駆け巡る噂
アオイ達の頭には「?」が浮かんでいた。
迷宮内の何処を歩いても魔族が見当たらないからだ。
魔物はちらほらといるものの、スライスのようにぷるぷると振動して青ざめた顔の魔物ばかりだった。
メベドもそのような個体は知らなかった。
宝箱のある所は慎重に慎重を重ねて進んだが、すんなりと二つゲット出来てしまった。
「何か、サクサク4階層終わっちゃうね。どうする?進む?」
「宝箱が二つ、中身は薬草と5000エン分のコインか。もう少し稼ぎたい所だが。」
「稼ぎたいけどね。快適過ぎて隅々まで見ちゃったから結構時間経ったよね。」
「そうだな。この場所なんて、下に降りる階段の裏手だし蜘蛛の巣だらけで誰がこんな所まで来るんだっていう場所だしよぉ」
「ぱっと見壁だよね。蜘蛛の巣だけどなんか厚みが違うもんね。」
アオイはそう言いながら厚みのある蜘蛛の巣を手のひらで押した。ズルっとそのまま蜘蛛の巣を解きながら転げてしまう。
「痛たたた、、、なになに?まだ空間があったの?」
「ガハハハ。大丈夫か?」
アオイは、倒れ込んだ場所を見回した。そこは、地下4階だというのに、光が差し込んでいた。
「ねえ、メベド。あれ太陽が届いてる?」
「そんな訳ねえぞ。ここまでは届かんだろう。」
光の落ちる場所に二人は近付いていく。
「ねぇ、罠とかあるかなぁ?」
「無きゃ良いが、、、ん?あれ、宝箱じゃないか?」
「本当だ。でもさっきの二つとは模様が違うね。」
「おおっ。何か豪華だな。キラキラしてるぞ。」
「開ける?」
アオイはメベドの顔を見る。メベドはゆっくり頷いた。
「せーのっ!」
アオイはどうにでもなれっと勢いよく宝箱を開けた。中から眩しい光が溢れ出る。
「眩しっ!」
「アオイ、無事か!?」
「大丈夫!」
光はゆっくりと収まっていき、ようやく宝箱の中身が見えた。中からそれを取り出すと、宝箱の大きさよりも遥かに大きい斧が出てきた。
「ど、どうなってるの?これ。」
「不思議な宝箱だ。」
アオイは、自分の背丈よりも大きい斧をメベドに渡す。ズシッとした重みにメベドは驚いた。
「アオイこそ、どうなってんだ。こんな代物軽々持ちやがって。」
「え?そうなの。重かった?」
「ちぇっ。重くない!全然余裕だ。」
「えへへへ。」
メベドはその斧をじっくりと見る。
「こいつ自体に何か力がある感じがするな。」
「そうなの?ヤバイ?」
「ヤバイが、危ない訳じゃなさそうだ。何というか、力を引き出してくれるような感じだ。」
「じゃあ、それはメベドのだね。」
「良いのかっ!?これ凄えモンだぞ、絶対。」
「良いよ。僕にはデカいし。それに、メベドにピッタリだよ。」
「すまねえな。ありがたく頂くぞ。」
メベドはそう言うと、斧をブンブンと振り回す。
「ガハハハ。こりゃ良い!最高だ!まさか、武器を手にする日が来るなんてな!」
ブンブンブンブンと軽快に振り回し、メベドは初めて手にした武器を喜んだ。
鬼に金棒というが、パグロームベアはステゴロに拘っていた。一つは、生き方として。もう一つは、結局パグロームベアの腕力に耐えられる武器が無かったのだ。
「そろそろ出よっか。取り敢えず、2階層で果実スライムも取りたいし。」
「ああ!そうしよう!明るい所で、ゆっくりと見たいしな。ガハハハ。」
「めちゃくちゃ気に入ってるじゃん。ふふふ。」
「そりゃそうよ。こいつは本当にヤバイぞ。」
「高そう、、、」
「なっ!?う、売らないぞ!これは俺のだ!」
「あはははは。冗談だよぉ。」
「ったく。俺をおちょくんじゃねえ。」
二人は快適な4階層を後にし3階層へと戻っていった。噂の人外子供と大男。しかも大男の手には見た事の無い斧があった。
「おいっ。あいつらだろ?」
「そうだよ。あんな凸凹、あいつら以外に居ねえよ。」
「本当にそんな凄え子供なのかよ。ただのガキに見えるぞ。あの大男が強いなら分かるがな。」
「だよな。それにあれ見ろよ。あの大男、斧なんて持って無かったよな?」
「下で見つけて来たってことかよ。でもあんなでけえのが入る宝箱ってどんなだよ。見た事ねえよ。」
「やっぱ、あの大男が見た目通りの人外だな。」
「だな。決定。大男が人外決定。」
ヒソヒソ、コソコソとアオイ達が歩く側で冒険者が噂する。アオイは2階層の果実スライム、メベドは貰った斧の事ばかり考えていて、ヒソヒソもコソコソも全く耳に入っていなかった。
アオイは、紫色の果実スライムを見つけると潰してみたが、持ち帰る術が無いことに気付く。
「あっ、、、瓶とか無いよね。」
メベドは斧を灯りに近づけては眺め、遠ざけては眺めを繰り返していた。
「っもう、どんだけ嬉しいんだよ。」
アオイはメベドがはしゃぐのを微笑ましく感じ、しょうがないと何も持ち帰らずに迷宮を後にした。
迷宮の出口では、退場する事を受付に告げなければならない。生き残った事をギルドに報告する為である。
「え!?暗いっ。夜じゃん。そんなに時間経ったんだ。」
「ガハハハ。夢中だったからな、俺もこんなに楽しいのは久しぶりだ。ガハハハ。」
迷宮のもう一つのルール。
それは、宝箱から得たものを冒険者自らがギルドに報告する事だった。
何故か?
それは、税金に関わるからだ。冒険者が支払う税金は他に比べるとかなり低く設定されているが、無税という訳では無かった。その税金も彼等の怪我や病気を患った際の治療費に充てられたり、迷宮内の灯りや舗装の修繕など冒険者の為に使われるので、彼等にとっては積み立てみたいな感覚であった。
モノの場合は税金をどうするのか?それは価値によって変動するが、上限は設けていた。最大で一つにつき5000エン、それ以上は課税される事はない。
モノを売った場合はその価格に応じて引かれるので、売らずに使う場合もあるが高値が付くなら新しい内に売る者もいる。
「取り敢えず、ギルドに行かないとダメみたいだね。」
「おう。この自慢の斧を見せつけてやるか!」
「終わったら、ご飯食べよ。お腹すいちゃった。」
二人はギルドへ宝箱の報告へ出向いた。24時間365日やっている迷宮と同じくギルドも同じ体制で人が配置されている。昼夜問わず賑わいがある。
二人が入ると、丁度ギルマスのソウジロウが帰宅しようと階下へ降りてきていた。
「おや?朝の二人だね。お帰り。何か凄いモノを持ち帰ったじゃないか。」
「ソウジロウさん!ただいま!!」
「おうよ!見るか?」
「はははは。では、見せて貰うとするかな。」
ソウジロウは、帰宅するのをやめてキラキラした表情の二人を部屋へと案内した。
ソウジロウは、メベドの斧を見ると表情が変わった。
「お前さん達、何階層まで潜ったんだい?まさか、10階を超えたのかい?」
「え!?10!?超えてないですよ。4階層で凄い時間使っちゃって帰って来たんですよ。」
「では、このどえらい物は?」
「4階層にあったのだ。ヤバイだろう?」
「信じられん、、信じられんが信じるしかあるまいな。確かにヤバイ物だ。これは王国中の冒険者が騒ぎになるわい。」
「そんなにか?」
「ああ。君も持っていて感じてるんだろ?」
「何か力が湧いて来る感じがするな。」
「それだよ。それは、9階層で手に入れた冒険者とおんなじ模様が彫ってある。人智を超えた力を引き出してくれる代物だ。」
「うわぁ。凄いじゃん!やったねメベド。」
「おう!アオイのお陰だがな。ありがとよ!」
「我々はそれを神器と呼んでおる。まさに神の贈り物だよ。初日でそのようなモノを、しかも4階層で。何と幸運の持ち主なんだ君たちは、、、本当に羨ましい限りだよ。」
神の紋様が描かれた神器。それを4階層で得たという話しは飛ぶように王国を駆け巡る。冒険者達は素通りしていた上層を再探索し、それこそ隅から隅まで念入りに探す事になる。
喜んだのは、3階層の商人権冒険者だ。
朝晩の魔物狩りが二日に一度、三日に一度程度で済むようになった。それ程に上層では冒険者が張り切っていた。勿論、売上も天井知らずだった。




