌食となる。その度、コロンコロンと核を落とし霧散する。
メベドは、そんなアオイを眺めては「アオイばっかりだなぁこっちは暇過ぎるぞ。」と斧を使えず残念がっていた。
しかし、斧は元々スキアには無効である。物理攻撃は影をすり抜けノーダメージで反撃されるからだ。
気付けばアオイの空間収納には、スキアの核の保管が10個になっていた。
先に進んでいくと今までよりも薄暗い場所で新たな魔族が現れる。
それはスキアとは違い二人の目の前に堂々と立っていた。
1つ目をギョロギョロとさせ、その体躯はメベドを越える。ぼてっとした汚い腹を見せ棍棒を振り回していた。
「アオイ、こいつは俺にやらせてくれ。やっと斧が振れる。」
メベドが斧を向けた魔族。トロールと呼ばれている。
この魔族の攻撃は棍棒で殴り倒すのみ。それのみであるが、強烈な一撃はゴーレムの比ではない。パグロームベアといえど、その攻撃力の前では敵わないとさえ噂されていた。
トロールは1つ目をメベドに向けると、格好の餌食といわんばかりに棍棒を振り下ろす。
メベドは棍棒の事など構いもせずに斧をトロールへ投げ付けた。
鈍い衝撃音と共に神器の斧はトロールの1つ目を抉っていた。
「えーと、、、斧、投げちゃうの?」
「ん?何だ?ダメか?」
「いや、神器だし。力を引き出す的な説明あったじゃん。」
「ガハハハ。そんなの関係ねえな。こいつは、俺の斧だ!俺が斧の可能性を広げてやってるんだよ!」
「まっいっか。核、取っちゃお。」
メベドは目玉に刺さる斧を抜き、トロールの胸に突き刺して開く。核からは何とも言えない悪臭がしていた。
「えーーー。それ収納するの?嫌だなぁ。」
「そんな事言うなよ。6階層で初ゲットだぞ。」
「僕は、めっちゃ取ったよ。」
「それは、無しだろ。この神器で初ゲットなんだから。」
「やだなぁ、洗いたいよ。」
「あっそうだ。ちょっと持ってて。」
アオイは人差し指をメベドが持つ悪臭の核に向ける。
「お、おい、、、何するんだ?おいっ、アオイ!」
「ドラコストネロー」
人差し指から悍ましい表情の水竜が飛び出し、悪臭の核を貫いた。
メベドの手には水竜が通り過ぎて出来た小さな水溜りがある。悪臭は、核ごと消え去っていた。
「、、、ごめんなさい。」
「てめぇーー!アオイ!!殺す気かーーー!!!」
「だって、凄いクサかったし、嫌だったからぁ!」
二人は冒険者殺しの6階層で楽しそうに走り回っていた。