冒険
翌朝モブとコリンが起きると、部屋の前にオズワルドが立っていた。
「え?父ちゃん?何??」
「何で父さんがいるの?え??」
「おはよう。二人共、ついて来なさい。」
モブとコリンは仕方なくついていく。
「モブ、何したのさ!」
「何もしてねーよ!コリンが何かしたんだろ!」
「僕がするわけないだろ!絶対モブだよ!」
「ゴニョゴニョとするな。黙ってついて来い。」
「はい、、、。」
二人の父であり里の長であるオズワルドが連れて行った先は兵士達の訓練場だった。ヴィンディードッグの脅威は無くなったとはいえ、引き続き鍛錬は欠かさずに有事に備えていた。
「何するの?」
「モブは15、コリンは13だったな。」
「はい。そうです。」
「これから先、どのような事が起こるか分からん。」
二人は父の話しを頷きながら聞いている。
「アオイ達のように、我々も外の世界と繋がりを持つかも知れん。しかし、我々はまだまだ弱い。特に俺の息子達は、全くもって弱い!」
二人はシュンとして俯いていた。
「モブ、コリン。俺の目を見ろ。」
二人はゆっくりと父と目を合わせる。
「今はまだ弱い。だから、鍛えろ!アオイと自信を持って肩を並べて歩けるように励め!お前達の未来は里の中では無い!お前達は世界に挑むんだ!」
二人は何故か感極まり泣いていた。
「大丈夫。お前達は俺の自慢の息子達だ。お前達が世界に出てゴブリンが如何に優れた種族であるか、身を持って知らしめてくれる事を父は願っている。出来るか?」
「はい!出来ます!」
二人は声を揃えて返事をした。外ではマリーナが微笑んでいた。
「ほら、そこの男共!朝ご飯だよっ!ったく、朝から何してんだか変な家族だよ。」
蔑まれ虐げられ窮屈に暮らしていたゴブリン達は、伝説のゴブリン【ドミネーター】ではないかと噂されるような長を迎え、新たなステージへの挑戦をしようとしているのかも知れない。
その先にある未来には、モブやコリンといった若いゴブリンが輝く世界があるのかも知れない。
可能性すら無かったゴブリンの未来に、今はほんの少しではあるが彼らにとっては強烈な光が差し込んでいる。
その日、アオイとメベドは一旦メガミノ村に向かいフィンに迷宮に入る方法を聞きに行くことにした。
行ったり来たりだが、アオイはマンガで見た冒険を想像してはワクワクの道中を楽しんでいた。
メガミノ村に到着すると、再び村人達はざわついた。
子供の横に3メートルを超える上半身裸のワイルドな巨人が立っているのだから仕方ない。
しかしアオイは、そんな事すら目に入らない。一目散にフィンの薬屋を訪ねた。
「フィン!アオイだよ。また来たよ。」
薬屋の扉を開けるが、そこには誰も居なかった。奥からフィンの声がする。
「えー。アオイ?昨日帰ったばっかりじゃない。何よもー。寂しくなっちゃったワケー。やだぁもう。」
ブツブツ言いながらフィンが顔を出す。
「!!」
フィンはアオイには目もくれず、横に立つワイルド男に釘付けであった。
「きゃっ。あらやだ運命が訪ねてきたわ。そんな情熱的な姿でお迎えに来てくださるなんて、言ってくれれば私からお伺いしたのに。でもそうよね。お姫様を迎えに来る王子、そう、それが理想よね。完璧だわ。どうしましょ。式は明日?今日?」
「フィン!フィンってば!」
「何よアオイはちょっと黙ってて!私は今から王子と共に式場へ向かうのよ!結婚よ結婚するのよ!」
「結婚って、メベドと結婚するの?いきなり?何で?」
「いきなりなのよ。そういうものなの。私はメベドと結婚、、、ん?今なんて言ったかしら?」
「だから、何でメベドと結婚するのって言ってるの。」
「メベド?あの熊のメベド?どれが?」
「フィン、お前はずっと煩いな。俺がメベドに決まっているだろう。目までおかしくなったのか?」
「、、、メベドなの?」
「あっ。メベド、人化してること言ってないよ。」
「おっ。そうだった。ガハハハ。うっかりしてたな。」
フィンは頭がくらくらとして倒れ込んだ。
「う、運命が、、私の運命の人が、、、運命熊、、、」
「まだ言ってるよ。」
「ほっとけ、直ぐに目覚めるだろうよ。」
フィンが目を覚まし、改めてアオイと人化したメベドで迷宮に入りたいという話しをした。フィンから教えて貰ったのは、ギルドに所属して冒険者登録をしなければならないという話しであった。フィンも誘ってみたが、リカバリーの調薬にまだまだ時間が掛かるという事で、二人だけで行くことになった。
「と、その前にあんた達の身分を証明しなきゃね。」
「身分?どうやって?」
「とりあえず、あんた達は私の薬屋で雇った事にするから。薬屋の素材集めって名目ならギルドでもすんなり登録できる筈よ。」
「そうか、それならば早く証明してくれ。アオイと共に直ぐにでも行きたいのだ。」
「、、、」
「何だ?顔が赤いぞ。」
「、、、その顔で話しかけないで。まだ免疫が無い。」
「免疫?おかしな奴だ。何でも良いが早くしろ。」
「うっさいわね。ほら、これに名前書いたから持って行きなよ。」
フィンから契約書と迷宮では必需品だからと薬草を何束も持たせてくれた。フィン曰く結構値が張るものらしくとても自慢気な顔をして渡してくれた。
「ちょっと、メベド。」
「何だ?まだ何かあるのか?」
「ぶ、無事に帰ってきなさいよ。」
「当たり前だ。俺を誰だと思ってるんだ。お前こそ、早くリカバリーを作っておけよ。」
「、、、うん。待ってるから。」
「何だあいつ。変な奴だ。」
「えへへへ。変だけど変じゃない。えへへへ。」
「アオイまで、、、」
「そうだっ!アオイ!ギルドに着いたら、ギルマスのソウジロウさんに宜しく伝えといて!常連さんだから!」
「はーい。ソウジロウさんだね。分かった〜。」
「アオイ、ギルマスとは何だ?」
「へっへっへ。ギルドマスターの略だよ。」
「なるほどギルドマスターことか。よく分かったな。」
「マンガの知識でね。凄いよね、マンガで呼んでた世界が身近にあるって不思議な感覚だよ。」
「そうか、まぁアオイが楽しめるなら俺は何処でも良いがな。では、ギルマスとやらに会いに行くか。」
二人の足取りは軽く、アオイはマンガに出てくる主人公の話しや、物語などいつもよりも冗舌に話していた。
王国に到着すると、門に立つ守衛がアオイに気付く。
「おや、昨日の坊やだね。また捕まりに来たのかい?」
「ち、違うよ!ギルドに用事があるんだよ。」
「はっはっはっ。からかっただけだよ。フィンに連れて来られて災難だったな。今日は、、ん?大きな男だな。レイスか?」
「いや、俺も人間だぞ。」
「ほーこりゃ驚いた。そんな大きな人間は初めて見たな。やはりハコニワは広いなぁ、知らない事もまだまだあるもんだ。」
「じゃあ、行ってくるね。」
「ああ、ギルドは通りを真っ直ぐ行けば看板があるからな。」
門を通り抜け、大通りへと入る。往来には人間と獣人が行き交い賑わいがあった。建物も洋風で立派なものが多く、歴史を感じる街並みであった。
「メベド、人間って言った。」
「ああ、そうしろとフィンが言ってただろ。アオイも気を付けろよ。アオイも普通の人間の子供として行くのだからな。」
「分かってるって。」
フィンからは、素性を隠すよう忠告されていた。魔物であるというのは勿論だが、やはりメガミノオトシモノは厄災、災い、不吉などネガティブな印象が強く受け入れて貰えない可能性が高いという理由だった。
アオイは、メベドや里の皆からは受け入れられていたので隠す必要があるのかと思っていたが冒険が出来なくなる可能性があるのなら黙っている事にした。
ギルマスのソウジロウ。日本人風の名前のギルドマスターに会えるのをアオイは楽しみにしていた。
もしかしたら、自分と同じメガミノオトシモノでは無いかと期待していたのだった。




