転生一日目の終わり
里の側の茂み。モブは何も出来ず母と二人潜んでいた。
ガサガサガサガサ。
モブ達の背後から気配がする。ヴィンディードッグかと母はモブを背に隠して身構えた。
バサッと出てきたのは、パグロームベアのメベドに乗ったアオイとコリンだった。
「あ、あんた達、、、何してるんだい、、、」
「マリーナさん、モブ。僕とメベドにも手伝わせて欲しいんだ!」
「な、何言ってんだ。あんたはまだ子供だよ!」
「でも、僕はメベドに勝ったんだよ!」
「うむ。アオイは確かな腕を持っているぞ。」
「そりゃそうかも知れないけど、、、危険には変わり無いんだよ。」
「母さん。来ちゃってごめん。」
コリンはメベドから降りてマリーナの側にいく。
マリーナは、コリンの頭を撫でている。
「母さん、僕が助けて欲しいって言ったんだ。」
「そうかい、、、でもね、、、本当に危険なんだよ。」
スドンっ!!
皆が話しをしている真後ろで大きな衝撃音がした。
巨躯のボスが里の兵士に突進したのだった。他のヴィンディードッグとは明らかに違うパワーは、盾を持つ兵士達を蹴散らした。
「マリーナ、話し合ってる暇はないぞ。」
マリーナは不安そうに里を見ている。
「、、、」
メベドは、その顔を見るとぐおーっと大きな唸り声をあげた。
「な、なにしてるんだい!?」
マリーナは驚いて振り返る。
「これでもうお前達だけの敵では無くなった。今からあいつ等は、パグロームベアの敵だ。」
メベドがそう言うと、背に乗るアオイはニコッとしていた。
「マリーナさん、モブとコリンとここに居てね。もし危なくなったら、さっきの洞窟で隠れててね!」
メベドは再び駆け出して、ヴィンディードッグの群れに突進していく。ヴィンディードッグにぶち当たると、背に乗るアオイは飛び出して、ヴィンディードッグ達をどんどん叩いて回る。ドカッドカッドカッと硬い音がすると、それと同じだけキャンっと悲鳴が上がる。アオイに叩かれたヴィンディードッグはそのまま気絶していく。
メベドも太い腕を振り回して戦っていた。
突然やってきた背後からの攻撃にヴィンディードッグは怯んでいた。更にその攻撃の主が「森の虐殺王」であったのだから動揺は隠し切れなかった。
その異変は、里の兵士を蹴散らした巨躯のボスも感じとっていた。ボスは踵を返すと、群れに向かって駆け出していった。近くのヴィンディードッグ達もボスに続けと群れへと戻っていく。残ったゴブリンの兵士と長は、何事かと門から外へと慎重に出ていく。
長から見える景色には、数十頭の群れから、一頭また一頭と悲鳴を上げて投げ出される様子や、ドカッドカッとヴィンディードッグを叩きまわる小さな人の子が見えていた。
「あれは、パグロームベア、、、もう一人は人間か?」
呆然と立ち尽くす長のもとに、茂みに隠れていたマリーナ達が合流する。
「マリーナ、無事であったか。」
「ええ、モブとコリンと隠れてたわ。」
「そうか。無事で良かった。ところで、あの者達を知っているか?」
マリーナは、モブとコリンに目をやる。
そして長もモブとコリンに視線を落とした。
「あの者達は、お前達の知り合いなのだな。」
二人は頷く。
「そうか、、、何があったのかは後でゆっくり聞こう。とにかく皆が無事で良かった。それに、あの者達のお蔭で我々の勝利が現実的になってきた。」
長はそう言うと、ヴィンディードッグの群れに向かい歩き始めた。
「父ちゃん!何処行くの!?」
「俺が戦わないでどうする。まあ、安心して見ておれ。巨躯のボスは俺が倒す。」
長は逞しい背中を揺らしヴィンディードッグの群れへと入っていく。そして血管が浮き出た太い腕を振り回すと、ヴィンディードッグをなぎ倒していった。
「我の名はオズワルド!里の長である!!助太刀感謝する!!」
ヴィンディードッグの群れの中で長はアオイとメベドに向かい声を張り上げた。そして二人も呼応する。
「僕はアオイ!モブとコリンの友達だよ!」
「俺はアオイの従者パグロームベアのベネトだ!」
3人はバッタバッタと群れを潰していく。
いよいよ、巨躯のボスと数頭だけとなる。
「はあはあ、、、アオイ、メベド。こいつは俺にやらせてくれ。」
「オズワルド、お前肩で息をしているではないか。勝てるのか?」
「なに。準備運動が終わったとこよ。」
オズワルドは深く深く深呼吸をする。
巨躯のボスは、ぐうっと前屈みになり臨戦態勢。
バンっとボスが地面を蹴り上げ大きな口を開けてオズワルドを襲う。
オズワルドは、「おおっ!」と雄叫びを上げ、ボスの攻撃を受け止める。ズズズと後退りしながらも、堪えたオズワルドは、そのままボスの首に腕を回すと地面に叩きつけた。
オズワルドは腕に力を込めていく。ボスの首にどんどんめり込む。ボスは前後の足をバタつかせるが、オズワルドは微動だにしない。
「今まで、、、散々、、、やってくれたなあ、、、同胞の恨み、、、晴らしてくれるわ!!!」
ボキっと鈍い音が響く。横たわる巨躯のボスは暫く痙攣をし絶命した。
オズワルドは勝鬨を上げる。里の兵士達やモブとコリンも呼応する。その勝鬨は森中に響いた。
ゴブリン狩りと呼ばれるヴィンディードッグの襲撃。それを返り討ちにしただけではなく、長年苦しめられてきた巨躯のボスを討ち取り、里は大いに湧いていた。
人の子供や、パグロームベアが里にいても、それどころでは無いとお祭り騒ぎ。勿論、アオイとメベドがヴィンディードッグとの戦いに加勢してくれた事を見ていたという理由もあるが、どのような事よりも今は兎に角お祭り優先であった。
アオイとメベドも、普通にお祭り騒ぎの中で楽しく食事や酒を楽しんでいた。二人の側にはオズワルドが陣取り、モブとコリン、マリーナも囲んでいた。
「なんと、アオイはメガミノオトシモノなのか!?」
「そうみたいで。女神様がここに連れてきてくれて。」
「そうか、、、厄災だなんだと騒いでおったが、我らにとっては救世主であるな。」
モブとコリンは嬉しそうに頷いていた。
「それでメベドよ。お前はアオイに負けたと?」
「ああ。そうだ。圧倒的にな。完敗だったよ。」
「ははははは。虐殺王が完敗と。なんという少年か!」
「何とでも言ってくれ。」
「すまんすまん。馬鹿にした訳ではないのだ。そのように
掟を守りたとえ少年であっても敬う姿に感服しているのだ。それに、メベドにも救われた身。本当に感謝している。」
「よせよ。俺はアオイがしたい事をしただけだ。」
「二人の気が済むまで、いつまでも里にいてくれ。我々は受けた恩は傷害忘れぬ。二人は命の恩人であり、我々の家族だ!」
オズワルドはそう言うと立ち上がり、祭りを楽しんでいる者達にも語りかけた。
「メガミノオトシモノであるアオイと、その従者メベドは、我々ゴブリンの大恩人であり、我々の家族である!二人が望む限り、この里で暮らして貰おうと思う!異存ないか!!」
「おおおーーーーーーー!!!」
里の全員が二人を歓迎していた。
こうして、アオイの異世界初日が終幕する。