古の魔法
アオイ達は、迷宮に潜る前にレストランで食事を取る。
前日騎士団長のオルデンに連れられ訪れたランページの特製ハンバーガーが美味しくて、早くもリピーターになっていた。
「やはり美味いな。毎日ハンバーガーで構わないな。」
「うん。美味しいね。そう言えば、本の中身はやっぱり読めないの?」
「ん?あぁ、そうだな。所々消えてるからな。ほら、見てみろ。」
メベドはアオイに本を渡す。アオイは、ペラペラとめくり確かに文字が薄れてしまって読めないページばかり。
「あれ?これ何の魔法だろう?カバンの絵が書いてあるね。もしかしたら、収納魔法とか?」
「ん、そんな都合よくあるか?どれ、、、」
メベドは薄れた文字を目を凝らして読む。
「空間、ま、、魔法か。空間魔法、やはり読みづらいな、、、コー、、リ、ウス、、コーリウスか。コーリウスだな。対象物を、、、ここは読めないな、、、収納する。間が分からんがなんだか収納できるみたいだぞ。」
「空間魔法のコーリウスかぁ、やってみる?」
「おお、そうだな。ただ何が起きるか分からんから外でやるか。」
二人は外に出て、人気の無い路地裏へ行く。爆炎のような事になっては騒ぎになるからだ。
「じゃあ、この本に向けて言ってみようか?」
「おう。ドキドキするな。」
アオイは本に人差し指を向ける。収納、収納と考える。頭の中でマンガで読んだ無限に収納できる不思議なカバンをイメージしていた。
「コーリウス。」
アオイが唱えると、本が瞬時に消えた。
「おっ!おおーーー!消えた!消えたぞ!」
「うん!えっ!?成功だよね。」
「ガハハハ。流石アオイだ!成功だ!」
二人は魔法の成功に喜んだ。
「良しっ!他の魔法も読めるかも知れん。戻してくれ。」
「うん。そうだね、どんなのがあるかな。」
「もっと凄えのが、使えるかもな。」
「、、、、」
「ん?どうした?ほら、本を戻してくれ。」
「、、、」
「アオイ?」
「メベド、、、コレどうやって戻すんだろう?」
「なっ!?なにぃっ!?い、いや、し、し、しまったんなら出せるだろ?」
「え?どこにしまわれたの?」
「ん?どこってそりゃ、、、どこにいった?」
アオイは、収納した本をイメージして「コーリウス」と唱えるが何も起こらなかった。
「メベド、どうしよ。全く分かんない。」
「、、、仕方ねえよな。」
「ごめん。メベドが貰った本なのに。」
「気にすんな。収納出来たって事は無くなった訳じゃないんだ。いつか出せるさ。」
ガッカリした表情を見せないまでも、落胆している様子は分かった。
アオイは考えていた。マンガだと、収納した物が一覧で見れていた。何て言っていたか、、、そうだイベントリだ。目録たか台帳だったっけ。
アオイはブツブツと「イベントリ」と言ってみるが、何も起こらない。言葉が違うのかも。
「メベド、何かさリストみたいな言葉知らない?台帳とか目録みたいな。」
「何だ?さっきのと関係あるのか?」
「うん。」
アオイはマンガで見ていた収納する方法と引き出す方法を伝えた。
「それなら、、、カトリコなら目録とかそんな意味の言葉だな。それで良いかどうかは分からんが。」
アオイは本をイメージして、再び唱える。
「カトリコ!」
アオイの目の前に、【保有一覧】の文字が浮かび、【古の魔導書】と本のタイトルが浮かんでいた。
何となく人差し指で、文字を触る。
ブワッと目の前に本が現れた。
「出た!」
「出たな!!やったぞ!」
「あははは!出た!」
「ガハハハ!やったぞ!流石アオイだ!」
収納魔法コーリウスは、唱えた者に異空間にある収納ボックスを与える魔法。その者の魔力量に応じて収納できる量が変わる魔法であった。収納したものは、カトリコという呪文を唱える事で収納した物を閲覧出来、いつでも取り出す事が出来る。
また、異空間に収納された物は劣化せずに収納した時のまま保存される便利な機能付きであった。
このような規格外で異次元の魔法を使えるのは、現世にはおらず忘れられた古代魔法であった。
「これで、素材も核も取り放題だね。」
「おう!行くか!」
二人は雨合羽を脱ぎ、異空間に収納すると迷宮へと走って行った。
迷宮へと入ると、前日の倍以上の冒険者達が地上階も含め探索をしていた。
「何だか、多いね。」
「ぞろぞろといるな。取り敢えず2階層で果実スライムを漁るか?」
「そうだね。でも、人が多かったら4階層に行こっか。」
2階層、3階層も冒険者だらけであった為、混雑を避けて4階層まで進んだ。
魔族が出始める場所だけに、上に比べれば落ち着いていた。それでも、前日に比べればかなり多くの冒険者がいる。壁を叩いたり、天井をじっくり見たり、床に耳を付ける者もいた。
「何かあるのかな?」
「さあな。俺達の目標は、素材や核の採集だから放っておこう。」
二人は、冒険者達の間を抜けて4階層を進んでいく。
5階層へと続く階段へと着いた頃、やっと今日初めての魔族が現れた。
「!?しまったぁ、、、」
そう言ったのは魔族の方である。
腕に炎を纏った魔族エンチャント。火の魔法フォティアの連弾で冒険者達を苦しめる。
「くそっ!こうなったら、全力でやってやる!」
エンチャントは、意を決してフォティアの連弾をアオイ達に放った。
ブオンっ!
メベドが神器の斧をぐるっと回す。たったそれだけの事で、火の魔法フォティアは霧散した。
「へっ?」
エンチャントは、口をあんぐり開けて驚いていた。
次の瞬間には、ズバっと真一文字に切られ倒されてしまう。
「ガハハハ。凄い切れ味だ。」
「本当だね。神器って凄いんだね。僕に合うやつもあるのかなぁ。」
アオイはそう言いながら、エンチャントの赤い核を指差してコーリウスと唱え収納する。
「さっ、降りよ。」
「おう!この階層は、魔族が少ないからな。次だ次っ。」
エンチャントが倒された側の岩陰。
「見たか?」
「あぁ、可哀想だったなぁ。」
「せめて当たってやれよなぁ。斧を振った風で消えたよな。」
「うん、、、可哀想だった。」
「それだけじゃねえぞ。」
「何だ?」
「あのちっちゃいの、指差して核を消したんだよ。あれ何だよ?」
「核を消す!?マジで?どんだけ無慈悲なんだよ。あいつこそ魔族だろ。」
「取り敢えず、下に行ったな。」
「そうみたいだ。俺達は何も見てない。」
「見てない。」
アオイ達が5階層へ降りた途端に、魔族は活発に出現する。普段通り、冒険者達との熾烈な戦いを開始した。
「こいつらと戦うの、楽しいな。」
「だな。」
「何か、俺達と合うよな。」
「だな。」
真っ向勝負で、敵ながら互いを高め合うように魔法や拳をぶつけ合っていた。
5階層からは冒険者殺しと呼ばれる魔族中心の階層が始まる。毎回、重症者や最悪死者が出る階層である。
「アオイ、気合い入れるぞ。」
「そうだね。魔法も使いたいし簡単にやられたくないね。」
5階層の魔族はまだ知らない。規格外の冒険者二人が、気合いを入れて自分達の核を狩りに来ている事など。
「火魔法フローガ、水魔法ドラコストネロー、風魔法リピアネモー、雷魔法スフィリブロンテス、、、」
アオイはブツブツと言いながら昨日メベドに教えて貰った呪文を繰り返していた。
「どれにしよっかな。」
「何だ?」
「えへへへ。最初に使う攻撃魔法だよ。」
「ああ、昨日のな。雷か風じゃないか?」
「何で?」
「火は昨日デカいの見たし、水をこんな地下で使うと何が起きるか分からんだろ?」
「そうかぁ。じゃあ、どっちかだね。」
「リピアネモー、スフィリブロンテス、リピアネモー、スフィリブロンテス、、、風と雷、風と雷。」
5階層の魔族はまだ知らない。自分達がくらうのが、滅多にお目にかかれない高位魔法だという事など。