里の危機
深い森に響く角笛の音は、洞窟で待つアオイとメベドにも届いていた。二人は慌てて洞窟から飛び出した。
何事かと音の方を見ると、バタバタと鳥が飛び立ち森が騒がしくなっていた。
ブォーブォーと鳴り止まない。
「メベド、何かヤバいよね。」
「そうだな、、、ゴブリンの里かも知れんな。」
「モブ、コリン、、、、」
アオイは居ても立ってもいられず、走り出そうとした。
その時、ガサガサっと草木の間から顔を青ざめ不安気な表情のコリンが飛び出してきた。
「コリン!無事だったんだね!」
「うん、、、でも母さんとモブは里に向かってて。」
「やっぱり、何かあったんだね。この音は里から?」
「そう、、、魔物が里に来たんだ、、、」
「ゴブリン狩りか。」
メベドがそう言うと、コリンは悲しそうに頷いた。
「ゴブリン狩り!?何それ!!分かんないけど、もの凄く嫌な気分になる。メベド!行こう!!」
「アオイ、行きたいのは山々だが俺でもゴブリンの里が何処にあるのかまでは分からんのだ。」
二人はコリンを見る。コリンも二人を見ていた。
「アオイ、メベド、、、助けてくれる?」
「コリン!当たり前じゃないか!僕達は友達だろ!!」
「アオイの友は、俺の友だ。気にするではないぞ。コリン。」
「ありがとう、、、ありがとう!!」
3人は洞窟を飛び出し里へと急いだ。
ゴブリンが恐れるもの。それは森で出会う魔物達。しかしそれだけであれば、慎重に慎重を重ねれば遭遇を避ける事は可能であっただろう。恐れるものはそれだけでは無かった。
ゴブリン狩りと称される魔物による里への襲撃だった。その魔物は何とか里の場所を嗅ぎつけては、ゴブリンを根絶やしにしようと襲撃を繰り返していた。
何年も何年も繰り返し繰り返し続いた。点々と里を変えても、いつの間にか気づかれてしまう。どれだけ気をつけていてもこの襲撃は起きていた。
そして今回も襲撃は起きた。実に5年ぶりの事である。
今の長になり、より隠匿性を増して作った里も見つかってしまった。
角笛が鳴り響く中、コリンを先頭に3人が走っていると草木の間から煙が見えた。
「コリン!あの煙、里なの?」
「、、、うん、、、。母さん、父さん、モブ、、、みんな。」
メベドはコリンを咥えて背中に乗せた。
「アオイも乗れ!急ごう!」
アオイもメベドの背中に飛び乗る。メベドは煙が上がる里へと四脚で一気に駆けていく。ドシンっドシンっ!飛ぶような歩幅でどんどん進んでいった。
ゴブリンの里では、既に魔物達が出入口を取り囲み、今か今かとざわついていた。
ゴブリンの長はその様子を防壁から伺っていた。
「長、、、ついに見つかってしまいました。」
「ああ、今回もあいつらか、、、本当にしつこい奴らだ。」
ゴブリン狩りを行う魔物は一種のみであった。狩りのスペシャリストであり、執念深く獲物を狙うだけではなく、集団で追い込みをかけたり待ち伏せをしたりと賢さを兼ね備えた恐ろしい魔物、ヴィンディードッグのみである。
ヴィンディードッグは、ゴブリンだけを狙う訳では無く、草食動物を中心に狩りをする魔物だった。しかし、子から成犬へとなる過程でゴブリンを狙うのだ。それはヴィンディードッグにとっては成人の儀式、大人への通過儀礼という類のものかも知れない。本来ならば毎年行ってきた儀式が5年もの間出来ていなかった。成犬となり数年が経過したものもおり、久しぶりの儀式にイキり立ち凶暴性が増していた。
5年間。ゴブリン達も何の準備もしていなかった訳では無かった。長の号令のもと、鍛錬を重ねてきた。長に比べると見劣りする体躯であっても、今までのゴブリンからすればよく鍛えられた身体をしていた。そして、棍棒や盾を準備し抗う術を得ていたのだった。
「我が息子たちよ!怯えるな!俺達は強い!!」
ゴブリンの長は、防壁に集まる兵士達の士気を上げる。兵士達も棍棒を掲げて「おう!」と雄叫びをあげた。
防壁の外では里に入ろうと、ヴィンディードッグが次から次へと正面の門に体当たりを繰り返していた。ドンッドンッと繰り返す度に、門は歪み隙間が出来ていく。ドンッドンッ。止まらぬ何十頭による体当たり。内側では、長と兵士達が棍棒を握り締めて敵を待ち受ける。ドンッドンッ。防壁に衝撃が伝わり、ミシミシと軋む。
ヴィンディードッグの集団から一際大きな唸り声が響いた。それに呼応するようにヴィンディードッグ達は遠吠えを上げる。成犬の二倍程もある巨体。唸り声の正体はヴィンディードッグのボスであった。
ヴィンディードッグ達は更に力を込めて、突進する。
遂に里の門が破られる。
ヴィンディードッグは、目を血走らせ舌を出しよだれを垂らして雪崩込んできた。
里の兵士達も一歩も引かない。盾を地面に突き刺し、棍棒で応戦してした。ドンッドンッドンッ。ヴィンディードッグの勢いは収まるどころか、獲物を前にして加速していく。ドンッドンッドンッ。兵士の一人がよろめく、そこで出来た盾の隙間にヴィンディードッグが頭をねじ込み突破を試みた。ぐるるると喉を鳴らし、激しい鼻息と大量のよだれが兵士の顔に当たる。
「させるかーーー!!!」よろけた兵士の後ろから、長がヴィンディードッグの顔を殴りつける。キャンっという悲鳴と共に、殴られたヴィンディードッグは弾き飛ばされた。「大丈夫か!」長はよろけた兵士を抱え上げ立たせる。「は、はい!大丈夫です!やれます!」兵士は再び力強く返事をする。
「我が息子たち!!俺達なら勝てる!鍛錬の日々を思い出せ!!押し返せーーーー!!!」
「おおおーーーー」
ヴィンディードッグの勢いに負けじと、ゴブリン達も勢いを回復させる。里の中から徐々に門の外側へと押し返していった。ヴィンディードッグの頭目掛けて棍棒を振り回し、我武者羅に戦っていた。
里の近く、茂みの中にモブとマリーナは潜んでいた。
二人が里に着いた頃にはヴィンディードッグが里を囲み、門が閉まっていたからだ。
「父ちゃん、、、。」
「心配してんじゃないよ!父ちゃんは、今までのゴブリンとは一味も二味も違うんだよ!」
「そうだ。そうだね!」
マリーナの言う通り、長は過去から見ても類を見ない存在であった。逞しく発達した筋肉、それを使って繰り出される驚異的な攻撃力。そして長からの言葉はゴブリン達の戦意を向上させる力を持っていた。
それは、ゴブリン達にとって特別な存在である【ドミネーター】という伝説のゴブリンと重ねていた。
数百年も前に一度だけ降臨したというドミネーターは、防戦一方だったゴブリンを率いて土地を開拓し、自らの手で自由を勝ち取ったという逸話が語り継がれていた。
里の内外でそれぞれに雄叫びを上げ、死闘が続いていた。
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