騎士団長オルデンと迷宮
レストラン【ランページ】ここは、冒険者達にとっての馴染みのレストランだ。ボリュームがあるのに安価で提供してくれ、財布にも優しいレストランである。
人気メニューは大盛りミートパスタ。ゴロゴロとしたミートボールが新鮮なトマトソースの中にどっさりと入っている。一皿750エンとは思えない質と量、平均して1日200食出るというから驚きである。
今日も厨房は戦場の如く殺気立ち、次から次へと大皿に乗せられた美味そうなご飯が運ばれていく。
「さあ、何でも好きなもん食ってくれ。人気があるのはミートパスタだがな、俺のオススメはコレ。」
オルデンが指差す先には、食卓に置かれたお品書きの端にある【特製ハンバーガー】だった。
「じゃあ、僕それにする。」
「では、俺も同じものを。」
「よしっ!お姉さん、ハンバーガー3つね。大急ぎで美味いの頼むわ。」
奥から「はいよー」と元気な声が聞こえる。
「すごい人だぁ、いつもこんな感じなんですか?」
「おうよ。冒険者の昼飯はここが定番だからな、夜は酒を出す店が繁盛してるんだが子供が楽しめる場所じゃないな。」
「ねぇ、団長さんも迷宮に入るんですか?」
「いやいや、俺達騎士団は王国の中と外で仕事してるんだ。迷宮に入るのは基本冒険者だけだな。」
「そっかぁ。じゃあ、どんな雰囲気かは分からないかぁ。残念。」
「ん?多少は分かるぞ。俺も騎士団に入る前は、冒険者やってたんだ。」
「そうなんですか!?是非聞かせてください!」
オルデンは、ラフテリアで生まれ育った生粋のラフテリア人だ。幼い頃から冒険者と迷宮が側にあり自然と冒険者に憧れていった。
迷宮には階層があり、地上から地下へ潜っていく。
階層が深くなればなる程に中には強敵やら難敵やらが増えていく。
地上近くの階層では主に地上にはいない独特の魔物が生息し、初心者の冒険者にとっては訓練場のような雰囲気になっている。3階層には、宿屋やがあるぐらいに冒険者にとっては行きやすく安心できる場所だ。
苦戦しだすのは、魔族が増える5階層からだという。
魔物とは違い、武器や攻撃魔法などを操る魔族相手では格段と難易度が上がる。5、6階は冒険者殺しと言われ、初心者にとっては鬼門となっている。
「やっぱり危険なんだね、、、冒険者殺しかあ。」
「まぁな。そもそも迷宮は博打と同じだ。当たればデカいが、外れればそのまま死を意味するからな。迷宮の裏手に行けばそんな奴らの墓が山程あるぜ。」
迷宮に潜る一番の理由は、迷宮にしか無い宝だ。
何故迷宮に宝箱があるのか、何故宝箱の中身を取っても数日で入っているのか謎は多くあるが、それでも冒険者達を惹きつける。謎より実利という所だろう。
中身もランダムに入れ替えられており、浅い階層でも極稀にレアな一品を拝める可能性もあるという。
しっかり稼ぐ為には6階層まで行けなければならない。それ以外は、殆どその日暮らしがやっとの稼ぎだそうだ。それに見切りを付けた所に新兵募集の張り紙を見て騎士団に入ったのがオルデンであった。
「おっ、やっと来たな。さぁ食べてくれ。美味いぞ。」
3人は運ばれてきたハンバーガーにかぶり付く。肉厚でジューシーなハンバーグがしっかりトーストされたバンズに挟まれている。マスタードとケチャップというシンプルな味付けながら絶品である。
「オルデンさんは、何階層まで行ったんです?」
「俺は8だったな。まぁ俺一人じゃないが。それ以上は無理だわ。獣人でも厳しいからな。」
「オルデン、一番深く潜った奴らは何階層まで行ったんだ?」
「この間帰ってきた奴らが最高だったかな。10だったかな。凄えよ。9階にいる化け物を倒したってんだから。」
「化け物か。しかし、その9階にはもう化け物はいないって事なのか?」
「いや、それも不思議の一つよ。宝と同様に次に訪れたらまた居るんだよ。嘘だろって毎回思ってたよ。」
「不思議な世界だな。」
「ああ。あんたら油断すんじゃねえぞ。まずは3階層迄で迷宮に慣れるこったな。」
「うん。そうするよ。」
「最初は、その日暮しでも構わんな。のんびりやっていくか。」
「じゃ、そろそろ出るか。また、何かあったら言ってくれ。」
「はい。御馳走様でした。ありがとうございます。」
「ハンバーガー、確かに美味かった。」
二人はオルデンと別れていよいよ迷宮への初チャレンジ。
ソウジロウからは、迷宮で集めた素材の売り先や素材の種類などが中心だったが、冒険者をやっていたオルデンから内部の事を事前に知れたのは良かった。
当面の二人の目標は、その日暮しの稼ぎ。
まずは、冒険者としてお金を得る事からスタートする。
看板に沿って歩くと、どんどん周囲に冒険者が増えてくる。いよいよ迷宮の入口が見えた頃になると、通りの左右には食材、薬、防具、武具など様々な屋台が立ち並び祭りの縁日のようだった。
入口には、受付のような場所がありそこで冒険者の登録証を見せて中に入る。
「これ、お願いします。」
アオイは、受付に2人分の登録証を見せる。
「ほう。初日か。頑張ってな。」
「はい。ありがとうございます。」
「中に入ったら、すぐにスライムがいるから気をつけな。足を滑らせて骨折した奴もいたからな。」
「親切にありがとうございます!行ってきます!」
「おう!じゃあまたな!」
迷宮は24時間、365日フル稼働だ。昼夜問わず入れ替わり立ち替わり入退場が繰り返される。
ちなみに受付はギルドが担当しており、入退場の冒険者の記録を取り、定期的にギルドへ報告をしている。
それは行方不明者や死傷者の管理を行う為でもあった。
冒険は自己責任。これが鉄則なので、居なくなろうが死のうが誰も責任を取ってくれない。厳しいが、これが当たり前の世界。
その代わり、冒険者が命がけで採集したものは高値で買取るというのが冒険者に対する王国とギルドの誠意であり、冒険者に最大限還元する最良の方法であった。
ラフテリアが100年以上もの間、過酷な環境で生き残れているのは迷宮があるからこそと言っても過言ではない。
迷宮で切磋琢磨した冒険者が、時には王国を守る為に働いてくれる。常に実戦をしている冒険者はかなりの戦力となっていた。
冒険者もまた、高額で買取りをしてくれたり冒険者が過ごしやすいよう衣食住が安価で提供されていたりと高待遇で迎えてくれるラフテリアを守る事に何ら躊躇は無かった。
迷宮がある限り、国と冒険者は持ちつ持たれつの関係が続いていたのであった。
アオイ達が地上階に入ると、受付が言ったように足元にぷるっと不安定な形をした魔物がいた。
「おおー。これがスライムだね。ゼリーみたい。」
「美味くないぞ。」
「食べたんだ。」
「違う。踏んだら、勢いで口に入った。」
「毒?」
「いいや。ただ苦くて不味いだけだ。」
「へえ、美味しそうなのに残念だね。」
「ガハハハ。アオイは、食材を探しに来たのか?」
「違うけどさあ。狩って食べるって何か冒険って感じがするじゃん。」
地上階は緩やかに下る一本道で、スライム以外に魔物は見当たらない。殆どの冒険者はスライムに目もくれずするすると避けて先に進んでいった。
「これ、叩いたら退治出来るの?」
「そうだが、叩く場所を間違えると増えるぞ。」
「増える?分裂みたいな?」
「そうだ。見ていろ。」
メベドはしゃがんでスライムの端を指で弾く。ブチッと音がすると、スライムが二匹になった。
「本当だ。じゃあ、どこを叩くの?」
「ちょっと見えづらいが、この奥の丸い所だ。」
メベドはスライムを持ち上げ、奥にある丸い部分を見せてくれた。これは核と言われる部分でスライムにとって心臓や脳の機能を持っている。
「ここを潰せば良い。」
「みんなスライムを無視するから、そこら中にいるよね。倒した方が良いのかな。僕たち初心者だし。」
「そうだな、、、これ以上増えると厄介だからな。」
「厄介?スライムが?」
「ああ。あそこ見てみろ。」
メベドが指差す所には、洞窟の天井の隅にスライムが数十匹集まっていた。
「丁度、違う奴らが通るな。」
「何?危ないの?そうなら助けなきゃ。」
「まあ、見てろ。助けるのはそれからだ。」
スライム達は互いの核を移動させ合わさっていく。ぷるっとした大きな塊となり、真下を歩く冒険者に向かって落ちるとその冒険者の全身を覆った。
冒険者は突然降ってきた大きなスライムの塊の中に取り込まれ呼吸が出来ない。中で足掻いても破る事が出来なかった。
ブチっと、メベドが大きなスライムの核を潰す。
冒険者を覆ったスライムがドロドロと溶けて冒険者の足元に崩れて落ちた。
「な?厄介だろ。」




