ソウジロウとティア
瓦礫と化したオエドの街。復興など考える余地の無いほどに壊滅した都市。
金箔の装飾が施された天守閣も今は昔。
「ソウジロウ様、いきましょう。」
「ここに残っても仕方ないか、、、行こうかティア。」
150年前にオエドを建国したサマーイ達の子孫ソウジロウは、レイスウルフのティアと共に故郷を離れた。魔王へ対抗する力を得る為、魔王に苦しむ者達の力となる為東奔西走していた。
流れ流れて20年の月日が経った。
ソウジロウはラフテリアという王国で、ギルドマスターになっていた。
「ティア、俺達はいつになればあの魔王に打ち勝てるのだろうな。」
「またその話しですか?ソウジロウ様。」
「死期が迫ってるのかもな。」
「またまたぁ。そんな元気な老人はソウジロウ様以外にいませんよ。」
「ラフテリアに拾われて18年。老体にむち打ちやってきたが、身体も言う事をきかん。祝福を受けた剣技も授かったものも全て鈍っている。年月が経つというのは残酷で悲しいものだな。」
オエドが陥落し瓦礫と化した後、ソウジロウとティアは幸運にもラフテリアへと来ることができた。
邪悪な魔王と強力な力を得た魔族が巣食う闇の領土から最期は魔族の狭間を通り抜け命からがらやってきたのだ。
傷付き倒れる二人を救ったのは、先代の王。
彼等の傷を癒やしここに住む事を赦した。魔族領から来た者がこの地に住むというのは、様々な困難があった事は容易に推察できる。
先代王は、それでも懸命に生きる二人を信じてソウジロウにはギルドマスターを任命し、ティアはその側に仕える事を赦したのだった。
ギルドの一室で二人がそんな会話をしていると、受付からお呼びが掛かる。
「マスターにお会いしたいと、子供と大男が出ますよ。何でもフィンさんの所で雇われてるとか。」
「フィンさんの?二人も雇うとはあの薬屋は繁盛しているようだな。構わん通してくれ。」
「子供と大男、親子かしらね。」
受付がソウジロウ達の待つギルドマスターの部屋へとアオイ達を連れて来た。
「いやはや、本当に大きな人だ。巨人族のような者がいるならば、貴方の事を指すだろうに。」
「本当ですね。獣人ならまだしも人間とは。」
「どうも。」
二人は通された部屋でフィンの話しをし、冒険者として登録に来た事を告げた。
「なるほど、素材採集ですか。構いませんよ。登録致しましょう。ティア、下の受付に言って書類を持ってきてくれるかな。」
ティアは言われた通り、階下の受付へと向かった。
「ソウジロウさん、質問しても良いですか?」
「なんだいアオイくん。」
「あの、生まれはラフテリアですか?」
「え?生まれかい?またどうして気になるのかな。」
「いや、お名前が」
「あぁ、聞き慣れない名かな。そんな質問も十数年ぶりだね。私は、オエドという今はない街で産まれてね。」
「お江戸?江戸、、」
「おや?オエドを知っているのかい?いやそんな事は無いか、もう20年も前の事だからね。」
「え?あ、そ、そうですね。でも、良いお名前ですよね。」
「そうかい?アオイくんも綺麗な名前だ。オエドにいた頃にはアオイくんのような名前も多かったね。懐かしい。おっ、ティアが帰ってきたようだ。」
ソウジロウを同じメガミノオトシモノかと思ったが、江戸とは違う「オエド」が出身と言われ、それ以上アオイも聞くことはやめた。もし違えば、どのような騒ぎになるか分からないからだ。
アオイとメベドは登録書を受け取ると、迷宮の説明を受けた。
「貴方達は見た所によると武道家かな?」
「へっ?」
「いやいや、すまない。特に武器も持っていないようだし、それに良い籠手を付けていたから。」
「あっ、あーそうです。そうなんです。武道家です。はい。」
「冒険者は数多くいるが、最近じゃ武道家は少なくてね物珍しくてつい。では、気を付けて行ってくるんだよ。」
「ありがとうございます。」
「メベドさんも。」
「ああ。ありがとう。」
二人はギルドを出ると、「迷宮はこちら」と書かれた看板を目安に王国を歩いていった。
獣人が多く、メベドが目立つ事も無かった。
「確かにみんな武器を持ってるね。そりゃそうだよねぇ。」
「金があれば、何かと揃えられるがな。」
「お金ねぇ。無いねぇ。」
「貰った薬草でも売っ払うか?」
「ダメだよ。折角フィンが持たせてくれたんだから。」
「ガハハハ。やっぱりダメか?アオイは正直な奴だな。ガハハハ。」
通りを歩いていると、獣人が声を掛けてきた。
「おい、デカいの。」
二人は話しかけられたとは思わずに通り過ぎていく。
「てめえ!舐めてんのか!!」
獣人はメベドの肩を掴み、無理矢理止めた。
その獣人は、メベドと同じぐらいの背丈だが盛り上がった筋肉はメベドよりも一回り程大きかった。
「汚え手で触ってるんじゃねえぞデカブツ。」
「ほう?俺を見てもビビらないとは、新顔だな。」
「なんだ?お前のアホヅラに覚えがなきゃならない街なのか?」
「てめえ、ガキがいるからって調子乗んじゃねぇぞ。」
「ガキ?あぁアオイの事か。お前に比べりゃよっぽど大人だと思うがな。いや、その空っぽの頭じゃ理解出来ねえか。ガハハハ。」
メベドが喋る度に、獣人は顔が紅潮し鼻の上に伸びた角を震わせて怒っていく。
「この野郎!!」
獣人は強く握った拳を大きく振りかぶって、メベドの顔面に殴りかかる。ドンっとメベドの頬に獣人の拳がめり込んだ。
「どうだこの野郎!」
メベドは、頬に当たる拳を掴むとギロっと獣人を見る。
「この程度か。獣人なんぞそこらの魔物に比べりゃ大した事ねえなあ。」
「な、何だとお〜。」
獣人は掴まれた手を振り払おうとするが、メベドがしっかり掴んだ状態からびくともしなかった。
メベドが反撃を加えようと構えた瞬間であった。
「やめんか!馬鹿冒険者!」
聞き覚えのある声に、アオイは振り返った。メベドも掴んだ腕を離して、声のする方を見た。
「まったく真っ昼間から暴れてんじゃねえぞ。」
「あっ。団長さん。」
「何だ?昨日のガキか?またフィン絡みか?」
「いや、フィンは来てないよ。僕たち、冒険者の登録をしてきた所で。」
「ん?じゃあそこの大男の方が連れか?」
「そう。一緒に登録したばかりなんだ。」
「オルデン!邪魔してんじゃねえぞ!」
獣人が今度は騎士団長のオルデンに掴みかかる。
180センチ程のオルデンに3メートルを超える大きな獣人が覆いかぶさるように襲った。
「オルデンさん!危ないっ!」
咄嗟にアオイが叫んだが、目の前には意外な光景が広がる。ズドンっと衝撃音が響くと、オルデンの鋭い拳が獣人の腹にめり込み獣人は白目を向き泡を吹いて倒れた。
「ったく。何回ぶち込めば気が済むんだか。おい、連れてけ!」
オルデンが声をかけると、集まった群衆から兵士が分け入り4人掛かりで獣人を運んでいった。
「デカいの。すまなかったな。許してやってくれないか?」
「ああ、構わんさ。」
「チビもすまなかったな。怖かったろ。」
「え?僕?いや、まあ。はあ。」
「そうだ。冒険者初日だろ?なら、食事でも奢らせてくれ。なっ、良いだろ?お詫びの印だ。」
「え?別に大丈夫だよ。気にしないでいいよ。」
「折角、この王国でギルドに入ってくれたんだ。初日からケチ付ける訳にはいかねえし。なっ。」
「アオイ、ああ言ってるんだ。付き合おう。」
「まあお腹も空いたし、じゃあ御馳走になってから迷宮にいこっか。」
冒険者登録をしたすぐ後で獣人に絡まれてしまうというハプニングはあったものの、アオイ達は騎士団長の計らいでレストランで食事をする事になった。




