訪問者
ゴブリンの里へと戻ると、モブとコリンが里の入口に立っていた。
アオイはメベドの背に跨って手を振る。
「おーい!ただいまあ」
二人も手を振り替していた。
「二人共入口で待ってるなんて、何かあったの?」
「それがさ、父ちゃんがアオイ達が帰ったらすぐに連れて来いって言っててさ。」
「そうなんだ。母さんと一緒に待ってるからって。」
「オズワルドさんが?そっか。じゃあ行こっか。」
モブ達と共に長の屋敷へ向かい、オズワルドとマリーナが待つ部屋へと入った。
「おや、案外早く帰ってきたね。さあ、こっちに座って。」
「帰宅早々にすまないな。実は相談があってな。」
オズワルドは申し訳無さそうに話し始めた。
アオイ達がヴィンディードッグに会いに出ていった後、入れ替わりで人間が里に辿り着いた。隠匿性の高いゴブリンの里へと辿り着くのは非常に珍しい事ではあるが、今まで無かった訳ではない。この人間は、森で迷っている内に里へと続く抜け穴に偶然落ちただけであった。
今までのゴブリンであれば、里へ来る者は拒んで来たがアオイ達と出会った事や、ヴィンディードッグの脅威が無くなった事でその人間を受け入れたという。
「え!人がいるの!」アオイは同じ人間がいるという事で喜んでいた。
「ああ、今は奥の部屋で休んでいる。怪我もしておったからな。」
「それで、相談というのはその人間に関係するのだな。」
「そうなのだ。我々もどうしたものかと思案しているが、アオイやメベドならば何か分からぬかと思ってな。」
偶然に里へと辿り着いた人間は、切り傷や擦り傷など軽症を負っていた。それに酷く衰弱しており、意識もはっきりしない状態だった。
マリーナが部屋へと連れ帰り、簡単な治療を施して看病をしていると、うわごとのように「どこ、、、どこ、、、」と話していた。小一時間程で目を覚ますと、最初はマリーナを見て驚いていたが、手当を受けた事に気付くと礼を伝え、森に来た理由を話したという。
「なんだ?集落が襲われでもしたか?」
「俺も最初はそう思ったのだが、どうやら違うようでな。」
その人間は、食事を取ると元気を取り戻しあれやこれやと話し始めた。
集落で調薬士をしているその人間は、新たな薬の開発にと森に生息する珍しい薬草を探しに来たのだという。下ばかり見ている内に迷ってしまい、何の気無しに目の前にあった草を口に含んだ途端に目眩がして、そのまま足を滑らせて転げ落ちて気付いたら里にいた。
「ま、まぬけ、、、だね。」
「オズワルド、その間抜けの人間の何が分からぬのか?」
「いや、この人間では無く、この人間が探しているという薬草についてお前達なら知っているかと思ってな。」
「薬草?僕は分からないなあ。」
「俺も多少は知ってはいるが、詳しい訳ではないぞ。」
「やはりそうか。それもそうだな。とりあえず、その人間に会ってみるか?」
「え!良いの!?」
「ああ、人間同士の方が話しやすいだろうしな。それに、薬草について詳しく聞けばアオイだけじゃなく、メベドもその人間に興味が湧くと思うしな。」
「俺が人間に興味?ふんっ。アオイだけで充分だ。」
「じゃあ、早速呼んできますね。やっと私は解放されるわ。」
「解放?」
マリーナは奥の部屋へと行き、その人間を連れてきた。
扉の後ろで話し声が聞こえてくる。どうやら奥の部屋からここまでの短い間でも、ずっと話していたようだ。
マリーナの「はいはい。そうねそうね。」と無気力な相槌も聞こえていた。
扉が開き、その人間は座っているアオイとメベドを見ると、ドカドカっと走り出して二人をじっくりと見回した。
「あ、、あの。こんにちは。」
「これはパグロームベアね。森の悪者よね。ふかふかの毛は何かに使えるかしら。抜いたら怒るかしら?まあ大丈夫でしょ。えいっ。」
「痛っ!貴様、何をする!」
「うーん。ふかふかなだけで、ただの毛ね。要らないわ。あら、この子は何なのかしら。パグロームベアの子供?そうか。パグロームベアは幼少期は人型で過ごし、大人になるとふかふかの悪者になるのね。なるほど納得だわ。髪の毛貰っとこうかしら。何か分かるかも知れない。えいっ!」
「いたーー!ちょっと!痛いよ!それに僕はメベドの子供じゃないし!人の子だよ!」
その人間は、アオイの髪の毛を大切に懐へしまって、ブツブツと呟いては歩き回り、会話が成立していなかった。
「はあ、、、」マリーナがため息をついて、その人間の脇に手を入れ持ち上げる。「マリーナ、何をするんだ!?私は今、考え事をしているのよ。離して、放っておいて。」
「駄目です。ここに座って話しを聞きなさい。」
「もう!何なのよ。」
「あのう、、、僕はアオイです。」
「フィン。」
「フィンさん。こんにちは。」
「ん。」
「、、、、」
「、、、、」
「はい!以上ね!アオイとパグロームベアでした。ありがとうございました。さあ!私は薬草を見つけなきゃいけないの。それに、パグロームベアの幼少期は人型という大発見も発表しなきゃいけないし、忙しいのよ!」
「おい。」
「森のあっちの方は見たけど、この辺はまだよね。うんうん。水辺があれば最高なんだけどな」
「おいっ!」
フィンはびっくりして倒れた。
「なななな何よ!いきなり大きい声出して!死んじゃうかも知れないじゃない!死んだらどうするの!?食べるの?焼いてから食べる?煮る?生なの!?野蛮だわ!パグロームベアは食事にこだわるの!?」
フィンは唾を飛ばしながら怒っていたが、途中からは全く関係ない話しへとすり替わっていった。
アオイ達は、ポカンと見ていた。
「うううう、、、やかましいいっ!!」
メベドは抑えきれず、更に大声を上げる。
フィンはひゃっと声を出し固まっていた。
「フィンとやら。アオイは俺の子ではない。お前達と同じ人間だ。そして俺はアオイの従者メベドだ。忘れずに覚えておけ。」
「ひゃい。」
「それでフィンとやら。貴様が探している薬草とやらが珍しいそうではないか。それを話せ。」
「ひゃい。」
「言っておくが、それ以外は話すな。いいな。」
「ひゃい。分かりましたです。」
フィンはきちんと座り直して薬草の話しをした。
それは、【完全回復薬リカバリー】の素になる薬草だという。
「そうか、、、リカバリーを作るか。」
「な?興味あるだろう。メベド。」




