転移2日目の終わり
青白い龍を纏うヨウヘイは、ドワーフ達が暮らすウエストバンクに降り立った。
ドベルクやミザは変わり果てたその異様な姿と、抱えられ涙を流すサキチとサヨを見ると、ただ黙って見る事しか出来なかった。
セントラルに着水し、岸に上がった時の歓喜や歓声はそこには無かった。静寂に包まれ、村の者達は身体をより小さくし寄り添っていた。
「ドベルク、帰ったで。」
ヨウヘイは無造作に両手、肩から荷を降ろす。サキチとサヨは、一目散にドベルクのもとへと駆け寄った。
「ヨ、ヨウヘイさん、、、一体何があったんです?」
ドベルクは、恐怖に飲み込まれるのを必死に堪えて尋ねた。
「ん?これ?何やろう、、、まあ気分爽快やね。ははは。」
裸のまま己の身体を見回し笑う様子は、村人にとって恐怖でしか無かった。
それでも尚、ドベルクは様相の変化を確認していく。
「そ、その龍は、、、どうしたんです?」
その問にヨウヘイは喜々として答える。
「ええやろ!」
そう言うと、少し力を込めたのか背中の龍が空へと駆け上り、縦横無尽に遊び回る。木々は倒れ、草花が燃える。
「な、、なんと、、、」
ドベルクは呆然とその様子を見ていた。
しかし、このままではウエストバンクが消失するのではと我に返るとヨウヘイに静まるよう懇願した。
ヨウヘイは、味方であるドワーフの言葉を聞き入れ、龍を背中に戻した。
「はははは。なんやねん。そんな顔せんでも大丈夫やって。俺は、お前らの味方。お前らも俺の味方や。」
「、、、」
「サキチ!そうやろ!」
ヨウヘイは、ドベルクの背後に駆け込んだサキチに問いかける。サキチは、顔だけを出して必死で頷いていた。
「はははは。ビビリやなあ。せや、婆さんご飯作ってくれ。腹減ってしゃあないねん。」
ドベルクはミザに視線を送り、言う通りにと合図をした。
「そ、そうね、、、。さあ、中にお入りください。」
ミザは恐怖で震える手を何とか抑えて、ヨウヘイを自宅へと招きいれる。ヨウヘイは、家に入る前に振り返り集まる村人へと伝える。
「そや、オエドはもう無いしな。えー、、、名前また忘れた。あの領主も死んだし、まあ何や、、俺達で新しいハコニワを作ろうや。」
ヨウヘイがドベルクとミザと共に村長の家へ入ると、皆言葉の意味を理解しようとざわついていた。オエドが無くなり領主も死んだ。そして、ヨウヘイと共に新しいハコニワを作る、、、額面通りの言葉であったが、彼等にとっては全てが現実のものとは思えなかった。しかし、間近で見せつけられた青白い龍と壊された自然の様子が無理矢理それが現実なのだと実感させた。
そして、サキチとサヨに何が起きたのかと村人達は取り囲んだ。サヨは相変わらず震えて泣いていた。サキチが、オエドで起きた事を村人に説明する。ざわついていた村人達は、サキチの話しを聞くにつれ再び静寂へと戻っていった。
「なんなんだそれ、、、女神の祝福が、、、こんな事に。」
「駄目だ、、、どうなるんだ、、殺される、、、」
「嫌だ、、死にたくない、、、」
村人達は悲報感に包まれいた。
「だ、大丈夫だと思う、、、俺達は、、、」
サキチは、ヨウヘイが語った「ドワーフは味方」という言葉を繰り返し村人達へ伝えた。
「大丈夫って、それ信じられるのか!?」
「分からない、、、分からないけど信じるしか、、、」
サキチとサヨを囲む村人達の傍で、カタリーが意識を取り戻した。
「う、、、うう。」
な、何が起きた、、、ヨウヘイ、、、あの化け物、、、。
カタリーはヨウヘイに攻撃を仕掛けた瞬間を思い返ししていた。自身の爪が届こうかという瞬間に今まで感じた事の無い強烈な衝撃が腹部を襲い、そして意識を絶たれていた。
レイスパンサーのしなやかな筋肉とカタリーに備わる危機察知能力の賜物か、はたまたヨウヘイがそうしたのかカタリーは内蔵に致命的な怪我を負うことなく幾本かの骨折で済んでいた。
「ヨ、ヨウヘイ!」
カタリーは叫びながら身体を起こした。と同時に腹部に激痛が襲う。痛みを堪えながらも周囲を見回して、現状の認識に務めていた。
叫び声を聞いたサキチは、カタリーのもとへと駆け寄った。
「先生!先生、生きてた!!良かった!!」
サキチは、カタリーに抱きつき安堵の涙を浮かべていた。
「サキチ、、、」
カタリーの獣化は解けており人型となっていた。
腹部には、痛々しい青痣が広がっており軽症では無いことは誰の目にも明らかだった。
「カタリーさん!生きておった!良かった良かった。」
「カタリー隊長!」
村人は、僅かな希望がそこにあるのではとカタリーのもとに集まる。
「サキチ、、、ここはウエストバンクか?」
「は、はい。そうです。ヨウヘイに連れて来られて、、、」
「隊員達は、、、私の部下はどうなったのだ?」
「、、、、」
カタリーはサキチの様子から察していた。
「殺されたのか、、、」
サキチは頷く事しか出来ずにいた。
「り、領主様に報告しなければ、、、」
カタリーは、痛みが襲う身体を無理矢理起こし立とうとする。
「先生、、、それは出来ないよ。」
「な、、なんだと。どういう事だ。」
「もう居ないんだ、、、領主様もオエドも無いんだ、、、」
「なっ!?」
カタリーは絶句した。しかし、サキチの様子やそれを聞いている村人、震えて泣くサヨを見ると信じるしか無かった。
「なんてことだ、、、オエドが、、、」
バタン。
ヨウヘイが食事を終えて、再び外へと出てくる。カタリーは、ヨウヘイを視界に捉えると全身に力を込めた。
しかし獣化する事は叶わない。腹部に負った怪我と戻らぬ体力が影響していたのだった。
しかし、眼光の鋭さだけは失わずヨウヘイを睨み続けていた。
「よう!起きたか?」
ヨウヘイはその様子を意に介さず、明るく声をかけた。
「ば、、、化け物め、、、」
「酷い言われようやなあ。助けたったのに。」
「ぐうう、、貴様に助けて貰う筋合いなど無いわ!」
「まあ、そんな事はどうでもええわ。」
ヨウヘイは悠然とカタリーへと近づく。
カタリーは、痛みもあり立っているので精一杯であった。
ヨウヘイは、その様子を気にする事もなくカタリーをなめ回すように見ると、髪を掴み引っ張った。
「な、何をする!は、離せ!離せ化け物!!」
ヨウヘイは、ただ笑みを浮かべて髪を掴み村長の家へと戻っていく。
「カタリー隊長、、、」
ドベルクは、髪を掴まれ無慈悲に引っ張られるカタリーに気付き声をかける。
「ドベルク、ミザ。お前等外してくれや。」
ヨウヘイは、家の中の二人に声をかけ外出するよう促した。
「な、何をなさるんですか?」
ミザは異様な光景に不安を覚えていた。
「何って、、、それは、、、分かるやろ。ええから、外に出といてやあ。」
似つかわしくないはにかんだ笑顔を浮かべている。それさえも恐怖でしか無かった。
二人が外に出ると、そこからはカタリーにとって耐え難い苦痛が続いた。敗北を味わい部下を殺されたレイスパンサーは抗う事も出来ずに凌辱された。
それは、カタリーの意識が無くなりまで繰り返し繰り返し何時間も行われた。外にいるドワーフ達は、嫌悪感からその場を離れる者もいたが、ほとんどの者はただ黙って家を見つめていた。
ミザは震えの収まらないサヨを強く抱きしめ、ドベルクは何も出来ない自分を悔い涙を流していた。
こうして、転移者ヨウヘイの2日目は終わった。
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